月明かりにヤモリ

Moonlight Gecko

Category: 草本類  

待ち人 来たる

 今回は時期も過ぎていたため、花は諦めて訪島した。「シダとかサトイモの素敵な葉っぱが見られれば良いだろう」と特に期待もせずに、緑生い茂るジャングルをかき分け、すばしっこいトカゲたちをアダンの棘に刺されながらも追いかけていた日のこと。
 昼を過ぎてトカゲたちは充電を完了させ、俊足で深緑の中へと駆け込み相手をしてくれないし、私は私で昼メシで腹を膨れさせ、そろそろ昼寝でもしたい気分になっていた。ウトウトと、意識も朧げながら無意識に上へ上へ、前へ前へと足は運び、森を抜けて山のだいぶ上の方に出てきた。低地の鬱蒼とした林内とは打って変わって、日光の照射量が多いこの頂付近はまた違った西表島の顔をみせる。




コウトウラン
コウトウラン Spathoglottis plicata


 環境が変われば棲む生物も違い、植生は目に見えて顕著である。自分の狙いの外側にいる想定外の素敵な生き物に会うには、様々な環境を歩いてみるのも手だ。こういったランもその一端で、夏に花をつける植物なので予想外の出会いだった。
 可愛らしいピンクの花弁を数個つけ、日当たりの良い山の斜面に生えていた。強い日差しを受けて、淡い桃色の影を地面に落とすその美しい光景に出会えて、本当に良かった。いくつか枯れつつあるものの、私を待っていてくれたようだった。




ナリヤラン
ナリヤラン Arundina graminifolia


 待ち人は一人ではなかった。おそらくおみくじを引いていたならば『待ち人』の項目には「来たる」とでも書いてあるんじゃないだろうか。なんと憧れのナリヤランまでこの目で見ることができるとは思いもよらなかった。
 「洋蘭のカトレアCattleya を思わせるような~」そんな表現をいろんな書籍やネットで見かけるが、まさにその通りだと感じる。豪華なドレスをまといしその花は、日本の花というよりかは洋風な趣で、肌寒い関東を抜けだし遥か異国の暖かい地で桃源郷でも見ているのかと思わせる。
 こちらも初夏から夏に咲く花なので遠目で見つけた私は、砂漠を彷徨って見る蜃気楼のオアシスのような、幻に近いモノを感じた。「図鑑を読み過ぎたからだろうか」 「暑い林道を歩き回ったからだろうか」 そんな蜃気楼の原因を考えつくより早く私の足はそのオアシスに辿り着き、蜃気楼ではなく本物のナリヤランだという事実に歓喜した。
 西表島探索のバイブル【西表島フィールド図鑑 横塚眞己人著】の表紙にも登場する花で、西表島を代表する花といっても過言ではない。この本によるとナリヤランの和名“ナリヤ”というのは西表島の内湾に浮かぶ内離島の成屋(なりや)集落に由来するという。ただその成屋集落は1920年に廃村となってしまったようで、現在内離島は無人島となっている。
 採炭や戦争など様々な歴史を経て、内離島からは人がいなくなり、成屋集落は消滅していった。私が蜃気楼のように感じたのは蘭ではなく、集落の方の“なりや”だったのかもしれない。この花は、そういった歴史を背負い込んでいるからこその美しさがあると思うと、なんだか感慨深い。ただただ姑息な盗掘者に狙われないことを願うばかりだ。




イリオモテヒメラン
イリオモテヒメラン Malaxis bancanoides


 そしてもう1種ランを見つけた。それがこのイリオモテヒメラン。日当たりの良いスポットライトを浴びたような前述の2種とは異なり、薄暗く湿度の高い森の中にひっそりと咲いていた。
 一見しただけではランに見えない、このラン。実は無数の小さな花が集まっている。


イリオモテヒメラン
イリオモテヒメラン


 コレでランなのだから、ランの多様性にはいつも驚かされる。進化とはここまで生き物の見た目を変え、人々を魅了するものだとは。まるで小さな顔がたくさん集まっているような、妖精の集合体のような、とても奇妙な花の集まり。
 なかなかの斜面に生えていたので、写真を撮る体勢はツライし、暗いのでシャッタースピードが上がらずブレるブレる。そのためこの暗くジメジメした森で長時間じっとしていたため、蚊の猛攻を受け続けていた。南西の蚊というのは厄介で、このかゆみがなかなか引かない。そして帰宅後3週間ほどはかゆみは引かず、今も刺された後は残っている。ただまぁこの時期にこれだけランが見られたから、その代償としては軽いものだろう。




 行く前には予想もしていなかった花々。ゆえに目に入った瞬間、心に一輪ずつ花が咲いて島を去る頃には花びらで満たされた。なんと素晴らしい花旅だろう。




1. 圧倒的生命力に溶けてゆく
2. セマルで合わせる “ 島時間 ”
3. WINGS
4. あめあめふれふれ
5. 待ち人 来たる
6. 川底の大鋏
7. ネズミのいなかったその島で
8. 第二の故郷はいつ帰っても暖かい


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