月明かりにヤモリ

Moonlight Gecko

Category: 哺乳類  

冒険心のたいまつで

つづき



 それは房総を訪れる前日のこと。ちょうどその日も休みだったので、房総の生物相の予習のために隣町の大きな図書館へと自転車を漕いだ。
 スマートフォンをイジってネットの情報を集めながら、いくつか見繕った書籍の頁を同時並行でめくって、煩雑な情報たちを小さい脳ミソで処理していた。その散らかった脳内の小部屋で、先の廃隧道を見つけたのである。
 千葉県は特別高い山はないのだが、養老渓谷をはじめとしていくつもの山谷が存在する。その山谷には使われなくなった素掘りの隧道が数多く残されており、冒険・秘境好きからオカルト好きまで、その筋のマニア達の間では有名らしい。
 そんな情報を秘境好きのバイカーの日記から見つけ出し、『 むむむ、この隧道は・・・』 と調べ進むと、 “ ビンゴ !! ” 予想通りの情報が芋づる式に引っ張り出せた。あいにく県外の2万5千分の1の地形図はなかったものの、だいぶコアなところに需要がありそうな秘境本が奇跡的にも図書館の蔵書にあり、そこからルートも入手できて準備は整ったのだった。



隧道


 ルートを書き込んだ地形図を読みつつ沢を登り、不気味に口を開く廃隧道になんとか辿り着くことができた。この入り口に到達することで、今回のフィールディングの7割方の目標は達成できたといえる。残りの3割ばかりのお楽しみはこの闇の中。
 入る前に諸々の準備を整えている2人だが目の前のワクワクで、潜めるよう努めていた声でさえ熱がこもっているのがわかった。まるで小学生のときに近所の山を探険したような、淡く微笑ましい少年時代の冒険心が呼び起こされる。この歳になってもあの時の感情は持ち続けているみたいで、それが今や近所の山だったのが、アクアラインを越えて車で移動できるほどの行動力が伴なっているだけだ。そんな熱い冒険心の炎で “ 心のたいまつ ” を燃やし、暗い隧道へと足を踏み入れる。





キクガシラコウモリ
キクガシラコウモリ Rhinolophus ferrumequinum


 中はジメっと湿度が保たれ、ぬかるんだ地面を踏みつける 「 ネチャッ、ネチャッ、」という不快な音が暗い隧道内に反響していた。まるで何かデカイ化物に喰われて、出口を求めて腹の中をさ迷っているようなそんな感覚。
 隧道に入ってしばらくすると、天井からぶら下がるキクガシラコウモリを見つけた。これです、これです、これなんです !! 見たかったというのは。この光景を見るために3時間弱もかけて険しい山道を登ったり、飲み物を忘れたとかいうTOGUくんに私の慈悲で貴重なお茶をくれてやったりしたわけです。


 本種は休眠時に翼で体をすっぽり覆い、洞窟の凹凸に指を引っかけてぶら下がっていて、まさに我々がイラストで目にするようなイメージ通りのコウモリである。これを見た途端、 「 いたぁーーーっ !! 」 と小声を出すときの喉の狭め方で、それでも声量は抑え切れていないような興奮混じりの声が出てしまった。だが多少の物音では彼らは動じず、せいぜい隧道に入り込んでくる風や己の身震いでブラブラと揺れる程度だったので、真下まで接近して観察することができた。



キクガシラコウモリ
キクガシラコウモリ


 奥の天井にも光を転じてみると、そこには夢に見たような、たくさんのキクガシラコウモリがぶら下がっていた。蝙蝠団子になった彼らは翼をたたみ、ふわっふわの体を寄せ合ってまるで何か一房の果実のようだった。こいつらはしきりにモニモニ動いて互いを暖め合っているいるようにもみえた。毛色も栗色で温かみがあり、薄汚さはまるでない。
 それでいて覚醒している個体もおり、右上の個体はつぶらな瞳でこちらの様子を窺っていた。



キクガシラコウモリ
キクガシラコウモリ


 もぎ取れそうな位置にも実っている。もう表現としては壁面に 『 とまっている 』 ではなく 『 実っている 』 だ。荒い鼻息がかかりそうなほど近づいて、 「 すげーすげー 」 とアホな言葉しか出なくとも、彼らは動じない。
 これじゃあ本当に果物じゃないか。そうかこれがフルーツバットだな !! (違うか笑)



キクガシラコウモリ
キクガシラコウモリ


 寝顔のチラリズム。猛烈可愛らしい。典型的なコウモリのブタ鼻イメージの顔でブサイク顔だと思っていたが、至近距離のもふもふでこの顔は可愛すぎる。
 この特徴的な鼻は鼻葉という器官で、キクガシラコウモリ上科のコウモリが有する。他のコウモリが口から超音波を出すのに対して、彼らは鼻葉で音波を収束して発しているため、より高度なエコーロケーションを可能にしている。

 この鼻葉はブタ鼻に例えられるだけでなく、英名ではHorseshoe bat というように馬蹄とされたり、和名では菊頭とされたり、属名のRhinolophus が【サイの ( Rhino- ) とさか ( lophus ) 】 とされていたりと、多岐に渡っている。中でもサイのトサカというのは一見遠いようにも思えるが、鼻葉の後葉 ( 顔を正面からみて上部 ) が角のように三角に尖っているので、言われてみれば確かにそれもアリだなと。むしろ私はそれを推していきたいな、 “ ライノロプス ” という響きがカッコ良すぎる。





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ユビナガコウモリ Miniopterus fuliginosus


 岩の割れ目には2個体のユビナガコウモリを見た。彼らも大集団で蝙蝠団子を形成する写真を見かけることが多いので、今回はたくさん見られるんだろうと高を括っていたのだが、今回はこの2個体のみだった。あとはひたすらキクガシラ、キクガシラ。コキクガシラコウモリR. cornutus も見られると思っていたのに・・・

 和名の通り、本種は指骨が長いため翼が細長い形態をしている。その形によって素早い飛行が可能になり、広い行動圏で多くの餌を獲得する。
 反対に前述のキクガシラコウモリの仲間は翼が幅広く短い形をしており、小回りの効く形態なので森林内を自在に飛び回って飛翔昆虫を捕らえることを可能にしている。
 同じ洞窟性である2種のコウモリだが、翼の形は大きく異なる。


 また最近知ったのだが超音波の高さもこの生活様式に関わりがあって、低い周波数は空気中に吸収されにくく広範囲まで届くが、反響したものの細かい形までは解析できない。
対して高い周波数は距離こそ遠くまで届かないが、細かい姿形を認識できるようである。
つまりユビナガは低く、キクガシラは高いというのだ。
すると面白いことに、それぞれの狩り場にあった翼の形・超音波の高さを持っているようで、下の図のように大きく分けて2つのタイプに分かれるようだ。



洞窟性コウモリ表
洞窟性コウモリ2種の形質と生態


 キクガシラコウモリのように入り組んだ林内を飛び回るコウモリは、小回りの効く幅広い翼で、高い周波数の超音波によって獲物と障害物とを認識しながら狩りをする。
 対してユビナガコウモリのように開けた土地を飛行するコウモリは、羽ばたく力の強い細長い翼で、遠距離まで届く低い周波数の超音波によって広範囲に渡って狩りをする。

 つまり両種が同じ洞窟に生息していても、形質の違いによって狩り場が重複せずに棲み分けができているようだ。改めてよくできてるなと感心させられる。それぞれがその道のプロハンターなわけで、そうなるように進化したのだろう。
 今回はキクガシラコウモリが多く良く観察できたため、また私の好きなテングコウモリMurina hilgendorfi もキクガシラコウモリと同じく広短型のコウモリなので、どうやら私はこちらのグループが好きなようである。やはり時代はライノロプスだぜ。







 そして迫る夕闇から逃れるようにして急いで下山。隧道に辿り着くまででずいぶん時間がかかったのだから、多少下りだとしても帰りもそれなりの時間がかかる。しかも昼食はアルフォートのホワイトだけ。エネルギーが足りなさすぎる。
 車で市街地に戻ってくるまでに辺りは真っ暗で雷鳴轟き、大粒の雨が降ってきた。もう少しのんびりしていたら大変だったなぁと安堵しつつも、本当はもう一か所ポイントを巡りたかったのだが悪天候により断念したのが悔しい。

 まぁそれよりあとはメシだ。せっかくだからおいしいお魚の天丼やら海鮮丼を食って帰ろうと話していたはずだったのに、昼メシを逃したのが痛手だった。もう 『 肉をたらふく食いたい !! 』 という男子高校生的食欲になっていたので、駅前の牛角で焼き肉食い放題にした。わざわざ来たのに全国展開の焼き肉を選んでしまう状況が悲しい・・・
 でもやはりフィールド後だからうまいうまい。やっぱ肉ですよ肉。海鮮の事なんかすっかり忘れて、目の前のカルビどもをひたすら胃袋に送り届けた。
 んでデザートは1品だけだったので、欲張ってそのジャンルに入らない 『 黒糖おさつバター 』 という大学芋みたいのを最後にアイスと共に注文したのだが、そろそろ最終バスの時刻が迫ってきていた。猛ダッシュでデザートを頬張っていたらまさかのTOGUくんの裏切り 「 いもはいらん 」 発言。
 もうね、肉で腹ぱんぱんだっつうのにいもなんか入んないっすよ、一人じゃ。彼の発言には耳を疑いましたよ。んでアイスでいもを流し込むという荒技で全部おなかに詰め込んで、最終バスにギリギリ間に合いました。
 どうしてこう帰りはギリギリになっちゃうんだろ。西表島の帰りにルートビアおかわりしまくってたのと変わんないな。

 まぁTOGUくんには感謝感謝ですよ。道中文句言いまくったけどね、彼がいなかったらこんなフィールドには来れませんから。また、オオキンカメムシEucorysses grandis のときはよろしくお願いしますよー。




キクガシラコウモリ
キクガシラコウモリと隧道


 バスに揺られて夢をみた。まだ隧道の中にいた気がする。コウモリと特徴的な形の素掘り隧道の情景が忘れられない。またどこかにコウモリを探しに行こう。



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Comments
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月光守宮君と行った時に行けなかったもう1か所に昨日1人で行って来ましたよー。

結果はキクガシラ3、コキク数百、モモジロ1、ユビナガ4でした。
モモジロ、ユビナガは識別不安なので写真見せるからご意見下さいな(笑)

また時間が合えば今度は一緒に行きましょう。
次回はポンコツ、じじい、死亡フラグ等の暴言が出ないと信じてるよ(笑)

ちなみにいもは君が先走った結果なので私は無関係ですよ(笑)
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>> TOGUさん

やはり千葉は魅力いっぱいですな。
コキクわんさかは羨ましいね。
写真で識別はなかなか厳しいっすな、Myiotis はわからんよ。

暴言に関してはキミのステータス的な問題ですからね。
キミが自分磨きをしてくれていればそんな暴言は次回から出てきませんとも、もちろん(笑)
ただ芋についてはずっと言っていきますよ。
友人なら同じ困難を越えてほしいです。

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