月明かりにヤモリ

Moonlight Gecko

Sort by 05 2017

Category: 哺乳類  

尻尾の理由を聞かせておくれ


● 亜細亜の熱帯雨林、ボルネオの旅 ●
プロローグ. 暗黒大陸への渡航
1. 旅の終わりは、旅の始まり
2. エアアジアの激情
3. それぞれの乾杯で繋がる世界
4. 伏線のポッポヘジュセヨ
5. 森の人の恩返し
6. ジープが停まる理由
7. Monster Monkey Morning 
8. まるまるこのもり
9. 虎とか豹とか虎とか
10. 熱帯猿紀行
11. ジュラシック・リバー・クルーズ
12. クルーズ拒まず、サルを追う
13. 真っ暗闇に漕ぎ出して
14. 真っ暗闇を抜け出して
15. おはようボルネオ
16. 花束を君に
17. 支流の小径
18. 尻尾の理由を聞かせておくれ




 マースに連れられてジャングルを歩く。ジャングルといっても彼にとっては裏山みたいなモンなんだろう、いつもの散歩道を歩くようにヘッコラヘッコラと前を行く。風貌からは似合わないが一応ガイド的な事をしようと、道すがら生き物に関する面白いものがあれば我々に教えてくれる。



ドリアン
ドリアン


 「 コイツはオランウータンが食ったヤツだ。 」 そう言っておもむろに拾ったのは本人曰わくドリアンの仲間らしいフルーツ。画像検索しても浅学な私にはコレが何という種なのかは結局突き止められなかった。ボルネオにある赤ドリアンにも似ているが、可食部が赤くなかったのでそれも違う。

 とにかくそんな果実を拾っては、我々に見せてくれるのだ。 「 ここはゾウたちの通り道だ。ほら、ここに体を擦った痕があるだろう。 」 といって泥の付いた樹だったり、ぬかるみに残った巨大な足跡なんかも教えてくれる。
 今度は 「 面白いものがあるから来てみろ。 」 と言われ、巨木の立ち枯れに案内された。



立ち枯れ
巨木の立ち枯れ


 この樹の根元に直径わずか 50 cm ほどの穴があり、ここから巨木の中に入れると言う。 『 最近太って太って仕方がない私だ、ケツでも引っかかって黄色いクマさんみたいなことにならないだろうか ? 』 と心配していると、案内したマースは腰を下ろして休憩モードで、 「 入れ入れ。 」 と笑顔で促すだけだった。


 入ってみると成人男性が4人ほどは入れるほどの空間になっており、中は空洞だった。上部もすっぽり抜け落ちてしまっているので、太陽の光が中に差し込んできていてそれなりに明るい内部。 『 さて、マースの言っていた面白いものとは ・・・ 』 と探すまでもなく、私が入った瞬間からそれは飛び回っていた。




コアラコウモリ
コアラコウモリ Megaderma spasma


 それは小型コウモリだった。 「 キーキー 」 という可聴音に加えてパタパタと飛び回る羽音が、耳元すぐ近くをかすめながら飛んでいく。見るとすぐ近くに 3, 4 個体、もっと上のほうに 7, 8 個体がいるようだった。

 大きな耳にキクガシラコウモリRhinolophus ferrumequinum などとは違った特徴的な鼻葉の形態から、コアラコウモリだということがわかった。ちなみに和名はユーカリ食べてるアイツじゃなくて、 “ コ ・ アラコウモリ ” 、lesser なアラコウモリね。



 アラコウモリ類はカエルやトカゲ、それにネズミや他種のコウモリなどの小型哺乳類に加え、鳥類までも捕食するという気性の荒いコウモリのグループ。その獰猛な食性から荒蝙蝠という和名があてられた。
 調べてみるとアラコウモリの仲間は尾が短く、ほとんど見えないようだ。自分の写真を見返してみても確かにそうだ。それがなんだという話だけども、私は “ ある仮説 ” が閃いた。 ( まぁ既に知られている事実かもしれないけども。 )


 我々日本人に馴染みのあるアブラコウモリPipistrellus abramus を始めとする小型コウモリ類の捕食行動は、後肢と尾の間にある尾膜を使い、網ですくうように飛翔昆虫を捕らえる。本でそれを知り、以来コウモリという生き物はそうやって餌を捕るもんだと思っていた。
 しかし、このアラコウモリたちが他のコウモリを襲うシーンをナショジオのムービーで見たのだが、まるでマントで覆い被さるように翼で包み込むようにして他種のコウモリを捕食していたのだった。既成概念でガチガチだった私は衝撃を受けた。 『 何だこの食い方は ・・・ 』
 そして同時にあることを思い出した、 “ アラコウモリの尾は短い ”

 ということはコウモリにとっての尾というのは、尾膜を発達させて餌の捕獲に役立てているのではないだろうか ?  裏を返せばそういう捕食をしないコウモリたちにとっては尾は不要なものであり退化傾向を示すのではないだろうか ?
 そう思って、パッと思いつく昆虫食ではないコウモリたちの尾を調べてみた。果実食のオオコウモリ類、花の密を舐めとるヘラコウモリ類、家畜の血を吸うチスイコウモリ類、爪で魚を釣るウオクイコウモリ類、カエルに直接かぶりつくカエルクイコウモリ類。なんとどの種も尾がなかったり退化傾向を示すではないか。ということは、これはそういう事なのではないだろうか。

 つまり飛翔昆虫を尾膜で捕らえるコウモリたちは、尾を支柱にして尾膜を折りたたみその中に捕らえるようにしていると。そういった獲物ではなく、植物や大型の動物を食べる場合には尾膜を使って食事をするわけではないので、尾が不要になり退化していったということだろう。アラコウモリたちも獲物が大きく尾膜で押さえられないので狩りの方法も異なり、尾が退化していったのではないだろうか。
 残った尾膜は使えたとして舵取りとかブレーキの役目があるのだろう、尾膜は残っている種も多い。ただ面白いことに、羽音で獲物に気づかれてしまうため、ロクに飛びもしないでピョンピョン跳ねて狩りをするチスイコウモリ類に至っては、その尾膜さえ退化傾向である。


 そして今度気になるのが、日本にも分布するオヒキコウモリTadarida insignis だ。彼らは尾は普通にあるものの、尾膜が退化傾向なのだ。尾膜が発達してないことから、捕食方法はアブラコウモリなどとは異なる事が想像できるが果たしてどのようにしているのだろう。そして尾が退化していないのはなぜだろうか。
 たとえば 【 小型コウモリ類が分化するにあたって、途中で尾を支柱にして尾膜で捕獲するグループが出てきてそこにオヒキコウモリの祖先が属していたとか。そしてその形質が発生上重要な遺伝子座にあるもんだから、オヒキコウモリは尾の退化には至らなかった。 】 とかだったら私の説が支持されたまま面白い話になりそうなんだけども、小型コウモリの系統関係を見てみるとちょっと無理があるっぽいな。
 まぁいろいろ語るにはもうちょっと知識が必要なので妄想はここら辺にしておこう。でも久々に生き物で面白い気づきがあって楽しい。そういう観点でコウモリを見てみるとこれまた面白い生き物だ。



 と、あまりにも妄想が長くなったがコアラコウモリだ。気性が荒いと言われようとも、その顔はずいぶんと可愛らしく愛嬌のあるコウモリだった。
 そうして楽しいトレッキングを終えて宿に戻ってくると出発に良い時間。ささった準備をしてロビーに向かうと、前日にラハダトからこの宿まで送迎してくれたガッチリ体型のイアンが迎えに来ているではないか。しばし再会を喜びながら、さっそく車に乗り込み、キナバタンガン河を後にする。前日助手席に乗っていたイアンだが、今回はドライバーだ。
 滞在時間こそ短かったものの、ここキナバタンガン河での生き物との出会いは実に濃厚だった。ダナンバレーのジャングルとは違う、大河を生き抜く生き物たち。そんな彼らとの思い出を反芻しているうちに、気がつけばまた移動の車内で眠りにつく。ここから約2時間半かけて空港近くまで行くので、これも貴重な休憩時間。


プランテーション
アブラヤシのプランテーション


 時々目を覚まして外の景色でも眺めてみようと思うものの、車窓から見えるのは高確率でアブラヤシのプランテーションばかり。道路の両サイドまでせり出すほどにアブラヤシ天国だ。本当にこの土地ではこのアブラヤシから採れるパーム油が産業として大きく成り立っているのだろう。
 ボルネオ関連の書籍を読むとこれ見よがしに 『 アブラヤシのプランテーションによって貴重な熱帯雨林が失われて~、 』 とか 『 動物たちの生息地が奪われて~、 』 なんて話をよく目にするけども、ここまでプランテーションが随所に見られればそれについて触れたい気持ちもわからなくもない。事実、私もこうして言及しているわけだけど。

 ただやはり現代の我々の生活ではパーム油は切っても切り離せない存在になっており、世界的にも消費量第2位の油脂であることから、現実的にはこのプランテーションの増加を止めるのは難しいのではないだろうか。何億人もの人間を支えるために生産されているパーム油を、 【 動物たちのために ・・・ 】 なんてのは現実的ではないと感じてしまう。みんなその恩恵にあずかっちゃっているわけだしね。理想だけを語るならそうなんだろうけども、現実はそううまくはいかないね。
 それこそある漫画の冒頭にあるように、


   人間の数が半分になったら、いくつの森が焼かれずにすむだろうか ・・・・・
   人間の数が 100 分の 1 になったら、たれ流される毒も 100 分の 1 になるのだろうか ・・・・・


 ってな話になるんなら、もしかしたら ・・・  そんなどうしようもないことを考えてしまうほど、規則正しく並んだアブラヤシだらけの情景は、疲れた私の脳をわけのわからん方向へと誘ってくれる。



ナシチャンプル
昼食


 途中コタキナバタンガンの街で昼食をとる。今日のランチは屋台のナシチャンプル ( ぶっかけ飯 ) だ。ライスを基本に好きなおかずを皿に盛っていくご飯。 【 ナシ ( ご飯の意 ) + チャンプル ( 混ぜるの意 ) 】 という意味のようだ。
 沖縄のゴーヤチャンプルーだったり、長崎のちゃんぽんなどと語源は同じ ( 混ぜるの意 ) である。 ( 沖縄のチャンプルーはちゃんぽんの沖縄方言読みらしい )  何でかわからんが同じ意味を持っていて、同じ呼び方をしているマレーシアと沖縄。これはまた面白い共通点だ。


 遅い昼食を済ませてしばらく走ると目的地が見えてきた。


看板
ラボックベイ


 ここは “ ラボックベイ テングザルサンクチュアリ ” という、テングザルの餌付けに初めて成功した施設で、保護活動も行っているところ。テングザルは特殊な食性から餌付けは難しいと言われていたが、この施設ではそれがうまくいったようで3グループのテングザルの群れが訪れに来るという。

 コタキナバルに戻るための国内線空港であるサンダカン空港近くにこの施設があるため、最後にこちらに寄り道して時間調整をする。





テングザル
テングザル Nasalis larvatus


 群れで集まって食事をする。中央部には鼻が肥大化したボスがどっしりと座り、辺りを警戒しながら食事に勤しむ。もし近くに別の群れの連中が来たならば、真っ先に 「 ノ、ノ、ノ、ノ、ノ、 」 と鼻を浮かせながら威嚇をし、それでも近づくようならば牙をむき出しににして追っ払う。



テングザル
テングザル


 振り返り様にこの眼光だもの、威圧感ありすぎ。他のオスよりもボスは体格も大きくなり肩も盛り上がるようにモリモリになるので、首元から肩にかけて生える白い体毛もフサフサでまるでマフラーでもしているよう。
 やはりサルはボスの厳つさに限るね。カッコイイ。



シルバーコノハザル
シルバーコノハザル Trachypithecus cristatus


 和名的にはシルバーリーフモンキーやシルバールトンの方がポピュラーな感じ。テングザルの餌付けに紛れておこぼれをもらいにきた奴ら。いつしか施設に普通に出入りするもんだから、いつの間にか彼らにも餌が与えられるようになったようだが、さすがにテングザルのを奪うまでの力関係ではないので、別の餌が与えられていた。



 しばし近い距離でのサルたちを観察した後、イアンの待つ車に揺られてサンダカン空港へ。気がつけば陽もだいぶ傾いて、西に沈む太陽の淡い光が、見飽きたアブラヤシのプランテーションをオレンジ色の姿に染め上げていた。
 なんだか一概にプランテーションを責めたりはできないなぁと思いながらオレンジ色の車窓は流れていった。

 ついにこれでボルネオもあとは帰るのみとなってしまった。ただまぁ距離が距離なので、自宅に帰るまでが旅である。次回の記事でようやく帰宅となる予定。






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