月明かりにヤモリ

Moonlight Gecko

Category: 草本類  

秘すれば花なり、秘せずば花なるべからず

サガミジョウロウホトトギス
サガミジョウロウホトトギス Tricyrtis ishiiana


生憎の大雨で断念した山登りだったが、そのチャンスは再びおとずれた。
それは大雨の日から4日後の、薄っぺらい雲が空を覆い隠すくもりの日だった。
どうしてそんなに事を急いで山に登るのかというと、
8月下旬から9月上旬までのわずかな時期にしか咲かない“ある花”を見たかったからで、
この時はすでに9月の2週目であったのだ。
下見で丹沢縦走してこの時期ともなれば、察しの良い人なら何を求めているかわかるだろう。
といっても生き物屋よりか山屋や沢屋の方々に有名な気がするが、ブログなんかをみてると。


前回の丹沢は山小屋泊までしたわけだが、今回は日帰り。
つまり途中の撮影はできるだけ控え、かつ強靭な足腰で早急に歩みを進めなければならないのだ。
その花は丹沢の限られた地域にしか自生しておらず、
沢沿いのあまり陽の当たらない岩壁にひっそりと生えるという。
下見で見当をつけた場所へと足早に進み、順調に昼食も済ませてそこへ辿り着いた。



谷底からひんやりとした風が吹き上がり、
薄暗い岩壁には苔が鱗のようにビッチリと覆っている。
その鱗の隙間をなぞるように見ていくと、
重たそうに黄色い花をつけた植物が垂れ下がっているのが見つかった。
「あぁ、頭の中で描いた通りの光景だ・・・」
植物に興味が出てきて単子葉類に気持ちが偏り、
ユリの仲間に惹かれてホトトギスに心を奪われて。
ヤマホトトギス T. macropoda の記事を書いている時期くらいに、
実はあまり使っていなかった友人から頂いた【神奈川いきもの図鑑】を眺めていた。
そこには大きく見事な本種のページがあった。
神奈川県の県花はヤマユリ Lilium auratum であるが、
「神奈川の花といえば?」と問われれば、
間違えなく“サガミジョウロウホトトギス”と答えるだろう。
そんな憧れについに出会うことができたのだ。



そして憧れは狂気へと変貌していく。
もっと良い株を、もっとたくさん群生しているところを・・・
気がつけば沢を登っていた。
サンショウウオ探しで沢登りに慣れていたのが功を奏し、見事な群生地に行き着いた。
沢筋の苔むした岩壁から垂れ下がるいくつもの黄色は、
まるで夢を見ているかのような光景。
花が携帯アラームのベルっぽい見た目だが、
いつまでも目覚めたくないような、そんな素晴らしい風景だった。


この花はかつて園芸ブームの煽りを受けて盗掘が相次ぎ、ずいぶんと数を減らしたようだ。
うまく育てられて、すぐ近くに置けるならば。
確かにわからなくもないその気持ち。
おそらくフィールドで出会ったことのない人だったら、そうなのかもしれない。
ただ実際に自分の足で山を登り沢を登り、霞みゆく沢筋でこの花を見た人ならば、
こんな高貴で品のある花に手を出そうという考えは頭に浮かばないと思う。
それはこの花が“丹沢の貴婦人”と呼ばれるだけある。
この花を包み込むその環境の空気感が素敵で、鉢の上では到底味わえないものなのだ。



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薄暗い沢ではブレてピンが合わない。
ましてや吹き上がる風にたなびく花など。
ストロボ焚けばうまく撮れるのだが、色がうまくでないし、薄暗い雰囲気も表現しづらい。
ということで多少ブレてはいるが、発光なしの手持ち撮影でがんばる。
あぁ、なんと美しいことよ。



実はこのサガミジョウロウホトトギスは、ヤマホトトギスと同じ属なのだ。
どうにも素人には違う植物に見えて仕方ない。
植物の分類というのは難しい。
ただどうにも納得ができずに調べていると、属の1つ下の節のレベルでは分かれているようだ。
ホトトギス属 Tricyrtis は4つの節に分けることができ、

1. ホトトギス節
2. ヤマホトトギス節
3. キバナノホトトギス節
4. ジョウロウホトトギス節


3. 4. は日本固有種で構成されているようで、この国はかなり面白い土地のようだ。
私はまだキバナノホトトギスの仲間は見たことがないので見てみたいなぁ。
といってもほとんどが九州で分化している仲間なので、
行けるとしたらチャボホトトギス T. nana かな。
とにかく植物、特にユリ科の植物は猛烈に心惹かれる。
久々に心躍るフィールディングだったなぁ。




 秘なる沢

  貴婦人たちの

   花の園

             月光守宮


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Comments
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おお、これはすごいですね!ヒル地獄でもこれ見られたら我慢しちゃいますよ。来年から再び西の人間になっちゃうので遠のいてしまいますが、いつか私もチャレンジしたいです^^;
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>> ひたきさん

あら、西の人に戻るのかぁ。
そしたらキイジョウロウホトトギスのほうが近いかもね。

そしたら今年のうちにこっちで見られるのたくさん見とかんといかんね。
だいたいこういうのっていくら見たとしても「もっと見とけばよかった」って後悔が押し寄せてくるもんだけど(笑)
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素晴らしい。
しっとりと薄暗い、沢の風が吹いてくるような写真ですね…
美しいだけではなく、なんとも怪しい魅力はやっぱりフィールドで探し回って出会った花が放つオーラなのだと思います。

それにしてもコレがホトトギスと同属とは。
植物ってほんとに奥が深いですねー。
「ユリ科」と言うとどうしてもヤマユリとかが頭に浮かびますが、うちで育てている多肉植物もユリ科のものがけっこうあって、いろいろな姿をしておりマス。(まあ、アフリカ産とかですけどね)

しかしやっぱり、植物は鉢もいいけどフィールドで見たいなぁ!
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>> クマGさん

そうそう美しいだけじゃないというのが良いですよね。
完品もいいですが、どこか欠けているところにも魅力があったりしますしね。

ぼやけた風景の中からスゥーっと花がハッキリと浮かび上がるように、見つけた瞬間の喜びというのはフィールドに出ないと得がたい感動ですよね。


多肉植物にもユリ科があるんですか!?
ずいぶんと多様な科のようですね。
植物は本当に奥が深い・・・


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