月明かりにヤモリ

Moonlight Gecko

Category: 草本類  

道に迷わば妖しげな花、そして背後より闇

カントウカンアオイ
カントウカンアオイ Asarum nipponicum


 新たに買い替えた登山靴の履き慣らしということで低山を登る。履き心地は登りでは上々であったが、下りでは紐の結びが甘く、中でズレてキュピキュピ情けない音がついてくる始末。締め直したら見事にフィットしてサクサク進めた。うん、良い感じだ。しかし低山だと舐めてかかり出発が遅かったため、山頂付近ではすでに太陽が帰り支度を始めていた。それに加えて初めての山だったので、途中車道に出て右に曲がるところを、誤って左へと進んでしまった。いくら行けども通過するはずの隧道に辿り着かず、車道は川に沿ってただただ蛇行するだけだった。
 そうこうしている内にいよいよ辺りは暗くなってきた。道を引き返すかどうか悩んで歩いていると、川側の崖に見覚えのある葉っぱが。「あっ、カンアオイ。」そう思うのと同時に反射的に葉の裏を覗き込むと、あの妖しげな花と目が合った。辺りの岩壁を見てみると数株のカンアオイが咲いている。私の知るカンアオイは土壌豊かな林床で落ち葉に埋れながら花を咲かせている植物で、まさかこんな土壌と呼んで良いのかわからない岩の窪みに溜まった土から生えているとは思いもしなかった。さほど深く根を張らないのか、岩の割れ目から懸命に根を張っているのかわからないが、とにかく以前見たカンアオイの環境と比べて明らかに過酷な場所に根を張っていた。
 カンアオイの仲間はアリによって種子散布を行っているため、分布拡散速度が非常に遅い。そのため各地域で種分化しているのだが、よりによってこんな岩場に運ばれてしまうとは。そんな文句も言わずに懸命に咲いているカンアオイは美しかった。

 「暖かくなったらこの岩場近くでアリ探しをしよう。」そんな呑気な決意をした後に思い出した。そうだ、今は道に迷っているんだった。思い切って来た道を戻り、本来向かうべき右の道を進むとすんなりと隧道が姿を現した。隧道は200mほどの長さで明かりも無く、不気味な口を開いていた。本来なら陽も落ちていなかったので隧道を抜ければ闇から抜け出せたのだが、カンアオイに夢中になっている内に陽は沈んでしまっていた。

 つまり闇を抜けても闇。

 久々に怖かったなぁ、ああいうとこ。真ん中に差し掛かるのがドキドキだし、背後が妙に気になるし。隧道を抜けても下山できたわけではないので、民家に辿り着くまでなかなか気が抜けなかった。
 登山的には失敗だったかもしれないが、生き物屋的には素敵な生き物に出会えたので成功だろう。
道を間違えたことで出会える命もあるということだ。




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