月明かりにヤモリ

Moonlight Gecko

Category: 草本類  

大蛇より出は妖艶な天南星



コマダラウスバカゲロウDendroleon jesoensis を見た後、ようやく山頂に辿り着き、
腰を下ろしてゆっくりと昼食のおにぎりを頬張る。
やはりフィールドで食べるツナマヨは最高だなぁと、
登り詰めた両の足を労わりながら食べているとその横で、
おばさん2人が「やっぱり膀胱は鍛えなきゃダメよぉ~」とか会話してやがる。
おいおいせっかくのツナマヨが台無しじゃないか。
何を山登りでのトイレあるあるなんかをくっちゃべっているんだ・・・
そんな膀胱が気になるお年頃のおばさまだって登ってくる山だというのに、
まだまだ20代の私が足をグズグズにしている場合ではないじゃないか。
訳の分からんところで私のやる気スイッチは押され、下りは俄然やる気が出てきた。


登山ルートが複数ある場合、行き帰りで異なるルートを選択したいのは私だけではないだろう。
単に風景の違いを楽しむというのもあるが、生き物を探す上では異なる環境を見ておきたいし、
特に今回のような植物探訪がメインの場合は一度通った道は既知種ばかりなわけで、
未知種を探すならば必然的に新しいルートを選択する。
頂上から少し下ったところでその分岐に差し掛かり未知の道へと進んで行ったが、まぁ人が多い。
元々メジャーな山だし、そのルートが1番人が多いところだったのだが、
ちょこちょこ立ち止って写真なんぞ撮っているとジロジロ見られるし、
時には話しかけられることだってある。
私はあまり登山をするというかハイカー的なことはしないから慣れないながらも、
“郷に入っては郷に従え”の精神ですれ違う度、にこやかに「こんにちは!!」と挨拶してみるが、
たまに返事がないときもあってしょぼんとする。
まぁ別にそれくらいどうってことないが、イチイチ人が来る度にやるのも面倒くさくなってくる。
落ち着かないフィールディングだなぁ、ルートミスったか・・・
と、トボトボ4人目の挨拶無しおじさんとすれ違ったくらいにソレは突如として現れた。


ミミガタテンナンショウ
ミミガタテンナンショウ Arisaema limbatum



デ、デカイ・・・
まだ周囲にはろくすっぽ緑が生えていない閑散とした山の斜面に、
大蛇から突き出た妖艶な紫を帯びた仏炎苞が大きな大きな口を開けていた。
これには後退りをせざるを得なかった。
恐ろしいほどの存在感を持って、そこに立っていたのだ。
これまでの道中に出会ったテンナンショウはせいぜい大きいものでも30cmくらいだったが、
この個体は60cmくらいはあって仏炎苞だけで20cm以上はある大型のテンナンショウ。
大きな仏炎苞が怪しいのはもちろんのこと、4月初旬ということもあってまだ小葉が出きっておらず、
まるで今この瞬間に地中より這い出てきたかのようにニョキニョキと動き出しそうだし、
そもそもその小葉が出てくる偽茎部がゴツゴツとした隆起を持っていて、
ニホンマムシGloydius blomhoffii のキールのようで、いかにも毒々しい。
テンナンショウ属Arisaema の仲間は通称【蝮草】なんて呼ばれたりもするが、
この偽茎を見るとその理由がよくわかる。
狭義的な意味でのマムシグサA. japonicum もあるが、
“まむしぐさ”っていうのは呼びやすくて大体はこれを使ってしまう。
しかし両爬屋からしたら偽茎の色彩はどちらかというと、
ジムグリEuprepiophis conspicillatus 的であると感じる。
まぁキールがないからマムシとジムグリを足して2で割ったような感じが妥当だろう。



それにしたって怪しすぎるだろうコレは。
もうモンスターとかバケモノの類いだよこんなもん。
これをモチーフに植物怪獣とか作れちゃうよ。
当然ながらこんなもんを登山道で撮っているとよく声をかけられるもんだ。
基本的にはおばさんたちが多く、「これは蝮草の仲間でして~」とか
「この部分がマムシに似ているから~」などつい最近知ったばかりの知識を語っていたわけだが、
たまにピチピチの山ガールが来るわけだ!!
そうなると急に『おっふ』となって「コレスゴイデスヨネー」くらいのボキャブラリーしかなくなる。
さっきまでの饒舌な解説はどこへいったんだ。
もっと山ガールと野草トークしたいよ。
なんなんだ、このフワッとした願望は・・・




まぁ私のしょぼい話はどうでも良くて、対照的にテンナンショウがご立派なこと。
こんなん見ちゃったらしばらくはこの世界から抜け出せないなぁ。
この類いは同定が結構難しくて足踏み状態なんだけど、
逆にそれが好奇心・探究心に火を点けてどんどんのめり込んでしまう。
久々に興奮したなぁ、コレ見たとき。
あの感覚はなんとも言い表せないけども、フィールドに出るのが好きな人ならわかるはず。
私だとヒャンSinomicrurus japonicus japonicus を初めて見た時に近い。
“心が満たされる”そんなフィールドにあと何回足を運ぶことができるだろうか。



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