月明かりにヤモリ

Moonlight Gecko

Category: 両生類  

観察に伴なう喜びと憂い

ヒダサンショウウオ
ヒダサンショウウオ Hynobius kimurae


 両生類カテゴリーもついに100件目。記念すべき記事は先週、粉雪が時折パラつく寒い沢で見つけたヒダサンショウウオ。
 冷たい水の中に手を入れ、そこから青紫色に妖しく艶めいた山椒魚を取り上げたとき、ようやく私の冬がやってくる。見つけた興奮で全身から湯気がほとばしり、それが外気との温度差で可視化されてモクモクと私を取り囲む。そう、この外気と私とのギャップこそが冬であり、その靄の中にいる山椒魚は冬の化身なのである。それも卵を腹に持った抱卵メスだったので、なんともありがたく、かといってこれから産卵なので撮影によって負担をかけ過ぎないようにしなくてはならない。うっすらと卵が体内から浮かび上がり、その部分だけが青紫の体表を赤紫に変える。


 久々にコケの上で図鑑で見るような写真を撮った。産卵のため沢に降りてきた山椒魚は石の下に身を潜めているため、あまり生態的な写真ではないのだが、図鑑等で見慣れた光景なだけにむしろ違和感がなくなってきた。もしかしたら沢に降りる際に、水分を多く含むコケの上を移動してやってくるかもしれないので、キッパリと不自然だとも言い切れない。
 ただ実際にフィールドで見つけている人間からしたら 「 あぁ、コケに乗っけて写真撮ったのね 」 ってな印象だろう。そんな気持ちもあって今まであまりそういう撮り方を率先していなかったが、案外フワフワのコケの上に黒眼がちな山椒魚ってのも可愛くて良いなぁと思った。



ヒダサンショウウオ
ヒダサンショウウオ


 こちらは “ 流水性 ” というのを全面に出した写真。このパターンのはよく撮りがちで、写真を見返してみると多い構図。説教臭いというか説明的なもので、実際にこのシーンを見ることはほとんどないのだが、脳内のイメージとしてはこれが流水性山椒魚。流水に産卵しに来ますよーって。

 本種を探しているとたまに渓流魚を見かける。今まではヤマメOncorhynchus masou が多かったように思えたが、今年はイワナSalvelinus leucomaenis が多く、小さい個体はヒダサンショウウオに似ていて紛らわしい。というのもイワナの体表面には明るい斑点が散りばめられていて、ヒダサンショウウオの黄色い斑模様に酷似する。
 渓流に棲まう生き物同士、同じようなパターンを持っているので何かしら生態的に有利に働く形質なのかもしれない。上からのパッと見が似ているので、水上からの隠遁効果があるのだろうか。それとも水中で異性に出会う確率を上げるために、認識しやすい模様なのか。はたまた単なる偶然の一致か。


 渓流魚は増えているが、幼生をほとんど見かけない。今回なんて越冬幼生は1個体も出会えていない。果たしてそこに因果関係はあるのだろうか。
 単純に考えるなら渓流魚が食ってそうなもんだけど、産卵期に探しに来ているので私のフィールデイングが彼らの産卵に影響している可能性も当然捨てきれない。観察は少なからず環境改変にも繋がっているので、大げさに言えば自然破壊でもある。私が沢に入ることで山椒魚は落ち着いて産卵できず、結局うまくペアリングできずに終わってしまうこともあるだろう。そしたら翌年には越冬幼生には出会えず、幼生に出会えないということはその前年の産卵がうまくいかなかったのかもしれないということ。
 越冬幼生が見られなかったのを渓流魚のせいにして自分は無関係、という姿勢をとるのは容易だが、それはあまりにお粗末というか悲しいなと感じた。なんだか非常に申し訳ない気持ちになった。自然との距離間だとか自分の立ち位置だとか、そこら辺のバランスを改めて振り返らなくてはなと思う。
 新年早々のフィールドで課題が浮上。自然にとって悪い行ないだとは思う一方、それでも楽しみたいという自分がいる。
節度を守って付き合っていくんだろうけど、その節度がいかほどか。ゆっくり考えよう。





凍滝(いてだき)の

 春を待ちたる

  山椒魚

            月光守宮







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Comments
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サンショウウオの撮影は気を使いますね。メスは怖いぐらいです。
周りの研究筋の方々を見ている限り、多少触った程度では繁殖活動を中止することはないのかな?と思ってます。まぁ写真を撮る個数を制限しておけば大丈夫ではないでしょうか・・。
ただ自分のホームフィールドでは最近飼育用に採集する連中がいて、これはなかなかタチが悪いです。

渓流魚に関しては、放流ではないですか?
サケ科の渓流魚がサンショウウオが産卵するような原流域で、しかも首都圏(でしたよね?)で普通に見られるのは若干違和感を感じます。
とは言っても状況が違うのかもしれませんが。

拙い自分の経験ではサンショウウオは魚類をかなり嫌がるように感じるので、そのサイズの魚類がいる場所で産卵しているのはなかなか興味深いです。
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>> Nyandfulさん

渓流魚に関しては放流の話を聞いたことがあります。
ただ元からいたところなのかどうかはわかりませんね、彼らの生息環境も勉強不足でわかりませんし。
ずいぶん浅いところにいたりもしますが、小滝の落ち込みにいるのが主です。
体感的にですが渓流魚は増えていてそれに伴ってサンショウウオを見る機会が減りました。

観察による影響ですが、私1人ならばそれこそそんなに影響は出ないと考えております。
ただその沢には私以外にも観察に来る方が多くいるので、1シーズンの内に何度も石を起こされるというのが懸念しているところです。
そういう意味では私が観察を控える(といっても別の沢に行きますが)ことが、負担軽減になるのかなと。
こういうのは何事も気がついたときは手遅れだったというのが世の常ですが。

>ただ自分のホームフィールドでは最近飼育用に採集する連中がいて、これはなかなかタチが悪いです。

飼育採集も節度が大切ですからね。
特にサンショウウオなんて飼っていてもあまり姿が見られず、所有していることに喜びを見出すくらいしか楽しみがなさそうな生き物ですものね。
それでもやっぱり欲しいという気持ちというのは仕方のないことですが、お金が絡み出すとめんどくさくなりますね。
そうならないことを祈ります。


カスミもいろんなのがいるようで関西方面も面白そうですね。
高地型とか素敵です。

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自分も渓流釣りはやっていましたが、元々渓流魚がいる川でも放流するのは良くある事です。ほとんどの釣り人には地域個体群とかそういう概念がないので、無茶苦茶なことになってると思います。
まぁ渓流魚は数が少ないですし放流しないと釣り人の需要に追い付かないのでしょう。自分の地元の川では源流近くから幼魚を流すので、しばらくは上に残っているようでした。

まぁある程度アクセスが良くて、釣り人が入っている川ならほぼ間違いなく放流が行われているのではないでしょうか。もし全て天然なら逆に物凄く貴重かと。
結構ネットでも放流記録が載ってたりするので、もしかしたら確認できるかも知れませんね。

観察者の影響もあるんですかね・・。
特に流水性に関しては、結構重要かもしれませんね。
自分が以前通っていたポイントでは、飼育屋が沢岸も削ってだいぶ荒らされたので、それ以来行っていません。保護種になればそれはそれで採集者が増えるでしょうし、難しいですね。仰る通り飼育向きではないので、飽きる人が多いようですが。

カスミ以外にもタワヤモリやオオサンショウウオやら関西ちっくな生物は一通り見れるかと思います。
良ければ是非是非。
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>> Nyandfulさん

釣り人が入っているかどうかは微妙なところですねぇ。
入り辛い場所ですし、冬しか行かないのでまず出会う機会もないですし。


数が少なくなって「希少種」と呼ばれることが、むしろ減少に拍車をかけるというのも皮肉なもんですねぇ。
“激レア”なんていう下賤な表現で訳の分らん価値をつけられるのは見るに堪えません。
守るという意味では以前Nyandfulさんがおっしゃっていたように法で固めるというのが堅実な方法ですね。


関西は魅力的ですね。
タワヤモリはもちろんのこと、タゴガエルとかも見てみたいです。
あとコウベモグラも見たいっす。
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