月明かりにヤモリ

Moonlight Gecko

Category: 両生類  

土塊 ( つちくれ ) に鳴く


 昼はサギたちに怯えながら鳴いていたカエルたちも、陽が落ちれば耳を塞ぎたくなるほどの大合唱。夜な夜な懐中電灯片手に里山を散策すれば、あちこちで 「 コロコロ 」 「 ゲコゲコ 」 鳴いている姿を観察することができる。


ニホンアマガエル
ニホンアマガエル Hyla japonica


 ニホンアマガエルはもう狂ったように鳴く。鳴嚢と腹に空気を入れてしまったら最後、 【 鳴嚢 ⇔ 腹 】 の空気の移動でずっと鳴いている。私が近づこうがお構いなしに、一度鳴き出したら止められなくなってしまうようだ。
 小さい体にも関わらず鳴き声は大きく、それが何個体も鳴いている里山は壮観だ。






シュレーゲルアオガエル
シュレーゲルアオガエル Rhacophorus schlegelii


 湿地や田んぼの地面からは 「 コロコロ 」 と鳴り響き、昼と違って近寄っても止むことはそうない。大抵は畦道に盛られた土の隙間だったり、耕されて重なり合った土塊の隙間などで鳴いていることが多く、実際に鳴いている姿を見るのが難しかったりもする。そんなわけで安心しきっているためか、ちょっとやそっとじゃ鳴き止まないというわけだ。
 なので鳴き声を頼りにちょっとずつちょっとずつ近づいていくことで、その発信源を特定していく見つけ方をよくやる。そしてある程度、 『 この辺で鳴いてるな 』 ってのがわかると、耳の次は目を使って、鳴嚢が膨らんでいたり水面に波紋がある場所を探していくと、運良く見つけることができる。上の写真もそれで見つけた個体だ。






シュレーゲルアオガエル
シュレーゲルアオガエル


 夜は警戒心が薄いのか、私に見つかろうとも鳴き止むことはなかった。逃げ隠れしている間に他のオスにメスを取られるのが嫌なのか、モゾモゾと少しの距離を移動しながらも、その間に懸命に鳴き交わしていたのを見て、彼らの必死さが伝わってきた。

 普段は緑色の [ The アオガエル ] といった体色だが、地面にいる時間が長いと、このように紫色に体色変化を起こしている個体も多い。実はこれがシュレの魅力でもあって、他のアオガエル属Rhacophorus は草上や樹上で鳴くことが多いため、このような体色変化を目にすることは殆どない。そしてシュレも個体によっては黄色のスポット状の斑点を持つ個体がいるのだが、そいつがこのように紫色の体色変化をしても、その黄色のスポットは色が変わらないのでなんとも鮮やかなのだ。夜な夜な、そんな星空みたいな体色のシュレを見つけると、すごく幸運な気分に浸れる。
 残念ながら今回は星空体色の個体ではなかったものの、鳴いているシーンが撮れたので満足満足。




シュレーゲルアオガエル
シュレーゲルアオガエル


 こちらは湿地の茂みで鳴いていた個体。1つ前の個体と違ってイメージ通りの緑色の個体。
 人類の農耕文化の発展により各地で稲作が始まり、畦だったり土塊の重なりだったりシュレが隠れながら鳴き交わすには田んぼは都合の良い場所になったため、そういったところでシュレも鳴くようになっていったのだろう。しかしその稲作が始まる前というのは、シュレにとっての繁殖適地は山裾の湿地みたいな環境だったのではないだろうか。そういった環境で身を隠せるところとしては岸辺や水上にある茂みなどがあたるので、この個体はそのような“昔ながら”の鳴き方だったりするのかもしれない。

 器用に草に捕まって中空で鳴く姿は面白く、なかなか見ない姿なのでこれは興奮した。韓国にいるスウォンアマガエルH. suweonensis も同じように草にしがみついて、もっとアクロバックに鳴いていたりするので、湿地適応としてはありなのではないだろうか。 ( あれ、いつの間にかスウォンアマガエルはH. immaculatus のシノニムになったのか ? )






シュレーゲルアオガエル
シュレーゲルアオガエル


 ということでこの紫色のシュレというのも、比較的新しい時代のファッションなのかもしれない。稲作が始まる前だったら、 「 え、何あのオス ? 紫色とかキモくなーい ? 」 とか言われちゃったりするんだろうな。
 はてさて、次は何色がブームになるのだろうか。









Category: 鳥類  

覗き見る鷺たちの狩り場

 最盛期ともなると、春の里山では昼間でも 「 コロロ、コロロ、コロロ ・・・ 」 とシュレーゲルアオガエルRhacophorus schlegelii が賑やかに鳴き交わしているのに出くわすことがある。その鳴き声は小さい尾根を挟んで反対側の谷にいても聞こえてくるほど谷戸中に反響しており、デイダラボッチがやってきたかのような賑わいだ。

 その湿地に私が入っていくと、先ほどまでの喧騒が嘘だったかのようピタリと止まり、突然静寂が訪れる。谷戸に入ってくる風の、草原を撫でるサァサァという音だけが、辺りを包んでいるだけだった。

「 気づかれたか ・・・ 」

 ガチャガチャと鳴き交わすシュレだが性格は案外神経質で、何か危険を感じると皆が皆、口をつぐみ、何でもない静かな谷戸へと様変わりする。でも大丈夫。息を潜めて待っていれば、1匹また1匹と彼らは再び鳴き始めるのだから。最初の勇気あるオスの一声が重要なようで、みんなつられるようにして、 「 コロロ、ガララ 」 と合唱になる。
 そんな合唱を谷戸の真ん中辺りでたくさんのシュレに囲まれながら堪能していた。



 それから10分と経たないうちに、急にまたあの静寂がやってきた。今度のは、私じゃない。腰を下ろして、身動きせずに春を堪能していたのだから。

 では一体誰か。
 それは新たな来訪者を告げる静寂でもあった。



アオサギ
アオサギ Ardea cinerea


 先程まで息を潜めてシュレが鳴くのを聞いていたもんだから、その余韻でシュレたちとともに思わず黙り込んで身を固くしていた私がいた。谷戸の入り口の方を見やると、腰上くらいまである湿地の草原から、そいつの上半身が見えた。そうか、さっき太陽が一瞬チラッと何かに遮られたような気がしたが、このアオサギの仕業だったか。


 アオサギの圧倒的捕食者としての存在感が、私を含めその場のすべての生命を震え上がらせ、固唾を呑んでジッとやり過ごすしかなかった。どうやら彼もシュレを狙ってやってきたらしい。
 やっぱりアオサギのカッコ良さは格別だ。なんというかボス感があるよ、彼らには。

 勇気を出して数枚私が写真を撮ると、ようやくこの湿地に自分以外の大型動物がいるということに気がついたらしく、慌てて飛び去ってしまった。そしてまたジッと気配を消して待っていると、端の方から 「 コロコロ ・・・ 」 と。






 思わぬ来訪者の威厳を感じさせられた後、今度は池の縁までやってくると、こちらでも別のサギが狩りをしていた。その一部始終を、木々の隙間から、ひっそりと覗き見る。




ゴイサギ
ゴイサギ Nycticorax nycticorax


 普段は河川の堤防でペンギンのように突っ立ってる姿であまり動いているところを見る機会が少ない本種だが、この日は狩る気満々。池に沈む木から身を乗り出し、春らしいクヌギQuercus acutissima の雄花が池一面に浮かぶ水面を、興味深く覗き込んでいた。


 サギの仲間でも首の短い、特に私が好きなグループのサギだ。どうやらこのポイントはうまく狩れなかったのか、右に伸びる細い枝へと飛び移っていく。





ゴイサギ
ゴイサギ


 しばらくすると首をめいっぱい伸ばし、一点を凝視して固まる。

 「 これは、狩る︎な !? 」

 まるで時間が止まったような、遠くで鳴くシュレの声や木々を揺らす風の音さえ聞こえてこない緊張感のある瞬間で、ゴイサギの隠しきれない殺気が見ているこちらにも伝わってくる。




ゴイサギ
ゴイサギ


 次の瞬間、全身で水中に突っ込むダイナミックな狩りが目に飛び込んできた。よく見ると、ダイブしながらも足元の枝からは、足が離れず固定されており、飛び込んだ後にはバネみたいにしっかりと元の位置に戻っていた。
 これはきっと、足でしっかり保定出来るほどの細さの枝でなければ出来ない芸当だ。最初に載せた太い幹での狩りが上手くいかなかったのは、そういった 【 飛び込み型 】 での狩りができなかったからかもしれない。よく見るのは首をサッと伸ばして捕らえる 【 ついばみ型 】 だが、この個体はダイブしている光景をよく見た。

 もしかしたらそれが彼ら本来の狩りなのかもしれない。ただまぁ、適者生存が世の常。コンクリの堤防に作られた魚道で待ち伏せて、ホイホイ魚を捕らえるのも、今の彼らにとっては “ 本来の狩り ” なのかもしれない。
 私の好きなヤモリたちが、外灯で待ち伏せて蛾を捕らえるのが当たり前になっている現代においては。



ゴイサギ
ゴイサギ


 無事元の位置に戻ると、2尾の小魚を咥えてご満悦。それなりの魚群に突っ込んだのだろうか。狙いを定めて飛び込んでいるように見えるので、もしかしたら1尾はラッキーボーナスなのかもしれないが。

 ゴイサギは夜に狩りをしているもんだと思っていたので、昼間から彼らの捕食シーンが見られるとは意外だった。夜中、田んぼに忍び込んで、こそこそドジョウとか食っているイメージだったよ。こんな狩りもするのね、ゴイサギさん。



ゴイサギ
ゴイサギ


 ペロリと呑み込んだ後は、クチバシに残る魚のヌメリをとるように、枝に何度かクチバシを擦りつけていた。カワセミAlcedo atthisなんかもやるけど、やっぱりあのヌメリって気になるのか、どうやら結構嫌っぽい様子。








ゴイサギ
ゴイサギ


 この水鏡になった光景が、いつも見るゴイサギとはまったく違う雰囲気で、お気に入りの写真。足が徐々にピンク色に染まっていることから察するに繁殖期も近いのだろう。水面に浮かぶクヌギの雄花も、より季節感を演出してくれているし、自然を知るとちょっとした写真のワンシーンでも季節を感じられるんだなぁ。
 なんとも良い場面が見られました。


Category: 蟲類  

Spider spring



 生き物をやる上で、やっぱり大事だと思うのが良い図鑑に出会うこと。そういう図鑑に巡り会うことで、その分類群にグッと興味を惹かれ、ついついその対象を探したくなる。



 この “ 良い図鑑 ” というのには様々な条件があって、
・ 最新の分類が反映されている図鑑
・ 検索キーが載っていて調べやすい図鑑
・ 写真が鮮明で、撮影角度が同じ図鑑
・ 分布図が詳細に図示される図鑑
・ 生態や生活史が記載されて探すコツがわかる図鑑
・ ハードカバーだったり、薄い頁数だったり野外で使いやすい図鑑


 入門で使うならば、やはりフィールドで使いやすいものに限る。野外に持ち出して実物と図鑑を見比べて使うのが、その生き物を一番覚えられるからだ。そういう意味では現在多くの種類が出版されている 【 文一総合出版のハンドブックシリーズ 】 は、各分類群毎に分かれていて、手軽に持ち出せるのが強みだ。





マスラオハエトリ
マスラオハエトリ Thiania suboppressa


 学生時代、奄美大島を訪れた時に見つけたハエトリグモ。当時は何だかわからないままだったハエトリグモだったが、数年の時を経てハエトリグモハンドブック ( 以下 : ハエトリハンディ ) が発売されてページをめくっていたら、なんとそこには見覚えのあるハエトリが。 『 これは︎ !? 』 と過去の写真フォルダを探したらやはりそいつだった。マスラオハエトリ。

 ハエトリハンディの著者でもある須黒さんが 【 マスラオハエトリ 】 という和名を命名したハエトリグモで、金属光沢の目立つ比較的大型のハエトリグモだ。主に東南アジアなどで見られる南方系のグループで、国内では琉球列島に分布するとされている。和名の “ マスラオ ” とは、 [ 血気盛んな闘う男 ] を意味する “ 益荒男 (ますらお ) ” からきており、オス同士の闘争の際、脚を広げることに由来するという。

 闘争ではないが、発見した時も私に向かって第一脚を広げて体を大きく見せており、その姿が勇ましくカッコ良かっただけに、そのハエトリグモを同定できずにいたのがもどかしかった。それがハエトリハンディを眺めてすぐにわかったほどだったので、いかにこの図鑑が使いやすいか。そしてハンディとしながらも、日本国内のほとんどの種をマークしているほか、未記載種と思われる個体なんかも掲載されているので、網羅的な構成となっている。
 そんな楽しく使いやすい図鑑を手に入れたもんだから、フィールドで使うにはもってこいで、ハエトリハンディ片手にフィールドを散策するのが最近は楽しくって仕方ない。

 ここまでベタ褒めで書いてると、 『 著者や出版社から何かいかがわしいもんでも受け取っているのでは? 』 と疑われてしまうかもしれないが、残念ながらそんなご縁はありませんので、あくまで一購入者の意見として 「 ふむふむ 」 と読み進めていただければ。とにかく良い図鑑なんだ、ハエトリハンディ。使って楽しい図鑑。




ネコハエトリ
ネコハエトリ Carrhotus xanthogramma


 やはりやり始めの分野って普通種でも目新しいので、なんだか初心に返った気分だ。図鑑一つ持ち歩くだけでその生き物を探そうと視点も変わるし、今まで通っていたマイフィールドも一風変わった世界に見えてくる。よく見かけるネコハエトリでさえ、意識してじっくり見てみるとやはり可愛らしい。

 ハエトリグモを探すようになると、公園の手すりとか柵とか、今まであまり気にしないようなところが目に付くようになって、案外意識することで何気ないところにハエトリグモが存在していることに気がつくようになった。





カラスハエトリ
カラスハエトリ Rhene atrata 


 前から好きなハエトリグモで言えば、やはり第一脚が太い種類。ウデブトハエトリSibianor pullus とかヒメカラスハエトリR. albigera とか。 中でもカラスハエトリ類のこの平べったい幅広の頭胸部が生み出す表情が個人的に好み。
 クモは顔に表情なんか作れないので、配色とかフォルムとかパーツの配置とかが顔の印象を形作るので、そのバランスって人間が異性に求める 【 タイプの顔 】 と同じように、案外直感的に好みが反映されると思う。それでいうと私はこいつらなのよね、カラスハエトリ。
 1つ上の写真のネコハエトリも可愛らしいが頭の幅が狭く、眼も大きいのでブリっ子っぽいんだよなぁ。




デーニッツハエトリ
デーニッツハエトリ Plexippoides doenitzi


 こちらもそれでいうと可愛い顔をしているが、案外上顎のところが肉々しいのが、肉食女子感を演出している。それなりにサイズがあるのでマクロで撮るとなかなかに迫力があって面白い。


 今回載せたハエトリグモたちは比較的サイズの大きい種だったわけだけど、ハエトリグモはそれらよりも小さい種も多いので、もう少しマクロ方面の撮り方を工夫して撮影倍率上げたりシャープに撮れるようにしていきたいな。








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