月明かりにヤモリ

Moonlight Gecko

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Category: 哺乳類  

Monster Monkey Morning 

 ● 亜細亜の熱帯雨林、ボルネオの旅 ●
プロローグ. 暗黒大陸への渡航
1. 旅の終わりは、旅の始まり
2. エアアジアの激情
3. それぞれの乾杯で繋がる世界
4. 伏線のポッポヘジュセヨ
5. 森の人の恩返し
6. ジープが停まる理由
7. Monster Monkey Morning 
8. まるまるこのもり
9. 虎とか豹とか虎とか
10. 熱帯猿紀行
11. ジュラシック・リバー・クルーズ
12. クルーズ拒まず、サルを追う
13. 真っ暗闇に漕ぎ出して
14. 真っ暗闇を抜け出して
15. おはようボルネオ
16. 花束を君に
17. 支流の小径
18. 尻尾の理由を聞かせておくれ
19. 未知へと続く道





 すっかり陽も暮れた頃、私たちは宿に戻り夕食のブュッフェに舌鼓をうっていた。欧米風の食事がありつつ、アジア料理ありつつといったところで、昼食の具合からある程度予想した通り、なかなかに豪華なものだった。中でも東南アジア地域で食べられている串焼き料理のサテが気に入った。エビや鶏肉を串焼きし、それに香辛料やピーナッツを混ぜたソースをつけて食べるもので、これがアジア風焼き鳥といったところで、日本の焼き鳥が好きな私にはもってこいだった。
 また、中華系の無愛想なシェフに目の前で作ってもらうチーズペンネも絶品だった。表情や調理している料理からはまったく想像できないギャップのあるうまさがとにかく面白かった。それからというもの、翌朝の目玉焼きだろうがヌードルだろうが、彼が調理担当をしているものをこぞってオーダーしにいき、 「 やっぱり彼のは絶品だ 」 とルンチョロサンと頷きあった。

 たらふく食べた夕食後は宿主催のナイトサファリに参加する。トラックの荷台に10人ほどが乗り込んで、夜のジャングルに突入するこのナイトサファリは、私にとっては初めての体験だったので大いに興奮した。
 これまでは仲間内でナイトドライブと呼称している、車内からハイビームのライトに照らされる生き物を探す方法しかしていなかったのだが、ナイトドライブはその性質上、直線的な範囲しか探せず、基本は路上に出てきている生き物を見つけることに主眼を置いている。 ( 窓から側溝や樹上を照らすこともあるが、それは角度や速度を窓が制限してしまうので自由度が低く、狙った生き物がいる場合以外はあまりやらなかった。 )
 しかし今回初体験であるナイトサファリというものは右も左も、さらには上も下も見渡せるトラックの荷台である。偶然路上に出てきた生き物だけでなく、樹上で活動しているやつ、茂みに隠れているやつなども見つけられる可能性があるので、どこを見ていれば良いのかわからなくなるほど見通しが利く。ただ、こちらにも欠点があり、それはメインターゲットが中型以上の哺乳類だということで、チマチマしたカエルやらヘビやらを見つけるような速度ではないということ。
 哺乳類に興味がないわけではないので、郷に入れば郷に従えの精神で、ボルネオウンピョウNeofelis diardi を当面の目標として漆黒のジャングルへと突入する。



トマスクロムササビ
トマスクロムササビ Aeromys thomasi


 まず現れた獣は遥か頭上より。事前の浅はかな哺乳類の知識では 「 大きくて赤毛のムササビ = オオアカムササビPetaurista petaurista 」 という認識であったが、宿に戻って図鑑を見てみると、尾の先端が黒くなっていないので、別種トマスクロムササビだということがわかった。 「 全然黒くないじゃんか 」 と、言ってやりたいチュウダイズアカアオバトTreron formosae medioximus 的な和名トラップ。
 非常に高い枝先で葉を食べているのか実を食べているのか、ときどき止まっては葉の塊に顔を突っ込んでいた。残念ながら滑空は見られず。



スイロク
スイロク Cervus unicolor


初め小さめのシカが出てきたのでマメジカTragulus の類いかと思ったのだが、なんてことはない、スイロクの幼獣だった。
こっちでいうニホンジカC. nippon みたいな存在で同属のシカ類。
 親とはぐれたのだろうか、よちよちと茂みの中へと消えていった。


 ナイトサファリ独特の慣習として面白かったのは、生き物を見つけた時の車の停め方だった。探す側の人は荷台にいるので、ハンドルやアクセル・ブレーキとは無縁の存在だが、いざ発見した際は車を停車させて観察しなければならない。車内の運転手に聞こえるよう荷台から 「 STOP ! 」 と叫べばブレーキを踏んでくれるが、生き物に感づかれて逃げられてしまう。
 そこでここのナイトサファリでは懐中電灯を使って運転手へと合図を送る。走行中に生き物を見つけた際は車前方 ( 10m くらいの距離 ) を光で叩くように2回タップする。その動きは運転に専念しているドライバーの視野に入るので、 【 止まれ 】 の合図として認識される。再発進の合図も同様に2回タップすることで車は動き出す。
 この文化は私の生き物探しになかったものだったので、終始面白くて動きを見ていたのだが、効果的なやり方だとは思うが運転手は生き物が見られないのが欠点だな。商売だから成り立つやり方であって、友人同士で遠征した時には使えないなぁとも思ったり。何気に車内でワイワイとくだらない話をしながら生き物探しをするナイトドライブの方が、旅の醍醐味だなぁなんてしんみり思ったみたりも。



 ウンピョウどころかベンガルヤマネコPrionailurus bengalensis やマレーヤマネコP. planiceps にすら会えずじまいで、これといってあまり成果がないまま帰還。夜風にあたりながらのナイトサファリはドキドキものだったが、雰囲気が良いだけで成果を挙げられなかったのが残念だ。


 宿周辺を名残惜しく散策してもこれまた空振り。とりあえず夜はおとなしく、モヤっとした感情を抱き枕と共に抱え込んで眠る。





朝のジャングル
朝靄に包まれるジャングル


 翌朝、前日同様に太陽と共に起きる。ただこちらの朝はジャングルの奥地ということで昨朝とは一味違っており、テナガザル ( ここら周辺だとヒガシボルネオハイイロテナガザルHylobates funereus だろう ) のコーリングが遠くからこちらに向かって鳴り響いていた。リズムでいうとクマゼミCryptotympana facialis が鳴くテンポのようで、文字に表わすと 「 ウーーーワ、ウーーワ、ウーワ、ウワ、ウワッ、ウワッ、ウワッ、ウワッ、ウワッ、ワッ、ワッ、ワッ、ワッ、ワッ、ワッ、ワッ、ワッ、ワッ、ワッ、ワッ、ワッ、ワッ、ウーーーワッ 」 といったような具合に、軽快な鳴き声がまだ明けきらない森に響き渡っていた。
 海外フィールドらしい朝に胸を膨らませ、朝靄の残る森に出てみるも、相当遠くで鳴いていたようで辺りを見渡しても揺れている枝すら見当たらない。

 朝食前に散策してみるものの、コレといって収穫がないまま朝食の時間を迎える。




朝食
朝食


 朝食まで豪華なのは嬉しい限り。何気に朝食バイキングって好きなんだよなぁ、家族旅行とかで食べるホテルの朝食バイキングとか。
 こちらの通称マレー焼きそば、ミーゴレンは麺がもちもちしていておいしかったし、ハムもスパムに近い味で美味い美味い。この日は丸一日散策に使えるのでモリモリ食わなきゃと、とにかく食いまくって幸せな朝だった。


 ガイドのルディとの待ち合わせまで少し時間があったので、昨日の夕方宿に戻ってきた際に見つけた生き物のポイントにルンチョロサンと行ってみることにしたら、嬉しいことにそいつらにまた出会うことができた。



ボルネオコビトリス
ボルネオコビトリス Exilisciurus exilis


コビトリス !! 夕方、大木をちょこまかと動き回る生き物がいて、何かと近寄ってみると頭胴長 5cm くらいの小さなリスが縦横無人に跳び回っていたのだった。動きは早いし、細かい枝先にもピョンピョンと跳び移るので、哺乳類というよりは小鳥的な感覚。
 写真を撮るにはシャッタースピードも私のピント合わせも難しい薄暗い夕方だったが、朝日が差し込めばなんとか私にも写真が撮れた。どうやら彼らは主に朝と夕方に活動する生き物のようで、タイミングとしてはちょうど良かったのか、おそらく 3, 4 個体が近くで乱舞していた。 ( ちょこまかし過ぎて何個体いるのか把握しづらい )




ボルネオコビトリス
ボルネオコビトリス


 木と木の距離が近ければ枝伝いに移動するが、隣の木まで距離があるとヒョコヒョコと地面に降りてきてささっと駆け登る。この時はちょうど降りてきたところを狙えたので、ある程度の距離まで寄れた。
 改めて見るとなんとも珍妙な姿である。頭胴長でみれば3等身ほどの頭でっかちなプロポーションで、地面に降りている時こそこのような姿勢になっているが、垂直の木にいる時なんかは短い四肢を目一杯に伸ばしてへばりつくようにしている。それでいてそんな見た目とは裏腹にちょこちょこと跳び回る俊敏さも持ち合わせているので、なんともギャップがあって可愛らしい。
 個人的にはこいつらに鼻行類のムカシハナアルキArchirrhinos 的なものを感じる。 「 こいつの鼻が発達すれば、ムカシハナアルキの図版とそっくりなんだよなー 」 なんて不毛な事さえ考えさせてくれるほど、なんとも珍妙な生き物だった。



 そうこうしている内に待ち合わせの時間を迎える。玄関口にはガイドのルディと我々の他に、昨日のキャノピーウォークも一緒だったヨーロッパ系の夫婦 ( 名前を聞いていなかったので、奥さんがパワフルなタンクトップ女性でアンジェリーナジョリーを彷彿させるので、以後アンジー夫妻と呼ぶ ) と、初対面のテキサス州より来たエドワードとリサのアメリカ人夫婦の、計7人が集まった。このパーティーで宿の周囲にいくつもあるトレイルをトレッキングする。

 出発前に 「 これを使うと楽ですよ 」 とルディが玄関口に置いてある木の棒を、杖代わりに使う事を勧めてくれた。荷物も多いし、片手が塞がるのは不便だと思い私は遠慮し、他の人も特になくても大丈夫そうだったのだが、唯一リサだけが 「 ハハ~ンなるほど、いいわねぇ。これで猿どもと闘うってわけね 」 と棒を手に取り、ブンブン振り回していた。出た !! これが本物のアメリカンジョークってやつか。
 この瞬間、みんなが吹き出していたので笑いの共有ができて一体感のようなものも感じられた。これはなかなかに楽しいジャングルトレッキングになりそうだ。
 この時は英語がそれほど堪能ではない私でも、リサが調子に乗っているのがわかったが、モンスターパニックモノの映画だったらこの手の女は大抵最初にすぐやられるタイプだ。

--------------- 調子に乗って 「 コレがあれば大丈夫よ 」 とリサが1人でフラフラ離れると、目の前に突然 3m くらいのモンスターモンキーが。果敢に木の棒で交戦するも役には立たず、棒を捨てて逃げるもあっけなく食われてしまう。
 なかなか戻りの遅いリサを探しにエドワードたちがやってきたところ、血まみれの木の棒が見つかる。 「 リサの棒だ 」 と拾いあげるエドワードの後ろに、なんと黒い影が ・・・ ----------------------------

 映画だったらこんなパターンだよなぁと不謹慎な妄想話をルンチョロサンに振ると、 「 そしたら次にやられるのはボクらでしょうね。 」 と返された。 【 現地人ガイド・アメリカ人夫婦・ヨーロッパ人夫婦・アジア人男2人組 】 のパーティーだったら確かにそうだなぁと妙に納得してしまった。きっと最後まで生き残るのは、妻を失った復讐心のあるエドワードとか、パワフルウーマンのアンジーだろう。決して我々ではない。おそらくストーリーにはあまり絡まずの、モンスターの恐怖描写を煽る要員ポジションだろうな、私たちは (笑)
 たとえこんなことを話していても、日本語なので遠慮せずにベラベラしゃべれるのが面白いところ。まぁ聞こえていても悪口ではないけども。


 ということで、この駄作映画で終わるであろう 【 Monster Monkey Morning ~ 怪物猿の朝に ~ 】 ( 略してモンモンモー ) の幕開けとなった。




橋を渡る


 大きな川を越えなければならず、橋を渡る。キャノピーもそうだが、やはり吊り橋はワクワクして冒険心がそそられる。
橋を渡るとトレイルは登りが増え、山登りの要素を増していく。
 すると出発時の軽口はどうしたことやら、リサの足並みが段々と重くなってくる。 『 こうなるといよいよモンスターモンキーのお出ましだな 』 なんて思っていると、付近の木が不穏にガサガサと音を立て始める。



クリイロコノハザル
クリイロコノハザル Presbytis rubicunda


 現れたのはクリイロコノハザルの群れだった。ちょうど我々のグループと彼らの群れの進行ルートが交わったようで、すぐ目の前に5,6頭の群れが思い思いに過ごしている。木々の隙間から見えるその栗色の体毛は、緑の多いジャングルではよく目立ち、存在を主張して我々人間など眼中にないように自由気ままに振舞っている。ちょうど真上にいる個体を捉えると、逆光で透けている体毛が金色に輝いて美しい。それでいて長い四肢と尾が彼らの優雅さを助長していて、何とも神々しく、おおよそ現実世界の生き物とは思えないような高貴さを漂わせていた。
 暗い森の中での遭遇だったが、わずかな光を明るい体色が吸収しているためなんとか撮影することができた。また距離が近いので、望遠レンズではかなり寄れる好条件だった。



クリイロコノハザル
クリイロコノハザル


 この個体なんかはすぐそばで食事すら始めてしまう。彼が食事中に警戒していたのは、 「 すげーすげー 」 と感嘆の声をあげている人でも、パシャパシャとシャッターを切っている人でもなく、他の群れのメンバーがじゃれてきて食事を邪魔してこないかである。
 この時も口に葉っぱを頬張りながらも、上で追いかけっこしている若い個体たちばかりを気にしていた。それほどまでに我々人間に対しては興味すら抱いてもらえないようだった。


 彼らコノハザルの仲間はその食性からリーフモンキーと呼ばれたり、ラングールの名称が使われたりするので、本種に対しては 「 クリイロリーフモンキー 」 や 「 マロンラングール 」 などの和名が当てられたりもする。 ( 特に前者が多く使われる )  
 どちらも英名のカタカナ読みでどうにもしっくりこないので、昔の図鑑に使用されるコノハザルを当ブログでは採用。 【 世界哺乳類和名辞典 】 にも載っているし、このほうが私的には好み。




クリイロコノハザル
クリイロコノハザル


 配色的には日本の動物園で比較的見られるキンシコウRhinopithecus roxellana に似ているがあちらほど厳つい顔をしていない。どちらかというと人間でいう眉毛の位置にあたる体毛の生え際が、ななめに下がっているのでなんとも情けないような顔をしている。それがまた哀愁があって、活発に跳び回る姿とギャップがありこのサルを好きにさせる要因にもなっている。



 リサの方を見てみると、この可愛らしいサルたちに囲まれて瞳をうっとりとさせているのが見てとれた。
アメリカンジョークではブッ叩く目的に使われるはずの木の棒も、今ではメロメロになって力が抜けかけている彼女を支える杖として役目を果たしているのは喜ばしい限りだ。この調子でモンスターパニック映画的な展開にならないことを祈るばかりである。


 素敵なサルたちとの遭遇もあっという間で、気がつけば1頭また1頭と、輝く金色の毛が深い緑色のジャングルへと溶けて消えていく。その眩しすぎる残像がまだ瞳に焼き付いている。その残像までもが無くなるまで、彼らを見送った。
 良い出会いがあったからか、心なしか足が軽い。これからさらに山道を登り詰めなければならないが、あんな生き物が出てくるならばと、足はもう1歩前へ、あと1歩上へ。




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