月明かりにヤモリ

Moonlight Gecko

Category: 爬虫類  

ジープが停まる理由

 ● 亜細亜の熱帯雨林、ボルネオの旅 ●
プロローグ. 暗黒大陸への渡航
1. 旅の終わりは、旅の始まり
2. エアアジアの激情
3. それぞれの乾杯で繋がる世界
4. 伏線のポッポヘジュセヨ
5. 森の人の恩返し
6. ジープが停まる理由
7. Monster Monkey Morning 
8. まるまるこのもり
9. 虎とか豹とか虎とか
10. 熱帯猿紀行
11. ジュラシック・リバー・クルーズ
12. クルーズ拒まず、サルを追う
13. 真っ暗闇に漕ぎ出して
14. 真っ暗闇を抜け出して
15. おはようボルネオ
16. 花束を君に
17. 支流の小径
18. 尻尾の理由を聞かせておくれ
19. 未知へと続く道






 前回の記事ではオランウータンというボルネオの森からのおもてなしを受けたことを綴ったが、立ち往生していたジープを助けた恩返しは、道中他にもあった。

 初めてのオランウータンに出会ってから30分ほど、道の脇にまで押し寄せるフタバガキやメンガリスの巨木群と、それの上部まで絡みつくツタ状の植物群が織りなすボルネオの森に圧倒されていた頃。数m先の道の上で、1台のジープが停まっているのが目に入った。だいたいこの手のシチュエーションで考えられるパターンとしては 『 またもや故障して立ち往生している 』 か 『 何か生き物に遭遇して停まっている 』 かぐらいである。基本的にそれ以外で、ジャングルを抜ける道でジープが停車していることはあまりない。

 幸いにもまたもやということはなく、後者の理由で停まっていたようだった。



スマトラムツアシガメ
スマトラムツアシガメ Manouria emys emys


 なんとリクガメの横断だった。こんな幸せな待ち時間はない。道路に出てきたカモの親子を見守るかのような暖かさ。
先発車のおこぼれに預かって我々も観察させてもらう。
 甲長にして30cmくらいの大きさのリクガメだった。それもイシガメ科Geoemydidae の陸生種ではなく、分類的にもれっきとしたリクガメ科Testudinidae に属するリクガメで、この短い人生の中で野生のリクガメに出会えるとは想像もしていなかった。
 ボルネオでカメといったらやはりボルネオカワガメOrlitia borneensis を連想するぐらいの頭しか持ち合わせていなかったので、リクガメはノーマークだった上に、インドホシガメGeochelone elegans やケヅメリクガメGeochelone sulcata 、ガラパゴスゾウガメGeochelone nigra などの面々がいわゆるリクガメ像を作っていたため、目の前のこのカメの存在が何なのか初めはわかっていなかった。

 しかしどこか見覚えのあるリクガメだなぁとその時は既視感を覚えていたのだが、その要因がわかった。前日の夜、最初の宿でナイトハイクを終えた後に行なった同定会で、ガイドのミンが使用していたサバ州の両爬図鑑 【 AMPHIBIANS AND REPTILES IN SABAH 】 のページにこのリクガメが載っていたのを思い出したのだ。
 なぜピンポイントで思い出したかというと、そのページには少年が大きなスマトラムツアシガメを抱えている写真がでかでかと載っており、ちょうどその姿が目の前のルンチョロサンと重なりフラッシュバックしたのだ。



リクガメとルンチョロサン
リクガメとルンチョロサン


 その時の写真がコレだ。図鑑の少年とそっくりだったのでピンときたというわけだ。わかりにくいが後肢付け根から突出する長い鱗が “ 六つ足 ( ムツアシ ) ” という和名の由来になっている。ちょうど肛甲板の先端くらいから出ているのがそれ。 ( 左側に長く出ているのは尾 )

 リクガメというと我々日本人からしたら遠い国の生き物のように感じるかもしれないが、今から約2万年ほど前の宮古島から沖縄本島、徳之島までの地層からオオヤマリクガメManouria oyamai というリクガメの化石が産出しているので、あながち遠い存在でもないのだ。人間が沖縄にやってくるわずか数万年前までリクガメが住んでいたのだから、やはり沖縄というところはすごいわけで。
 さらに面白いのが、そのオオヤマリクガメという化石種のカメが、今回私たちが見たスマトラムツアシガメと同属だというのだから驚きだ。まぁ順序的に言えば逆で、化石を見たらムツアシガメの仲間の特徴を持っていたので同属にしようとなったわけだが。それを考慮すると今回出会ったスマトラムツアシガメにも自然と親近感が湧いてくるのは、きっと私が情報に流されやすいからだろう。
でももしこんなリクガメが、ヒカゲヘゴCyathea lepifera の下を歩き、リュウビンタイAngiopteris lygodiifolia の根元で休息し、ノグチゲラがSapheopipo noguchii ドラミングで飛ばした木くずを被っても気にせず食事に勤しんでいたりしていたら、などと妄想の中の琉球列島にこのカメを登場させるのも悪くないと思うのである。なんとも夢のあるカメだ。



スマトラムツアシガメ
スマトラムツアシガメ


 そして彼を見送る。ゆっくりとした足取りで鬱蒼とするジャングルへと消えていく。途中でふと歩みを止めて振り返った。その瞳は一体何を語るのだろう。
 私にはなんだか、 「 情けは人の為ならず 」 と諭されているようにも感じられた。彼の長い人生にとっては、私との遭遇というのはほんの瞬き程度の時間に値するのだろうけれど、確かに私はボルネオのジャングルで彼と同じ時を刻んだ。




 その後宿に到着し、前回の記事にあるように、見事なフランジオスのボルネオオランウータンと出会ったわけである。威厳あるオランウータンを見送り、宿のトラックである場所へと向かった。それは熱帯雨林の散策の中でもやってみたかった憧れのアレ。




キャノピーウォーク
キャノピーウォーク


 そう、キャノピーウォークだ。熱帯雨林のジャングルの木々は非常に背が高く、森林内は複雑な立体構造をしているため、高さによって異なる生態系が発達しており、 [ 林床部・低層部・中層部・樹冠部 ] などと分けて考える必要があるほどだそうだ。
 中には一生を樹冠部で過ごす生き物も少なくないようで、まだ我々が見つけていない新種も多いと聞く。そんな樹冠部を観察する目的で造られたキャノピーウォーク。やはり小さい頃からの憧れであったのでやはりそこは体験しておかないと。



ハカマウラボシ
ハカマウラボシの一種 Drynaria sp.


 さすがキャノピーなだけあって、ハカマウラボシが近い。太陽を透かした泥除葉の葉脈の美しいことよ。最初の宿周辺で見たハカマウラボシと同種なのかはわからないが、こちらは泥除葉が枯れても濃い茶色にはならず、薄く茶色になる程度だった。こんな素敵な着生シダを目にしてしまうと、キャノピーでのシダ探しも一段と楽しくなる。
 憧れであるビカクシダPlatycerium の仲間も自生している国なので、それが着生していないか探し回ったが、残念ながら今回の旅では見られなかった。それでもこんなのがすぐ眼前にまで迫り、それがいくつもの木々に着生している姿を、揺れるキャノピーから眺められるのは本当に幸せだった。



着生ラン
着生ラン


 キャノピーの足場のわずかな隙間にも着生しているランもあった。バルブの形がBulbophyllum のようにも見えるが、ここら辺は難しい ( そもそもBulbophyllum もいろんな形がある ) ので断定は避けたいと思う。
 しかしこれを見つけた時は 「 さすがはボルネオ 」 と言わざるをえない。生命の力強さを足下の小さな着生ランに感じた一瞬だった。





 キャノピーでの散策を終えたら、川原をトレッキング。陽が暮れ始めると、深い森の中に届く光量は急激に少なくなり、一気に暗くなる。川辺まで出るとまだいくらかは明るいが、いよいよ夜がそこまで迫ってきているのを、肌に当たる風で感じていた。
 鳥たちも帰り支度だろうか、川の中州にある大きな岩の上で翼の手入れをしていたリュウキュウツバメHirundo tahitica のようなツバメたちも、いつの間にか上空を舞っており、気がつけば巨木を飛び越えいなくなっていた。この頃の私とルンチョロサンといえば、ボルネオの大地に足をつけて2日目だというのに、未だにしっかりとヘビを見つけられていないことに焦りを感じていた頃である。
 幅の大きな川に合流する小さい小川で私がヘビを探していると、遠くから日本語で 「 ヘビ、ヘビ !! 」 という声が。またしても目の良いルンチョロサンが見つけることとなった。



モックバイパー
チャマダラヘビ属の一種 Psammodynastes pictus ( 英名 : painted mock viper )


 駆けつけるとヒバカリHebius vibakari の幼蛇くらいにひょろひょろの小さいヘビが、川岸の浅瀬を草伝いに泳いでいた。 『 よくこんな小さなヘビを見つけるもんだ 』 と関心する半面、最初にヘビを出されて悔しい気持ちも。
 競っているわけではないが、やはり自分が第一発見者になりたいという願望は、たとえ後輩とのフィールデイングでもふつふつとあるわけで。

 陸に上がったその小さなヘビは、よく見ると精巧に作られたフィギュアのように模様が細かく入っていて、胴の側面下側には黒いラインが眼を通過して吻端まで続き、その眼も虹彩部分には黒いライン状になっているので線が繋がっているように見える。いわゆる過眼線になっていた。また英名の painted にあるように、胴部背面にはポツポツと水玉模様をいくつも描いており、その小さな体躯と相まってずいぶんと可愛らしい印象だった。
 ネットでも川辺で見つけている人がおり、本種はそういった環境で魚を捕食していると思われる。図鑑にも魚を食べるという記述があるので、小魚を狙って川に出てきたのだろう。

 本種は台湾などにも生息するチャマダラP. pulverulentus と同属のヘビで、mock viper の名で呼ばれているが、おそらくチャマダラと同属なので同じく弱毒はありそうな気がする。ガイドのルディも 「 毒だ毒だ 」 というのでおそらくそうなのだろう。水辺に出るヘビって毒持ちが多い気がする。




ミズトカゲ
ミズトカゲ属の一種 Tropidophorus sp.


 流れ込む小川にはミズトカゲの一種がいた。彼らは近寄ってくる私に気がつくと、チャカチャカとバシリスクBasiliscus のように水面を走り抜けて逃げていく。最初の宿周辺の川沿いでも見られたことから、比較的ポピュラーなトカゲなのだろう。
 見られた環境としては川幅が3m以下で流れのゆるやかな川に限られたが、それは彼らが渡りきれる条件だったり、水面に浮いた虫を捕食するのに適していたりするのだろう。

 この写真の個体は、わずかに水が流れる川幅30cmほどの小川環境で見つけ、ちょうど渡る途中の石で小休憩をしているところ。
タニシ類がついていることからも、そんなに流れが早くないのが窺い知れるような場所だった。おそらくこいつは体サイズ、斑紋、色彩から判断してT. beccarii だと思う。
 micropusは体サイズが小さいこと、brookei は頭部が赤くなること、mocqurdii は鱗が滑らかなこと、から判断しても T. beccarii であろう。


 初め水面を駆ける生き物がいるというのは認識できたが、それがどの分類群なのかわかっていなかったので、小休止している生き物がトカゲだということに気がついて驚いた。もう少し軽い生き物が動いているのかと思っていたからだ。
 日本にはいないタイプのトカゲなので、動きがとにかく面白い。じっくり腰を据えて観察出来ていなかったから、もしできるなら彼らの捕食などの生態シーンも、ぜひとも覗いてみたいものだ。


 そして両爬成分を味わっている内に辺りはかなり暗くなってきてしまった。空を見上げると雲の動きが早い。
 夜は夜でお楽しみがあるので、切り上げて晩飯に向かうことにする。こちらの宿に移動してきてさっそくオランウータンだリクガメだとすごすぎる出会いの連続なだけに、夜への期待も高まっていく。


 さてさて、夜はどんな素敵な生き物が待ち受けているのだろうか。






スポンサーサイト

Newer EntryMonster Monkey Morning 

Older Entry森の人の恩返し

 

Comments
Leave a comment








1234567891011121314151617181920212223242526272829303110 < >