月明かりにヤモリ

Moonlight Gecko

Category: 鳥類  

ジュラシック・リバー・クルーズ

 ● 亜細亜の熱帯雨林、ボルネオの旅 ●
プロローグ. 暗黒大陸への渡航
1. 旅の終わりは、旅の始まり
2. エアアジアの激情
3. それぞれの乾杯で繋がる世界
4. 伏線のポッポヘジュセヨ
5. 森の人の恩返し
6. ジープが停まる理由
7. Monster Monkey Morning 
8. まるまるこのもり
9. 虎とか豹とか虎とか
10. 熱帯猿紀行
11. ジュラシック・リバー・クルーズ
12. クルーズ拒まず、サルを追う
13. 真っ暗闇に漕ぎ出して
14. 真っ暗闇を抜け出して
15. おはようボルネオ
16. 花束を君に







 ------------------------------------ 走る、走る、走る。どこまで密林を駆け抜けようとも、頭上に張り巡らされた枝を巧みに渡って追いかけてくる影からは逃げられない。 「 うわっ ?! 」 うっかり板根に足をとられて転んでしまった。急に静まり返る森の天井から、ひらりひらりと葉っぱが一枚落ちて来た。私の肩にそれが触れるか触れないかというタイミングで、 『 ずしんっ !! 』 と私の背後に大きな揺れを感じた。 ------------------------------------


 ハッと目を覚ませばそこは車の中。どうやらすっかり眠ってしまったみたいで、ちょうどダートコースを抜けて舗装路に入る最後の段差で 『 ずしんっ !! 』 と揺れたらしい。危うくモンスターモンキーに握り潰されるところだった。

 車はダナンバレーを抜け、ラハダトの街までやってきた。ジャングルを抜けると、ボルネオという土地は普通のアジアの街並みといった雰囲気である。泊まっていた宿のオフィスがラハダトにあり、ここで次の宿の迎えを待つ。
 ドライバーに別れを告げオフィスを訪ねると、受付の女性に案内されて、 「 ランチでも召しあがったら ? 」 とコーヒーまで出してくれた。ここからまた移動だし、少し朝食と昼食の間が短い気もしたが、せっかくなので作ってもらっていた弁当を食べることに。


弁当
弁当


 チキンとチーズのサンドイッチにパウンドケーキ、デザートの柑橘類。手作り感満載でなんだかほっこりする弁当だった。モソモソとサンドイッチを食べながらオフィスを見渡すと、私たちの他に先客が2人。そいつらは見るからに観光客ではなく、マレー語で受付の女性と親しげに話しているところを見ると、どうやら現地の人らしい。
 「 まさか、こいつらが次のドライバーじゃないだろうなぁ 」 と思いつつも、1人はガッシリ体型の兄ちゃん、もう一方はほぼスキンヘッドのおじさん、というちょっぴり強面な方々だったので、 「 まぁ違うだろうね 」 とルンチョロサンと話していた。

 コーヒーも飲み終わり、カップを下げてもらおうと受付の女性に 「 Thank you 」 と声をかけると、それが何かの合図だったかのように “ 待ってました ” と先程の二人が立ち上がり、我々に向かって 「 Let's go 」 と声をかけてくるではありませんか。 「 こいつらかよ !! 」 思わず心の中でツッコんでしまった。それなら最初に挨拶くらいしてくれよ~、めちゃくちゃのんびりランチタイムを満喫しちまったじゃないか。
 ビクビクしながら乗車したが、もちろん何てことはない。見た目に反して良い方々でしたよ。自己紹介すると、ガッチリしている方はイアン、ほぼスキンヘッドの方がピーターという名前だとわかった。ピーターが運転で助手席にイアン、そして私たち2人が後部座席に入り込み、次の宿へと向かう。


 そこから2時間ほど車に揺られていたが、とにかく車窓の風景に変わり映えがない。少し眠って目を覚ませど、毎回アブラヤシのプランテーションがすぐ目前まで迫っているのだ。おそらく自然保護区になっていない箇所のその多くが、アブラヤシのプランテーションに置き換わっていると考えても良いくらい随所にみられた。
 それほどまでに産業として大きなものであり、また我が国を含む多くの輸入国が、パーム油を利用しているのだと実感させられる。ある程度広い原生林が必要な生き物にとっては、ここでは自然保護区で生きる他ないのかもしれない。そうすると生き物探しのフィールドは必然的に区域内ということになり、なかなか好き勝手できないんだろうなぁと、少しやりにくさを感じるのであった。
ただ運転は強面の割に滑らかだったため、あっという間に次の宿へと到着した。




宿
宿


 宿に着いたら強面2人とはお別れ。彼らはドライバー業務がメインのようだ。
 部屋に案内されると、前日までの宿より安いとこなのに豪華テレビ付き。 ( まぁ現地語テレビなので、何を言っているかさっぱりだが ) そんな良い宿と想定していなかったので、とても快適に過ごせる部屋でした。
 まぁ部屋なんてのは寝られれば良いわけで、とにかく新しいフィールドへ GO。




キナバタンガン河
キナバタンガン河


 やって来たのはキナバタンガン河の畔。これまでいた密林環境のジャングルとは異なり、こちらは大河環境のジャングルになるので、そこに棲まう生き物の構成も当然異なる。両爬屋としてはカメやオオトカゲ、そしてワニが狙い目。
 その他、この大河を巧みに利用している生き物たちがたくさんいるこの場所では、ボートに乗ってそれらの生き物を探しにいく “ リバークルーズ ” ができるのだ。宿は川沿いに建っており、宿主催でクルーズを行なっているので観光客も多く、ここでも欧米人がよく目につく。お手軽なアクティビティなため、この流域にはいくつか観光宿が点在し、各宿からボートを出してクルーズを行なっているというわけだ。
 ナイトサファリに続き、これまた初体験の乗り物フィールディング。ジャングルクルーズなんてやったことあるのは夢の国くらいなもんで、よく水面から出てくるカバに心を躍らせたものだ。今度はそれが現実の世界でできるだなんて、それこそ夢のようだ。

 ということでさっそくボートに乗船し、がぶのみミルクコーヒー色の大河を遡る。




キタカササギサイチョウ
キタカササギサイチョウ Anthracoceros albirostris


 最初に現れたのはキタカササギサイチョウのオス。密林とは違い見通しのきく河辺では、彼らのような大型鳥類が比較的見つけやすい。加えてこの時は、 「 ケンケンケンケンケンケンケン 」 と大きな鳴き声をあげていたのですぐに発見できた。

 サイチョウ類は私が見たかった鳥であり、彼らの英名 【 hornbill 】 はすでに覚えていたので、見つけた時は 「 おっ !? ホーンビルッ ! ホーンビルッ ! 」 と反射的に叫んでいた。本種は出国前の記事にチラリと写真で登場した、唐蘭船渡鳥獣之図にも図版で載っていて、まさかその鳥が目の前で空に向かって鳴いているとは。
 特徴はなんといっても嘴の上に付いている角 ( カスク ) で、和名も 『 犀 ( のような角を持つ ) 鳥 』 でサイチョウであるように、とにかくその頭部がカッコ良すぎてたまらない。種によってそのカスクの形態は様々で、性的二型を示す場合も少なくない。
 本種もそれに該当し、メスのカスクはそこまで大きく発達せず、少し盛り上がる程度である。


 古い文献だとボルネオの個体群はカササギサイチョウAn. coronatus とされているが、現在はカササギサイチョウとキタカササギサイチョウに分割され、ボルネオを含む東南アジアの多くにはキタカササギサイチョウが分布している。
カササギサイチョウの方はインドとスリランカに分布し、カスクの形態も色彩も異なっていて、安い言い方をすればキタカササギの進化系みたい。カスクはより鋭く前方に突出し、色も黒く染まっている。

 キタカササギサイチョウの大きさは日本のトビMilvus migrans くらいだが、頭部が大きい分その迫力はものすごく、恐竜感が尋常じゃない。きっと爬虫類とか恐竜に惹かれる人が好きな鳥。翼竜っていうより恐竜だな、私の印象では。


ズグロサイチョウ
ズグロサイチョウ Aceros corrugatus


 次に現れた恐竜はズグロサイチョウ。こちらは先程のキタカササギサイチョウのような立派な角ではないが、派手な赤いコブ状の角がある。こいつらに近縁なサイチョウ類は、カスク、嘴、喉、眼の周りなどが様々な色に彩られ、かなり派手な見た目をしている。
 現在のRhyticeros 属も以前は同じくAceros 属に含まれていたように、ドギツイ色彩のサイチョウが多い。

 このズグロサイチョウが属するナナミゾサイチョウ属Aceros の学名は “ 角の無い ” という意味であり、事実模式種であるナナミゾサイチョウAc. nipalensis にはカスクがみられないことからその属名がつけられたらしいのだが、とにかくこのサイチョウという生き物はその目立つカスクから、 “ 角 ” を意味する 【 - ceros 】 という属名が多い。
 ちなみに前述のカササギサイチョウ属は “ 炭のような黒い角 ” という意味。


 ズグロサイチョウはかなり遠くの木にとまっていたのだが、その目立つ見た目は離れたボートの上からでもよく見える。ただ、ボートで近づく前に早々に飛ばれてしまったため、トリミングした荒い画像しかないのが残念。
 それでもこんな恐竜を見られたのだ、最高じゃないか。



 続々と現れる恐竜たちに心臓の鼓動がバクンバクン鳴り響く。そんな興奮状態の中、ダナンバレーの見晴台で聞いたあの鳴き声がすぐ近くで聞こえ、そしてそちらに目を向けるとあの赤い角のあいつがバサバサと豪快な羽音をたてて飛んでいる姿が飛び込んできた。



ツノサイチョウ
ツノサイチョウ Buceros rhinoceros


 ライノセラス !! ついに憧れのサイチョウのお出ましだ。私が最も見たかったサイチョウ、 “ ライノセラス ” ことツノサイチョウ。漆黒の翼に反り返る深紅のカスク、その姿は象徴的で畏敬の念すら抱かせるほど。
 そいつの飛翔を真横から捉えられただけでも感動ものだが、運良く河を越えて森に入るわけではなく、河辺の木々にとまったようなので飛んでいった方向へとボートを走らせる。



ツノサイチョウ タニワタリ
ツノサイチョウとタニワタリ Asplenium sp.


 乗船している人たちとの会話は基本的に英語になるのだが、私とルンチョロサンの間で交わす言語は日本語で構わない。それなのに興奮のあまり 「 どこにとまった ? 」 とルンチョロサンに聞いておきながら、見つけた瞬間、これまでの欧米人たちとの会話のクセでつい 「 I see , I see 」 と口をついて出てきてしまう。

 それくらい動転していたのだ。
 それくらい興奮していたのだ。
 もう誰に何語でこの感動を伝えたら良いのやら。

 見つけたその枝先を見ると前述の2種よりも一回りも巨大な、トビをも越す大きさのツノサイチョウが、これまた巨大なタニワタリの真横に佇んでいる。まるでジュラシックパークの世界に迷い込んでしまったのではないだろうか。でかい怪鳥に、でかい着生シダ。おおよそ現代とは思えないほどの光景が目の前に広がっている。
 そして2,3 度大きな 「 グワッグワッ 」 という咆哮を轟かせると彼方の森へと帰ってしまった。

 しかしどうやらつがいで行動していたようで、鳴き声の相手であるメスのツノサイチョウがすぐ近くまでボートが寄れる距離に潜んでいた。



ツノサイチョウ
ツノサイチョウ


 これは近い。まじまじと至近距離で見ると、こんなにもデカイ生き物なのかと実感させられる。メスは虹彩が白く、絵で描くと点状の目になる愛くるしい顔をしている。一方でオスの虹彩は暗い赤色で、結構冷酷な顔つきをしていて怖い。

 彼らの繁殖方法はユニークで、メスが産卵・育雛のために大木の洞に入ると、餌をもらい受けるわずかな隙間を残して、その出入り口を泥などで塞いでしまう。オスはただ1羽で必死に食糧を調達し、そのわずかな隙間からメスへ、そして雛へと餌を運ぶ。メスはたった1羽の雛を長期間に渡って巣篭もりして育て、雛がある程度大きくなるとメスは泥壁を壊し外に出る。その雛は巣立ちまでの間、再び泥壁を作り、羽ばたくその日まで巣篭もりをして両親からの餌をもらうという一風変わった繁殖方法をとる。
 なんと世話焼きな鳥なのだろう。まるでロストワールドに出てくるティラノサウルスTyrannosaurus を彷彿させるじゃないか。

 しばらく写真を撮らせてもらったが、すぐにオスを追って行ってしまった。飛び立ち方も面白く、いきなりバサバサと羽ばたいていくのではなく、一度ぴょんと枝から飛び降りてその勢いに乗って羽ばたいていく。その一連の動作には余裕があり、悠然とした風格が垣間見える。



 興奮続きのリバークルーズ。もう私にとってはサイチョウ類は恐竜である。なんてジュラシックな鳥なんだ、あいつら。
 サイチョウの中でもダントツにカッコ良いのはアフリカに棲むギンガオサイチョウBycanistes brevis という重量級の種。その姿はどう見ても恐竜の風格を持っており、私が一目惚れしたサイチョウである。
 初めてその存在を知ったのは同じPENTAX 党である福井智一さんのブログを閲覧していた時で、 「 こんな鳥が世界にはいるのか 」 と度肝を抜かされたのが記憶に新しい。
 重厚な見た目のカスクに、頬に混じる白い羽が銀顔を演出し、さらに毛羽立っているので荒々しい横顔をしている。わかる人だけに伝われば良いが、 【 パンツァードラグーン アゼル 】 というセガサターンのゲームで、主人公のドラゴンを “ 防御型 ” に変形させたような重厚な見た目が最高にカッコ良いのである。
 本種が属するナキサイチョウ属Bycanistes にはそんな見た目のサイチョウが多く、トランペッターの愛称で親しまれているナキサイチョウBy. bucinator は少し小柄だが、名前の通りトランペットのような大きな声で鳴く。学名は属名も種小名も “ ラッパ吹き ” である。

 ギンガオサイチョウの種小名は “ 短い ” という意味でよくわからないのだが、実はこれ亜種小名が元である。初めは “ 冠羽のある ” という意味で、By. cristatus という学名がつけられていた。その後、アフリカの南北で亜種が分けられるということで、冠羽の短い南部の亜種にはBy. cristatus brevis という亜種名があてられたが、後にBy. cristatus はシノニムとされてしまったので、亜種小名に使われていたbrevis が種小名として扱われているようだ。 ( まだまだ調べが足りないが、cristatus は何のシノニムにされたのだろうか ・・・ )

 もうギンガオサイチョウを含むナキサイチョウ属Bycanistes 見たさにアフリカ行きたい。ギンガオは鳥の中でというよりも全ての生き物の中で、5本の指に入るかもしれないくらい出会いたい生き物だ。


 サイチョウという分類群も私の中でかなり急上昇している。神秘的な白髪を持ったシロクロサイチョウBerenicornis comatus に早朝の密林で対峙したいし、小さなムジサイチョウAnorrhinus galeritus たちに囲まれてみたい。サイチョウについて調べているだけでも、楽しくってしょうがないし、珍しく鳥類の勉強をするのも良いかもしれない。

 ある程度情報を集めて、サイチョウという生き物についての知見が自分に蓄積されていくと、去年のBIRDER 誌に載っていた 【 キタカササギサイチョウ Anthracoceros albirostris 】 というキャンプションがついた写真の鳥が、 “ オオサイチョウBu. bicornis の間違え ” であることくらいは両爬屋の私でもわかるようになった。まぁ同定ミスなのか編集ミスなのかわからないが、あれほどまでにカッコ良いオオサイチョウが間違えられるとは不憫でならない。
 とにかく今は猛烈にサイチョウがアツい。両爬よりもサイチョウで頭がいっぱいになってしまうほど ・・・



   キタカササギサイチョウ
キタカササギサイチョウ



 そしてボートは河を遡り、ジャングルの奥へと進んでいく。次第に左右にあった両岸がすぐ横まで迫ってくるほどの狭い水路へと。





 ----------------------------------------------------------
 というわけで2017 年もスタートです。皆様、明けましておめでとうございます。今年もまだまだボルネオ記事が続きますが、どうぞよろしくお願い致します。

 そして今年の干支は酉年ですね。読み進めている内にお気づきだったと思いますが、新年一発目のこの記事は鳥でございます。ボルネオではサルに鳥にと、素晴らしい生き物たちとの出会いの連続でした。年末が近づいた時に閃いたのですが、ブログのネタ的にも 【 サル 】 記事と 【 サイチョウ 】 記事がちょうど連続するようだったので、干支にちなんで年末と年始のタイミングでこれらの記事を書かせていただきました。
 我ながらこれ以上ない絶妙な掲載だったなと褒めてやりたい ( 笑 )

 さぁ、これから2017 年、羽ばたきの年にしていきましょう。この勢いで今年本当にギンガオサイチョウ狙いでアフリカ行っちゃおうかしら。





スポンサーサイト

Newer Entryクルーズ拒まず、サルを追う

Older Entry熱帯猿紀行

 

Comments
Leave a comment








12345678910111213141516171819202122232425262728293004 < >