月明かりにヤモリ

Moonlight Gecko

Category: 両生類  

虎とか豹とか虎とか

 ● 亜細亜の熱帯雨林、ボルネオの旅 ●
プロローグ. 暗黒大陸への渡航
1. 旅の終わりは、旅の始まり
2. エアアジアの激情
3. それぞれの乾杯で繋がる世界
4. 伏線のポッポヘジュセヨ
5. 森の人の恩返し
6. ジープが停まる理由
7. Monster Monkey Morning 
8. まるまるこのもり
9. 虎とか豹とか虎とか
10. 熱帯猿紀行
11. ジュラシック・リバー・クルーズ
12. クルーズ拒まず、サルを追う
13. 真っ暗闇に漕ぎ出して
14. 真っ暗闇を抜け出して
15. おはようボルネオ
16. 花束を君に
17. 支流の小径
18. 尻尾の理由を聞かせておくれ
19. 未知へと続く道




 昼過ぎのジャングルは上がりきった気温を保ち続け、暗い林床にいたとしても熱帯だという事を忘れさせてはくれない。むしろ、木々が湿度を保持しているために、森の中はなかなかに過酷だ。
 それは我々人間だけでなく、他の生き物たちもそうなのだろうか、午後の散策ではあまり成果をあげられなかった。それでもなんとか出てきてくれたのは、珍蟲たちだった。


ネッタイタマヤスデ
ネッタイタマヤスデの一種 Sphaerotheriida sp.


 林床をモゾモゾと動くのはダンゴムシとおぼしきヤスデ。ただよく知るオカダンゴムシArmadillidium vulgare より一回りも二回りも大きいその蟲は、まるでその堅い鎧が無敵だと言わんばかりにのんびりと這いまわる。



ネッタイタマヤスデ
ネッタイタマヤスデの一種


 まるまるとピンポン玉くらいの大きさになり、ダンゴムシたちとは異なって頭をすっぽりと体の内側に入れるのがタマヤスデの特徴のようだ。一度丸くなるとこれがまた厄介で、なかなか警戒心を解いてはくれずに固まってしまう。こうなるともう彼との我慢比べになるのだが、こちらが早々に敗北宣言をする結果となるのは目に見えていた。
 ダンゴムシより多いわしゃっとした足たちを再び見ることなく、我々は先を進む。



タイガーリーチ
タイガーリーチ Haemadipsa picta


 悪名高き熱帯の吸血鬼。熱帯のジャングルでフィールディングするといったらこの連中は忘れてはいけない。事前に調べたところではやはりこのタイガーリーチの猛威がすごいようで、足を血まみれにされた画像をいくつも見てきた。
 丹沢の山々ですでにたくさんの血を流してきている “ ヤマビルほいほい ” の異名を持つ私としては、こいつを警戒しないわけもなく 【 長靴 + ヒル除けスプレー 】 という装備でボルネオに挑んだ。
 警戒した装備の甲斐あってか、この旅では一度もやつらに献血してやることなく無事に帰国することができたのは奇跡に近い。

 これはヒル除けスプレーの効能がすごいのだろうと、帰国後に同じ装備で丹沢を歩いてみたら、数分としないうちにユラユラと群がられた。ただスプレーが濃く残る部分は突破できないようで、長靴の縁のところでふよふよして終わるだけだった。
 ボルネオではそこまで集客しなかったので、改めて丹沢の恐ろしさを目の当たりにした。


 イマイチ成果を挙げられずただただ体力を浪費するばかりだった。宿に戻ると背の高い木々の奥にある分厚い雲が、ゴロゴロと音を立てて近づいてきているのが、夕食待ちで昼寝していた私の腹の虫と共鳴するのを感じた。前日もそうだったが、ここでは毎夜雨が降っていて、昨晩はナイトサファリの後に、今晩はそれより早くシトシトと降りしきっていた。
 そして今夜はナイトハイク。小物狙いでこの天候は期待できるではないか。


 ナイトハイク出発前にガイドのルディから 「 ナイトハイクの集合時にはレインコートを用意しておいてください。なければ宿の売店で売っているので準備しておくように。 」 と忠告を受けていた。それは前述したように、毎夜雨が降ってくるし、今晩は今にも降り出しそうな雰囲気が出ていたため当然の忠告だった。
 案の定、トレイルの木道を歩き始めると、すぐに雨粒が肩を叩いてくるのを感じたので、 「 ここで一旦レインコートを着ましょう。 」 とルディの声がかかる。各々レインコートやらポンチョやらを着込んでいると、後ろから素っ頓狂な声で 「 アレっ ? 」 なんて声がする。
 どうやらルンチョロサンはザックに入れたと思っていたレインコートを部屋に置いてきてしまったようだった。それでも彼のザックには折りたたみ傘が入っていたので 「 これで大丈夫です。 」 と伝えたが、なかなかルディは首を縦に振らない。ガイドという身の安全も確保しないといけない仕事柄に加え、根っからの生真面目な性格である彼の人柄もあって、こういったルール外のことはあまり認めたがらないようだった。仕舞には 「 戻って売店で買うか ? 」 なんて話もしてくるくらいだった。それでもなんとか説得して、折りたたみ傘での散策を許可してもらった。
 このやりとりをみるだけで、いかにルディが真面目な人間なのかがよくわかった瞬間だった。






オナガマウス
オナガマウスの一種 Haeromys sp.


 まず現れたのは小型哺乳類。 1m 前後の低木がいくつも生えているエリアで茶色い毛玉を発見。よく見ると長い尻尾がだらんと垂れ下がる ( 写真では写っていないが ) 特徴の、オナガマウスの一種であることがわかった。
 手元のボルネオ哺乳類図鑑 【 A Field Guide to the MAMMALS of BORNEO 】 によるとボルネオに生息するオナガマウスはHaer. margarettae ( 英名 : RANEE MOUSE ) と一回り小さいHaer. pusillus ( 英名 : LESSER RANEE MOUSE ) の2種がいるようだ。無論そのどちらかは捕まえて見ないことにはわからないだろうが、図鑑に 『 計測からして、もしかしたらこの2種は同種かもしれない 』 という記述もあるので、迂闊に同定できない。再検討の必要性を論じているので、分類がまだ整理されていないグループなのかもしれない。
 何にしても、野外観察だけで同定できるわけではないので、とりあえずはオナガマウスというところまでで。


 実はこの時、しっかりと “ ネズミ ” と認識するまで、私はある生き物と勘違いしていた。それはボルネオに着いてすっかり哺乳類熱にあてられ、見たい見たいと切望していたニシメガネザルTarsius bancanus かと思っていたのだった。
 事実この時はメガネザルを探して低木が乱立するところを散策していたもんで、樹上の毛玉を見つけた瞬間にメガネザルの英名 “ ターシャ ” を連呼し 「 ターシャ ?! ターシャ ?! 」 と喚き散らしていた。
 たまに本屋の園芸コーナーで見かける「ターシャの庭」という老婆のガーデニング本とかけて、同じタイトルでブログの記事を書いてやろうと目論んでいたものの、結局メガネザルを見ることは叶わず、捕らぬ狸のなんとやらに終わってしまった。



シロアゴガエル
シロアゴガエル Polypedates leucomystax


 しばらく散策して宿付近の小さな池に辿り着くと、どこか聞き覚えのある 「 グギー、グギー 」 という汚い声。これはこれはシロアゴガエルではないですか。なんだか馴染みのあるカエルの登場に、異国の地で日本人に会うような、そんなホッとする出会いだった。外来種として日本で扱われているため、あまり良い印象付けがされていない本種だが、原産のアジア地域では非常にポピュラーなカエルで、鳴き声こそアレだがなかなかに可愛らしい姿をしている。
 池の周りを覆う柵に何個体もついているのが目についた。



ヒョウトビガエル
ヒョウトビガエル Rhacophorus pardalis


 こちらは初めましてのカエル。最初の宿でアドリュー少年が見たというカエル。飼い犬が如く、彼の 「 Be quiet ! 」 に従っておとなしく擦り足でフィールディングしたにも関わらず、見られなかったそのカエルである。それがようやく目の前に。
 本種は日本に生息するモリアオガエルR. arboreus やヤエヤマアオガエルR. owstoni やなんかと同属のアオガエル属に属していながら、彼らとは違って派手な体色をもつ。よく見る個体はオレンジの地色に黄色いスポットがある体色なのだが、この個体はオレンジ色がまばらに入る体色で変わった色味をしていた。ただ水かきは本種のそれで、鮮やかなオレンジ色を呈した広い水かきを持っている。

 日本でよく見る前述のアオガエルたちと顔の印象も異なっており、どちらかというと寸詰まりな吻端で目がクリっと大きい。また表現が難しいが下顎が薄いような感じなので、雰囲気としてはアイフィンガーガエルKurixalus eiffingeri みたいな顔をしている印象だった。
 池の周りには何個体か集まっており、束の間の雨を大いに喜んでいるように見えた。




アースタイガー
オオツチグモ科の一種 Theraphosidae gen. sp.


 道中はこんなタランチュラなんかにも遭遇する。この手の生き物はガイドが気がついてくれるから良いものの、単独だったら踏んだり石ひっくり返したら襲われたりなど、対策がうまくとれるか不安なヤツらである。もちろんこういった危険を内包しているジャングルだからこそ、冒険するワクワクが、探険するドキドキが、得られるというもの。

 東南アジア地域のタランチュラはアースタイガーの総称で呼ばれるらしい。ここら辺の分類の生き物は良くも悪くも、ペットトレードの絡みで情報は多いだろうから同定出来そうな気もするが、やはり素人には難しい。



 そうしているうちにナイトハイクは終了。絶好のコンディションだと思ったのにヘビは1本も見られず・・・
 これが西表島だったらサキシママダラDinodon rufozonatum walli やらサキシマハブProtobothrops elegans がウヨウヨ出てきてもおかしくない状況なのに、どうしてこの生物相の濃いジャングルではうまく見られないのか。前にサークルの先輩が言っていたことだが、 「 海外は何気にヘビを見るのが難しい。フィールドが鬱蒼とし過ぎていてどこを探したら良いのかわからなくなる 」 と。まさにその通りだなと思った。
 一応池周りでカエル食いのヘビを、低木が連なるところでは樹上性のヘビを、といろいろ探しては見たものの、これは惨敗だなと言わざるを得ない。台湾の旅でそれなりにヘビを見られたのは、感覚的に八重山の延長だったからだろう。
 こうもジャングルジャングルしていると、どうにも違った視点・違った探し方でアプローチしないといけないようだ。むむぅ、熱帯のヘビ探しの難しさを痛感した夜だった。




バー
Bar


 ロクにヘビが見られなかった悔しさ半分、欧米人たちに紛れて少しセレブな気持ちになっていた勘違い半分で、今夜の同定会は宿にある素敵なバーで。我々だけじゃあ外出しちゃいかんし、せっかくこんなとこがあるんだからさ、1回くらい行ったってバチは当たらないだろうと、明らかに浮きまくった小汚いアジア人2人で酒を飲む。


バー
ビール


 つまみはルンチョロサンが成田で買った濃いお菓子。これがとにかくビールに合う !! また初日の夜にルディ一家やガイドたちと飲んだ時にも書いたが、この暑い熱帯だとアジアンビール特有のさらりとした飲み口が、次へ次へと飲み進めさせるので、あっという間に酔っぱらう。お酒は好きだけど割と弱い私でも、1杯目はあっという間に飲み干し、喉が渇いているのもあっていつもよりかなり早いペースでお酒が進んでしまう。
 それでいて今日は1日中ジャングルだ、それも軽いトレッキングもしてだ。そりゃあ酔っぱらっちまうよ、気がつけば生き物の話じゃなくて 「 スゲーとこ泊まってんなー、車中泊がベースのオレらじゃないみたいだなー。 」 なんて話をしたり。良い感じで気持ち良くなったので、この日は早めに寝ることに。翌日は朝食前にルディたちと散策があるので早いのだ。


 部屋に戻り、ご機嫌で鼻歌まじりに、まるでしずかちゃんのようにシャワーを浴びていたら、実はその最中に来客があったようだった。風呂から出るや否やルンチョロサンに 「 先輩、コレ ・・・ 」 とスマホを渡された。どうやらベロベロに酔っていたようで、バーのイスにスマホを忘れてきたらしい。そんなのも気がつかずに鼻歌がエコーするのを楽しんでいるとかどれだけアホなのか ・・・
 というか海外でスマホ失くして戻ってくるのが奇跡に近い。普通はこういうのは戻ってこないのだが、さすがは良いお宿。治安も良く皆さんお上品なもんなんで従業員といえど、お客様の忘れ物は届けてくれるらしい。きっと持ってきてくれたのはバーの店員だろう。品格が違いますな、品格が。

 何よりルンチョロサンがあまり言葉数少なく、呆れているのにはわけがある。実はこの忘れ物、 “ 2回目 ” なのさ。この宿に着いた時、あまりの高級リゾート感に浮かれ、ロビーのフカフカのイスでその沈み具合に酔いしれていたら、いつの間にかポケットから落ちたんだろうね、自分たちの部屋に案内されてから、 「 あ、スマホがない 」 と気づいたもんさ。慌ててロビーに戻ってみると、ふんわりとしたイスの生地に包まれているスマホちゃんを発見し、無事回収したってわけ。


 きっとルンチョロサンはそんな私が不安だったに違いない。だって私自身、自分に対してこんなポンコツで大丈夫かよと思ったぐらいだもの。でも酔ってたからそんなに反省もせずに寝ちゃったよ、明日早いしね。



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