月明かりにヤモリ

Moonlight Gecko

Category: 草本類  

谷を渡って飾り付け

~ 麗しの島、台湾の旅 ~
1. 小汚いバックパッカーとダーティー兄ちゃん
2. トカゲたちの異なる境界線
3. 極彩色 Richly colored
4. 翡翠の純心
5. 蝦蟇が来たりて、夜は更ける
6. 翡翠の邪心
7. 谷を渡って飾り付け
8. 木登り蜥蜴の陰と陽
9. 至高のグルメ
10. 色とりどりの花咲き誇る
11. 斑蛇の明と暗
12. 既視感のオアシス
13. 蓮池や 咲いては消える 亀の華
14. 鼻先蛙は蛇の気配
15. モノクロームの鎮魂歌
16. 最終夜の晩餐
17. 老人と湯




 疲れ果てて深い眠りに落ちていたのだろう、目が覚めると目の前には見慣れぬ景色が全面のガラス張りに映り込んでいて、柔らかい日差しが朝を告げている。硬いシートの上で固まった足腰の疲れと、寝息と一緒に出た湿気でこもる空気 ( それもむさ苦しい男3人分の ) で、ようやく自分たちが台湾の地で車中泊をしていたことを思い出した。

「 よし、寝込みは襲われていないな 」

 初めての海外での車中泊で山賊や車上荒らしなんかを恐れていたが、無事に2日目の朝を迎えることができたようだ。私たちは夜中、陽明山から台北市内を抜けて南下し、雪山山脈の北端に位置する 『 烏来 ( ウーライ ) 』 という、日本でいえば伊豆や箱根のような山間の温泉地を訪れていた。
 2日目の朝は眩しいくらいの晴天で、すでに朝っぱらから暑いったらありゃしない。さすがは亜熱帯、台湾。感じとしては夏の西表島とほとんど変わらず、これからジャングルに踏み込むんだなという、冷や汗とは逆の嬉しい汗が背中を湿らせていた。



南勢渓
南勢渓


 烏来の温泉街に車を停め、2日目は南勢渓沿いに内洞国家森林遊楽区まで歩くことにした。ネットを見ているとこの川沿いで、ヒゴロモOriolus traillii やカワビタキRhyacornis fuliginosus 、ヤマムスメUrocissa caerulea などの魅力的な鳥に出会っている記事を散見したので期待していたのだが、出会うことは叶わなかった。
 めぼしい鳥としては遥か上空でオオカンムリワシSpilornis cheela hoya が旋回しているのをTOGU くんが見つけたが、私には識別はおろか目標をとらえることすらできなかった。それでもそんな鳥たちが出てくる事を期待して歩く台湾の道というのは、それだけでワクワクの冒険だ。




サクララン
サクララン属の一種 Hoya sp.


 鳥がなかなか見られないので植物をみる。川沿いの岩壁から垂れ下がっていたサクラランの仲間。おそらく沖縄などで見られるサクラランH. carnosa と同一種だと思われるが調べきれていないので一応属でとめておく。 carnosa の分布はオーストラリアからインド、中国、台湾、日本と広く分布する種のようで、wikipedia を見る限りでは他に台湾に分布するサクラランはいないようである。
 まるで木の枝にオモチャの風船が引っ掛かってしまったような面白い形態をしているので、まだ日本では見たことがなかったが図鑑で印象に残っていたので、すぐにサクラランの仲間だとわかった。植物にしても日本に近しい種がいるので、日本での経験値がモノを言うフィールドだなぁと思う。鳥を探して上ばかり見ていたから見つけたんだろう、いつもだったら下ばかりに目をやっているので今回は運が良かった。




内洞国家森林遊楽区
内洞国家森林遊楽区


 上ばかりに首を傾け約3時間、ようやく目的地まで辿り着いた。炎天下の中、アスファルトの道をひたすら長靴で歩くのはなかなかにこたえるが、烏来の温泉街からは車で抜けられそうになかったのでひたすら歩いた。しかし迂回ルートがあったようで、遊楽区の駐車場はすでに満車でごった返し、明らかに何時間も待つような渋滞が発生していた。相当な混雑っぷりに歩いてきて良かったと思う反面、かなり観光地化されていて散策しづらいだろうと不安も募る。
 入り口のモニュメントはアオガエルとハブカズラ的な彫刻で、いかにも亜熱帯なデザインに心躍る。しかもどちらも好きな私には、この入り口は期待しか抱かせない。





タニワタリの一種
タニワタリの一種 Asplenium sp.


 区内は沢と滝から溢れんばかりのマイナスイオンが放出されており、空中湿度が非常に高かったのでこういう着生シダ類がいたるところにある。これをみてホッとするのは沖縄に何度も訪れているからだろう、3人とも 「 沖縄っぽいね~ 」 という感想が口からこぼれる。ただここは台湾。沖縄と比じゃないような濃度なので、ひとつひとつの群落の大きさやその密度にはただただ圧倒させられる。




タニワタリ群落
タニワタリの群落 


 こんな素晴らしいタニワタリの群落があるのだ、もうアドレナリンが出まくっちゃって出まくっちゃって、空気中のマイナスイオンと結合して汗ダラダラですよ。なんかもうこれで1匹のモンスターのような、圧倒的な存在感を周囲に振りまいていた。
 台湾はタニワタリの仲間だけでも、オオタニワタリAs. antiquum 、シマオオタニワタリAs. nidus 、ヤエヤマオオタニワタリAs. setoi と数種も生息しているので、ここらを勉強して台湾で識別していたら楽しかったんだろう。 『 見上げればタニワタリ 』 といっても過言ではないほどに自生しているので、シダ屋さんにとってはパラダイスではないだろうか。
 かくいう私もこの密度に圧倒されて、 「 着生シダってなんかそそられるなぁ 」 とミーハーながらも魅力を感じてハマりつつある。その勢いで 【 シダの扉 - めくるめく葉めくりの世界 盛口満著 】 なんて本をすぐに買ってしまうあたりミーハー感がとまらない (笑) どっちかというと情報から入るタイプなので、読みやすいゲッチョ先生の本は入門する人間にとっては非常に夢を抱かせてくれる本である。これきっかけでシダ好きになれればいいなぁと思うので、どなたか使いやすいシダ図鑑教えてくださいな。あまりフィールドで使いやすいシダ図鑑が見つけられてない ・・・

 それほどまでに見事な群落だったのだ、この写真のタニワタリは。実物を見たら圧巻の存在感。






 途中、川の向こう岸にルリチョウMyophonus insularis が現れたのをTOGU くんが発見した。川辺の岩場に営巣しているのか、岩の隙間を出たり入ったりしていたので、観察しやすかった。
 遠目には黒い鳥にしか見えなかったが、なんとか辛うじてそう言われればそう見える程度。TOGU くんの写真で、翼の上面に白線があるように見えて 「 ルリチョウなのか ? 」 となったが、色が微妙に異なる青色の金属光沢部分が光の反射でそう見えたんだろう。本種は渓流沿いに生息するので、ようやく3時間かけて歩いたのが報われたような気がした。





ホザキヒトツバラン
着生ランの一種 Orchidaceae gen. sp.
→リュウキュウセッコク Eria ovata


 そして着生ランも発見。見た目はデンドロキラムDendrochilum 属のようなのだが、この属内で当てはまる種がおらず結局わからないまま。D. glumaceum に似ているのだが、フィリピンやボルネオに分布するようで違うし、台湾のデンドロキラムはD. formosum だが黄緑色の花を咲かせるので、この白い着生ランではない。
 海外でランを見つけるなんて、読み物だけの世界と思いきや、自分でもそんな体験ができるとは。それもまだ正体不明のランなので、少しずつ識別できるよう園芸書からでも調べていきたい。

→ボルネオのランを調べていたら、リュウキュウセッコクEria ovata だということがわかった。





カザリシダ
カザリシダ Aglaomorpha coronans


 そして今回の目玉、カザリシダ !! タニワタリがあまりの密度で自生しているので、楽しくなって見上げながら歩いていると、時々タニワタリとは違う形の着生シダが目に入る。ギザギザの葉に、着生した根元にある貯水葉、それが樹の周囲をぐるりと囲むように着生している姿は一度見たら忘れられないカッコ良さで、このシダこそがゲッチョ先生のシダ本を私に買わせた張本人である。
 元々、筑波実験植物園の温室で見たビカクシダPlatycerium が素敵すぎて、園芸店や植物園に行くたびビカクシダに見惚れていいたので、同じように着生しているシダで貯水葉を持つカザリシダをフィールドで見られたのは嬉しすぎる。カザリシダはビカクシダと同じくウラボシ科Polypodiaceae に属する着生シダのようで、ときめく理由はここにあったようである。

 貯水葉はネストリーフとも呼ばれる着生シダの器官で、腐葉を貯めて肥料とし、中に根を張る仕組みになっている。また貯水葉の名の通り水分も貯めておけるため、薄暗いところに群生するタニワタリと異なり、比較的陽の当たる明るい樹幹に着生していることが多かった。この貯水葉は緑色から褐色に変化し、それがピタッと着生部分を覆い尽くす姿がなんとも美しい。
 貯水葉に対し、ギザギザに葉を伸ばしている部分を胞子葉 ( フォリッジリーフ ) と呼び、他のシダ類と同じように、葉裏に胞子を付けている。厳密にはカザリシダには葉の2形 ( 貯水葉と胞子葉 ) が存在しないようだが、役割としては2形を担っているのでここではそう記載する。




 鬱蒼としたジャングルにたくさん点在するタニワタリも良いが、亜熱帯の眩しい日差しを果敢に浴びているカザリシダも猛烈にイイ !!思わず日なた感を出すために露出オーバー写真で。うん、南の島感、最高。
 台湾には他にホザキカザリシダAg. drynarioides という先端が細くなる美しい種も自生しているらしく、もしまた台湾に行く機会があるのならば着生シダ巡りをしてみたい。





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