月明かりにヤモリ

Moonlight Gecko

Category: 両生類  

あの日、脳裏に浮かんだモノ

アカハライモリ
アカハライモリ Cynops pyrrhogaster


私はあまり本を読むほうではなかった。
今でこそ、多少なりともミステリー小説などを読むようにはなったものの、
幼い頃はそりゃあ全くで、マンガか図鑑くらいしかページをめくらなかった。
そもそも読みたいという欲も無ければ、本というモノを気にしてさえいなかったわけだが、
小学生のうちはイヤでも本を読まなければならない場合があった。
そう、読書感想文というシュクダイだ。
図書室に行っても図鑑か、唯一のマンガであるはだしのゲンくらいしか手に取っていなかったから、
まずどの本を選べば良いか全然わからなかった。
あの頃から生き物が好きだったから何か生き物の本が良いなと模索していて、
ファーブル昆虫記にしようかとも思ったが、長そうなのでとりあえずパスした。
そうこうしているうちに目に留まったのが「イモリの天気予報」という本だった。
この本は児童書なので文章量も多くはなく、とても読みやすそうなのでコレにすることにした。


本を読むことがなぜ苦手だったかというと、たぶん想像力に欠けていたからだと思う。
ただただ文字を読むだけで、それを脳内にビジョンとして描けないからよくわからず、
既に完成されたビジュアルを持つマンガや図鑑に流れていたんだろう。
だから最初はこの本を読むのにも苦労したわけだが、
途中途中に挿絵が入るためどうにかこうにか読み進められたんだと思う。
内容としてはイモリを飼育している中で、その行動が気象と関連があるのではないかと気がつき、
それを自由研究のテーマにした話だった。
イモリが水の中にいれば翌日は“晴れ”、水槽の壁を登っていれば翌日は“雨”。
読めば読むほどに惹き込まれていて、それは私にとって“想像力が必要なお話”だけではなく、
“知的好奇心を満たすことのできるサイエンス”でもあったからに他ならない。
この本を読んで以降、イモリという存在は私にとって憧れの生き物となっていて、
近所の池や小川に探しに行ってみたものの、
近年はイモリも珍しく姿が見られなくなった生き物の1つだったので、
結局見つけられないで憧れのまま、図鑑を開くことでしか会えない生き物だった。



初めて野生のイモリを見たのは大学生になってからだったから7,8年越しくらいで願いが叶った。
1年次の実習で尾瀬を訪れた時、湿地にウヨウヨと泳いでいる姿が見てとれた。
プカプカとただ浮いている個体もいれば、盛んに泳ぎ回っている個体もいて、
想像よりも水深の深いところに棲んでいるんだなぁと感心しつつ、
ようやく念願が叶って感動がこみ上げてきて仕方がなかった。
出会う機会が増えてきても、やはりイモリに会えるのは何度でも嬉しいし、
見つけると本のことを毎回思い出してしまう。
読書嫌いの私にとってはそれほど印象に残った本なのだろう。
つい先日もイモリを見つけてそんなことを思い出した。
休耕田の水たまりでモリアオガエルRhacophorus arboreus のオタマが降ってくるのを、
心待ちにしていたイモリをひょいとすくい上げて写真を撮ったのがこの写真。
初めて撮ったはずなのだが、どこか見覚えのある構図だった。
うーんどこだったかなぁと悩んでいたら、急にフラッシュバックしてきた映像が、
先程から書いている「イモリの天気予報」という本だった。
挿絵で直接この絵があったわけではないが、著者が初めてイモリを見つけた地図の挿絵があって、
状況やら環境やらが細かく書いてあり、そこから汲み取ったイメージというのがまさにこの写真だった。
読書が苦手ながらもどうにかこうにか想像していたそのビジョンを、
10年以上も経った今、なんとか写真でそれを表現しようとしていた自分に驚いた。
こんなことってあるもんなんだ。
写真っていうのも芸術だから、その人の感性が大きく関わっているわけだけど、
その源に気がついたってすごく貴重な体験だと思う。
おそらくこれまで撮ってきた写真も、今回のように本の中のイメージかもしれないし、
映画のワンシーンかもしれないし、誰かが撮った写真かもしれないし、
何かしらのビジョンが影響しているわけだ。
そう考えると写真は如実に人を表わすモノだなと。
きっと自分の中にある何かを、カタチにしたいんだと思う。
案外、無心で撮っていた初期の写真も、拙いが自分に訴えかけるモノを持っていて素敵なはず。


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