月明かりにヤモリ

Moonlight Gecko

Category: 哺乳類  

おはようボルネオ

 ● 亜細亜の熱帯雨林、ボルネオの旅 ●
プロローグ. 暗黒大陸への渡航
1. 旅の終わりは、旅の始まり
2. エアアジアの激情
3. それぞれの乾杯で繋がる世界
4. 伏線のポッポヘジュセヨ
5. 森の人の恩返し
6. ジープが停まる理由
7. Monster Monkey Morning 
8. まるまるこのもり
9. 虎とか豹とか虎とか
10. 熱帯猿紀行
11. ジュラシック・リバー・クルーズ
12. クルーズ拒まず、サルを追う
13. 真っ暗闇に漕ぎ出して
14. 真っ暗闇を抜け出して
15. おはようボルネオ
16. 花束を君に
17. 支流の小径
18. 尻尾の理由を聞かせておくれ
19. 未知へと続く道





 ボルネオで迎える4回目の朝。このくらいになるといよいよ目覚めの瞬間から、自分がボルネオにいるということが瞬時に理解できる。初めのうちは旅行者気分で、寝ぼけながらもじわりじわりとそれに気がつき、ゆっくりと 『 あ、そうか、今ボルネオにいるのか !? 』 と受け入れていたのだが、今ではシャキッと目が覚め 『 おはようボルネオ 』 と心の中で挨拶してしまうくらいに、ボルネオにいる事が非日常から日常へと変わっていた。

 そして朝から早速ボートに乗り込んで、モーニングクルーズといこうじゃないか。今朝の乗船メンバーは、船長のオヤジ、中川家礼二似のガイド、美男美女の欧米夫婦、ルンチョロサン、私、の6人で昨日の昼のクルーズでも顔馴染みのメンバーだ。
 客である欧米夫婦が昨晩のナイトクルーズに来なかったのを心配するふりをして、 「 昨晩は本当にスゴかったぜ、バケモノみたいなクロコダイルとハラハラドキドキの大アドベンチャーだったんだ。 」 と自慢してやった。 ( おぉ、我ながら性格悪い ・・・ )
 すると男前くんは 「 マジかよ、ナイトクルーズなんてやってたのかよ ?! そんなの知らなかったぜチキショー 」 と、ふがふが言いながら悔しがり、その分を取り返そうと前のめりになってボートにしがみついていた。
 奥さんの方に目をやるとそんなに悔しそうな顔をしておらず、 「 それだったらウチの旦那のクロコダイルの方が、昨晩は大暴れだったわよ 」 とでも言いたそうに落ち着き払っていた。ぐぬぅ、それはそれで悔しいが、日本では体験できないフィールディングだったのでまぁ良しとしよう。


 しばらくすると目を皿にして探していた男前くんが何かを発見する。

 「 What’s that ? 」

 見ると河の真ん中にプカプカとペットボトルが浮かんでいるのだが、なんだか様子がおかしい。ただ浮かんでいるにしては動きが不規則だし、違和感満載だった。男前くんを筆頭に、我々の頭の上にクエスチョンマークが浮かんだままボートはぐんぐん距離を詰めていき、またガイドと船長は嬉しそうにニヤニヤしている。
 ペットボトルの真横にボートをつけ、おもむろにガイドのオヤジがそれをヒョイと掴みあげると、先端に糸が50 cm ほど結びつけられていて、さらにその下から魚が姿を現した。どうやらこれは魚釣りの仕掛けだったようだ。




仕掛け
仕掛け


 こんな感じの仕掛け。おそらく昨晩船長のオヤジが夜釣りの際に仕掛けておいたものだろう。匂いにつられた夜行性のナマズが針にかかり、翌朝目印であるペットボトルを引き上げればナマズを得られるという漁法だ。
 ペットボトルは目立つものが良いのか、 “ 2 more orange ” というパッケージの、マレーシア版ファンタオレンジみたいなのが使われていた。




ナマズ
ナマズの一種


 こんなちゃちな仕掛けの割にはなかなかの獲物がかかっている。大きさは1.5 L のペットボトルより一回り大きいくらい。とりあえず知識が無いもんで、ナマズっていうことくらいしかわからないのが残念。
 餌には肉団子みたいなのが使われていたので、夕食の残りとかだろうか。



しまっちゃう
しまっちゃうオジサン


 そしてこいつはしまっちゃうオジサンにしまわれちゃうんだな。きっとオヤジの晩飯にでもなるのだろう。ん ? それとも昨日の晩飯に出たアレか ?? (笑)
 とにかくこうして釣られた魚は誰かの血となり肉となり、姿を変えて巡ってゆく。そんなことをぼんやり考えていると、ボルネオらしいあいつらが木々を揺らしていた。




テングザル
テングザル Nasalis larvatus


 連日テングザルが現れるのはさすがに慣れてきたボルネオとはいえ驚きだ。今度は昨日の個体に比べて鼻の大きいオス個体だが、まだまだ肥大化しておらず、残念ながらボスではないようだ。
 こいつらの体色で面白いのが、腰部に白い毛が生えている事。それが遠目には白いブリーフを履いているように見えて、一度そう見えてしまうとそのイメージをなかなか払拭できずに珍妙な生き物になり果ててしまう。


テングザル
テングザル


 それでいてコレだ。朝日を浴びながらグーっと伸びをしている姿なんて、 【 ボルネオ島の幻の珍獣 】 というよりも 【 隣近所のひょうきんなオジサン 】 といった雰囲気。これじゃあ嫌でも擬人化して見てしまうじゃないか。

 でもこれはこれで個人的にはお気に入りの写真。巨大クロコダイルがいる殺伐としたジャングルの中で、ふとした瞬間にゆる~い一瞬を見せるこのギャップがなんとも言えない。 “ The ボルネオの朝 ” 。こんなボルネオの一面もいいね。



 朝っぱらから良いものを見つけたおかげで、哺乳類スイッチが入ってしまった。せっかく河川に来たのだからそこでしか見られないような、哺乳類が見たいなぁと。
 ボルネオには、スマトラカワウソLutra sumatrana 、ビロードカワウソLutrogale perspicillata 、コツメカワウソAonyx cinerea の計3種のカワウソが生息しているので、せめて1種でも見たいと水面を見つめていた。

 すると、彼方の水面に “ 何か ” が泳いでいるのが目に飛び込んできた。



ボルネオゾウ
???


「 ん ? カワウソか !? 」  もうそれを探しているために、目の前にあるその “ 何か ” が 『 何カワウソなのか ? 』 と私の脳は模索し始めようとしていた。
 しかし遠いせいで、よく実体がつかめない。対象の進行スピードはそこまで早くないので、こちらもボートでどんどん接近していく。



ボルネオゾウ
???


 近づくにつれて、徐々に細かい造形が見えてくるのだが、どうやらカワウソではなさそうだ。時折水しぶきを上げながら上下する長い部分と、それに引き連れられるようについてくる固そうな塊。それがまるで呼吸するかのように潜っては浮かび、潜っては浮かびを繰り返している。

 着々と縮まる “ 何か ” とボートとの距離。そしてついにその正体がわかる時が来た。その瞬間、まるで数千万人いるサッカースタジアムで、自軍のゴールが決まってドッと湧き立つような、そんな団結力のある感動がボート上に巻き起こった。



ボルネオゾウ
ボルネオゾウ Elephas maximus borneensis


 「 Ooooooooh おぉぉぉ , Elephant おぉぉぉっ !! 」  まさかのボルネオゾウの河渡りに遭遇したのだった。まったく、リアルジャングルクルーズかよ。ボート乗りながら泳ぐボルネオゾウが見られるだなんて、完全に想定外。嬉しすぎる。想定していなかっただけに驚きと感動で胸いっぱいだ。
 そしてそれは他の乗船メンバーも同じこと。この出会いには一同大盛り上がりで、特に昨晩ナイトクルーズを逃した男前くんなんかはえらい喜びよう。転覆の恐れがあるから左右のバランスをとるために自分の席から動かないようにと乗船前に注意を受けたというのに、本人とは逆位置のゾウ側にいる奥さんのほうに寄ってたかって写真を撮り始める始末。まったくこっち側 ( ゾウ側 ) にはヘビー級の私がいるというのに来るんじゃないよ、マジで転覆するわ。
 とにかくしっちゃかめっちゃかに私たちは喜んでいた。


 私のイメージではゾウの河渡りというのは常に頭と鼻先、背中を水上に出して、犬かきみたいにして泳いでいる姿だったのだが、現実の河渡りは 『 トップン、トップン 』 と鼻先を出しては頭を沈め、頭を出しては鼻先を沈めというように、鼻先と頭を交互に水上に出しながら、体のほとんどを水中に沈めたままで泳ぎ方だった。初めは鼻先しか見えていなくて、それくらいのサイズの生き物を想定していたけど、これこそまさに氷山の一角。その下にあんな巨体が隠されていただなんて。
 アニメーションの表現でしばしば水中から鼻先だけ出して潜水艦のように振舞うゾウが登場したりするが、1枚目の写真なんかを見るとあながち非現実的な表現とは言い難い。




 それにしてもゾウだなんて、嬉しすぎるじゃないか。たぶん朝食を調達しに河を渡っていたのだろう。広いところで200 m はあろうかという流域面積の河を横切るとはなんてタフな生き物なんだ。泳ぎ方もアップアップで、必死に息継ぎしているような姿だったので、後半はただただ見守るように岸まで着くのを応援した。
 そして岸ももう間近。いよいよゾウだけに全身像のお目見えだ。



ボルネオゾウ
ボルネオゾウ


 その姿を見た第一印象としては 『 小っさ・・・ 』 それもそのはず、ボルネオゾウは世界最小のゾウなのだ。ゾウ科Elephantidae に属する3種のゾウの内、種で言えば最小種はアフリカのマルミミゾウLoxodonta cyclotis なのだが、亜種レベルまで落とすと、アジアゾウElephas maximus の亜種であるこのボルネオゾウが “ 最も小さいゾウ ” ということになる。
 英名で 【 borneo pigmy elephant 】 と現地では呼ばれ、やはり小さいことが特徴だと中川家礼二似のガイドのオヤジが言っていた。アジアゾウのメスでは牙が目立たないため、この個体はオス成体だろう。体高にして2mほどの小ゾウサイズだが、ボルネオゾウでは立派な大人だ。体つきも丸みを帯びていて、密林を闊歩するにはうってつけ。
 動物園でよく見るアフリカゾウLoxodonta africana とは、サイズもプロポーションも全くの別物だというのをまざまざと見せつけられた。



 ぬかるみに足を取られながらも器用に岸へと上がり、あっという間に彼は密林の奥へと姿を消してしまった。その出来事は一瞬だったのだが、体感時間としては非常に濃厚な時間を過ごすことができた。
 というか自分が海外のフィールドに出て、こんな生き物たちに遭遇しているのが本当に信じられない。子供の頃にTVの画面を通して見ていた 【 どうぶつ奇想天外 】 の世界に、実際に足を踏み入れ、余計なフィルターなしに自分自身の眼で捉え、そしてその土地の空気を吸っている。まるで自分が主人公の物語みたいだ。やっぱり未知なるフィールドは楽しいなぁ。



 最初のクルーズ記事でも書いたが、この流域にはいくつかジャングルクルーズを行なう観光宿があるので、時折他のボートとすれ違ったりもする。この日も何艘かのボートを見かけたが、ボルネオゾウが泳いでいる貴重な瞬間には我々以外に見ている者はいなかった。
 ただやたらに盛り上がっていた我々のボート。それを嗅ぎつけて 『 何か良い生き物でも出たのでは ? 』 と近寄ってくるボートが2艘ほどあったが、時既に遅し。彼らが駆けつけて来た頃には、ゾウが岸を這い上がったぬかるみの後くらいしか見る事はできなかったのだ。

 怪訝そうにこちらを窺っている連中に対して、例の男前くんが親指でぬかるみを指しながら 「 Elephant ! Elephant !! 」 とか自慢してやがる。もう行っちゃったんだからその言い方は誤解を招くだろうと思いながらも、 『 良いぞ、ハイエナどもにはもっと自慢してやれ 』 という悪魔の囁きのほうが優勢だったので止めてやることはしなかった。
 さらには 「 さっきまでそこにElephant がいたんだぜ、スッゲーよ。ホントあいつは最高にクールだったなぁ 」 とか言いながら欧米人特有のテンションが上がると出る 「 yeaaah ! 」 とか 「 foohhhh ! 」 とかも挟みつつ満面の笑みで自慢していやがるからタチが悪い。朝イチで私が厭味ったらしく自慢した憂さ晴らしをここでしているんじゃないかと思うくらいに、とにかくクレイジーだった。
 なかなか自慢の仕方がエグイ男前くんは、まぁこちら側だったから良かったものの、コイツがもし相手側の人間だったとしたらゾッとするね。(笑)


 まさかのボルネオゾウの出現に度肝を抜かれた朝のキナバタンガン河。宿から出発して 【 ナマズ釣り ~ テングザル ~ ボルネオゾウ 】 という今回の記事での出来事は、実はわずか30 分以内の出来事なのだから、その濃さには驚かされる。ウダウダ書いてしまう私の記事では伝わりにくいのだが、それほどまでに圧縮された30 分であり、濃厚な30 分だったのだ。私も写真を見返していて、撮影時間を確認してびっくりしたほどだ。


 モーニングクルーズは序盤でかなり盛り上がったが、今後もまだまだ楽しいボートの上。





スポンサーサイト

Newer Entry花束を君に

Older Entry真っ暗闇を抜け出して

 

Comments
Leave a comment








12345678910111213141516171819202122232425262728293006 < >