月明かりにヤモリ

Moonlight Gecko

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Category: 哺乳類  

熱帯猿紀行

 ● 亜細亜の熱帯雨林、ボルネオの旅 ●
プロローグ. 暗黒大陸への渡航
1. 旅の終わりは、旅の始まり
2. エアアジアの激情
3. それぞれの乾杯で繋がる世界
4. 伏線のポッポヘジュセヨ
5. 森の人の恩返し
6. ジープが停まる理由
7. Monster Monkey Morning 
8. まるまるこのもり
9. 虎とか豹とか虎とか
10. 熱帯猿紀行
11. ジュラシック・リバー・クルーズ
12. クルーズ拒まず、サルを追う
13. 真っ暗闇に漕ぎ出して
14. 真っ暗闇を抜け出して
15. おはようボルネオ
16. 花束を君に





 前日のビールでぐっすりだったのだろう、せっかくの豪華な作りのベッドも、朝起きてみればぐっちゃぐちゃ。きっと夢の中でもジャングルにいたに違いない。


 この日は昼前にはまた別の場所へと移動してしまうので、ここダナンバレーの森とは午前中でさようなら。早朝から遅い朝食までのわずかな時間がこの森での最後のフィールディングとなる。
 共にフィールドに出るのは前日と同じのお決まりメンバー。ルディ、アンジー夫妻、エドワード・リサ夫妻、ルンチョロサン、そして私、の7人パーティー。ただ、まだ薄暗い玄関口に少し早めに集まったのは、ルディ、アンジー、ルンチョロサン、私、の昨日の午後フィールドへ出掛けた4人だけだった。まだ少し早いからリサとエドワードが来ていないのは、同室だしまぁわかるのだが、なぜにアンジーは同室の旦那を置いて先に来てしまったのだろう。
 「 旦那さんはどうされたんですか ? 」 と尋ねてみると、 「 あの人はね、女なのよ、感覚が。なんでも髪型が決まらないとか身だしなみのことを気にしてばかりいるから、先に来ちゃったわ。 」 という。そんなアンジーを見てみると、タンクトップにハーフパンツ、そしてサンダルをつっかけて来ただけという、とてもラフでワイルドな格好をしており、きっとこの2人の性格だからこそ、夫婦としてのバランスがとれているんだろうなと、昨日のコンバースを思い出して妙に納得した。


 そんな話をしていたら、他のメンバーが来るより先に、オランウータンとの出会いの方がやってきた。これから朝飯の調達にでかけるのだろうか、ゆっくりとした足取りで木々を伝って移動しており、我々4人は目と鼻の先まで近づいていた。これまでにない近さで興奮している我々に対し、あのマジメを絵に描いて額に入れたみたいなルディが、 「 Come on , Come on ! 」 と、これからオランウータンと握手でもしにいく気かよってくらいの距離までグイグイ寄って手招きする。


オランウータンとの距離
ルンチョロサンとオランウータンとの距離 ( 点線の藪の中にオランウータンがいる )


 これは近い。本当に触れられそうな距離まで来てしまった。興奮を抑えながらヒソヒソ声で感動を分かち合うルンチョロサンと私の横で、ルディが突如 「 ウゥ~~~ 」 とオランウータンと交信を試み始めた。
 『 さすがはガイドというだけあって、ここら辺のオランウータンとは仲良しさんなんだなぁ 』 なんて能天気に見届けていたら、ルディの声に反応してか急にオランウータンが木から降りて来た。


ボルネオオランウータン
ボルネオオランウータン Pongo pygmaeus 


 ただその様子は穏やかに降りてきて 「 ボルネオの熱帯雨林で、ボクと握手 !! 」 といった雰囲気ではなく、むしろ慌ただしく異様な空気であった。その異変にいち早く気がついた先頭のルディが 「 Back , Back , Back , Back , Back , Back , !!!!! 」 と、急に振り返りながら叫ぶ。一瞬でこれはただ事ではないと理解して、慌てて私たちも踵を返して猛ダッシュでその場から走って逃げた。そりゃあもう、ジュラシックパークみたく。
 どうやらオランウータンの逆鱗に触れてしまったようで、あわや握りつぶされるところだったのだ。危険が及ぶ前になんとか離れることができ皆無事ではあったが、久々に野生動物で怖い思いをした。朝から心臓に悪い。
 引き金を引いた張本人の顔を覗きこんでみると、ハァハァ肩で息をしながら “ てへへ顔 ” をして、 「 いやぁ~危なかったぁ 」 なんて言ってやがる。マジメを装っているルディだが、案外抜けていることもあって、昨日は昨日で 「 この靴はグリップ力がすごいんだ 」 と自慢した2分後くらいにはぬかるみに足をとられてすっ転んでいるし、その時も例の “ てへへ顔 ” でごまかしていたっけ。
 まぁ堅物で隙のないマジメくんではなく、マジメ風なドジなので愛嬌があって好感が持てるが。少なくとも私は好きなキャラクターだ。

 私たちはまるで映画のワンシーンに入り込んだかのような体験をしてテンションも高まって、ゲラゲラみんなで笑い合った。あぁ、まったくアホだなぁ。
 そんなちょっとしたハプニングに見舞われている内に、残りのエドワード、リサ、アンジーの旦那とも合流し、朝のトレッキングスタートだ。アンジーの言う通り、旦那の髪型は朝靄の湿気にも負けず、しっかりとなでつけられてキマっていた。


キャノピー
キャノピーウォーク


 この日は歩いてキャノピーウォークまでやってきた。ジャングルは朝靄に包まれ、太陽が徐々に昇ってきてもその光は空気中の水分たちによって霧散され、ぼんやりとした明るさが辺りを覆っていた。こうなると地面もうっすらとしか見えず、中空にぼんやりと浮いているかのような不思議な浮遊感がある。
 ジュラシックパーク好きには、もうあのシーンにしか見えない。前方の靄からゆっくりと、キャノピーをプテラノドンPteranodon が前進してくるんじゃないだろうかと妄想させてくれる素晴らしい空気感だった。

 そんな情景なのに私ときたら、ちょっとブルーだ。昨晩、喉の渇きを潤すためにバーでガバガバと早いペースで飲んだビールが、ここに来て二日酔いとして現れ始めたらしい。先程の逃走劇のダッシュで胃がシェイクされたのに加え、この揺れるキャノピーの浮遊感で一気にスパートをかけたようだった。
 生き物屋としては大失態だよ、せっかくのボルネオの憧れのキャノピーウォークの上で二日酔いだなんて。だいたいの生き物屋さんは飲んでも最終日以外はほどほどだし、翌日のフィールディングに影響するようなマネはしないはずだ。それなのにコレだよ、私ときたら。
 アジアンビールはおいしいし飲みやすいけれども、飲み方はきちんとしようと反省した午前7時。



クビワヒロハシ
クビワヒロハシ Eurylaimus ochromalus


 そんな時は樹冠部にいる鳥たちを見て癒やされよう。見た目が面白いのはこのクビワヒロハシ。なんだかゼンマイで動きそうなコミカルな風貌で、点の眼が可愛らしくもアホっぽい。嘴も青くきれいなだけでなく、頭部に対してはずいぶんと大きく不釣り合いなのも、どこかおもちゃっぽさを演出している。
 こんなひょうきんで可愛らしい鳥を眺めていると、ブルーな気持ちも晴れてくる。気がつけば二日酔いを忘れて生き物探しに興じていた。案外気持ちでなんとかなるもんだ。



 キャノピーを後にして、道端のオジギソウで遊んだり、イチジクの仲間が他の巨木を絞め殺して枯らせたところを見たりしながら宿へと戻っていく。朝食の終了時間が刻一刻と迫ってくる。
 もうすぐで宿に着くかというところで、昨日の早朝聞いたあの声が、その時よりもかなり近い距離でジャングルに響き渡る。


 「 ウーーーワ、ウーーワ、ウーワ、ウワ、ウワッ、ウワッ、ウワッ、ウワッ、ウワッ、ワッ、ワッ、ワッ、ワッ、ワッ、ワッ、ワッ、ワッ、ワッ、ワッ、ワッ、ワッ、ワッ、ウーーーワッ 」


 生き物が好きなメンバーが集まっているので、それを聞いた瞬間みんなで顔を突き合わせて、 「Gibbon !!!!! 」 ( テナガザルの英名 ) と目を丸くする。するとルディが 「 朝食まであまり時間がありませんが、10 分だけ私にくれませんか ? 」 と提案してきた。あの鳴き声を聞いてその誘いを断る者などもちろんおらず、皆興奮気味に 「 OK , OK 」 と承諾すると、いきなり声のした方向に向かって無言でルディが走り始めた。

『 きっとテナガザルの現場を押さえる気だ !! 』

 ルディの考えていることをその場で瞬時に飲み込んで、各々特に声を掛け合うことなく、すぐさまルディの後を猛ダッシュで追いかけ始める。これはもはや以心伝心と言っても良い。
 ただ、その状況を飲み込み行動に移すまでの “ 瞬発力 ” と、必死に追いかける “ 走力 ” には個人差があるわけで、突っ走るルディを先頭に、追いかけるルンチョロサン、アンジー夫妻、エドワードの先発組と、体力のないリサと二日酔いのバカは少し遅れて後発組を形成していた。先発組がすでに下り坂に差し掛かり、私もこれから下ろうというところで、そのすぐ後ろにいた最後尾のリサが 「 Ohhhhh , Gibbon !! 」 と大きな声で叫ぶ。
 急ブレーキをかけて振り返ると坂道の頂上で、リサが遠くを指さしている。なんと一番遅れていたリサが、走ることに夢中になっていた我々を出し抜いて、ルディより早くそのターゲットを発見したのだ。
 するとみんな一斉に引き返してくるわけだが、後発組は先発組に、先発組は後発組に、と形勢逆転し、なんとドタドタ走っていた私が二着という幸運。

 リサの人差し指の先にある遠くの枝先に、その腕の長い生き物がぶら下がっているのをこの眼が捉えた。






ヒガシボルネオハイイロテナガザル
ヒガシボルネオハイイロテナガザル Hylobates funereus


 おぉ、なんと神々しい写真。まるでアシタカが初めてシシ神様を見た時のような、光に包まれてシルエットが浮かび上がる光景。真ん中に写っているY 字のそれがテナガザルでございます。


 えぇ、ちょっと前まで風景とか撮っていて、カメラの設定をマニュアルにしたままだったのを忘れ、無我夢中でシャッター切ってたらこの有様ですよ。 ・・・ 露出ミスった。こういうときはせめて証拠写真でもと、ブレていても露出が合っていればと思うが、あの興奮状態じゃあまともな判断はできなかった。
 液晶に表示された写真を見て、焦って絞り優先に切り替えたものの、すでにギボンの姿はなかった。やはり鳥類とか哺乳類なんかの瞬時に捉える必要がある生き物の撮影には、事前の設定準備が大切だなと思い知らされた。


 でもまぁ、自分の目でテナガザルのブラキエーション ( 腕渡り ) まで見られたのは嬉しかったし、何より小学生みたく生き物見たさにみんなで全力疾走したのが良い思い出になった。
 生き物が好きという共通点だけで、みんな生まれた国が違って、話す言葉が違って、でもある生き物を追いかけて童心に戻って駆け回れるだなんてのは本当に幸せな事だなと思う。テナガザルを見た後のそれぞれの笑顔はどれも輝いており、第一発見者であるリサに向かって 「 Good eye ! 」 とみんなが讃えた。
 前日 「 これで猿どもと闘うってわけね 」 と木の棒をブンブン振り回していた人とは思えないほどの活躍っぷりだ。ありがとうリサ。



 良い思いはしたものの、朝食のリミットは着実に近づいていた。席に着くなりメシを頬張り、充実した朝のトレッキングで消耗した体力を回復させる。続いて部屋に戻って散らかしまくった荷物をザックに押し込んでいくわけだが、この手の作業がどうも私は苦手で、出発時にどうやってパッキングしたんだっけなぁと首を傾げながらいつも詰めている。フロントに声をかけ、昨晩頼んでおいた弁当を受け取る。昼間はちょうど移動中なので、昼食をパックに詰めてもらっておいたのだ。
 慌ただしく支度を済ませ、すでに待たせてしまっている送迎車へと向かう途中、ルディが見送りに来てくれた。固い握手を交わし、だいぶ使い込んできた 「 トゥリマカシ ( ありがとうの意 ) 」 と共に、さっき暗記した 「 スラマッ ティンガル ( さようなら ) 」 も加えて別れを告げる。相変わらずルディの人の良さが出た笑顔に手を振りながら、車はゆっくりと宿を出た。



 今度のはジープではなく送迎用のマイクロバスみたいな車で進む。運転手もガイドというわけではなく、専任のドライバーのようだったので道中あまり生き物に期待はできなかったが、ちょうど車の真横にサルが出て来たので、さすがにワーワー言ってたら停まってくれた。






スンダブタオザル
スンダブタオザル Macaca nemestrina


 滑り込みでダナンバレーでのサルをもう一種。尻尾がブタのように短くクルンとしているので、豚尾猿。英名もそこに注目して “ PIG - TAILED MACAQUE ” と呼ばれる。ニホンザルM. fuscata と同属のマカクモンキーだが、顔は結構大きくて迫力がある。
 この個体はずいぶんと貫録があり、我々が車で真横につけようとも動じずに大あくびをしたり、どっしりと腰を落ち着かせたりしていた。同属のカニクイザルM. fascicularis やニホンザルがきゃっきゃ走り回ったりするのに比べると、こちらは幾分落ち着いている。3~4 個体くらいの群れでいて、藪から出ていたのは比較的体格の良いこの個体と、まだまだ危険を知らない幼い子供だった。




 まさかボルネオに来てここまでいろいろなサルに出会えるとは思っていなかったし、たくさん見ているとそれぞれの違いも見えてきて面白いもんだなぁと実感する。かつてはサルといったら私にとっては犬猿の仲の生き物で、昔はニホンザルのボスに喧嘩を売られたもんだ。


対峙
ボスとの対峙  ©Takehiro Kakegawa


 こちらの写真はリンク先のカケガエルくんからお借りした写真。
 カケガエルくんの誘いで行った丹沢で、ボスザルと対峙してしまったことがあった。最初あまりに逃げないので、アホみたく2人でおちょくりながら写真を撮っていたら、ついにボスがブチギレてこちらに猛突進。私より前に出て、私よりおちょくっていたカケガエルくんの逃げ足の速いことよ。仮にも先輩である私を身代りにして、気がつけば後ろから悠長に写真なんぞ撮っていやがる。
 3,4 回ほど、牙を見せながらの猛突進をしては私の2~3 m くらいで止まる威嚇を続けてきたが、その度に私の覇気と奇声で追い返していた。ただ私としてはかなり必死だったのだが、まさかこんな写真をヘラヘラと撮っている後輩を守るためにやっていたのかと思うと、なんとも腹立たしいではないか ( 笑 )

 この時はこれといった武器もなく、500 ml のペットボトルをチラつかせたり振り回したりするぐらいしかできなかったが、もし飛びかかられていたらやられていただろう。幸い何もなく大事には至らなかったが、猛烈に威嚇されたのでとても怖い思いをした。まぁ自業自得なんだけども。
 ただ後にも先にもこんなダサい写真はない。ヒル除けのためにジーパンを靴下にインして中腰に構え、唯一の武器であるペコペコのペットボトルをチラつかせている姿。あぁ、情けなくも懐かしい。


 そんな記憶が根底にあるもんだから、サルに対してはそんなに良い印象を抱いていなかったのだが、ボルネオではその根底を覆すほど楽しいサルたちとの出会いがあった。このままサル屋にでも転向したくなるような、新たな扉との出会いとなった。


 ダナンバレーのサルたちを想いながら車はジャングルを進む。この奥深き森での出会いは、そう得られるものではない。自然保護区のゲートを通過する際にひそかに想う。 「 ダナンバレーのサルたちよ、トゥリマカシ 」 と。



   ダナンバレーのサルたち
ダナンバレーのサルたち


 まだまだダナンバレー以外の場所でも見られたサルの記事を載せたいところだが、2016年もあとわずか。ということで、今年はここら辺で。
 ところで皆さん、2016年の干支って何だったか覚えていらっしゃいますか ? そうです、私にとってはとても素晴らしい申年となりました。来年もまだボルネオ記事は続きますが、相変わらず丹沢に行ったりして面白い生き物も見たりしていましたので、またボルネオシリーズが終わりましたら綴りたいと思います。


 今年も拙い当ブログをご愛読いただきましてありがとうございます。それでは皆様、よいお年を。



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