月明かりにヤモリ

Moonlight Gecko

Category: 爬虫類  

私の場合、サキシマだった


サキシマキノボリトカゲ
サキシマキノボリトカゲ Japarula polygonata ishigakiensis


 初めてのキノボリトカゲは、私の場合、サキシマだった。だからやっぱり体色的には茶褐色に黄色い稲妻模様が入る、あのオスの体色が好き。
 日が暮れ始めてジャングルもキノボリトカゲもオレンジ色に染め上げていくあの瞬間が、何より印象的で私の心に残っている。




ピナイサーラ


 初めて足を踏み入れる南西諸島は、生き物たちの圧倒的な生命力が沸き立っていた。360度すべてが、それまでに私が体感したどのフィールドにも無いものばかり。とにかく興奮しっぱなしだった。




サキシマキノボリトカゲ
サキシマキノボリトカゲ


 やっとの思いで尻尾を掴んで自分の手中に収めたトカゲを見やると、そこには小さな恐竜が。 「 こんなにもカッコイイ見た目の爬虫類がこの日本で息づいているだなんて 」 と感動していた記憶がある。



ヒカゲヘゴ
ヒカゲヘゴ Cyathea lepifera


 周りを見渡せば身の丈以上のシダたちが全方向から迫ってきていて、木性シダが私の隣でマンモスの鼻みたいな新芽を芽吹かせている。




サキシマキノボリトカゲ
サキシマキノボリトカゲ


 小さいヤツは丸みを帯びた頭で、眼もまんまるで大きくて。木漏れ日でのんびりしているのかと思いきや、少し目を離した隙にスルリと大木の反対側に回り込んで、その大きな瞳でこちらをジッと見つめ、警戒している。それでもジャングルに差し込む陽の光が柔らかいからなのか、そんな彼の表情はどこか朗らかだ。


 やはり良いトカゲだなぁサキシマキノボリトカゲ。過去写真を見返していたら最後の写真が出てきて、そのあまりの可愛さに思わず記事を書いてしまった。自分で言うのもアレだが、とにかく幼体のあどけなさと後ろの玉ボケが可愛らしい。



Category: 菌類  

メタリジウムに侵されて


 夜風が秋口の涼しさを帯びる頃、それでも昼間は暑くって暑くって、つい日陰のある沢筋に逃げ込みたくなってしまう。


シダの一種
シダの仲間


 谷にはシダの海が広がっていた。一面を覆うシダと、そこから垂直に伸びるスギの木立がジュラシックな様相を呈していて、シダの茂みからコンプソグナトゥスCompsognathus かなんかがトンボでも追いかけながら出てこないかなぁなんて思ったり。

 涼しげなので心地好く歩を進めていると、シダの葉に何かがとまっているのが目に入る。



メタリジウムとヒグラシ
ヒグラシ Tanna japonensis


 見るとセミのようだが、私はあまり詳しくなかったので後で調べてみると、どうやらヒグラシのようだ。あの夏の終わりを感じさせる哀愁漂う 「 カナカナカナカナカナカナカナカナ ・・・・・・ 」 と鳴くアイツだ。
 しかしなんだか様子がおかしい。いつもなら慌ててガチャガチャと逃げ飛んで行く範囲まで入っているのに。










メタリジウムとヒグラシ
メタリジウム Metarhizium sp. に侵されるヒグラシ


 こ、こいつ、死んでる ?? !! 体節から吹き出る緑色の菌糸に覆われて、まるでナウシカの腐海の世界みたいじゃないか。腐海の菌に侵されるウシアブもきっとこんな姿になるんじゃないかと想像すると、なんだか別世界に迷い込んだようでワクワクする。
 ただマスクを持っていないので、5分で肺が腐ってしまうが。



メタリジウムとヒグラシ
メタリジウム


 メタリジウムは複数種あり、微生物農薬としてM. anisopliae なんかはアザミウマ類の防除として実際に使われたりもしている。セミに付いているのはM. cylindrosporum とされているのを方々で散見し、こちらもそれとされるだろうと予想されるが、分生子を検鏡して同定する必要があるので、安易には識別できないだろう。
 wiki をみるとカメレオンから発生するM. granulomatis なんてのもあるようで、何気に両爬屋にとっても遠くない存在の菌の仲間だったようだ。



メタリジウムとヒグラシ
メタリジウム


 わずか5m も離れていない狭い範囲に別個体。こちらもヒグラシから発生していて、こちらは片翅がもげたり、わずかな足でぶら下がるなどして、かなり風化しているようなイメージ。

 なんとも壮絶な命のやり取りだ。私にはまだまだ知らない生き物たちの命の流れ・システムが多く存在しているのだと思い知らされる。きっと今もどこかで浄化の一途が。




Category: 鳥類  

青い鳥は、松の梢でさえずりを


 初夏の四国。この地域に産するサンショウウオを探し求め、レンタカーで山道をひた走る。標高が上がるにつれて、運転席のパワーウインドウを流れる木々が徐々に種類を変えていき、道路が未舗装になった頃には周りの植生もだいぶ風変わりしていた。
 目的の沢付近に車を停め、長靴を履いたり行動食を詰めたりしながら準備をしていると、近くの木々から美しい鳥のさえずりが聞こえた。探してみても木々の重なりが多く、その時は沢に行きたい気持ちが勝って早々に諦めてしまった。

 沢に入ればシコクハコネサンショウウオOnychodactylus kinneburi やタゴガエルRana tagoi tagoi が見られて楽しかったが、当初のルートを外れてしまったおかげで未舗装の道路を1時間近く歩く羽目になってしまった。ヘロヘロになりながらなんとか車のあるところまで戻ってくると、徒労のせいかまるで幻聴のように、朝出発する時に聞いたあの美しいさえずりが耳に入ってきた。







オオルリ
オオルリ Cyanoptila cyanomelana


 だけど声の主は本物だった。確かにそこで美しいさえずりを、私がここに戻ってきた時も朝と同じように響かせてくれていた。それは日本三鳴鳥の一角、オオルリ。松の梢でさえずる姿は、夏山に来たなぁと思わせてくれる素晴らしい情景であった。



 とまっている松は球果の残り方からしてモミ属の一種Abies sp. だろう。ウラジロモミA. homolepis かシラビソA. veitchii なんだろうけど、素人目にわからないので属で留めておこう。
 四国の山地にはシコクシラベA. veitchii var. reflexa というシラビソの変種も存在していて、調べているうちに今更ながら見たいなぁと思ったり。シコクシラベの垂直分布は1,700m 以上の限られた地域のようなので、今回訪れた1,200m 付近ではちょっと難しいかもしれないな。というより四国で1,700m ともなるとだいぶ場所が限られてしまうし、それなりに登るのは苦労しそうだなぁ。
 でもなんだかよく見ると裸子植物も面白いじゃないか。


 ただただ歩くだけの徒労に終わってしまった帰り道も、美しいさえずりと松の梢で鳴いている姿のオオルリに出会えれば、それまでの疲れも吹っ飛んじまう。まるで道に迷っていた私を待っていたように、その綺麗な音色は優しく柔らかく、 「 おかえり 」 とさえ聞こえるようだった。



 日差しはまだまだ暑いけれど、近頃の夜風はだんだん秋の装いになってきた。わがままな話だけど、暑すぎる時は夏バテ気味でフィールドも億劫になって探しに行かない夏の生き物たちも、過ぎ去って見られなくなってから、アレがみたいコレがみたいなんて結局思っちゃうんだよな。夏の時期に冬に憧れて、実際に冬になったら夏に憧れて。
 幸せの青い鳥は、すぐ近くにいるというのに。



 さてまだまだ夏の生き物を探しに行こうではないか。




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