月明かりにヤモリ

Moonlight Gecko

Category: 草本類  

伏線のポッポヘジュセヨ

 ● 亜細亜の熱帯雨林、ボルネオの旅 ●
プロローグ. 暗黒大陸への渡航
1. 旅の終わりは、旅の始まり
2. エアアジアの激情
3. それぞれの乾杯で繋がる世界
4. 伏線のポッポヘジュセヨ
5. 森の人の恩返し
6. ジープが停まる理由
7. Monster Monkey Morning 
8. まるまるこのもり
9. 虎とか豹とか虎とか
10. 熱帯猿紀行
11. ジュラシック・リバー・クルーズ
12. クルーズ拒まず、サルを追う
13. 真っ暗闇に漕ぎ出して
14. 真っ暗闇を抜け出して
15. おはようボルネオ
16. 花束を君に
17. 支流の小径
18. 尻尾の理由を聞かせておくれ
19. 未知へと続く道








 嬉しいかな悲しいかな、前日は宿のメンバーで生き物話に花を咲かせて飲んでいたおかげで、今朝の瞼はずいぶんと重い。ゆっくり目を開けるとグルグルとシーリングファンが回る見覚えのない天井。そんな回転物をぼんやり眺めているとじわりじわりと理解する。
 「 あ、そうだ、ここはボルネオだ。 」 夢から覚めたのに、夢のような世界に飛び出せるこの上なく不思議な瞬間。


 手短に準備を済ませ夜が明け始める頃に部屋を出る。空はうっすら明るみ、暗い密林に囲まれた宿の上だけがポッカリと穴が空いたように明るいため、まるで釜の底にでもいるのかと錯覚してしまう。だからまずはすぐに太陽の陽が当たるであろう上を目指して、昨晩フランス人姉弟と散策したタワーへと向かう。




タワー
タワー


 まだ薄暗いためライトが灯るタワー。ここに登って早朝の樹幹部にて生き物がいないか探索する。ところがタワーを登る階段にて降りてくる先客に出会う。
 まだこのブログに登場していなかった日本人の教師の方である。彼は定年近いような出で立ちだが体力があるようで毎年ここボルネオを訪れるという。寡黙な性格ではあるが、その少ない言葉の中には生き物好きの愛を感じる、そんなおじさま。夕食の時に席が隣だったので挨拶してちょこっとお話をさせてもらったのだが、どうやらこの宿を訪れるのは我々で6組目だとか。事前に予約する際に新しい宿だとは聞いていたが、まさか1桁台の来訪者だとは思いもよらなかった。
 彼は夕食後にナイトハイクに出掛けたのかは定かではないが、我々が見通しの良い食堂でゲラゲラと宴をやっている時に見かけなかったのでおそらくはそのまま就寝したのだろう。だからこその早起きで、タワーでの観察を終えて降りてきたところに我々がやって来たというわけだ。

 これは先手をとられた。 

 気持ち的に先に誰かが行ったところにすぐ行くというのは、生き物が去った後だったり二番煎じ感が漂うのであまり見られなさそうと勝手なイメージがあるので、先を越されたのは悔しい。それでいて何か見られたか聞いてみると、「 いや、あんまり見られなかったねぇ 」 とポツリ答えていたが、あまり多くを語らないこの人の性格だ、きっと何か見ていたとしても取り立てて自慢するようなタイプでもないだろうに、あまりそんな質問も意味を成さない。


 悔しいが階段を足早に登り詰め、辺りを見渡す。



朝日
朝日


 じわじわと太陽が顔を出し始め、ボルネオの朝がやってくる。森は活気づき鳥たちのさえずりがこぼれ出てくる時間帯。遠くで 「 グワッ、グワッ 」 と大きな声でサイチョウの仲間が鳴き、日本とはまったく異なる朝を告げている。







着生シダ
着生シダ


 タワーから目を凝らして見ると、背の高い樹の枝に種々の着生シダがついている。ボルネオでよく見かけたのは写真の真ん中に写るハカマウラボシの一種Drynaria sp.である。
 去年の台湾でカザリシダAglaomorpha coronans に魅せられた私としてはやはりこの手の着生シダはたまらない。





ハカラウラボシ
ハカマウラボシの一種


 このような垂直の幹にも着生する姿は圧巻である。同じウラボシ科に属するビカクシダPlatycerium と同様に、葉には2型がありビカクシダでいうところの貯水葉にあたる、 “ 泥除葉 ” という葉を持っている。ハカマウラボシは幅の広い泥除葉を展開して落葉などを貯め込み、それを養分として育つ着生シダだ。和名もその広い泥除葉が由来となっている。
 前述したカザリシダの葉は明確に2型を示すわけではなく、葉の基部が貯水葉や泥除葉のように広くなっていて、1枚の葉で2役を買っているような感じ。

 しかしマメヅタLemmaphyllum やヒトツバPyrrosia などの他の単葉のウラボシ科のシダと比べると、ビカクシダ・ハカマウラボシ・カザリシダなどはケタ違いにデカイ。やはり着生という栄養条件の厳しい環境下では、貯水葉や泥除葉のような養分をうまく吸収できるような仕組みが生長のカギなのだろう。

 また面白いのがちゃっかりものの着生シダもいるようで、ハカマウラボシが泥除葉で落ち葉を貯めたところに着生し、葉を展開する別のシダも見られた。横写真のほうがわかりやすいと思うが、ミツデウラボシCrypsinus hastatus に似る三裂した葉の着生シダが泥除葉から出ているのがわかる。重複寄生というわけではないが、どの世界にもこういう風にうまいことやっている生き物はいるもんで、よくそんなことが思いつくなと感心させられる。



ハカマウラボシと宿
ハカマウラボシと宿


 そんな素敵な着生シダが宿からわずか数分で辿り着くタワーから、同じ高さの目線で見られる幸せ。あまり他の成果はなく、ぼちぼち朝食の時間なので降りていく。



頭上注意
頭上注意


 夜に登った時に、 「 ギリギリ当たりそう~ 」 とか言いながらアドリューたちは遊んでいたが、そんな中学生よりも身長の低い私にとっては全くもって危なげの無い箇所だったので、 「 ノ~プロブレムゥ~~ ♪ 」 とか言いながら通り抜けたらそれなりにウケた。やはりわかりやすい見た目のボケは世界的にも通じやすいので、そういう意味では 『 小さいって良いな 』 としんみり思ったり。 ( しかし日常生活じゃあ困ってばっかりだぜ。 )



朝食ミーゴレン
朝食


 朝食はマレー焼きそばこと、ミーゴレンとトースト・パンケーキ・ゆで卵。ミーゴレンはヌードルのような歯ごたえの無いもさもさとした麺で、なんだか気怠い食感。短い麺なのでぼそぼそと食べる感じがあまり好きな歯ごたえではなかったが、味付けはあっさりと食べられて好印象。もちっとした麺だったら最高だなぁと、せっかくの現地メシだったが少しがっくし。



パンケーキ
パンケーキ


 打って変ってパンケーキがうまい !! せっかくマレーシア行ってパンケーキかよと思われるだろうが、体は正直なもんでミーゴレンよりパンケーキの方がうまいじゃないかという欧米的嗜好。疲れた体にこの甘ったるい市販のメープルシロップが効くぅ~。




 食堂にはすでにフランス人家族が来ていたが、お姉ちゃんだけはまだ姿がない。 「 ヘアースタイルでも決まらないのかなぁ ? 」 とアホみたいな心配をしていたら、寝むそうな顔でお姉ちゃん登場。
 毎日の日課なのだろう、家族のいるテーブルに着くやいなや、おはようのあいさつである “ ほっぺにチュー ” の儀式が始まる。

 まずはダディにチュッ。
 続いてマムにチュッ。

 映画でしか見たことのない風景に半ば見惚れながらある疑念が湧き上がってきた。 「 アレ、彼女らと昨日仲良くなったわけだし、ひょっとしてアドリューの次に流れで俺らんとこに来るんじゃない ? 」 と。ちょびちょびと生えてきた頬の短いヒゲを擦りながら 「 アドリューの次は俺な 」 「 いやいや僕ですよ 」 などと不毛な言い争いをしたものの、皆さんの想像通り、お姉ちゃんはこちらのテーブルに来ることなくスッと自分の席に着いた。

 ただ悔しいかな、このときはルンチョロサンのほうが優勢だなと思ってしまった。なぜなら初日の羽田空港でこんな話をしていたのだ。

---------- 「 僕、韓国語覚えましたよ、 【 ポッポヘジュセヨ 】  これどういう意味かわかります ? 」 と、突然ルンチョロサンに言われ、わからないから教えてと返したのが失敗だったが、どうやら 【 ほっぺにチューして 】 という意味の韓国語らしい。まったくどこで覚えて来たんだか ・・・ まぁ実に彼らしく、他に無いのかよと聞いて損した気分になったのだが、まさかそんなくだらない会話が伏線になっていたとは。
 つまり彼にはとっておきの必殺技 「 ポッポヘジュセヨ~ 」 があったので、もしもそのカードを切られていたら私は負けていただろう。
 そんなくだらない話でゲラゲラと笑う男子中学生の修学旅行みたいな朝食を終えたら、少し宿周辺を散策する。








Eutropis indeprensa
マブヤトカゲの一種 Eutropis indeprensa


 昨夜のマブヤトカゲとは異なる種。初めはこの色彩に近しい種が見つからなかったので、色彩変異の多いタテスジマブヤEu. multifasciata かなとしていたが、いろいろ見てもタテスジマブヤでここまでの変異が見当たらない。それよりもパッと見で最初に候補に挙がったEu. indeprensa がそれっぽい。
 参考にしていたボルネオのトカゲハンドブックのEu. indeprensa のページでは前肢の付け根がかなり鮮やかなエメラルドグリーンになった個体の写真のみだったので、そこまで奇抜な体色じゃないなと候補から外してしまったのだが、よくよく調べればこちらも個体差が大きいようで、青い喉やそこに散在する黒点は類似しているので本種であろう。対応する和名は特になかったように思える。単純に特徴だけ引っ張ってくるならアオノドマブヤといったところだろうか。



グランディスマブヤ
グランディスマブヤ Eu. rudis


 同じくマブヤトカゲ。体の側面にある黒いラインが特徴で、こういった模様は他のトカゲ類でもみられるため、生態的に何か役に立っているのだろう。部屋から出てすぐの、太陽光がガンガンあたる場所でバスキングをしていた。


 この個体も前述のEu. indeprensa と同所的に見られたマブヤトカゲで、朝の日差しを目一杯に浴びていた。同属多種がこんな近くに生息しているとは思わなかったので正直驚きだ。イメージではスキンク類は種間競争が強く、うまいこと棲み分けがなされているのかと思っていた。
 まぁ朝見ただけだったので、たまたまバスキングポイントが重なっているだけでその後は案外違う場所に行っていたりもするのだろうし、そもそもEutropis 自体馴染みのないトカゲなので、彼らのことをあまり知らないままアレコレ語らない方が良いだろう。






タテスジマブヤ
タテスジマブヤ


 こちらはピンボケ写真だが、婚姻色の出たタテスジマブヤ。昨晩タテスジマブヤを見た湿地周辺で活動しているのをルンチョロサンが見つけた。彼に呼ばれて駆けつけて、なんとか撮れたのがこの写真。彼はもっとバッチリの写真を撮っているだろうが、私はこれが限界だった。
 この婚姻色の出方も地域や個体によってかなり差があるようで、黄色いラインが出るやつとか顔がオレンジになるやつとか様々。

 宿周辺ではこの3種のマブヤトカゲを見ることができた。彼らは熱帯のトカゲ類では数少ないバスキングをよく行なうトカゲだそうで、おかげでいろいろ見つけやすかったのだろう。基本的に日差しが強いため、日なたでバスキングするよりも森の中に出来る木漏れ日の僅かなスポットで体温調整をするトカゲが熱帯では多いようで、そんな中ガンガンにバスキングするマブヤトカゲは英名でsun skink と呼ばれている。なかなかに面白いトカゲのグループで分布も広いので、ちょいちょい気にしていこうと思う。



Eria javanica
オサランの一種 Eria javanica


 面白いのは地表面ばかりではない。そこら辺の樹に着生ランがついている素晴らしい環境。鬱蒼とした森の中というよりは、多少開けた陽のあたる木々に着生している姿をよく見かけた。




Eria javanica
オサランの一種


 花を拡大。美しい赤いラインが入る。ネットで見るとこの赤いラインが入らず白い花も見られるが、スマトラ島やボルネオ島はこのように赤いラインが入る個体群なのかもしれない。
 初めシンビジウムCymbidium の仲間と思っていたが、どうにも唇弁の形が近くないので納得が言ってなかったのだが、ようやくこのオサランの仲間に行き着いた。

 そして思わぬ副産物。去年の台湾の旅で見つけた着生ランが全然わからなかったのだが、今回オサラン属をいろいろ検索していてその謎が解けた。どうやら八重山諸島にも生息するリュウキュウセッコクEr. ovata だったようだ。 ( 似たような和名でオキナワセッコクDendrobium okinawense という花もあるがこちらはセッコクの仲間で属も違う。 )

 それにしても生き物は面白い。ボルネオと台湾、それぞれ別の旅だというのに、意外なところで繋がりをみた。少しずつ少しずつ、生き物の知識を蓄積することで、相乗効果で理解の進むこの感覚はたまらない。
 今回でいえばオサランを検索している最中に 「 アレ、これどこかで見たな・・・台湾のアレか !? 」 という気づきは興奮もので、今まで生き物をやっていて初めての感覚。本やネットで情報を得て理解することはあっても、自分の中で閃くことは無かったので、これはアジアに通い詰めればもっと楽しいことが見えてくるではないか。それもいろんな分類群を見られるだけのキャパシティーが私にあれば、これはきっと面白くなるぞ。




デンドロビウム
デンドロビウムの一種 De. secundum


 こちらはデンドロビウム。特に和名は見つからず、そのままカタカナ読みで園芸の世界では流通しているようである。
こういった着生ランはいたるところで見られたが、花期でない場合の個体も多く、そういったランの同定については困難を極める。

 ただ着生ランがあちこちで見られる素晴らしすぎる環境なだけに、もうしばらく散策したかったが、実はこの宿はこの一泊だけで終わりである。昼前に移動してさらに奥地の宿に向かう。そこは宿泊費が高いため、初日に寝るためだけに一泊するのはもったいなさすぎるため、ナイトハイクをする時間もとれる手前のこの宿に宿泊したというわけだ。



 さぁ、そろそろ迎えの車が来る頃だ。遠くでまたサイチョウが 「 グワッ、グワッ 」 と鳴く。追いかけたい気持ちを抑え、次なる宿へと向かうとしよう。





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