月明かりにヤモリ

Moonlight Gecko

Category: 爬虫類  

ネズミのいなかったその島で

 夜の1人ドライブはなかなかに眠い。昼間に聞く沖縄ラジオはゆるくて気持ちがほぐれるので快適なのだが、一晩中その気の抜けたトーンを聞いていると、ついウトウトと眠気を誘われる。こりゃいかんと、商店でテキトーに買ってみた謎の洋楽(200円の中古CD)をかけてみるものの、なんだか宗教的でクレイジーな曲だったから、こっちはこっちで頭が痛くなって疲れる。


パワーギア
パワーギア 

 そんなツライ夜の運転にはコレ。オロナミンCみたいな味がして500mlもあるハイパーエネルギーチャージ飲料。このパワフルなドリンクが自動販売機で120円という破格の値段で販売されていて、味がちょいと薄めなので500mlを軽々飲み干してしまう。
 ひとたび口にすれば三日三晩ハンドルを握り続けられるほどの覚醒が得られるエナジー飲料。パッケージの草野仁似の「チバリヨー!」(がんばれの意)がイカしているもんだから、そのイメージが強くて商品名よりチバリヨーと呼んでしまう。またごく一部の人間はパワーギアを飲んで夜の生き物探しをもう一踏ん張りすることを “チバる” という。普通に沖縄方言で言えば “頑張る” の意味だが、なんだかスペシャルな言い回しな感じがして、「ヘビ出ねーなぁ、ちょっとチバろーぜ」みたいに一服の感覚でも使える。
 買うところはいつも決まった自動販売機で、一度西表でチバったことがある人は写真の風景で「あぁ、あそこね」となるはず。これでひとまず充電をして夜のドライブを続けた。


 今回はずいぶんと乾燥していてヘビの出がよくなかった。また私の興味の対象が広くなったからだろうか、大学1年の春合宿で体験した “1晩で64匹のヘビを見た” あの衝撃の体験がまるで夢のよう。それでもなんとかヘビたちに出会えたのは、チバったおかげだろう。


サキシマスジオ
サキシマスジオ Elaphe taeniura schmackeri


 日中道路を塞ぐようにびろーっと伸びているのを見つけるパターンが多いが、今回は夜の横断中だった。眠気は一気に覚める。もう3回チバるのと同等くらいに覚める。
 先に書いたように西表にはあまり雨が降ってなかったようで、道路上に落ちている紛らわしい木の枝は少なく、『明らかにヘビ』というシルエットがハイビームのライトに照らされた。

 スジオナメラの先島諸島亜種で、種としては日本のヘビの中でとりわけ分布域が広く、インドから中国東部、台湾やボルネオ島、そして日本と、固有種の多い日本のヘビ類では珍しくワールドワイドなヘビである。分布が広く、ビルマスジオE. t. callicyanous (※)も含めれば8亜種にも分けられるほど地域間で体色や食性にも違いがみられる。マレースジオE. t. ridleyi の体は幽玄な前半部とスタイリッシュな後半部とのメリハリがきちっとしていて美しく、さらには洞窟に生息してコウモリ類を食らうという珍しい食性も持つ。
 その中でサキシマスジオは東限の個体群 (沖縄本島に帰化したタイワンスジオE. t. friesi を例外として) で、日本のヘビ類の中で最も大きなヘビである。顔はアオダイショウE. climacophora に似ていて眼の後ろに黒いラインが走り、下側は乳白色・上側は褐色という体色だ。さらに腹面には側稜があり木にもよく登るあたりもアオダイショウと似た特徴を持ち、さながら先島諸島のアオダイショウといったところだろう。
 アオダイショウよりも面長な顔でシュッとしていてイケメンな面構え。同じく西表島に生息するイワサキセダカヘビPareas iwasakii なんかと比べたらずいぶんと端正な顔立ちだ。


 私の中でこのヘビは鳥屋が見つけてくる印象。サークルの合宿で登山道をみんなで歩くと、狙う対象によって足並みにズレが生じてくる。両爬や蟲を探している者は後ろでのろのろと、鳥を探す者はさっさと先を進み、我々が後ろの方でサキシマキノボリトカゲJapalura polygonata ishigakiensis やイシガケチョウCyrestis thyodamas でワーキャーやっている間に、リュウキュウキビタキFicedula narcissina owstoni を見たりしていた鳥屋たちはサキシマスジオも見ていたようで、昼飯時に合流した際に「スジオいたよ~、見なかった??」とさらっと自慢されるヘビなのだ。別の日もミフウズラTurnix suscitator 探してたらキビ畑で見ただの、なんだか鳥屋に縁のあるヘビのイメージ。それがようやく自分の手柄で見つけられたのは嬉しいかぎりだ。


サキシマスジオ
サキシマスジオ


サキシママダラDinodon rufozonatum walli やサキシマハブProtobothrops elegans は条件が悪くとも見かける機会が少ないわけではないが、その次がなかなか出ない。6日間の旅なんだからその2種の他にもう2,3種見られるだろうと思っていたのに、結局それ以上にはならなかった。まぁ、海浜性のハエにたかられて逃げ出すくらいですからね、そりゃあこの体たらくですわ。このスジオが出なかったら散々だったわけだ。今回はこの個体の他に亜成体くらいの別個体も見た。
 あと特筆すべきはクマネズミRattus rattus の目撃頻度。以前に比べてはるかに見かける機会が多く、キビ畑や道路だけでなくキャンプ場をもうろついているほど広い範囲で何度も目撃した。
 実は西表島はヘビの種数が多い割に(多いからこそでもあるが)ネズミ食のヘビは少なく、陸生ヘビ類10種のうちサキシマスジオとサキシマハブだけである。というもの元々西表島にはネズミ類はおらず、小型哺乳類としては食虫類のジャコウネズミSuncus murinus かコウモリ類がいるだけで、クマネズミは後から入ってきた生き物なのだ。そのため同じ大きさのネコ科に比べて珍しく、イリオモテヤマネコPrionailurus bengalensis iriomotensis は小型哺乳類だけでなくクイナなどの鳥やカエル・トカゲといった両爬や昆虫、甲殻類なども多く食べる幅広い食性を持っている。同じく日本に生息するツシマヤマネコPri. b. euptilurus では獲物の約80%がネズミ類という報告もあるほど他のネコはネズミを食べているのに、イリオモテヤマネコはこのネズミのいなかった西表島をその広い食性で生き抜いたという。
 その島にクマネズミが侵入し、ヤマネコのメニューにも追加されたわけだが、ヘビたちにも追加メニューだろう。以前リンク先の『T.Room of hobby 2』のtakaさんが西表島の道路でクマネズミを飲み込むビッグサイズのサキシマハブを撮影されていた。なんとも興奮する写真で、まるでタイワンハブPro. mucrosquamatus のような個体だった。
 おそらくスジオも食っているだろう。それで栄養状態が良くなって増えたのか、この私が2個体も見られるなんて。
 クマネズミも外来種・外来種と言われるが、ペットや動物園から逃げて帰化しているわけではなく、人間の生活圏に近いところに生息域があり、我々人間を利用してうまく分布しているわけだから、ジャワマングースHerpestes javanicus やオオヒキガエルRhinella marina などの外来種と同じカテゴリーに入れてほしくはない。彼らの戦略で海を渡りやってきたのだから、『ガンバの冒険』みたいなもんだ。
 良い悪いは別にして、その恩恵と被害は西表島を変えてゆく。その流れで私はサキシマスジオに会ったのかもしれない。そんなことをぼんやり考えながら、少し残っていたパワーギアを飲み干してドライブを続ける。しかしその後はヘビが全然姿を現してくれなかった。






(※) ビルマスジオの亜種記載はElaphe 属を細分化したOrthriophis 属でされていて、属名が女性名詞から男性名詞に変わったことで、種小名もtaeniura からtaeniurus に変わった分類を採用していた。
私の今回の記事ではスジオナメラの属名にまだ保守的にElaphe を使っており、本来ならばビルマスジオの亜種小名callicyanous を女性名詞に合わせて語尾変換をしなければならないのだが、私に学がないのでわからずそのままcallicyanous を使用しているのをご了承いただきたい。ビルマスジオの学名をちゃんと扱いたい人はOrthriophis 属のほうのを使うか、callicyanous の語尾変換をして使っていただきたい。



1. 圧倒的生命力に溶けてゆく
2. セマルで合わせる “ 島時間 ”
3. WINGS
4. あめあめふれふれ
5. 待ち人 来たる
6. 川底の大鋏
7. ネズミのいなかったその島で
8. 第二の故郷はいつ帰っても暖かい
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