月明かりにヤモリ

Moonlight Gecko

Category: 哺乳類  

クルーズ拒まず、サルを追う

 ● 亜細亜の熱帯雨林、ボルネオの旅 ●
プロローグ. 暗黒大陸への渡航
1. 旅の終わりは、旅の始まり
2. エアアジアの激情
3. それぞれの乾杯で繋がる世界
4. 伏線のポッポヘジュセヨ
5. 森の人の恩返し
6. ジープが停まる理由
7. Monster Monkey Morning 
8. まるまるこのもり
9. 虎とか豹とか虎とか
10. 熱帯猿紀行
11. ジュラシック・リバー・クルーズ
12. クルーズ拒まず、サルを追う
13. 真っ暗闇に漕ぎ出して
14. 真っ暗闇を抜け出して
15. おはようボルネオ
16. 花束を君に





 『 ブロロロロ ・・・・・ 』 ボートに搭載されたモーターの回転数が徐々に落ちていく。何か見つけたのだろう、巧みにボートを操る船長が一点を見つめ、船首の向きをゆっくりと変えている。

 船上での生き物探しなんて三宅島へ向かうフェリー航路で点のようなミズナギドリ類を見たくらいで、小型ボートでの散策はほとんど初めてに等しい。アプローチの仕方が初体験なのでイマイチ探すコツが掴めておらず、大抵は経験の長い船長、次いで同乗しているガイドが生き物を見つけるため、客である我々はどうにも歯がたたない。
 だが生き物屋としては、やはり第一発見者になりたいところ。 『 短い滞在時間だが、なんとしても自力で見つけ出したい 』 と思っていた矢先に出鼻をくじかれる。


 船首が向き直り、だんだんと近づいていく中でようやく、船長が見つめていた “ 何か ” を捉えることができた。




テングザル
テングザル Nasalis larvatus


 ボルネオのサルといったら本種だろう。近隣のスマトラ島やジャワ島にはいない、ボルネオ島の固有種である。密林の大物であるボルネオオランウータンPongo pygmaeus と、大河の大物であるテングザル、このボルネオ二大モンキーをこの目で見ずして、この地を去ることはできないだろう。
 とはいってもこの個体はおそらくメス。オスは和名の通り鼻が大きく、群れのボスともなると体格と共に鼻までもが肥大化する。オランウータンでいうところのフランジ個体のように、 “ 霊長類はボスを見ずしてその種を語れない ” と個人的には思うだけにボスも出てこないかワクワクしていたが、こいつは単独行動をしているようだった。

 こちらに気がつき一瞬は緊張したものの、その後はこちらをチラチラ見ながら警戒しつつ、葉を口に運ぶ手を止めようとはしない。やはり植物食の生き物は相当量食べなくてはならないのだろう。彼らの腹が出ているのは私のように食い過ぎというわけではなく、有害物質を含む葉も分解できるよう腸が長く、また霊長類では唯一、反芻行動をみせるようである。そのため、誰に邪魔されるわけでもなく、とにかく多くの葉をゆっくりと摂取するのである。



テングザル
テングザル


 観察していると位置を変え、ついには段差に座り込んで手はお膝の上、なんと行儀の良いことでしょう。こう見るとどうにも人間臭い動きをしていて、シワの具合がなんともおばあちゃん風だ。人間っぽく見えるのは枝を引っ張って口で葉を取るのではなく、1枚1枚葉を手でちぎり取り、それを器用に口に運ぶからだろう。珍獣と呼ばれている彼らだが、実物を見てみるとまるでイメージが違っていて、少なくとも私からしたおばあちゃんだな。



 しばらく観察を続けた後、他の個体が現れる様子もないし、このおばあちゃんに至っては永遠に葉を食べ続けていらっしゃるので、食事の邪魔をしても行けないので別れを告げて先を行く。
 ボートに乗り合わせた他の観光客と共に、初テングザルの喜びでワイワイ賑やかになっていると、我々の一団の他にも賑やかな声が、それも樹上の方から聞こえてくる。




カニクイザル
カニクイザル Macaca fascicularis


 カニクイザルの群れである。チビどもは木の実を探したり追いかけっこして走り回ったりと騒がしい。この若い個体なんかは、 【 警戒心 < 食欲 】 なのだろう、すぐ横を我々のボートが通り過ぎようとも気にも留めず、木の実探しに余念がない。
 彼らはニホンザルM. fuscata と同じマカク属に含まれるマカクモンキーで、見た目だけでなく仕草や行動なんかもよく類似する。若い個体のわんぱくで好奇心旺盛なところなんかはそっくりである。



カニクイザル
カニクイザル


 そんなチビどもが走り回る傍ら、木陰で肌を寄せ合い眠りについている。果たして家族なのか、彼らの血縁関係まではわからないが、右の個体は赤ん坊を抱きしめていたので母親だろう。なんとも仲睦まじいではないか。



カニクイザル
カニクイザル


 さらには陸上で授乳中の母親までいた。やたら伸びる乳房をぼんやりと眺め、 「 ゴムゴムのぉ~、オッパイ !! 」 なんてくだらないことで笑っていたとかいないとか。
 どんなにチンケでくだらないことをデカイ声でしゃべっていても、日本語を理解できるやつはこのボートには私とルンチョロサンしかおらず、その状況が余計にくだらないことを誘発させるようだった。ただふと我に帰れば、良い年したおっさんが、何を小学生レベルな事を言っているのだろうと悲しくなるので、そこは海外でテンションも上がっておかしくなっていたってことで、自分の中では納得するようにしている。うん、きっとそうだ。





カニクイザル
カニクイザル


 動き一つとっても可愛らしく面白いのは、こういった中型以上の哺乳類の特権。この個体は我々を警戒しつつ、川の水を飲みに岸までやってきた。この水域にはワニもいるので、 『 このタイミングでザバーンと子ザルに食いついたりしないかなぁ 』 なんてサル側からしたら不謹慎な妄想をしたりしてしまうわけだけど、私は両爬屋でワニ側なので、 『 来い来い !! 』 と切実に願っていた。もちろんその希望も虚しく、喉を潤した子ザルは無事に樹上の仲間の元へと戻って行ってしまった。

 写真としてはいろいろな表情が見られたので撮っていて面白かった。アフリカでヒヒの類いを見に行くのもアリだなぁなんて、前回の記事に引っ張られた感想まで漏らしてしまう。あぁ、それよかやっぱりギンガオサイチョウBycanistes brevis だよ、ギンガオサイチョウ。



 賑やかなカニクイザルの群れを見送り、ボートは細流で180 度方向転換して宿へと船首を向ける。いよいよ陽も傾き始めた川面には、同じ方向を向いたボートが数隻、白波を立てながら浮かんでいるのが見えた。我々もそこに混ざり合うように細流から本流へと戻って行ったのだが、その時ちょうど本流を下るボートとタイミングが合致し、2隻のボートが水平に並ぶかどうかというところまでなった。相手のボートは近隣の宿から出航している、いわばライバルのボートである。また観光客を楽しませようというノリもあったのかもしれないが、帰路を急いでいたためどちらもブルローーーーンと加速して、互いに抜き去ってやろうというレース的展開になった。
 しかし相手方はクルーザータイプのちゃんとした作りのボートに対して、こちらと来たら “ 手漕ぎボートにモーターとスクリューを搭載しました ” という程度のボートで、マシン性能では明らかに分が悪い。それでも我がボートに乗っていた中川家の礼二に似た中華系のガイドのおっちゃんがえらい煽るもんだから、船長もしぶしぶモーターを唸らせる。

 本流に合流しながら2隻のボートが水平に並びかけて、かつ互いのボートとの距離が縮まりかけた時、相手方のボートはもう一段階加速して、あっという間に抜き去って行ってしまった。さらには微妙に水平ではなかったため、抜き去る瞬間にクジラの尾びれにザッパーンとやられるような白波がななめに襲ったが、こちらも加速していたおかげでボートの後方1/3だけがビッショリと濡れる結果に。そしてそこに座っていたのは礼二似のおっちゃんと船長さん。ご愁傷様です。加えてどこかに電話をかけながら煽っていた礼二だったので、携帯電話までビッチョビチョ。さっきまでの威勢はどこ吹く風、急にしょぼんとしてロクにガイドもせず、携帯電話を我が子のように心配するばかり。結局は調子に乗ると痛い目に会うわけですね。





夕陽
夕陽


 宿に着く頃には綺麗な夕陽が水面に映っていた。なんとも楽しいクルーズの時間はあっという間に過ぎてしまっていたようだ。結局終わってみれば、自分が第一発見した生き物はゼロ。
 う~む、惨敗だ。
 初日は揺れるボートの上で遠景から生き物を見つけ出すように目を慣らすので精一杯だった。まだここに滞在するので、なんとか帰るまでには自分の眼で見つけ出してやろうと夕陽に誓うのであった。

 とりあえずは晩メシだ。ボートだから動いていないのに、興奮しっぱなしだからおなかはペコペコだ。


 そして夜は夜で、お楽しみ。



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