月明かりにヤモリ

Moonlight Gecko

Category: 草本類  

まるまるこのもり

 ● 亜細亜の熱帯雨林、ボルネオの旅 ●
プロローグ. 暗黒大陸への渡航
1. 旅の終わりは、旅の始まり
2. エアアジアの激情
3. それぞれの乾杯で繋がる世界
4. 伏線のポッポヘジュセヨ
5. 森の人の恩返し
6. ジープが停まる理由
7. Monster Monkey Morning 
8. まるまるこのもり
9. 虎とか豹とか虎とか
10. 熱帯猿紀行
11. ジュラシック・リバー・クルーズ
12. クルーズ拒まず、サルを追う
13. 真っ暗闇に漕ぎ出して
14. 真っ暗闇を抜け出して
15. おはようボルネオ
16. 花束を君に
17. 支流の小径
18. 尻尾の理由を聞かせておくれ
19. 未知へと続く道





 クリイロコノハザルPresbytis rubicunda たちの揺らす木々の音が消えても、ジャングルは何者かが出す音で常に満たされている。鳥のさえずりであったり、虫のささやきであったり、木の実が熟して地面にどさりと落ちてきたり。
 たまにハアハアと荒い息づかいが混じると思ったら、怠惰の限りを尽くした私の身体が登り坂で悲鳴をあげているではないか。どうやらこのメンバーでは最初にモンスターモンキーにやられるであろうリサに次いで、この私が体力がないらしい。Tシャツは元の色がわからないほど、グッショリと濡れていた。
 それでも道中目に入るものは、どれも私を楽しませてくれるので、その度に足を止め、そして癒された。 



ショウガの仲間
ショウガの仲間 Zingiber sp.


 松ぼっくりみたいな花穂に一つの白い花をつけている。もう少し時間が経てば、つける花の数も増えて賑やかになるだろう。なんだか珍妙な植物にはそそられてしまうので、こういうジャングルは見所が多すぎて目のやり場に困る。




ベゴニア
ベゴニアの仲間 Begonia sp.


 園芸をやる人ならば知っているであろう植物も、ここでは行く傍らで見かけられる。ベゴニアもいくつかあったが、このタイプがよく見かけられた。
 Be. roseopunctata あたりだろうか。ジャングルにピンクの斑点とはなんとも毒々しい。



菌類
コップタケの仲間 Cookeina sp.


 オオグチボヤMegalodicopia hians みたいな菌類が林床で口を開けている。面白いけどこれは同定できなさそうだと思っていたら、家にあったフランス人写真家の熱帯写真集にコレが載っていた。



森
見晴台からの眺め


 そうしていろいろ見ている内に、目的地である山頂付近の見晴台に辿り着く。ここはボルネオの原生林を一望できる絶好のポイントになっており、今まで歩いてきた低地混交フタバガキ林の深い森を見渡すと、それがいかに立体的かつ広大な森だったかを実感できる。
 初日のコタキナバル ― ラハダト間の機内から見下ろした、あのどこまでも規則正しく並んだアブラヤシのプランテーションも一つのボルネオの顔ではあるが、これこそが求めていた理想のボルネオの姿である。

 眺めていると 「 グワッ、グワッ 、グワッ 」 と、手前の木々からツノサイチョウBuceros rhinoceros が2個体、けたたましく鳴きながら奥の森へと飛んでいった。普段、見上げてばかりのサイチョウを、この素晴らしい森をバックに見下ろせた素晴らしい瞬間で、その画がとにかくカッコ良くて脳裏に焼きついている。
 まるで恐竜映画のワンシーンのような、理想とも言えるその情景。鬱蒼とした濃い深緑色の絨毯の上を、赤い角がすーっと滑るように進んでいく。そしてその鮮やかな赤も、気がつけばあの濃い緑に隠されてどこに行ったかわからなくなってしまう。この濃い緑には、いったいどれだけの色たちが隠れているのだろうか。そんな興奮を与えてくれるなんともドラマチックな光景だった。

 そしてなんと、第一発見者であるルンチョロサンがその光景を写真に収めているのだ。あとで見せてもらったが、上から見るツノサイチョウのカッコ良いことよ。あの写真は羨ましすぎるぜ。
 英名も Rhinoceros Hornbill と素敵な響きだし、とにかく私は彼らに心を奪われた。




セロジネ
セロジネの一種 Coelogyne asperata


 見晴台付近では野生ランが花をつけている。これはセロジネの仲間で、和名は学名のカタカナ読みでアスペラータなどが使われる。ちゃんと和名がつくまでは、確かに種小名のカタカナ読みの方が混乱がなくて良いが、まぁなんだか味気ない。
 この株は花期の終わりに近づいていたようで、白さも褪せて萎れ気味。ただ偽茎 ( バルブ ) はがっしりとしていたので、また来シーズンに大きな花茎を伸ばすことだろう。ここら一帯は本種の群生地のようで、今まで山道で見られなかったのに急にたくさんの株が見られた。日照条件が影響しているのだろうか、暗い森の中ではあまり見かけなかった。



 しばし見晴台で休憩したあとは山道を下る。生真面目なガイドであるルディとも、だんだんと打ち解けるようになってくると、気を許したのかルディが唐突に日本語の歌を口ずさみ始めた。
 「 ほ~ら~、足トトト、ラ~ラ、ララ~ラ~ 」 と無理やりに高音ボイスを響かせて kiroro の 【 未来へ 】 を歌いながらこちらに微笑みかけてくるので、ここはノってやろうと 「 これがぁ~、あなたのぉ~、歩む道ぃ~ 」 と続いたが、残念なことに日本人ながらこの先の歌詞を知らなかったので、ルディと一緒に 「 ラララ 」 だけでメロディをなぞる事に。
 しかし一体どこかで聞いて覚えたのだろう、歌詞の意味がわからないにしても選曲からしてルディの優しさが伝わる場面であった。

 そこからは滝でマイナスイオンを浴びたり、アンジー夫がターザンのマネしてツタにしがみついたり、アンジーがハチに刺されてルディが持ち寄った謎の濃い黄色の薬を塗りたくられたりしながら下山していく。まるで田舎に帰った夏休みみたいな雰囲気だった。そして途中の川では休憩がてら面白い体験をした。


コイ科魚類
指食う魚たち


 コイ科の魚だろうか、川に手や足を入れてしばらくすると角質を求めて、もぞもぞと吸いついてくる。やったことはないが日本でもドクターフィッシュとしてこれに似たものを体験できるが、その魚とは大きさがまず違う。そして勢いも違うので一旦やりだすと猛烈な勢いでパクパクもぞもぞやってくる。水にものの十数秒入れているだけで、イタくすぐったくて耐えられないほど。裸足になってみんなできゃっきゃしていた。
 あぁ、なんだか夏休みっぽい。





ミドリカワトンボ
ミドリカワトンボ Neurobasis chinensis


 支流には沖縄のリュウキュウハグロトンボMatrona basilaris japonica に似たトンボが強い日差しを受けてキラキラと飛び交っていた。水面すれすれを飛ぶので、トンボの翅も水面も太陽を反射して輝く情景はなんとも言い難い美しさがあった。



川
川渡り


 川で遊んだまま、近道だと言って登山道には戻らずそのまま川を下る。アンジーだけはワイルドなので裸足のままズカズカ歩く豪快さ。 気がつけば夫が靴を持たされているのをみて、この夫婦の関係性を垣間見た気がした。でもなんだか、夫にぶら下げられている CONVERSE の赤のハイカットまでもがちょっぴり嬉しそうだった。


 ここで一旦昼食のために宿へ。相変わらず愛想のない、しかし味に定評のあるシェフがいるので、昨晩も食べたがまたもやチーズペンネをオーダーする。


チーズペンネ
チーズペンネ


 やはりこれが最高なんだな。疲れた体にちょうど良い塩気と、適度なとろみのクリームソース。あのシェフ、一家に一台ほしい ・・・




ハンバーガー
チーズバーガー


 こんなものもオーダーすれば、目の前で焼いてくれる。あぁ、結局私はデブのメシが好きなのだ。ジャングルで食うハンバーガーの旨さと罪悪感と。



 腹ごしらえを済ませたら、再びジャングルへと出向く。ただ午前中で力を使い果たしてしまったのか、エドワード・リサの夫婦とアンジー夫はリタイアのようで、再集結したのはルディ・アンジー・ルンチョロサン・私の4人となった。
 それにしてもパワフルな女性だなぁ、このアンジーは。



ネスト
ネスト


 ジャングルには時折、このように枝が折り重なったクマ棚のようなものが見られる。これはオランウータンが毎日作る寝床 ( ネスト ) のようで、寝る前にささっと5分程度で作り、この上で夜を明かすらしい。
 ネストの状態や数などから、いつ作ったのか、付近には何個体いるのか、がわかるようなのだが、まぁ素人目にはただの枝の塊にしか見えないという。




 そしてこのネストの使用者かわからないが、さっそくオランウータンが姿を現した。その個体は初日に会ったフランジオスと同一個体かと思われる。おそらく宿付近は彼の行動圏に入っているのだろう。この時は細い枝先に腕を伸ばして、赤くて小さい木の実を摘み取っていた。木の実の数も多いのでちょこちょこ移動しては、チマチマと食べている。
 しばらくフランジオスの少し遅い昼食を眺めていると、大きめの鳥が滑空してくるのが視界の端に映った。



ウォーレスクマタカ
ウォーレスクマタカ Spizaetus nanus
 

 あの特徴的なちょんまげ猛禽は、ウォーレスクマタカだ。渡航前に書いた鳥の記事でも載せたが、実は見たかった鳥の1つ。このときはヒヨドリ大の鳥を捕えた瞬間だったので、登場シーンは羽がブワっと飛び散る迫力のあるものだった。
 その後、捕えた小鳥を掴み直すために近くの枝に止まり、小休憩をしているところだったのでなんとか写真も撮れた。よく見ると右足には捕らわれの小鳥が静かにしているのがわかる。
 すぐに飛び去ってしまった一瞬の出会いだったが、私の方をチラリと振り返る彼の瞳は、誇らしげで自信に満ちていた。



ボルネオオランウータン
ボルネオオランウータン Pongo pygmaeus


 オランウータンに視線を戻すと、相変わらずマイペースに木の実を口に運んでいる。大型類人猿が樹上でのんびりと木の実を食べているその傍らでは、猛禽類が迫力のあるハンティングをして颯爽と飛び去って行く。この壮大な命のやり取りに、私はただただ立ち尽くすしかできない。


 これがジャングルか。

 これがボルネオか。



 果たして私は、この森でどのような立場にあるのだろうか。

 観察者で終えられるのか。


 もしかしたら狩る者か、   はたまた狩られる者なのか。





 ボルネオのジャングルに、そんな自分の在り方を問われているような気がした。



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