月明かりにヤモリ

Moonlight Gecko

Category: 爬虫類  

翡翠の邪心

~ 麗しの島、台湾の旅 ~
1. 小汚いバックパッカーとダーティー兄ちゃん
2. トカゲたちの異なる境界線
3. 極彩色 Richly colored
4. 翡翠の純心
5. 蝦蟇が来たりて、夜は更ける
6. 翡翠の邪心
7. 谷を渡って飾り付け
8. 木登り蜥蜴の陰と陽
9. 至高のグルメ
10. 色とりどりの花咲き誇る
11. 斑蛇の明と暗
12. 既視感のオアシス
13. 蓮池や 咲いては消える 亀の華
14. 鼻先蛙は蛇の気配
15. モノクロームの鎮魂歌
16. 最終夜の晩餐
17. 老人と湯




 ヒキガエルたちを観察したあとは、渓流沿いを散策。森の中は滝の水しぶきによって高い空中湿度を保ち、マイナスイオンとぬかるみ豊富な夜の森を3人で訪れる。

 「 こっちの道に行ってみたい 」
 「 あっちにある石の裏とかに何かいないかな 」
 「 写真をもうちょっと撮っていたい 」
 「 どんどん前に進んでいろんな生き物を見つけたい 」

 三者三様の欲求は海外の危なげな夜の森でも湧き出てくる面々なので、いつの間にか各々別々に行動し始める。とはいってもお互い遠征慣れしたメンバーで、こういう場面では適切な距離感を保って行動してくれるのでありがたい。
 例えば闇夜の中でもお互いの懐中電灯でそれぞれの位置が視認できるくらいの距離だったり、生き物を見つけた時に大声で呼べば駆けつけられる距離だったり、別々に行動していてもある一定の範囲内に留まって行動しているのでやりやすい。これを “ 許容分散範囲 ” とでも呼ぼうか。
 この許容分散範囲というのは不定形であり、環境・天候・時間 ・・・ etc. によって大きく影響される。一本道の林道なら道も外れないので結構奥まで進んでも大丈夫だし、雨のナイトハイクは声が通りにくいので離れずに行動したり、様々な条件下でこの範囲の大きさや形は変わる。
 この範囲は言葉で互いに確認し合ったり、半径 ○○ m 以内と相談して定義するわけでなく、体感的に体得した距離感なので、いかに一緒に様々なフィールドに出ていたかが範囲を把握する肝になる。さらに言えば、各メンバーの行動パターンや性格がわかってくればより精度の高い範囲になり、 「 まだあの生き物を見つけられていないから、血眼のコイツの歩みは遅いだろうとか、アイツは昼間あまり見たい生き物が少ないから、きっとこの先の休憩ポイントにいるだろう 」 などと想像できれば、どこまでなら離れても大丈夫という範囲が見えてくる。
 そんな気遣いだけではなく、 「 こいつはたまに変な生き物出すんだよな、勝負所に強いんだよな 」 などと思う場合は、近くでおこぼれに期待してあえて離れず行動するズル賢いパターンもある。


 今回は案の定バラバラにはなったものの、許容分散範囲内だったので生き物の共有ができた。






タイワンアオハブ
タイワンアオハブ Viridovipera stejnegeri stejnegeri


 オオジョロウグモNephila clavata に似た大型のクモの巣に、マダラゴキブリRhabdoblatta の一種が引っ掛かっていて、ずいぶんスケールの大きなハンティングだなぁと眺めていると、その大きなクモの巣を透かして見たその枝先に、美しき緑色の毒蛇が絡み付いていた。台湾のフィールドに出る際に最も気をつけていたのがこのヘビで、やられるならコイツだろうなぁと思っていたら本当に油断したところで出現した。この個体が絡み付いていたのは地面からおよそ50cmほどの高さの枝だったので、もし気づかず歩いていたら足をやられていただろう。そう思うとゾッとするし、若干の興奮もする。

 基本的に動かず周囲の緑に溶け込んでいて、見つけようと思わなければなかなか緑の中からこのヘビを抽出して発見するのは難しいのだが、ネットでいろんなパターンの画像を見ていたおかげだろう、クモの巣を見ていてもその奥に何かしらの違和感を感じたのでピントをずらしてみたら案の定そこにいたのだ。一瞬ドキッとする恐怖が襲ってくるものの、憧れの毒蛇を目にしてあっという間に歓喜が押し寄せ 「 Wow ! ? 、アオハブ !! 」 と 『 欧米か ! ? 』 とツッコミたくなるようなリアクションが出た。
 友人たちも離れすぎない許容分散範囲にいてくれるので、私が 「 アオハブっ !! 」 と叫ぶとすぐさま駆けつけてきてくれるので、感動の共有ができる。社会人になってからはもっぱら1人でフィールドに出ることが多くなったので、大学時代のように数人でフィールディングする機会が少なくなった。そんな中で見知らぬ国の真夜中、美しい毒蛇の感動を共有できることがどれだけ素晴らしいことか。
 そしてそこがヤンバルだろうが西表島だろうが台湾だろうが、ボクらは変わらずバカみたいに生き物追いかけて、 「 すげーすげー 」 と感動しているっていうのは、実はすごく貴重でかけがえのない瞬間なんだなって思う。クサい表現だけども、本当にそう思える。そう思えるほどの魅力と感動をフィールドは秘めているのだろう。




 事前に調べた中では、尻尾の先端および虹彩は真っ赤な色をしているのが本種の特徴だったが、この個体はそこまで赤みが強くなく褐色気味だった。体長は 30 cm ほどと小さくまだ幼蛇であるからかもしれない。
 ただ、こういうのは大体成体になるにつれて色褪せそうなものだけども。







タイワンアオハブ
タイワンアオハブ


 こちらは別日の成蛇。中国名の “ 赤尾青竹絲 ” が指すようにイメージ通りの赤みがある個体だった。珍しく枝先にはおらず、コケや地衣類の生える岩壁に陣取って待ち伏せをしていた。
 この日は雨が降ったので体表面はつやつや。またこのヘビは背面と腹面の境に白いラインが入るのも、素敵なポイントのひとつだ。


 顔はまさにピットバイパーだし、周囲に溶け込む体色だし、そんなんがギロリと目の前の枝先で睨みつけている。そんな刺激的なフィールドはなかなか経験がなく、しばらく興奮状態だった。やっていることはヤンバルや西表島とほとんど変わらないのに、 「 あぁ海外のフィールドに身を置いているんだなぁ 」 というのをまざまざと実感させられる。




 車への帰り道、 『 悪犬 』 の恐怖にさらされながらもなんとか帰還。犬嫌いの私にとってはピットバイパーより野犬が怖い。
 遡ること数時間前、車を降りて林道沿いを散策しているときに 『 森林水源管理局 』 のようなものの入り口があった。建物は遥か先にあり、そこへ通じる小道の門がガチガチにフェンスや鉄格子で固められていて、 『 猛犬注意 』 ならぬ 『 悪犬有 』 の看板が掲げられていた。なんともおぞましい看板に慄いていた私だが、勇敢というかただ無謀にもFくんはその門にグイグイと近づいていったのだ。
 ただでさえ怪しい我々の気配がヤツらの琴線に触れたのか、激しい咆哮で3,4頭の番犬が彼方から猛スピードでこちらに向かってきているのが音だけで恐怖と共に感じさせられた。すぐさま我々は逃げ出したが、門の鉄格子の幅がちょうど犬ならすり抜けられるかすり抜けられないかぐらいだったので、とにかく必死になって逃げた。こんなところで犬なんぞに噛まれたくない。というか悪犬というくらいだからギタギタにされそうだ。
 ある程度距離をとっても永遠に吠え続けていたが、こちらに来られないことから想像すると鉄格子は越えられなかったんだとホッとした。


 ただ車に帰るにはまたそこの前を通過しなければならないのだが、怪しい匂いを嗅ぎつけていた悪犬は闇夜でも 500 m くらい前のところからまた吠え始めてしまった。お化け屋敷に入る小学生のように、各々距離を縮めてくっついて縦一列になって通過していく。鳴き声でわかる、すぐ門のところまでヤツらは来ている。
 通り際、F くんがそちらの方をヘッドライトでチラとみたら、光る目玉がいくつか見えたといっていて本当に怖かったが、悪犬が飛び出してくることはなく、なんとか事なきを得た。
 車に戻ってきてふと後ろを見ると1頭小汚い野犬がこちらに向かってテクテク歩いてきていた。エンジンをかけたりドアの閉める音で警戒して襲っては来なかったが、おそらく悪犬なんだろう。
 車で林道を後にするときも、例の門の前を通るのだが、そのときに黒くて体格の良い、けれど品が無く薄汚れたドーベルマンみたいな犬が門の外、道路の真ん中に2頭出てきていて驚愕した。まるでバイオハザードみたいな犬じゃねーか。あと少し帰るのが遅かったら、悪犬と道路でばったり会っていたかもしれない。そう考えると恐ろしくてたまらないのだが、こちとら車なのでいくら吠えられようとも屁でもない。
 ただ 「 あんな悪犬、私だったら勝てないな 」 と、心の中で静かに敗北宣言をした。

 それに近くに民家などが無くてよかったなとも思う。すごい迷惑をかけてしまうわけだし、なんだかんだで人間とのトラブルが最も厄介だから。


 そんなこんなで初日なのになかなか濃い体験をいくつもしてしまった。 「 これがあと3日もあるなんて 」 そう想像するだけでニヤけた顔が戻らない。
 そして陽明山を堪能したあとは別のフィールドに向けて移動する。




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