月明かりにヤモリ

Moonlight Gecko

Sort by 09 2017

Category: 草本類  

小雨降る魔の絨毯と高嶺の花

 
 あ~、くそったれー。  「 ・・・ バチンッ !! 」 


 15回目を超えてからは数えることすらしなくなってしまった長靴へのデコピン。もうかれこれ数十回は私の中指がしなってるだろうか。そんなことをぶつくさと考えている間に、もう片方の長靴にも。  「 ・・・・・・ バチンッ !! 」 


 「 はぁ、これじゃあ休んでる時が休まらないな。 」



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 野生植物を求めてフィールドに出るようになると、目的とする対象種の花期によっては 『 ある時期 』 の 『 ある地域 』 の 『 ある環境 』 の 『 ある時間 』 の、という制限によって、限られた条件下でないと発見が難しくなる。ある種のサンショウウオ狙いのフィールドにも通づるような、微細な条件を見極め、かつ自分の休日がそれと重なる時でないと野外で出会うのは難しい。
 とは言っても全ての条件が出揃う事などほとんどなく、 『睡眠 』 だったり 『 金銭 』 だったり 『 体力 』 だったりを犠牲にして、無理矢理にでも条件を揃えるしかないのが現実だ。



丹沢


 今回のフィールディングで言えば、時期がかなり限られた花だったこともあり、私のスケジュールで行ける休日はたったの1日だけだったので、悪条件であったものの決行することにした。前日の雨を引きずった小雨降りしきる山を登り、目的の花が自生する沢を目指す。
 「 途中タゴガエルRana tagoi tagoi が出そう 」 とか、 「 渡渉する沢が増水していそう 」 なんていうのは、さして気にするところではない。こんな天候の時は、ヤツらが活発に蠢き出すからイヤになっちゃうんだ。本当にね。




ヤマビル
ヤマビル Haemadipsa zeylanica japonica


 丹沢はヒル地獄だよ、まったく。こいつらがうじゃうじゃいなけりゃ良い山だってのに、こんな日にはヤツらの餌食にならない方が難しい。今回は 【 ヒルとの戦い 】 という犠牲を払う事となった。こいつらを追っ払うために、幾度となく長靴にデコピンをしていたのだ。
 初めからヤマビルには警戒していたので長靴にヒルスプレーを噴霧し、足を止めることなく歩いていたのだが、それでも5分もすれば長靴の上をヤツらは這っている。靴底が地面に接地している時間なんて1秒前後だから、実質は踏んだその場所にでもいない限りは登ってくるだなんて不可能なはず。それなのにちょっと歩くだけで2,3匹ついているとか、どう考えたって異常だよ。
 まるで毛一本一本がヤマビルになっている絨毯の上をひたすら歩かされているかのような状態。



滝



 それでも嫌というほどデコピンしながら長靴登山を続けて目的の沢まで辿り着く。前日から降り続く雨によって多少は増水していたものの、降雨量自体が少なかったのか思ったよりも沢の水量は多くない。
 「 これなら沢登りができそうだ 」

 沢を登って生き物を探すというのも、やはりサンショウウオ的で楽しいし、一度沢に降りてしまえばヤマビルからの猛威からも解放されるので、それがなにより私を喜ばせた。いくつか難所を乗り越えて、沢に面した崖を丁寧に見ていくと、目的の黄色い花が咲いているのが目に付く。





サガミジョウロウホトトギス
サガミジョウロウホトトギス Tricyrtis ishiiana


 小雨がぽつぽつと、そして沢筋に沿って上がってくる霧に霞みつつ、その花は岩壁から垂れ下がるように咲いていた。細長く伸びる葉一枚一枚が雨に濡れ、葉先に雫を灯している。もちろん自慢の黄色い花も、水滴を纏ってとても幻想的だ。
 追い求めた光景がそこにはあった。小雨に霞む林内と、滝が起こす水の飛沫と、沢筋を上がってくる霧と、それらが作り出す湿度たっぷりの空間で、潤いに満ち満ちてぷっくりと花を咲かせるこの光景は、まさにサガミジョウロウホトトギスとその生息環境を表した情景だった。




サガミジョウロウホトトギス
サガミジョウロウホトトギス


 実はこの丹沢の貴婦人、再開できたのはかなり久しぶりである。前に見たのが2013年なので4年も前だ。それまでの間は時期が合わなかったり、探しに行っても見つからなかったりで痛い目を見ていたので、感動の再会である。
 そして奇しくもこの花についての記事の更新日が4年前と同じ日付という。 ( まぁ途中で気がついて微調整したんだけども 笑 )






サガミジョウロウホトトギス
サガミジョウロウホトトギス


 下から覗き見る、霧散した太陽光を透かす葉の美しい事よ。葉だけでも観賞するには十分なほど、私はこの花にゾッコンらしい。

 これまで見てきた植物の中では、このサガミジョウロウホトトギスが私は一番好きな種である。見つけるまでの条件が厳しかったり、探しに行くまでの苦労が多かったりして、そういった苦難を乗り越えたという達成感が乗っかっているのは間違いないけれど、フィールドに行って生き物を探しに行く人って、そういう過程を経ているからこそ、その生き物を好きになることって多いと思う。単純なビジュアルだけじゃなくってね。




サガミジョウロウホトトギス
サガミジョウロウホトトギス


 一番素敵な株は崖のだいぶ上の方に咲いていた。なんとか写真を撮りたかったので、折れそうな頼りない細枝に命を預けて崖を登って行く。下は沢のゴツゴツした岩場だし、足下は雨で濡れて滑りやすいし、危険な状況だったにも関わらず、やはりアドレナリンという脳内物質は恐ろしいね。恐ろしいことを恐ろしいと認識できなくなるほど興奮していたみたいで、気がつけばレンズが曇ってしまうほど湯気をほとばしらせていた。




 そんな状況を楽しんでいると、過ぎていく時間はあっという間で、加えてこの日は小雨だったので一気に陽が傾いてきてしまった。 「 こりゃあいかん 」 と、慌てて帰り支度をする。何といってもここから2時間は山を下らなくてはならないので、いつまでも沢でおちおちしていられないのだ。

 短髪にしているけれど引かれるモノはあるようで、後ろ髪を引かれながら黄色い花に別れを告げる。帰り道の足取りはもちろん軽い。ボウズと違って良い成果が得られた日は気分が高揚しているからという精神的な部分もあるが、すばやく歩かないとまたヤツらの餌食になってしまうからだ。
 入渓して花探しをしたために、長靴に噴霧していたヒルスプレーの効果は流され水の泡になってしまったので、ほぼ無防備状態。下草が繁茂しているところを通る時なんかは、10 m 歩いてはデコピンしないと間に合わないほどに、うじゃうじゃと這い上がられる。

 「 これが雨の丹沢の洗礼か ・・・ 」

 最後の方なんかはもう気が狂いそうになるくらいに這い上がられて、数十秒したら長靴を確認しなければ落ち着かなくなってしまうほどだった。






ヤマビル
ヤマビル


 それでも、そんなに確認してでも、何故か引っ付いていやがるヤマビル。もうね、山中一人で発狂しちまうよ。こんなに防除していると思っていたのに、膝下になんだかひんやりとイヤな感覚があるなぁと、おそるおそるズボンをめくってみると2匹もついているんだもの、くそったれ。
 見苦しいスネ毛は勘弁してもらって、とにかくこの忌まわしい吸血の瞬間を取るよりも撮ってやりたかった。まぁやられるのは慣れてますから、ヤマビルホイホイの私は。いつものように汗ふきシートをあてがってやればイチコロなんだけど、血が止まらないしムズ痒いのは不快極まりない。

 なんとかその後はダッシュで下山したけれど、右足にもう1匹付いているのをアスファルト道に出てから気がついて絶望した。それでもあの花を見に行く価値はあると思う。払った代償も大きいことは確かだけど。






サガミジョウロウホトトギス
サガミジョウロウホトトギス


 最後の写真が私の汚いスネ毛と不快な吸血生物ってのも後味が悪いので、もう一度サガミジョウロウホトトギスを。うん、やっぱり好きだなぁ、この花。






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