月明かりにヤモリ

Moonlight Gecko

Category: 鳥類  

真っ暗闇に漕ぎ出して

 ● 亜細亜の熱帯雨林、ボルネオの旅 ●
プロローグ. 暗黒大陸への渡航
1. 旅の終わりは、旅の始まり
2. エアアジアの激情
3. それぞれの乾杯で繋がる世界
4. 伏線のポッポヘジュセヨ
5. 森の人の恩返し
6. ジープが停まる理由
7. Monster Monkey Morning 
8. まるまるこのもり
9. 虎とか豹とか虎とか
10. 熱帯猿紀行
11. ジュラシック・リバー・クルーズ
12. クルーズ拒まず、サルを追う
13. 真っ暗闇に漕ぎ出して
14. 真っ暗闇を抜け出して
15. おはようボルネオ
16. 花束を君に
17. 支流の小径
18. 尻尾の理由を聞かせておくれ
19. 未知へと続く道





 ボートに揺られた感覚が陸に上がってもまだぼんやりと残っている。陸酔いの余韻を残したままに、食堂へと向かう。サイチョウにサルにと、興奮続きのクルーズでペコペコになっているおなかをブュッフェの品々で落ち着かせる。



夕食
夕食風景


 相変わらず欧米人だらけ。今回の旅では泊まったどの宿も食事はブュッフェスタイルだったので、毎食毎食満腹になるまで食べることができ、空腹に悩まされる事はなかった。なんだかんだで海外のフィールドは神経を使うため、とにかく腹が減る。
 そういう意味でたらふく食べられる環境というのは、フィールドワークをする上ではとても重要なファクターである。腹が減っては戦ができない。この夕食でも、もうそりゃあパンパンになるまで食べたさ。だって夜のお楽しみがあるんだもの。


 程よい疲れと満腹感に、ふかふかのベッド。部屋に戻って食後の休息を取るとき、いっそのことベッドでこのまま寝ちまおうかと睡魔の誘惑が凄かったが、なんとか振り払ってフィールディングの準備をする。
 薄暗い桟橋を慎重に歩いて辿り着いたのは船着き場。そう、夜もボートで河を散策するナイトクルーズである。これまた未体験ゾーン !! 抑えようと思っても胸の高鳴りは止まらないフィールディングだ。

 しかもこの晩に集まったのは船長とルンチョロサンと私の3人だけ。昼間は欧米カップル2組に我々、ガイド、船長の8人体制だったことを考えると、今回は完全なるプライベートボートという贅沢な乗り合わせ。こいつは自由にフィールディングができそうだ。


 さっそくボートに乗り込み、明かりのない真っ暗な水面へと漕ぎ出す。昼間と違って慎重に進む必要があり、またライトで照らしながらの散策となるためボートの進行スピードが極めてゆっくりになる。よってボートのモーター音は非常に静かで、かつ昼間に猿やら鳥やら虫やらで騒がしかったジャングルはしんと静まり返っている。
 加えておしゃべりな中川家の礼二似ガイドもおらず、あまり英語が得意ではない寡黙な船長が、ボートを巧みに操りながら生き物を探す職人っぷり。自然とこちらも息を殺すようにライトの照らされている先を見つめ、聞こえているのはわずかなモーター音と、岸から跳ね返ってくるボートの波のちゃぷんちゃぷんという音だけ。なんとも緊張感がある。


 しばらくするとライトが一点に留まり、そちらに向かってゆっくりボートで向かう。さすがは経験値の違うベテラン船長、次々に闇夜の中から生き物を発見していくではないか。




ルリカワセミ
ルリカワセミ Alcedo meninting


 眠る宝石。最初船長が何を発見したのか理解できなかったが、ゆっくりとボートを近づけるとそいつの正体がつかめた。どうやら日本にいるカワセミA. atthis の、色を濃くしコントラストをはっきりとさせたような鳥だという事がわかった。
 あいにく頭部は隠れたままお休みだったので、お顔を拝見することができなかったが、日本では “ 清流の宝石 ” とまで評価され愛好家たちが盛んに写真に収めれているカワセミの上位互換のような存在。大きさも同じくらい。なのできっとカワセミ好きにはたまらない鳥だろう。




コウハシショウビン
コウハシショウビン Pelargopsis capensis


 続いて同じくカワセミ科のコウハシショウビン。ただし前述のカワセミやルリカワセミがカワセミ亜科Alcedininae なのに対して、本種はアカショウビンHalcyon coromanda などと同じショウビン亜科Halcyoninae に含まれサイズも同様に大きい。またリュウキュウアカショウビンH. c. bangsi が樹上のタカサゴシロアリNasutitermes takasagoensis の巣を利用するように、コウハシショウビンも樹上のシロアリの巣を利用することもあるようなので、そういう意味でも似ているところがある。
 本種はボルネオ島で最大のキングフィッシャーで、その大きさは良く目立つ。今回も船長が先に見つけたのだが、本種ならば瞬時にどこにいるかがわかった。赤い嘴に水色の翼は南国風で、こういった様々なカワセミ類が見られるのも日本ではなかなかない感覚。寝ていたところを起こしてしまったようで申し訳ない。





マレーウオミミズク
マレーウオミミズク Bubo ketupu


 こちらは夜行性なので活動中。岸近くの枯れ木にとまり、水面を睨みつけていた。本種についても、渡航前の記事で書いていた見てみたい鳥の一角だった。和名のとおり魚を狩るミミズクなので、泳ぐ魚を捕えるための鋭く長い鉤爪が特徴的。
 それにしてもこの手のフクロウ類は名ハンターだと思う。よくフクロウ類で言われるのが聴力の凄さだ。耳の穴が上下左右対称ではなくズレているので位置関係を把握しやすいだとか、カラフトフクロウStrix nebulosa では顔面がパラボラアンテナのようになっていて集音機能に優れ、雪の下を動くハタネズミ類を雪上から狩るという凄技を身につけていたりもする。
 では、このウオミミズクの仲間はどのようにして水中の魚を暗闇から見つけ出すのだろうか。観察する限りではジッと水面を睨んでいたので視力に頼っているように見えたが、もしかしたら聴力にも頼っていて、水面付近で跳ねたりチャプチャプしている魚を狙っているのかもしれない。足の毛がなかったり、魚には聞こえないのでバサバサなる羽音だったり、他のフクロウ類とちょっと違う特徴のウオミミズク。狩りについても他のフクロウ類とは違うアプローチをしているのかもしれない。



マレーウオミミズク
マレーウオミミズク


 以前はシマフクロウBubo blakistoni と同じくシマフクロウ属Ketupa とされていたので、現地では 「 Ketupaだ、Ketupa 。 」 と喜んでいたが、調べてみるとシロフクロウ属Nyctea などと共にワシミミズク属Bubo に統合されるという分子系統解析があるようだ。それについては 【 鴎舞時 / Ohmy Time 】 というブログの 【 ワシミミズク複合体 】 という記事に詳しい。
 こちらのブログではさらに、 「 日本産鳥類目録第7版ではシマフクロウはKetupa のままだが、シロフクロウをBubo にしていることに整合性がない 」 と指摘されている。なるほど確かにそうだ。せめてどちらもBubo にするか、Ketupa ・ Nyctea どちらも残しておくか、というのが自然だろう。


 それにしてもこちらのブログは非常に勉強になる。いくつか両爬の記事も書かれているのも魅力だ。内容が濃いのでゆっくり時間をかけて過去記事を読もう。
 ということで今回はseichoudokuさんにならってマレーウオミミズクおよびシマフクロウはKetupa ではなくBubo をあてることにする。記載時にシマフクロウはBubo blakistoni とされていたから、学名の変遷としては元に戻った形かな。


 結局狩りの瞬間は拝めなかったが、なんとも素敵な鳥を見させてもらった。記事を書くにあたってフクロウの事を調べてたら、だんだん見たくなってくるミーハー気質の私。ロシアでカラフトフクロウとか見たいし、ついでに日本とは亜種の違うマンシュウシマフクロウB. b. doerriesi なんかも面白いかも。まぁ海外はハードなので北海道にコモチカナヘビZootoca vivipara を見に行くついでにシマフクロウとかオオワシHaliaeetus pelagicus とか探せたら楽しいかもしれない。




 夜のリバークルーズは昼間とは違った趣がある。興奮気味にはしゃいでいると、船長のオヤジもニヤリと親指を立てる。嬉しさが伝わったようだったので、 「 Good eye !! 」 と褒めて親指を立て返す。

 この時はただただ楽しいクルージングであった。まさかこの後のクルーズであんな恐ろしい目に遭うとは、親指を立てていた私には思いもよらなかった。
 そしてボートはゆっくりと暗闇を進む。



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Comments
Edit野生
野生は格別ですね
檻の中のマレーウオミミズクとは比べ物になりません
ところで
羽ばたき音について非常に興味深く読ませていただきました
新幹線のパンタグラフに応用されたフクロウの風切前縁のセレーションがマレーウオミミズクにはないのでしょうね
選択圧から解放されると突然変異によって構造と機能は失われてしまうようです
Edit
>> seichoudoku さん


コメントありがとうございます。
『フクロウ類の羽ばたき音は静か』程度しか知りませんでしたが、構造的にはセレーションというものなのですね。
画像検索すると結構わかるもののようですので、風切羽根を拾えていればもっと面白かったですね。

ホライモリが色素を作らなかったり眼を発達させなかったりするように、不要なものは失われる方向になるのでしょう。
セレーションにしても眼にしても、やはり作るにはコストがかかるので、出来るだけ省エネになるある種の適応なんでしょうね。
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