月明かりにヤモリ

Moonlight Gecko

Category: 爬虫類  

鼻先蛙は蛇の気配

~ 麗しの島、台湾の旅 ~
1. 小汚いバックパッカーとダーティー兄ちゃん
2. トカゲたちの異なる境界線
3. 極彩色 Richly colored
4. 翡翠の純心
5. 蝦蟇が来たりて、夜は更ける
6. 翡翠の邪心
7. 谷を渡って飾り付け
8. 木登り蜥蜴の陰と陽
9. 至高のグルメ
10. 色とりどりの花咲き誇る
11. 斑蛇の明と暗
12. 既視感のオアシス
13. 蓮池や 咲いては消える 亀の華
14. 鼻先蛙は蛇の気配
15. モノクロームの鎮魂歌
16. 最終夜の晩餐
17. 老人と湯




 しんと静まり返った夜の森に、雨音たちだけがはしゃぐ世界。葉を揺らし、地面を叩き、あっという間に辺りはたくさんの 「 ぽちょん 」 に包まれる。我々が動き始めた頃、彼らはすでにどこかへ去ってしまった後のようで、台湾の夜の森に潤いだけを残していった。
 雨に打たれずに湿ったフィールドに出られるという条件はかなりの好機で、ヘビが出そうな気配が存分にあり、左ハンドルを握る手にも力が入る。


 目星をつけた林道にたどり着き、この素晴らしい条件を堪能すべく、じっくりと林道歩きを始めた。濡れたシダに懐中電灯の明かりが当たって、細かい小羽片に溜った水滴をチラチラと反射させているのが美しい。
 相変わらず優占種として現れるスウィンホーハナサキガエルOdorrana swinhoana もこの日は数が違って、扱いがぞんざいになるほど林道にごった返していた。 ( 中には奇抜な色彩の個体が出るので無視もできないが。 )   この感覚はヤンバルでフィールディングしたことのある両爬屋なら共感しやすいと思うのだが、こんな日は 『 当たり日 』 だと直感する。ヤンバルの濡れた林道に多数のハナサキガエルO. narina が現れれば、それ目当てだったり、似たような出現条件だったりで他の数多くの両爬に出会えたりするのだ。こういう日に当たれば、それまでただ呆然と歩いているだけだった林道歩きが劇的に変化して、歩みを遅らせるほど様々な面々が姿を見せる。

 これまでに写真で登場した樹上のタイワンアオヘビCyclophiops major 成体のタイワンアオハブViridovipera stejnegeri stejnegeri アカマダラDinodon rufozonatum rufozonatum などのヘビが見られたのもこの時である。期待通りヘビが出ているので、 「 これはまだ未見のヘビも出てくるな 」 と胸を膨らませていると、遥か先頭を行っていたFくんが見慣れぬ細長いヘビと格闘していた。





タイワンオオガシラ
タイワンオオガシラ Boiga kraepelini


 それはなんとボイガ。本属は東南アジアからアフリカ大陸まで分布するヘビで、いろいろ海外の図鑑やサイトなんかを見ているとよく登場する。樹上性のヘビで鳥類やトカゲ類なんかを食べている連中で、有名どころだと特定外来生物に指定されているミナミオオガシラB. irregularis がいる。
 ミナミオオガシラは国際自然保護連盟 ( ICUN ) が定める “ 世界の侵略的外来種ワースト 100 ” に選ばれるほどの悪名高いヘビで、外来種問題・環境問題に詳しい人によく知られている。所業としてはグアムに侵入した本種は固有鳥類を少なくとも7種絶滅に追いやったようである。メジロZosterops japonicus くらいの小さい鳥を捕食するのかと思っていたが、ヤンバルクイナGallirallus okinawae と同属のグアムクイナG. owstoni だとかマリアナオオコウモリPteropus mariannus なんかも食っているようなので驚きである。その他食虫類やトカゲ類などを捕食し、生態系に与える影響はかなりのものだそう。

 日本ではミナミオオガシラの他にミドリオオガシラB. cyanea ・イヌバオオガシラB. cynodon ・ボウシオオガシラB. nigriceps ・マングローブヘビB. dendrophila の4種が特定外来生物とされ、Boiga 属の残りの種についても幼体時の種同定が難しいことから未判定外来生物の扱いなので、実質国内に他のボイガが輸入されることはない。そのため日本国内ではなかなかお目にかかれない分類群のヘビなのである。 ( どこかの動物園ではマングローブヘビとか見られたと思う ・・・ )



 どうやら地面を移動中の個体にFくんは出くわしたようで、咬蛇姿勢をしきりにとっていたので後から来た ( それまでアカマダラと戯れていて遅れた ) 私とTOGUくんも拝むことができた。彼らは弱毒の後牙類なので、死亡事例は無いにしても、海外でその手のトラブルには巻き込まれたくないため、あまり手出しできないままではあったが、それでも十分堪能できたのは元来の樹上性という性質ゆえなのか、地上では動きが緩慢であった。
 これはセダカヘビPareas なんかでも同じで、背中が高く盛り上がった胴をしているヘビは往々にして地上での動きはあまり機敏ではない。

 頸部が細くなっているので相対的に頭部が大きく見えるため、オオガシラという和名がついているが、この顔を右に左に向けるのでなかなかに愛嬌があって可愛らしい。また瞳孔も猫のように縦長なので、ヘビの中では個性的な顔立ちであって見ていて飽きない。というか表情があるようで面白い。
 ただ頭部の長さも 2cm ほどしかなかったので、これで鳥を呑めるのかは疑問がある。どちらかというとヤモリとかキノボリトカゲばっか食っていそう。



タイワンオオガシラ
タイワンオオガシラ


 色彩はバリエーションに富んでいて、別個体だとこんなにも体色が違う。林道歩きの後に車で回っていると路上を移動中のこの個体に出くわしたのだが、そのあまりの体色の違いに先程見たばかりの同種のヘビだとは思えないほどだった。しかし背の高い胴に細い頸部という特徴的なフォルムからすぐにタイワンオオガシラだと、頭の上に電球マークが灯るように気が付いた。
 本種は和名に “ タイワン ” の名を冠するが、分布は広く中国、ラオス、ベトナムなんかにもいる。体色のタイプとしては2つに大別されるようで、最初に見た灰褐色のタイプと、次に見た褐色タイプがいるようである。種内でこんなにも体色にバラつきがあるので、ただ1個体見ただけではその生き物を語れないなと改めて思わされる。

 結局我々がフィールドにヤミツキになってしまうのは、まだ見たことのない種に会いたいというのはもちろんのこと、このように同じヘビでも全然違う見た目のやつが出てくるところにも面白さがあるんだろう。んでもって異国の地で仲間と感動を共有し、生き物についてあーだこーだ言いながら、夜の林道を散策できることのありがたみ。このヘビの、この個体の、この瞬間、というのは唯一無二の出来事なので、旅が終わって友人たちと飲んでる時も、 「 あの時のあのヘビが ・・・ 」 なんて話で永遠にお酒が呑めるのも貴重な証だと思う。きっといつまで経ってもみんなで顔を合わせて酒を呑み交わせば、台湾の話が出てくるだろう。


 この日は雨が降った影響でカエルがたくさん出てきている中、タイワンオオガシラ2個体がどちらも地面で行動していたことを考えると、こういう日はカエル類を狙っているんだろうと思われる。そしてこの夜はやはり条件が良かったのか、他にもまだ台湾の濡れた大地をするりするりと這って出てきているヘビに出会えていた。








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