月明かりにヤモリ

Moonlight Gecko

Category: 爬虫類  

それぞれの乾杯で繋がる世界

 ● 亜細亜の熱帯雨林、ボルネオの旅 ●
プロローグ. 暗黒大陸への渡航
1. 旅の終わりは、旅の始まり
2. エアアジアの激情
3. それぞれの乾杯で繋がる世界
4. 伏線のポッポヘジュセヨ
5. 森の人の恩返し
6. ジープが停まる理由
7. Monster Monkey Morning 
8. まるまるこのもり
9. 虎とか豹とか虎とか
10. 熱帯猿紀行
11. ジュラシック・リバー・クルーズ
12. クルーズ拒まず、サルを追う
13. 真っ暗闇に漕ぎ出して
14. 真っ暗闇を抜け出して
15. おはようボルネオ
16. 花束を君に
17. 支流の小径
18. 尻尾の理由を聞かせておくれ
19. 未知へと続く道








 移動続きでクタクタになっていた体も、うまいメシを食えば回復するもんで、食事が済んでいよいよナイトハイクとなると疲れを忘れて夢中で準備準備。荷物を詰め込んだザックを背負い、ヒル除けスプレーを噴霧した長靴を履いて、片手には懐中電灯、もう片方にはスネークフック、首からカメラを提げて、頭にヘッドライトを装着する。
 よし準備万端だ。


 部屋を出ると辺りに灯りがあるのはこの宿だけで、周囲360度を熱帯の森に囲まれているため、非常に暗い。この暗さは恐怖もあるが、同時に奥地に来たのだなと実感させてくれるので期待も高まる。まずは宿の入り口でガイドと待ち合わせ。

 そう、私の人生初 “ ガイド同行のフィールディング ” である。ここボルネオのダナンバレーは一帯を自然保護区に指定されているため、基本的にフィールド散策はガイドの同行が義務付けられており、いつも我々がやっているような好き勝手な生き物探しというのはなかなかやらせてもらえないようだった。なのでこの宿の敷地内ならば夕方のように散策できるのだが、そこから出るにはガイド同行で行かなくてはならないらしい。


 今回ガイドを買って出てくれたのはミンという中華系の青年。歳は我々と同世代くらいの20代、陽気で人当たりの良いニイチャンって雰囲気。ラハダト空港に迎えにきてくれたのがこのガイドのミンと運転手で、宿までの道すがら未舗装でガッコンガッコン揺れる悪路で、今にもエアアジアからパクってきたゲロ袋のお世話になりそうな私とルンチョロサン ( 彼はたくましいので車酔いせず)に向かって、 「 どんな生き物が見たいんだ ? 」 「 ボルネオは初めてか ? 」 「 オレを雇ってるマスターは偉いんだ 」 「 この道はたまにゾウが通るんだ 」 などと、助手席に座ったミンが後部座席の我々に向かって振り返りながら矢継ぎ早にいろんな話をしてくる。そんな元気で人懐っこい性格のガイドである。

 道中話した 「 我々は両爬探しをしたい 」 という要望も、 「 オレは全然詳しくないんだよねー、むしろオレに教えてよ 」 という口ぶりなので、動物についてアレコレ説明したり専門で扱っている、というよりも土地勘がある案内人みたいなもん。ただ彼はできるだけ我々の要望に応えたいと思ってくれているのか、集合時にはボルネオの両爬図鑑を読みながらスタンバイしていたので、 「 お、これはガイドというより友達として一緒にフィールディングしたいな 」 と思わせるキャラクターだ。

 いよいよ準備もできたので、ミン ・ ルンチョロサン ・ 私でナイトハイクに出掛ける。まずは夕方盛んにカエルが鳴いていた湿地付近を散策。夜になるとよりその賑やかさが増しているのだが、依然としてその姿は認められない。 「 むむむ~ 」 、と湿地を巡っていると細長い体躯がゆったりと水中を移動する。
 「 ヘビ ! ヘビ ! 」 と叫ぶも、それでは日本人の我々にしか通じないので 「 Snake ! Snake ! 」 とミンにもわかるように翻訳して叫ぶ。おそらくユウダ類だと思うのだが、湿地の水草に隠れてしまいただただスネークフックに水草を絡ませる作業で終わってしまった。体躯的にはヒバカリHebius vibakari 程度の大きさだった。


 すると今度はそれよりも小さいが確実に鱗のある生き物が私の足下をすり抜ける。

タテスジマブヤ
タテスジマブヤ Eutropis multifasciata


 海外なのである程度同定のもと捕獲する必要があるが、ヘビでなくトカゲだとわかった瞬間にすぐ手が出せた。夜にトカゲというのも意外だったし、この時は湿地ということもあってウォータースキンクの類いかと思っていたが、英名で sun skink と呼ばれる昼行性のマブヤトカゲの仲間だとわかった時はもっと驚いた。
 以前はアフリカからアジアに分布するここら辺の分類のトカゲは、 「 とりあえず Mabuya 属に 」 って感じで、カエルでいえばアカガエルRana 属的な扱いのトカゲであったが、細分化されアジアのマブヤトカゲ類は現在ではEutropis に分類される。

 以前は属名から和名を 【 ~ マブヤ】 と していたわけだが、今となっては別属扱いではあるものの以前から和名がついていたのでそれを当ブログでは採用する。まぁ分類が変更される度にコロコロ和名を変えていては本来の和名としての機能も薄れてしまうので、学名でしっかりと分類体系が追えていれば良いかなと。
 さっそくボルネオの両爬に出会えてテンションが上がるし、ミンも 「 Oh , you're crocodile hunter !! 」 なんて大げさに褒めてくれる。ただまぁクロコダイルハンターは言い過ぎだ。本物のクロコダイルハンターってのは細川茂樹みたいなイケメン俳優の事を言うのだよ。さらに言えばスネークハンターはフィリップであり、ミスター木伏なんだな、私の中では。 ( 詳しく知りたい方は “ ワレワレハ地球人ダ! ” で検索 )



ミドリホソカロテス
ミドリホソカロテス Bronchocela cristatella


 葉脈の面白い葉で眠るカロテストカゲ。種小名にもあるように成長するとクレストが発達するのだが、この個体はまだ若い個体なのであまり発達していない。大学の卒業旅行でタイを訪れた時にシロクチカロテスCalotes mystaceus を見つけたのだが、その時は早々に逃げられてしまって悔しい思いをしたので、今回ゆっくりとカロテスの類いを見られたのは良かった。
 ボルネオにもこういったトカゲの寝込みを襲う樹上性のヘビもやはり多いため、振動を感知しやすい枝先で寝るのが定石らしい。



 次に林の中を探索してみるも、鬱蒼としているだけでイマイチ両爬が見つからない。林に突入する際には 「 こんなとこ入っていくのか !? アオハブ類とか大丈夫かな ? 」 なんて心配もしていたが、そんな心配もどこ吹く風。地表ではアシダカグモがコソっと動き、暗い樹上ではフクロウが鳴き声だけをみせてくれるくらいだったので、林は諦め次に少し開けた川沿いを目指す。



ゾウの足跡
ゾウの足跡  ( 写真だとわかりにくいが ) 


 川辺を歩いていると、それまでフランクでへらへらしていたミンだったが、急にまるで別人に入れ替わったかのように真剣な眼差しで我々を制した。

「 これはゾウの足跡だ。 」

 見ると川辺の砂地に丸太でも打ちつけたかのような大きな窪みが、川に沿って点々と並んでいた。その窪みの大きさから察するに、相当な巨体の持ち主がただ1頭、数時間前~数日前に通ったであろう痕跡で、そののっそりと歩く姿を想像するだけで畏敬の念を抱いてしまう。

「 そうか、これがゾウの ・・・ 」

 そんな感動に包まれていると、落ち着き払ったミンがこう付け加えた。 「 これは孤独オス ( alone male ) のものだ。孤独オスは非常に気性が荒くて危険なんだよ。 」 さらには数日前、車で宿へ向かう途中の悪路で孤独オスにばったり遭遇し、そいつに追い立てられたというムービーも見せてもらったが、それがまさにジュラシックパークでティラノサウルスから車で逃げるマルコム博士のシーンを彷彿させるものだった。
 そして小さな声で 「 ブブオーン 」 と唸るようにミンが発し、 「 威嚇するときはこういう音を出すんだ、あいつらは。だからもし、森の奥でこんな音を耳にしたらすぐにその場所から離れるべきだ。 」 と。



 まるで映画のワンシーンのようなやりとりだった。 『 この後とんでもない巨象が現れて次々に我々のメンバーが襲われ宿が襲われ ・・・ 』 だなんてモンスターパニック的な展開を妄想してしまう。これで足跡に溜まった雨水が、 「 ズシンズシン 」 と波紋が出来れば完璧だったが、現実はそこまで都合良くはいかないな。まぁ何にしてもドキドキする体験をした。



カブトシロアゴガエル
カブトシロアゴガエル Polypedates otilophus


 ゾウの足跡が向かっていく反対側へと川に沿って歩いて行くと、少し小さいヒキガエルくらいの大きさのカエルを見つけた。それは日本にも外来種で入り込んでいるシロアゴガエルP. leucomystax と同属のカブトシロアゴガエルだったのだが、初見ではその体サイズからこの仲間だとは思いもよらなかった。
 カブトシロアゴガエルは図鑑でみて、アオガエル科という樹上性のカエルでありながら、頬の張り出た厳つい顔がなんともカッコ良く、さらに体表は木目のような体色で覆われている姿に目を奪われていた。
シロアゴガエルと同属ということで、その体サイズについては同じくらいのイメージだっただけに、ファーストコンタクトのインパクトは絶大だった。それが良い意味で期待を裏切られたのでより一層このカエルが好きになった。





マレーシベット
ジャワジャコウネコ Viverra tangalunga


 宿周辺まで戻ってくると、何やら中型哺乳類がうろついている。 【 危険を察知するため 】 というよりも 【 食いもんを探すため 】 に時々頭を上げては周囲を窺いながら歩いていて、あまり恐れをなしていないのかこちらをちらりと見るも逃げる素振りはなく、餌探しに勤しんでいるようだった。おかげでじっくりと観察することができたこの生き物はハクビシンと同じくジャコウネコ科のジャワジャコウネコだ。
 英名のカタカナ読みである “ マレーシベット ” という名前もそれなりに浸透しているし、現地ではこちらの名称を使って他の人ともコミュニケーションをとっていたのでマレーシベットのほうが自分の中では馴染みがある。ミンに聞くと、夜な夜な頻繁に宿周辺にやってきては残飯なんかを漁っているとのことで、ここのスタッフからしてみたら日常のような光景らしい。ただ外国人である我々からしてみたら、こんな生き物には国を跨がなければ出会えないわけで、夢中になってシャッターを切っていた。




マレーシベット
ジャワジャコウネコ


 足は短いが胴や首が長いためにスラっとした印象を受ける。さらに歩き方も優雅で、背中を軽く後ろに反らせながらしなやかに足を出して「 スッ スッ 」 と歩くので非常に気品が溢れている。また模様も複雑で、尾にはリング状、胴にはヒョウ柄、首にはストライプ状、の斑紋があり、まるで別の生き物からそれぞれのパーツをくっつけて作ったような組み合わせも面白い。
やはり哺乳類はその体サイズから、出会った時の興奮は大きくドキドキさせてくれるので、初日からなかなかに楽しませてもらった。
 ジャワジャコウネコを見送って、この日のナイトハイクは終了。ミンは 「 両爬をあまり見せられずに申し訳ない 」 と言っていたが、そんなことで憤慨などするもんか。ガイドといってもサファリパークに来て端から紹介してもらっているわけではなくて、実際にフィールドに出て探しているんだから見られない時があるのは当たり前。そもそも自分たちも歩き回っているわけだから、見つけられなかったのは単に私たちも実力不足。彼らにとっては探し出すのが仕事なので責任を感じるのはわからなくもないが、それで 『 あのガイドは使えねー 』 とか思うようになったら生き物屋としては道を外れたなと思うわけで。とにかく楽しかった旨をミンに親指を立てながら伝える。


 一旦荷物を置いて食堂に再集合。各々の図鑑を持ち寄って、今晩見られた生き物の同定会。 「 小川を横切ったのはウォータースキンクの一種だろうね 」 とか 「 寝てたアガマはミドリホソカロテスだね 」 とか、ミンも交えておさらいしていく。
 どうやら食堂には宿周辺を散策していたフランス人家族たちが先に戻っていたようでみんなで談笑している。彼らは少年 “ アドリュー ” を中心に、そのお姉ちゃん、ダディ、マムの4人家族で来ていた。アドリューは中学生くらいでほっそりとした体型で性格は少しシャイだが友好的。夕食時に会った時はきちんと自己紹介してくれたし、スプライトも分け与えてくれた。
 そんなアドリューが私たちの同定会を興味津々な眼差しで見ていたので仲間に入れてあげると、お姉ちゃんの方も 「 図鑑見ても良いかしら ? 」 と輪に入ってきた。

 昼間ヘビを見たんだと言われて写真を見たら、Macropisthodon rhodomelas ( 和名不詳 ハブモドキM. rudis の同属ってことで直訳するならアオクビハブモドキ? blue necked keelback ) だったので教えてあげたり、私が持参した日本の生き物の写真アルバムを貸してあげたら喜んで見てくれた。こういうこともあろうかとコミュニケーションツールとして自分で撮り貯めた写真を現像して持って来たのが功を奏したし、やはり自分の写真が褒められるのは嬉しい。
 そこからは今日見られた生き物の話だけでなく、向こうの家族がボルネオに来る前に旅行していたタイの写真を見せてもらったり、次にどこへ行くのか話したり、不慣れながらいろいろと英語で会話して楽しんだ。中でも驚いたのは、アドリューのお姉ちゃん美人だなぁと思っていたら、まだ若干の “ 17歳 ” という年齢だということ。向こうの女の子は成長が早いもんでずいぶんと大人っぽく見えるなぁ。
 語学が上達するのは、いっぱい勉強することも大切だが、相手に気持ちを伝えたいっていう想いもまた重要なんだろう。


 ワイワイと盛り上がってきたところでアドリューのお姉ちゃんが突然私たち2人に 「 20分だけでも良いんだけど、時間あるかしら ? ちょっと向こうに行かない ? 」 と持ちかけてきたのだ。


なんだこの展開は ?


「 こっそり抜け出してイイコトしましょ 」 的なやつなのか ??!! それなのか??!!
 と鼻の下を伸ばしながら 「 お、おぅ。 OK OK 」 と承諾し席を立つと、後ろからバタバタとアドリューが追いかけてきた。この時ばかりは自分の先輩という権限をフル活用し、 「 お前はアドリューの相手をしろ、俺は、お姉ちゃんだっ !! 」 とルンチョロサンに言ってやろうかと思ったが、どうやらイイコトってのは宿の敷地内にある動物観察用のタワーまで行ってちょっとだけ生き物探しをしようという提案だった。


 ま、まぁそんなの最初からわかってたけどな。みんなで談笑している時に生き物の話題で盛り上がったんだから、フィールディングに決まってるじゃないか。そもそも17歳って聞いているのに、そんな良からぬ妄想なんぞするほうがおかしいわ。


 ってなわけでミンを連れ出して5人でナイトハイク延長戦、ボーナスステージ。往路の途中でカブトシロアゴガエルを見つけるもびよんと木道から外れた枝先に跳ばれてしまい、アドリュー共々悔しい思いをする。
 「 また帰りに来た時に戻ってきているかもしれない。その時は静かに行こう 」 とアドリューが熱弁を奮うのだが、復路で先陣を切って彼が行き、立てた人差し指を口元にあて 「 Shhhhhhh ( 静かにの意 ) , Be quiet ! 」 と小声で我々を制するが、願いも虚しく木道にカブトシロアゴガエルの姿はなく、先程逃げ跳んだ枝先にいるのが葉の隙間から見えるのみだった。

 またトビヤモリの一種Ptychozoon sp. も出たのだが、これもまたすぐに逃げられてしまい確認ならず。そんなあまり奮わない結果になったものの、みんなで雑談しながらフィールディングできたのも楽しかったわけだが、アドリューとしては納得のいかない悶々とした結果だったようで、出発前に話していたカエルの話を思い出して、 「 まだそのカエルがいるかもしれないから、最後にそっちにちょっと行ってみようよ 」 と提案される。
 この頃になるともう友達感覚になっているようで、10歳以上は年下なのだが彼から見たら身長の低い私は同世代のようなもんなんだろう。道中生き物の話で盛り上がったかと思えば、急に 「 Be quiet ! 」 と制止させられる関係になっていた。結局目当てのヒョウトビガエルRhacophorus pardalis は出ずにトボトボと食堂に戻ってみると、フランス人家族や宿のスタッフたちはビールを飲んで良い雰囲気の宴が始まっている。
 我々も一杯と思ったら、ダディが驕ってくれるとのこと。どうやら子供たちと遊んでやったお礼といったところなんだろう。そのお返しにとルンチョロサンが羽田空港で買っておいたせんべいを持参し、みんなに分けていた。海外の旅先では日本のお菓子をあげると結構喜ばれるようで、そういったコミュニケーションツールとして日本のお菓子は良いらしく、みんな 「 うまいうまい 」 と食べてくれた。
 熱帯の環境ではやたら喉が乾いてしまうので、頂いたタイガービールの350mlはすぐに飲み干してしまうが、すぐに次を勧めてくれる良きダディ。こりゃあ酔うなと思いながらも次の缶へと手が伸びる。

 いよいよ盛り上がってきて、それぞれの国で乾杯を意味する言葉をみんなで一緒になって唱える頃には宴は最高潮に達していた。

 「 ソンテッ ! 」
 「 アラマイティッ ! 」
 「 カンパイッ ! 」



 フィールドで生き物を探すのはもちろん楽しいものだが、日本人、フランス人、マレーシア人、それぞれが1つの言語を使って、生き物という共通の話題について談笑できるのって幸せだなと感じた。何より本当に久しぶりに「生き物が好き」っていう純粋な話題で酒を呑める楽しさよ。( なんだか大学時代のサークルでの新入生歓迎会を思い出した。 )


 楽しい宴は日を跨いでも続いたが、翌日は早朝もフィールディング予定なので、なかなか解放してくれないアドリューを振り切りなんとか解散することに。移動疲れ + 初熱帯フィールディング + タイガービール のトリプルパンチだったので、部屋についたらシャワーを浴びて即爆睡。なんだか面白くなってきたぞというのを実感できたボルネオ初日であった。





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