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Category: 爬虫類  

青の時代

アオマダラウミヘビ
アオマダラウミヘビ Laticauda colubrina


ウミヘビという存在は、自分の中で遠い存在だった。
しかしそれは自分からそのようなフィールドに出向かなかっただけであり、
彼らの棲みかに足を踏み入れることでなんとか見られる種もいると感じた。

コブラ科Elapidaeに含まれる日本のウミヘビ類はLaticaudinae亜科とHydrophiinae亜科に分けられる。
(最近では両亜科をまとめてHydrophiinae亜科とする場合もある。)
後者は比較的海に適応した特徴を備えており、
鼻孔が頭部の背面側についていて呼吸が容易であったり、
卵胎生なので陸に上がる必要もなく子を産める。
それに対して前者は鼻孔が頭部の側面であったり、
卵生であるために産卵は陸上で行う必要がある。
また腹板も両者で異なり、適応的な後者では腹板が退縮傾向を示しており、
それによりフォルムが扁平になることで泳ぎ易くなっていると考えられている。
つまり陸棲のヘビ類と海に適応したHydrophiinae亜科の中間的なグループが、
Laticaudinae亜科というわけである。
そして写真にあるアオマダラウミヘビが所属するLaticauda属がLaticaudinae亜科なのである。

私がこれまでに見たことがあるウミヘビ類はこのグループだけなのだが、
こいつらがなかなかに面白い。

ウミヘビと聞くと探すには海に潜る必要があるように感じるが、
このグループは基本的に夜行性で昼間は岩場で休息している。
なのでそこを見つけるのも手である。
また夜には浅瀬や岩場で活動している個体に出会うことがあるのでそういった場所を巡ってみる。


そして遭遇したこの写真は夜中に浅瀬を悠々と泳いでいる個体。
岩の隙間からスゥーっと姿を現し、黒と青から成るバンドが滑らかに目の前を横切る。
陸棲のヘビ類は地を這うので動きが平面で二次元的であるのに対し、
ウミヘビは海という空間を三次元的に移動するので優雅さや滑らかさをより感じる。
しばし見とれ、近づきたいと願うも相手はあのコブラ。
さすがに神経毒にはお世話になりたくない。
なので私が南西に行く前にしたウミヘビ類の勉強というのは、
バンドパターンを用いて同定することで捕獲しないでもわかるようにしておいた。
しかし今年の春に後輩たちが南西に行った際にウミヘビの同定に用いたのは、
頭部の鱗(吻端板と前額板)であった。




そこである個体をめぐって私と後輩たちとの間で【Laticauda論争】が巻き起こった。
それは学祭用に作られた1枚のポスターから始まる。


そこには今年見られた生き物の写真が散りばめられており、
その中にLaticauda属の一種(以下Laticauda sp.)が写っていた。
以前彼らが南西に行った際に見つけたLaticauda属は、
エラブウミヘビL. semifasciataとアオマダラウミヘビだけと聞かされていた。
しかし、私には写真に写っているのがヒロオウミヘビL. laticaudataに見えるのである。

後輩たちはあるウミヘビの死体を見て、アオマダラかエラブかを頭部の鱗を用いて同定していた。
そして問題のLaticauda sp.を見つけた時は頭部が岩の隙間にあり、
鱗を確認することができなかったという。
そこで「アオマダラが向こうにいたよ」という別の後輩の話を聞いて、
「ではこの個体のことだろう」と、Laticauda sp.をアオマダラと同定したらしい。
鱗という比較的安定した形質を同定に用いるというのは良いことだが、
そこだけでしか判別できないとなるとフィールドではなかなか困難である。


なのでパッと見てある程度同定できるよう私はバンドパターンで同定するようにしている。
Laticauda属3種のバンドパターンを模式的にFig. 1に示したので参考にして頂きたい。

The band pattern of Laticauda
Fig. 1 Laticauda属3種のバンドパターン比較 (真横から見た場合)
上からエラブウミヘビ、アオマダラウミヘビ、ヒロオウミヘビ


3種とも基本的には青色の地に黒色のバンドが入る。
エラブはバンドが腹面に向かうにつれてバンドが細くなり三角形に入るが、
他2種はバンドが直線的に入るという点でエラブを見分けられる。
次にアオマダラのバンドは地の幅と比べて細く、全体的に青色が多い印象。
それに対してヒロオのバンドは地の幅と同じくらいの太さで、
青色:黒色 = 1:1 もしくは黒色が大きいくらいである。
以上の点に注目すれば日本に生息するLaticauda属を同定することができる。
ただし海外産にはL. crockeriL. saintgironsiなどがこの属にはいるので、
バンドパターンのみを過信してはいけない。
また胴中央部以外であったり幼蛇であったりすると、
うまく適応されないかもしれないので注意が必要である。


これを用いると頭部が見えなかったとしてもLaticauda sp.は、
ヒロオのパターンであったので同定することができる。
と、後輩に説明したものの、「なんか雰囲気が違うと思ったんでー」とか、
「これは自分が見た個体じゃないです」と、納得していない様子。

その姿勢というのはつまり私の同定の否定に繋がると思う。
何の根拠も無しに「雰囲気」の一言で、こちらの示した同定を無き物にされるのは心外だ。
ヒロオじゃない根拠を述べるとか同定の正確性に欠ける部分を指摘するかして、
反論してもらわないとこちらとしても納得できないところである。



生き物にはイレギュラーな個体などがいるため、
同定にはできるだけ多くの形質を用いるのが望ましい。
それなのに私の同定を「雰囲気」という曖昧な言葉で否定されたくない。


私もプロでないので同定ミスなんて山ほどしてる。
それを恥じて隠すのではなく具体的な内容でディスカッションすることで、
自分の同定スキルや知識がステップアップするのではないだろうか。


なんかまじめに長々と書いていたらウミヘビ見たくなってきた。
今度はHydrophiinae亜科のウミヘビも見てみたいなぁ。


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Comments
Edit
大昔に自分のブログに載せたLaticaudaをもう一度見てみたんですが、なんかアオマダラよりもヒロオっぽいですね(^_^;)そうであるなら直しておこうかと思います。

なんか、やはり他人の言うことを鵜呑みにせずに自分で調べなければダメですね。両爬に関しては周りに見る人が多いのでその人たちの言ってることを信じてましたが。


まあ、自分の意見をどうしても曲げない人というのはどこにでもいるもんで、そういう人たちは何かしら理由をつけてでも抵抗してきますからね。私の場合、バカバカしくなって相手の言うことをさっさと認めてあげちゃいますが(笑)

ただ、生き物とか学術的な側面をも持つ趣味に関してはなかなかテキトーにはいかないとこもありますよね~。まあでも、その人が世間に対して大きな影響力を持っている人でなければ、間違ってても認めてあげて、無視するのが一番ではないでしょうか(^^ゞ?
Edit
>>ひたきさん

Laticaudaってネットとか見てるといろいろ誤同定が多くて、だいたいがエラブにされる感じだしね。
見る人によっては違うように見えるけど、わからないと全部同じに見えちゃうんでしょう。
自分は逆に鳥がほぼ同じに見えてしまうので、ひたきくんの同定をいつも信用してますよ(笑)

生き物って多種多様だから全部を網羅するって厳しいし、それで近くに専門の人がいれば頼ってしまう気持ちはよくわかる。
だからオレなんかはいろいろ手を出したいところなんだけど、せめて両爬だけでも特化したいって気持ちで最近は両爬ばっかやってるなぁ。


聞いてくれない人は聞いてくれないものね。
そういう対処法が良いってのはわかっているんだけども、どうも両爬に関してはその後輩も両爬屋なので譲れないなぁと感情的になってしまうのが悪いクセでして・・・
学術的でテキトーにできにくいのが面白かったり、その範疇でイレギュラーが出てくるのも生き物屋的には楽しいわけで。
それを後輩に伝えきれなかったのはツラいなぁと、先輩としての自信を無くしてたんです。

まっ、最終的には自分が楽しければ良いんだよね、こういう趣味は!!
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