月明かりにヤモリ

Moonlight Gecko

Category: 草本類  

The Orchid in May


 5月のランはまだつづく。見に行きたいと思いつつも、なかなか予定がつけられずに花期を逃してしまうランも多い。しかもそれなりに遠出をしなければ出会えないランともなれば、はずしたときの代償は時間的にも金銭的にも、そして精神的にも大きいため慎重になりすぎてしまう。なのでじっくりと情報収集をして、天候・花期・休日が重なり合うタイミングで現地へと向かうのだが、去年はそれが噛み合わなかったため断念せざるを得なかった。今年は季節の巡りが早く花期の予想が難しかったのだが、タイミングを見計らって前々から見たいと思っていたランを探しに八ヶ岳へ。


 仕事終わりにレンタカーを借りて、ガラガラに空いている平日深夜の高速道路をひた走る。日々の業務の疲れが溜まってはいたけども、気持ちは高揚していて自然と眠くならずに麓のPAまで辿り着き仮眠をとった。早朝、用を足してベンチでぐーっと伸びをしながら 「 やっぱり空気がうまい !! 」 と、トラックの排ガス横目に目覚めのスイッチを入れていたら、革ジャンのお兄さんに声をかけられた。
  「 どこから来たんですかー? 」 とか 「 これからどこ行くんですかー? 」 といった挨拶的な会話からスタートして、その方はライダーだったらしく自分のバイクについて嬉しそうに語っていた。標高もそれなりにあって深夜から明け方バイクをとばしていたようで、だいぶ体感温度は低かったらしく、ようやく辿り着いたこのPAで小鹿のように震えながら 【 あったか~い 】 方の缶コーヒーをすすっていた。 「 へー、バイクにもETCとかあるんですねー 」 とか知らないことが多かったので私もそれなりに関心して話を聞いていた。
  『 旅先でのこういう出会いって良いもんだな 』 なんて思い始めたくらいに 「 ○○ っていう戦国アプリやってます? 」 と急展開。やっていないと伝えると 「 じゃあボクの紹介でアプリやってみてくださいよ、面白いですから 」 と勧められた。どうやら彼の招待でアプリをやると、ガチャが良いの出ますとか多く回せますみたいなことらしく、さらには紹介した彼にポイントが付与されるとかそんな話らしい。 「 お互い Win - Win な関係なので、ボクのいう番号を入力して登録してください 」 とバイク話以上の熱量で詰め寄られた。

 あぁ~、こわいこわいこわい !!

 旅の醍醐味かと思ったらとんだ落とし穴じゃないか。どうせスマホゲームをやらないタチなので、全然 Win - Win じゃないわー。そんなにカモっぽい顔してるのかなぁ、私は。
 とりあえずアプリをインストールしている間に “ 偶然にも ” 電池が切れるというハプニングが発生したと彼に説明して、 「 あ、いけない、もうこんな時間 !? 」 ってことでお別れをした。
 まぁ実際30分くらいは話していて、昇りかけの太陽が昇っちまったわけで、なんともったいない時間を過ごしてしまったんだろう。朝の30分は太陽の傾き方が大きく異なるので、森の中の印象が全然違うのに。
 車に戻ってから天気予報で、八ヶ岳地域にお日様マークがついていることをスマホでしっかり確認してPAを出発。登山口に到着するまで、いつも以上にアクセルを強く踏んでいたのは言うまでもない。



南沢
針葉樹林


 ハプニングはあったものの、山に入れば気分も和らぐ。今度こそ、こういう空気はうまい。フィトンチッド不足だった自分はみるみる回復して、登る足にも力がみなぎる。
 登山はやっぱり午前中が気持ち良い。太陽光が柔らかいし、自然光で撮ってて楽しいのはやっぱり午前。案外、やる気満々の午前中にいっぱい写真撮って、帰りの午後は疲れててあまり撮らないというのが最近の私のパターン。



イチヨウラン
イチヨウラン Dactylostalix ringens


 そんな朝日を背に浴びる美しいラン。唇弁と萼片・側花弁の基部に紫色の模様を持ち、他は緑色をしているので他の植物に紛れて見つけづらい花。花が綺麗に全開すると萼片と側花弁で大の字になるのだが、今回は少し早かったようだ。



イチヨウラン
イチヨウラン


 フカフカで水分を保つコケの上に咲いていて、ぷっくりとした1枚の花をつけている。その1枚しか葉をつけないという特徴からこの和名がつけられたという。サイズ感もちょうどよく、直立してこちらを見据えている感じが可憐で素敵。
 普段のフィールドではお目にかかれないような深山の植物なので、えらく感動してしまう。今回は植物眼でフィールドを歩くので見つける生き物も植物が多い。本来の狙いはこのランとは別のランだったのだが、探す眼が違えば見つかるモノも変わるというわけだ。





晴れ茶
晴れ茶


 あまりに天候に恵まれ気持ちの良い登山だったので、休憩中も心が躍る。最近フィールドに持参する飲み物は大抵この 『 世界の Kitchen から 』 シリーズの 【 晴れ茶 】 。緑茶とハーブをブレンドした飲み物で、最初はあまり口に合わなかったが、飲んでいるうちに気持ちが晴れやかになって心地好い後味がクセになってきた。
 この日もすごく天気が良く晴れやかだったので、太陽を透かして 『 まさに晴れ茶 』 ってのをやりたかったんだけど、思っていたよりも自分の指が短すぎて泣きたくなった。まるでクリームパンにポークビッツでもブッ刺したような私の手ですが、それはまぁ忘れていただいて爽やかな晴れ茶を感じていただければ。ゴロンと寝っ転がり、山地のひんやりとした風を受けながら仰ぎ見る太陽と晴れ茶は格別。





ホテイラン
ホテイラン Calypso bulbosa


 そしてお目当てのホテイラン。まるで妖精のよう。この小さくて愛らしい妖精を求めて八ヶ岳までやってきたのだ。

 植物の図鑑を購入して、童心に帰ったようにうつ伏せでページをめくる。そこに登場する植物たちは、全くの別世界の生き物のようで、普段どれだけ自分が植物に注意を払っていないかを思い知らされた。実際には身近に咲いていたり、少し努力をすれば探しに行けるところに彼らは咲いていて、思わずフィールドに出たくなる。
 中でも去年見つけたキバナノアツモリソウCypripedium yatabeanum とこのホテイランは、うつ伏せの状態から思わず正座になって見返してしまうほど衝撃を受けた花だった。どちらも唇弁が袋状になっているところをみると、おそらくそういう形が私は好きなのであろう。無意識に惹かれるものがある。

 ホテイランは図鑑で見る姿と実物とはやはり違うもので、想像以上に小さく可憐で、妖精という言葉がぴったりのランだ。さらにはこんな特徴的な形に鮮やかなピンク色。そりゃあ人を魅了させるなというものを持っている。




ホテイラン
ホテイラン


 薄暗い針葉樹の森で、うつむき加減に薄桃色の花をつけるホテイラン。花茎も短いため、花の正面から撮るにはだいぶローアングルで撮る必要があって、結果寝そべりながらの撮影が多くなる。夢にまでみた光景に、いつまでもゴロゴロとうつ伏せになって撮影をしていて、ふと図鑑を眺めていたあの頃とリンクした。今ではこうして書面ではなく実物と対峙していることに感動を覚え、思わずあの時に正座してしまったそのアングルで改めて写真を撮ってみると、なんだか自分的にはしっくりくる写真が撮れた。まるでお互いが正座で挨拶しているような、一歩この花に近づけた嬉しさがある。
 前述のイチヨウランと同じようにコケの上に咲き、湿度の保たれた環境に生えている。またこちらも葉は1枚だが、この特徴的な唇弁を七福神の布袋様のおなかに見立ててつけられた和名のようだ。属名のCalypso はギリシア神話の海の女神であり、なんとも神々しい花である。
 こんな素敵なランに出会える5月はとにかく凄まじかった。




山へ
八ヶ岳を望む


 時期的に赤岳や硫黄岳まで登ってツクモグサPulsatilla nipponica もついでに見られたら良いなと思っていたが、そもそも辿り着きもせず、山々が眼前に迫ったとこくらいで引き返しただけの山行だった。この写真を撮ったのがお昼過ぎくらいで、そんな時間からその山々に登ってたら確実に下山時に暗くなってしまうので断念し、次回はあの山に登るぞってことで登山っぽい写真。
 やっぱりこの登山靴モアブミッドはカッコイイなって思いつつも、私の短足が露呈してしまう悲しい写真。今回の記事ではチンチクリンな私の身体が登場してしまう記事になったが、花紀行の雰囲気が伝われば良いかな。



 ということで、前回の記事につづいてこれにて5月のランシリーズは終了。本当に良い月でした。


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