月明かりにヤモリ

Moonlight Gecko

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小雨降る魔の絨毯と高嶺の花

 
 あ~、くそったれー。  「 ・・・ バチンッ !! 」 


 15回目を超えてからは数えることすらしなくなってしまった長靴へのデコピン。もうかれこれ数十回は私の中指がしなってるだろうか。そんなことをぶつくさと考えている間に、もう片方の長靴にも。  「 ・・・・・・ バチンッ !! 」 


 「 はぁ、これじゃあ休んでる時が休まらないな。 」



-------------------------------------------------------------------------------------------------------


 野生植物を求めてフィールドに出るようになると、目的とする対象種の花期によっては 『 ある時期 』 の 『 ある地域 』 の 『 ある環境 』 の 『 ある時間 』 の、という制限によって、限られた条件下でないと発見が難しくなる。ある種のサンショウウオ狙いのフィールドにも通づるような、微細な条件を見極め、かつ自分の休日がそれと重なる時でないと野外で出会うのは難しい。
 とは言っても全ての条件が出揃う事などほとんどなく、 『睡眠 』 だったり 『 金銭 』 だったり 『 体力 』 だったりを犠牲にして、無理矢理にでも条件を揃えるしかないのが現実だ。



丹沢


 今回のフィールディングで言えば、時期がかなり限られた花だったこともあり、私のスケジュールで行ける休日はたったの1日だけだったので、悪条件であったものの決行することにした。前日の雨を引きずった小雨降りしきる山を登り、目的の花が自生する沢を目指す。
 「 途中タゴガエルRana tagoi tagoi が出そう 」 とか、 「 渡渉する沢が増水していそう 」 なんていうのは、さして気にするところではない。こんな天候の時は、ヤツらが活発に蠢き出すからイヤになっちゃうんだ。本当にね。




ヤマビル
ヤマビル Haemadipsa zeylanica japonica


 丹沢はヒル地獄だよ、まったく。こいつらがうじゃうじゃいなけりゃ良い山だってのに、こんな日にはヤツらの餌食にならない方が難しい。今回は 【 ヒルとの戦い 】 という犠牲を払う事となった。こいつらを追っ払うために、幾度となく長靴にデコピンをしていたのだ。
 初めからヤマビルには警戒していたので長靴にヒルスプレーを噴霧し、足を止めることなく歩いていたのだが、それでも5分もすれば長靴の上をヤツらは這っている。靴底が地面に接地している時間なんて1秒前後だから、実質は踏んだその場所にでもいない限りは登ってくるだなんて不可能なはず。それなのにちょっと歩くだけで2,3匹ついているとか、どう考えたって異常だよ。
 まるで毛一本一本がヤマビルになっている絨毯の上をひたすら歩かされているかのような状態。



滝



 それでも嫌というほどデコピンしながら長靴登山を続けて目的の沢まで辿り着く。前日から降り続く雨によって多少は増水していたものの、降雨量自体が少なかったのか思ったよりも沢の水量は多くない。
 「 これなら沢登りができそうだ 」

 沢を登って生き物を探すというのも、やはりサンショウウオ的で楽しいし、一度沢に降りてしまえばヤマビルからの猛威からも解放されるので、それがなにより私を喜ばせた。いくつか難所を乗り越えて、沢に面した崖を丁寧に見ていくと、目的の黄色い花が咲いているのが目に付く。





サガミジョウロウホトトギス
サガミジョウロウホトトギス Tricyrtis ishiiana


 小雨がぽつぽつと、そして沢筋に沿って上がってくる霧に霞みつつ、その花は岩壁から垂れ下がるように咲いていた。細長く伸びる葉一枚一枚が雨に濡れ、葉先に雫を灯している。もちろん自慢の黄色い花も、水滴を纏ってとても幻想的だ。
 追い求めた光景がそこにはあった。小雨に霞む林内と、滝が起こす水の飛沫と、沢筋を上がってくる霧と、それらが作り出す湿度たっぷりの空間で、潤いに満ち満ちてぷっくりと花を咲かせるこの光景は、まさにサガミジョウロウホトトギスとその生息環境を表した情景だった。




サガミジョウロウホトトギス
サガミジョウロウホトトギス


 実はこの丹沢の貴婦人、再開できたのはかなり久しぶりである。前に見たのが2013年なので4年も前だ。それまでの間は時期が合わなかったり、探しに行っても見つからなかったりで痛い目を見ていたので、感動の再会である。
 そして奇しくもこの花についての記事の更新日が4年前と同じ日付という。 ( まぁ途中で気がついて微調整したんだけども 笑 )






サガミジョウロウホトトギス
サガミジョウロウホトトギス


 下から覗き見る、霧散した太陽光を透かす葉の美しい事よ。葉だけでも観賞するには十分なほど、私はこの花にゾッコンらしい。

 これまで見てきた植物の中では、このサガミジョウロウホトトギスが私は一番好きな種である。見つけるまでの条件が厳しかったり、探しに行くまでの苦労が多かったりして、そういった苦難を乗り越えたという達成感が乗っかっているのは間違いないけれど、フィールドに行って生き物を探しに行く人って、そういう過程を経ているからこそ、その生き物を好きになることって多いと思う。単純なビジュアルだけじゃなくってね。




サガミジョウロウホトトギス
サガミジョウロウホトトギス


 一番素敵な株は崖のだいぶ上の方に咲いていた。なんとか写真を撮りたかったので、折れそうな頼りない細枝に命を預けて崖を登って行く。下は沢のゴツゴツした岩場だし、足下は雨で濡れて滑りやすいし、危険な状況だったにも関わらず、やはりアドレナリンという脳内物質は恐ろしいね。恐ろしいことを恐ろしいと認識できなくなるほど興奮していたみたいで、気がつけばレンズが曇ってしまうほど湯気をほとばしらせていた。




 そんな状況を楽しんでいると、過ぎていく時間はあっという間で、加えてこの日は小雨だったので一気に陽が傾いてきてしまった。 「 こりゃあいかん 」 と、慌てて帰り支度をする。何といってもここから2時間は山を下らなくてはならないので、いつまでも沢でおちおちしていられないのだ。

 短髪にしているけれど引かれるモノはあるようで、後ろ髪を引かれながら黄色い花に別れを告げる。帰り道の足取りはもちろん軽い。ボウズと違って良い成果が得られた日は気分が高揚しているからという精神的な部分もあるが、すばやく歩かないとまたヤツらの餌食になってしまうからだ。
 入渓して花探しをしたために、長靴に噴霧していたヒルスプレーの効果は流され水の泡になってしまったので、ほぼ無防備状態。下草が繁茂しているところを通る時なんかは、10 m 歩いてはデコピンしないと間に合わないほどに、うじゃうじゃと這い上がられる。

 「 これが雨の丹沢の洗礼か ・・・ 」

 最後の方なんかはもう気が狂いそうになるくらいに這い上がられて、数十秒したら長靴を確認しなければ落ち着かなくなってしまうほどだった。






ヤマビル
ヤマビル


 それでも、そんなに確認してでも、何故か引っ付いていやがるヤマビル。もうね、山中一人で発狂しちまうよ。こんなに防除していると思っていたのに、膝下になんだかひんやりとイヤな感覚があるなぁと、おそるおそるズボンをめくってみると2匹もついているんだもの、くそったれ。
 見苦しいスネ毛は勘弁してもらって、とにかくこの忌まわしい吸血の瞬間を取るよりも撮ってやりたかった。まぁやられるのは慣れてますから、ヤマビルホイホイの私は。いつものように汗ふきシートをあてがってやればイチコロなんだけど、血が止まらないしムズ痒いのは不快極まりない。

 なんとかその後はダッシュで下山したけれど、右足にもう1匹付いているのをアスファルト道に出てから気がついて絶望した。それでもあの花を見に行く価値はあると思う。払った代償も大きいことは確かだけど。






サガミジョウロウホトトギス
サガミジョウロウホトトギス


 最後の写真が私の汚いスネ毛と不快な吸血生物ってのも後味が悪いので、もう一度サガミジョウロウホトトギスを。うん、やっぱり好きだなぁ、この花。






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白い声




陽炎が遠くで揺らめいている。
梅雨明け宣言がされなくたって、季節は確実に前へと進んでいて、
雑木林横のアスファルトなんて、どう見たって夏の色をしているではないか。


カンカン照りの太陽は肌を刺すように痛いけれど、林の木陰に入ればそんな暑さも忘れられる。
汗ばんだTシャツが、林を抜ける風に撫でられてひんやりと気持ちが良い。
しばらく心地よい雑木林での散歩を堪能していると、
ふわりと夏を感じさせる甘い花の香りが風に運ばれてやってきた。


どこかなつかしい、遠い記憶が呼び起こされるような、頭の片隅に残っているあの香り。


なんだっけかな、この香り。



----------------------------  昔、まだ幼稚園に通っていたくらいの頃、
祖母や祖父に裏山へ連れて行ってもらうのが好きだった。
散歩する山ではいろんな匂いがしていた。
ドクダミは踏んづけると嫌な匂いがするし、ヨモギは葉をちぎって嗅いでみればおもちを感じられた。


“ あの香り ” もそんな淡い記憶の中にあったのを覚えている。
山の見晴らしの良いところで、前を通過する電車を見るのが好きだった。
よく風の通るところだったから、その時も “ あの香り ” が風に乗って届けられていたんだと思う。

電車が通るのを見終わって振り返ると、
あの人は日傘を差して微笑んでいたのを覚えている。  ----------------------------




あれが咲いているのは明確だった。
あの香りは確かにあの時咲いていた花のものだったはず。
追い風がふわっと吹いた時、また “ あの香り ” が私の肩をたたいた。


その時ふと、なんだか後ろから呼ばれたような気がした。
振り返るとそこには夏の白い花。



ヤマユリ
ヤマユリ Lilium auratum


雑木林の草むらに、木々の隙間からこぼれる光がスポットライトとなって降り注ぐ。
その照らされた先に、香りの主 ( あるじ ) が立っていた。
薄暗い林のなかで、その花は一際存在感を放っている。
ヤマユリ特有の甘い香りが、いつしか私を優しく包み込んでいた。


あぁ、もう夏か。
ヤマユリはこれから先の夏の気配を感じさせるとともに、遠い過去の、淡い記憶も呼び起こす。
懐かしくって、懐かしくって、とにかく愛おしい記憶。


花はなぜ美しいのだろうか。
それはきっと次世代のためなんだ。
甘い香りで虫を呼び寄せ、種を作り、そしてまた次に咲くその日のために。
ヤマユリの香りが優しいのも、きっとそのためなんだ。
誰かのために、美しい姿で、心地よい香りで。




明日は新盆の墓参り。

私に呼びかけたのは、あの花だったのだろうか。
振り返った雑木林に、照らされて立っていたヤマユリが、なんだかまるで ・ ・ ・

あの日、あの人と感じた優しいあの香りを思い出して、
なんでその香りを “ 優しい ” と感じたのかがわかった気がした。



雑木林を抜けたアスファルトの上は、未だに陽炎が揺らめいている。


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まるまるこのもり

 ● 亜細亜の熱帯雨林、ボルネオの旅 ●
プロローグ. 暗黒大陸への渡航
1. 旅の終わりは、旅の始まり
2. エアアジアの激情
3. それぞれの乾杯で繋がる世界
4. 伏線のポッポヘジュセヨ
5. 森の人の恩返し
6. ジープが停まる理由
7. Monster Monkey Morning 
8. まるまるこのもり
9. 虎とか豹とか虎とか
10. 熱帯猿紀行
11. ジュラシック・リバー・クルーズ
12. クルーズ拒まず、サルを追う
13. 真っ暗闇に漕ぎ出して
14. 真っ暗闇を抜け出して
15. おはようボルネオ
16. 花束を君に
17. 支流の小径
18. 尻尾の理由を聞かせておくれ
19. 未知へと続く道





 クリイロコノハザルPresbytis rubicunda たちの揺らす木々の音が消えても、ジャングルは何者かが出す音で常に満たされている。鳥のさえずりであったり、虫のささやきであったり、木の実が熟して地面にどさりと落ちてきたり。
 たまにハアハアと荒い息づかいが混じると思ったら、怠惰の限りを尽くした私の身体が登り坂で悲鳴をあげているではないか。どうやらこのメンバーでは最初にモンスターモンキーにやられるであろうリサに次いで、この私が体力がないらしい。Tシャツは元の色がわからないほど、グッショリと濡れていた。
 それでも道中目に入るものは、どれも私を楽しませてくれるので、その度に足を止め、そして癒された。 



ショウガの仲間
ショウガの仲間 Zingiber sp.


 松ぼっくりみたいな花穂に一つの白い花をつけている。もう少し時間が経てば、つける花の数も増えて賑やかになるだろう。なんだか珍妙な植物にはそそられてしまうので、こういうジャングルは見所が多すぎて目のやり場に困る。




ベゴニア
ベゴニアの仲間 Begonia sp.


 園芸をやる人ならば知っているであろう植物も、ここでは行く傍らで見かけられる。ベゴニアもいくつかあったが、このタイプがよく見かけられた。
 Be. roseopunctata あたりだろうか。ジャングルにピンクの斑点とはなんとも毒々しい。



菌類
コップタケの仲間 Cookeina sp.


 オオグチボヤMegalodicopia hians みたいな菌類が林床で口を開けている。面白いけどこれは同定できなさそうだと思っていたら、家にあったフランス人写真家の熱帯写真集にコレが載っていた。



森
見晴台からの眺め


 そうしていろいろ見ている内に、目的地である山頂付近の見晴台に辿り着く。ここはボルネオの原生林を一望できる絶好のポイントになっており、今まで歩いてきた低地混交フタバガキ林の深い森を見渡すと、それがいかに立体的かつ広大な森だったかを実感できる。
 初日のコタキナバル ― ラハダト間の機内から見下ろした、あのどこまでも規則正しく並んだアブラヤシのプランテーションも一つのボルネオの顔ではあるが、これこそが求めていた理想のボルネオの姿である。

 眺めていると 「 グワッ、グワッ 、グワッ 」 と、手前の木々からツノサイチョウBuceros rhinoceros が2個体、けたたましく鳴きながら奥の森へと飛んでいった。普段、見上げてばかりのサイチョウを、この素晴らしい森をバックに見下ろせた素晴らしい瞬間で、その画がとにかくカッコ良くて脳裏に焼きついている。
 まるで恐竜映画のワンシーンのような、理想とも言えるその情景。鬱蒼とした濃い深緑色の絨毯の上を、赤い角がすーっと滑るように進んでいく。そしてその鮮やかな赤も、気がつけばあの濃い緑に隠されてどこに行ったかわからなくなってしまう。この濃い緑には、いったいどれだけの色たちが隠れているのだろうか。そんな興奮を与えてくれるなんともドラマチックな光景だった。

 そしてなんと、第一発見者であるルンチョロサンがその光景を写真に収めているのだ。あとで見せてもらったが、上から見るツノサイチョウのカッコ良いことよ。あの写真は羨ましすぎるぜ。
 英名も Rhinoceros Hornbill と素敵な響きだし、とにかく私は彼らに心を奪われた。




セロジネ
セロジネの一種 Coelogyne asperata


 見晴台付近では野生ランが花をつけている。これはセロジネの仲間で、和名は学名のカタカナ読みでアスペラータなどが使われる。ちゃんと和名がつくまでは、確かに種小名のカタカナ読みの方が混乱がなくて良いが、まぁなんだか味気ない。
 この株は花期の終わりに近づいていたようで、白さも褪せて萎れ気味。ただ偽茎 ( バルブ ) はがっしりとしていたので、また来シーズンに大きな花茎を伸ばすことだろう。ここら一帯は本種の群生地のようで、今まで山道で見られなかったのに急にたくさんの株が見られた。日照条件が影響しているのだろうか、暗い森の中ではあまり見かけなかった。



 しばし見晴台で休憩したあとは山道を下る。生真面目なガイドであるルディとも、だんだんと打ち解けるようになってくると、気を許したのかルディが唐突に日本語の歌を口ずさみ始めた。
 「 ほ~ら~、足トトト、ラ~ラ、ララ~ラ~ 」 と無理やりに高音ボイスを響かせて kiroro の 【 未来へ 】 を歌いながらこちらに微笑みかけてくるので、ここはノってやろうと 「 これがぁ~、あなたのぉ~、歩む道ぃ~ 」 と続いたが、残念なことに日本人ながらこの先の歌詞を知らなかったので、ルディと一緒に 「 ラララ 」 だけでメロディをなぞる事に。
 しかし一体どこかで聞いて覚えたのだろう、歌詞の意味がわからないにしても選曲からしてルディの優しさが伝わる場面であった。

 そこからは滝でマイナスイオンを浴びたり、アンジー夫がターザンのマネしてツタにしがみついたり、アンジーがハチに刺されてルディが持ち寄った謎の濃い黄色の薬を塗りたくられたりしながら下山していく。まるで田舎に帰った夏休みみたいな雰囲気だった。そして途中の川では休憩がてら面白い体験をした。


コイ科魚類
指食う魚たち


 コイ科の魚だろうか、川に手や足を入れてしばらくすると角質を求めて、もぞもぞと吸いついてくる。やったことはないが日本でもドクターフィッシュとしてこれに似たものを体験できるが、その魚とは大きさがまず違う。そして勢いも違うので一旦やりだすと猛烈な勢いでパクパクもぞもぞやってくる。水にものの十数秒入れているだけで、イタくすぐったくて耐えられないほど。裸足になってみんなできゃっきゃしていた。
 あぁ、なんだか夏休みっぽい。





ミドリカワトンボ
ミドリカワトンボ Neurobasis chinensis


 支流には沖縄のリュウキュウハグロトンボMatrona basilaris japonica に似たトンボが強い日差しを受けてキラキラと飛び交っていた。水面すれすれを飛ぶので、トンボの翅も水面も太陽を反射して輝く情景はなんとも言い難い美しさがあった。



川
川渡り


 川で遊んだまま、近道だと言って登山道には戻らずそのまま川を下る。アンジーだけはワイルドなので裸足のままズカズカ歩く豪快さ。 気がつけば夫が靴を持たされているのをみて、この夫婦の関係性を垣間見た気がした。でもなんだか、夫にぶら下げられている CONVERSE の赤のハイカットまでもがちょっぴり嬉しそうだった。


 ここで一旦昼食のために宿へ。相変わらず愛想のない、しかし味に定評のあるシェフがいるので、昨晩も食べたがまたもやチーズペンネをオーダーする。


チーズペンネ
チーズペンネ


 やはりこれが最高なんだな。疲れた体にちょうど良い塩気と、適度なとろみのクリームソース。あのシェフ、一家に一台ほしい ・・・




ハンバーガー
チーズバーガー


 こんなものもオーダーすれば、目の前で焼いてくれる。あぁ、結局私はデブのメシが好きなのだ。ジャングルで食うハンバーガーの旨さと罪悪感と。



 腹ごしらえを済ませたら、再びジャングルへと出向く。ただ午前中で力を使い果たしてしまったのか、エドワード・リサの夫婦とアンジー夫はリタイアのようで、再集結したのはルディ・アンジー・ルンチョロサン・私の4人となった。
 それにしてもパワフルな女性だなぁ、このアンジーは。



ネスト
ネスト


 ジャングルには時折、このように枝が折り重なったクマ棚のようなものが見られる。これはオランウータンが毎日作る寝床 ( ネスト ) のようで、寝る前にささっと5分程度で作り、この上で夜を明かすらしい。
 ネストの状態や数などから、いつ作ったのか、付近には何個体いるのか、がわかるようなのだが、まぁ素人目にはただの枝の塊にしか見えないという。




 そしてこのネストの使用者かわからないが、さっそくオランウータンが姿を現した。その個体は初日に会ったフランジオスと同一個体かと思われる。おそらく宿付近は彼の行動圏に入っているのだろう。この時は細い枝先に腕を伸ばして、赤くて小さい木の実を摘み取っていた。木の実の数も多いのでちょこちょこ移動しては、チマチマと食べている。
 しばらくフランジオスの少し遅い昼食を眺めていると、大きめの鳥が滑空してくるのが視界の端に映った。



ウォーレスクマタカ
ウォーレスクマタカ Spizaetus nanus
 

 あの特徴的なちょんまげ猛禽は、ウォーレスクマタカだ。渡航前に書いた鳥の記事でも載せたが、実は見たかった鳥の1つ。このときはヒヨドリ大の鳥を捕えた瞬間だったので、登場シーンは羽がブワっと飛び散る迫力のあるものだった。
 その後、捕えた小鳥を掴み直すために近くの枝に止まり、小休憩をしているところだったのでなんとか写真も撮れた。よく見ると右足には捕らわれの小鳥が静かにしているのがわかる。
 すぐに飛び去ってしまった一瞬の出会いだったが、私の方をチラリと振り返る彼の瞳は、誇らしげで自信に満ちていた。



ボルネオオランウータン
ボルネオオランウータン Pongo pygmaeus


 オランウータンに視線を戻すと、相変わらずマイペースに木の実を口に運んでいる。大型類人猿が樹上でのんびりと木の実を食べているその傍らでは、猛禽類が迫力のあるハンティングをして颯爽と飛び去って行く。この壮大な命のやり取りに、私はただただ立ち尽くすしかできない。


 これがジャングルか。

 これがボルネオか。



 果たして私は、この森でどのような立場にあるのだろうか。

 観察者で終えられるのか。


 もしかしたら狩る者か、   はたまた狩られる者なのか。





 ボルネオのジャングルに、そんな自分の在り方を問われているような気がした。




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伏線のポッポヘジュセヨ

 ● 亜細亜の熱帯雨林、ボルネオの旅 ●
プロローグ. 暗黒大陸への渡航
1. 旅の終わりは、旅の始まり
2. エアアジアの激情
3. それぞれの乾杯で繋がる世界
4. 伏線のポッポヘジュセヨ
5. 森の人の恩返し
6. ジープが停まる理由
7. Monster Monkey Morning 
8. まるまるこのもり
9. 虎とか豹とか虎とか
10. 熱帯猿紀行
11. ジュラシック・リバー・クルーズ
12. クルーズ拒まず、サルを追う
13. 真っ暗闇に漕ぎ出して
14. 真っ暗闇を抜け出して
15. おはようボルネオ
16. 花束を君に
17. 支流の小径
18. 尻尾の理由を聞かせておくれ
19. 未知へと続く道








 嬉しいかな悲しいかな、前日は宿のメンバーで生き物話に花を咲かせて飲んでいたおかげで、今朝の瞼はずいぶんと重い。ゆっくり目を開けるとグルグルとシーリングファンが回る見覚えのない天井。そんな回転物をぼんやり眺めているとじわりじわりと理解する。
 「 あ、そうだ、ここはボルネオだ。 」 夢から覚めたのに、夢のような世界に飛び出せるこの上なく不思議な瞬間。


 手短に準備を済ませ夜が明け始める頃に部屋を出る。空はうっすら明るみ、暗い密林に囲まれた宿の上だけがポッカリと穴が空いたように明るいため、まるで釜の底にでもいるのかと錯覚してしまう。だからまずはすぐに太陽の陽が当たるであろう上を目指して、昨晩フランス人姉弟と散策したタワーへと向かう。




タワー
タワー


 まだ薄暗いためライトが灯るタワー。ここに登って早朝の樹幹部にて生き物がいないか探索する。ところがタワーを登る階段にて降りてくる先客に出会う。
 まだこのブログに登場していなかった日本人の教師の方である。彼は定年近いような出で立ちだが体力があるようで毎年ここボルネオを訪れるという。寡黙な性格ではあるが、その少ない言葉の中には生き物好きの愛を感じる、そんなおじさま。夕食の時に席が隣だったので挨拶してちょこっとお話をさせてもらったのだが、どうやらこの宿を訪れるのは我々で6組目だとか。事前に予約する際に新しい宿だとは聞いていたが、まさか1桁台の来訪者だとは思いもよらなかった。
 彼は夕食後にナイトハイクに出掛けたのかは定かではないが、我々が見通しの良い食堂でゲラゲラと宴をやっている時に見かけなかったのでおそらくはそのまま就寝したのだろう。だからこその早起きで、タワーでの観察を終えて降りてきたところに我々がやって来たというわけだ。

 これは先手をとられた。 

 気持ち的に先に誰かが行ったところにすぐ行くというのは、生き物が去った後だったり二番煎じ感が漂うのであまり見られなさそうと勝手なイメージがあるので、先を越されたのは悔しい。それでいて何か見られたか聞いてみると、「 いや、あんまり見られなかったねぇ 」 とポツリ答えていたが、あまり多くを語らないこの人の性格だ、きっと何か見ていたとしても取り立てて自慢するようなタイプでもないだろうに、あまりそんな質問も意味を成さない。


 悔しいが階段を足早に登り詰め、辺りを見渡す。



朝日
朝日


 じわじわと太陽が顔を出し始め、ボルネオの朝がやってくる。森は活気づき鳥たちのさえずりがこぼれ出てくる時間帯。遠くで 「 グワッ、グワッ 」 と大きな声でサイチョウの仲間が鳴き、日本とはまったく異なる朝を告げている。







着生シダ
着生シダ


 タワーから目を凝らして見ると、背の高い樹の枝に種々の着生シダがついている。ボルネオでよく見かけたのは写真の真ん中に写るハカマウラボシの一種Drynaria sp.である。
 去年の台湾でカザリシダAglaomorpha coronans に魅せられた私としてはやはりこの手の着生シダはたまらない。





ハカラウラボシ
ハカマウラボシの一種


 このような垂直の幹にも着生する姿は圧巻である。同じウラボシ科に属するビカクシダPlatycerium と同様に、葉には2型がありビカクシダでいうところの貯水葉にあたる、 “ 泥除葉 ” という葉を持っている。ハカマウラボシは幅の広い泥除葉を展開して落葉などを貯め込み、それを養分として育つ着生シダだ。和名もその広い泥除葉が由来となっている。
 前述したカザリシダの葉は明確に2型を示すわけではなく、葉の基部が貯水葉や泥除葉のように広くなっていて、1枚の葉で2役を買っているような感じ。

 しかしマメヅタLemmaphyllum やヒトツバPyrrosia などの他の単葉のウラボシ科のシダと比べると、ビカクシダ・ハカマウラボシ・カザリシダなどはケタ違いにデカイ。やはり着生という栄養条件の厳しい環境下では、貯水葉や泥除葉のような養分をうまく吸収できるような仕組みが生長のカギなのだろう。

 また面白いのがちゃっかりものの着生シダもいるようで、ハカマウラボシが泥除葉で落ち葉を貯めたところに着生し、葉を展開する別のシダも見られた。横写真のほうがわかりやすいと思うが、ミツデウラボシCrypsinus hastatus に似る三裂した葉の着生シダが泥除葉から出ているのがわかる。重複寄生というわけではないが、どの世界にもこういう風にうまいことやっている生き物はいるもんで、よくそんなことが思いつくなと感心させられる。



ハカマウラボシと宿
ハカマウラボシと宿


 そんな素敵な着生シダが宿からわずか数分で辿り着くタワーから、同じ高さの目線で見られる幸せ。あまり他の成果はなく、ぼちぼち朝食の時間なので降りていく。



頭上注意
頭上注意


 夜に登った時に、 「 ギリギリ当たりそう~ 」 とか言いながらアドリューたちは遊んでいたが、そんな中学生よりも身長の低い私にとっては全くもって危なげの無い箇所だったので、 「 ノ~プロブレムゥ~~ ♪ 」 とか言いながら通り抜けたらそれなりにウケた。やはりわかりやすい見た目のボケは世界的にも通じやすいので、そういう意味では 『 小さいって良いな 』 としんみり思ったり。 ( しかし日常生活じゃあ困ってばっかりだぜ。 )



朝食ミーゴレン
朝食


 朝食はマレー焼きそばこと、ミーゴレンとトースト・パンケーキ・ゆで卵。ミーゴレンはヌードルのような歯ごたえの無いもさもさとした麺で、なんだか気怠い食感。短い麺なのでぼそぼそと食べる感じがあまり好きな歯ごたえではなかったが、味付けはあっさりと食べられて好印象。もちっとした麺だったら最高だなぁと、せっかくの現地メシだったが少しがっくし。



パンケーキ
パンケーキ


 打って変ってパンケーキがうまい !! せっかくマレーシア行ってパンケーキかよと思われるだろうが、体は正直なもんでミーゴレンよりパンケーキの方がうまいじゃないかという欧米的嗜好。疲れた体にこの甘ったるい市販のメープルシロップが効くぅ~。




 食堂にはすでにフランス人家族が来ていたが、お姉ちゃんだけはまだ姿がない。 「 ヘアースタイルでも決まらないのかなぁ ? 」 とアホみたいな心配をしていたら、寝むそうな顔でお姉ちゃん登場。
 毎日の日課なのだろう、家族のいるテーブルに着くやいなや、おはようのあいさつである “ ほっぺにチュー ” の儀式が始まる。

 まずはダディにチュッ。
 続いてマムにチュッ。

 映画でしか見たことのない風景に半ば見惚れながらある疑念が湧き上がってきた。 「 アレ、彼女らと昨日仲良くなったわけだし、ひょっとしてアドリューの次に流れで俺らんとこに来るんじゃない ? 」 と。ちょびちょびと生えてきた頬の短いヒゲを擦りながら 「 アドリューの次は俺な 」 「 いやいや僕ですよ 」 などと不毛な言い争いをしたものの、皆さんの想像通り、お姉ちゃんはこちらのテーブルに来ることなくスッと自分の席に着いた。

 ただ悔しいかな、このときはルンチョロサンのほうが優勢だなと思ってしまった。なぜなら初日の羽田空港でこんな話をしていたのだ。

---------- 「 僕、韓国語覚えましたよ、 【 ポッポヘジュセヨ 】  これどういう意味かわかります ? 」 と、突然ルンチョロサンに言われ、わからないから教えてと返したのが失敗だったが、どうやら 【 ほっぺにチューして 】 という意味の韓国語らしい。まったくどこで覚えて来たんだか ・・・ まぁ実に彼らしく、他に無いのかよと聞いて損した気分になったのだが、まさかそんなくだらない会話が伏線になっていたとは。
 つまり彼にはとっておきの必殺技 「 ポッポヘジュセヨ~ 」 があったので、もしもそのカードを切られていたら私は負けていただろう。
 そんなくだらない話でゲラゲラと笑う男子中学生の修学旅行みたいな朝食を終えたら、少し宿周辺を散策する。








Eutropis indeprensa
マブヤトカゲの一種 Eutropis indeprensa


 昨夜のマブヤトカゲとは異なる種。初めはこの色彩に近しい種が見つからなかったので、色彩変異の多いタテスジマブヤEu. multifasciata かなとしていたが、いろいろ見てもタテスジマブヤでここまでの変異が見当たらない。それよりもパッと見で最初に候補に挙がったEu. indeprensa がそれっぽい。
 参考にしていたボルネオのトカゲハンドブックのEu. indeprensa のページでは前肢の付け根がかなり鮮やかなエメラルドグリーンになった個体の写真のみだったので、そこまで奇抜な体色じゃないなと候補から外してしまったのだが、よくよく調べればこちらも個体差が大きいようで、青い喉やそこに散在する黒点は類似しているので本種であろう。対応する和名は特になかったように思える。単純に特徴だけ引っ張ってくるならアオノドマブヤといったところだろうか。



グランディスマブヤ
グランディスマブヤ Eu. rudis


 同じくマブヤトカゲ。体の側面にある黒いラインが特徴で、こういった模様は他のトカゲ類でもみられるため、生態的に何か役に立っているのだろう。部屋から出てすぐの、太陽光がガンガンあたる場所でバスキングをしていた。


 この個体も前述のEu. indeprensa と同所的に見られたマブヤトカゲで、朝の日差しを目一杯に浴びていた。同属多種がこんな近くに生息しているとは思わなかったので正直驚きだ。イメージではスキンク類は種間競争が強く、うまいこと棲み分けがなされているのかと思っていた。
 まぁ朝見ただけだったので、たまたまバスキングポイントが重なっているだけでその後は案外違う場所に行っていたりもするのだろうし、そもそもEutropis 自体馴染みのないトカゲなので、彼らのことをあまり知らないままアレコレ語らない方が良いだろう。






タテスジマブヤ
タテスジマブヤ


 こちらはピンボケ写真だが、婚姻色の出たタテスジマブヤ。昨晩タテスジマブヤを見た湿地周辺で活動しているのをルンチョロサンが見つけた。彼に呼ばれて駆けつけて、なんとか撮れたのがこの写真。彼はもっとバッチリの写真を撮っているだろうが、私はこれが限界だった。
 この婚姻色の出方も地域や個体によってかなり差があるようで、黄色いラインが出るやつとか顔がオレンジになるやつとか様々。

 宿周辺ではこの3種のマブヤトカゲを見ることができた。彼らは熱帯のトカゲ類では数少ないバスキングをよく行なうトカゲだそうで、おかげでいろいろ見つけやすかったのだろう。基本的に日差しが強いため、日なたでバスキングするよりも森の中に出来る木漏れ日の僅かなスポットで体温調整をするトカゲが熱帯では多いようで、そんな中ガンガンにバスキングするマブヤトカゲは英名でsun skink と呼ばれている。なかなかに面白いトカゲのグループで分布も広いので、ちょいちょい気にしていこうと思う。



Eria javanica
オサランの一種 Eria javanica


 面白いのは地表面ばかりではない。そこら辺の樹に着生ランがついている素晴らしい環境。鬱蒼とした森の中というよりは、多少開けた陽のあたる木々に着生している姿をよく見かけた。




Eria javanica
オサランの一種


 花を拡大。美しい赤いラインが入る。ネットで見るとこの赤いラインが入らず白い花も見られるが、スマトラ島やボルネオ島はこのように赤いラインが入る個体群なのかもしれない。
 初めシンビジウムCymbidium の仲間と思っていたが、どうにも唇弁の形が近くないので納得が言ってなかったのだが、ようやくこのオサランの仲間に行き着いた。

 そして思わぬ副産物。去年の台湾の旅で見つけた着生ランが全然わからなかったのだが、今回オサラン属をいろいろ検索していてその謎が解けた。どうやら八重山諸島にも生息するリュウキュウセッコクEr. ovata だったようだ。 ( 似たような和名でオキナワセッコクDendrobium okinawense という花もあるがこちらはセッコクの仲間で属も違う。 )

 それにしても生き物は面白い。ボルネオと台湾、それぞれ別の旅だというのに、意外なところで繋がりをみた。少しずつ少しずつ、生き物の知識を蓄積することで、相乗効果で理解の進むこの感覚はたまらない。
 今回でいえばオサランを検索している最中に 「 アレ、これどこかで見たな・・・台湾のアレか !? 」 という気づきは興奮もので、今まで生き物をやっていて初めての感覚。本やネットで情報を得て理解することはあっても、自分の中で閃くことは無かったので、これはアジアに通い詰めればもっと楽しいことが見えてくるではないか。それもいろんな分類群を見られるだけのキャパシティーが私にあれば、これはきっと面白くなるぞ。




デンドロビウム
デンドロビウムの一種 De. secundum


 こちらはデンドロビウム。特に和名は見つからず、そのままカタカナ読みで園芸の世界では流通しているようである。
こういった着生ランはいたるところで見られたが、花期でない場合の個体も多く、そういったランの同定については困難を極める。

 ただ着生ランがあちこちで見られる素晴らしすぎる環境なだけに、もうしばらく散策したかったが、実はこの宿はこの一泊だけで終わりである。昼前に移動してさらに奥地の宿に向かう。そこは宿泊費が高いため、初日に寝るためだけに一泊するのはもったいなさすぎるため、ナイトハイクをする時間もとれる手前のこの宿に宿泊したというわけだ。



 さぁ、そろそろ迎えの車が来る頃だ。遠くでまたサイチョウが 「 グワッ、グワッ 」 と鳴く。追いかけたい気持ちを抑え、次なる宿へと向かうとしよう。






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山椒魚より天南星


 山椒魚を求めて訪れた山深き四国。見つけたかった山椒魚の一つ、イシヅチサンショウウオHynobius hirosei は私の前には現れてくれなかった。以前紀伊半島で見たオオダイガハラサンショウウオH. boulengeri のそのガッチリとした体躯や深い藍色の体色に魅了され、近縁であるイシヅチをぜひとも見たいと思っていただけに悔いが残る。



イシヅチテンナンショウ
イシヅチテンナンショウ Arisaema ishizuchiense


 とは言いつつ、別の素敵な “ イシヅチ ” を見つけられて内心ホクホクしたりもする。欲しい欲しいと思いつつ、毎回隣町の図書館まで閲覧しに行くマムシグサのバイブル 『 日本のテンナンショウ 邑田仁 著 』 に載っている姿を、初めて読んだ時から一目惚れしているこのイシヅチテンナンショウに会えるとは思っていなかった。
 今回はサンショウウオメインのフィールディングを想定していたのでノーマークだったわけだが、山登りをしていて自分の目線と同じ高さに咲くこの細部まで美しいテンナンショウと目が合った時に、すぐに憧れのそれだということを理解して歓喜した。





イシヅチテンナンショウ
イシヅチテンナンショウ


 斑状に入る毒々しい紫と、控えめで落ち着いた地色の緑。こんなにも作り込まれたような色彩のマムシグサはそういない。舷部は短く仏炎苞は全体的にガッシリと丸みを帯び、棍棒状に膨らむ付属体にまでも毒々しい紫の斑点が浮かぶ。
 こんなにも妖しげな様相をしているにも関わらず、咲いているのはジメッとした暗い林床ではなく、標高1500m付近の陽当たりのよい登山道沿い。ただ、陽当たりが良いだけでは乾燥しすぎて彼らにとっては生育しにくいのだろう、いくつか見た自生地では必ず近くに湧き水や沢などの水環境があったので、土中はそれなりに湿っていると思われる。
 特に開けた風通しの良い場所に咲いている株については他のテンナンショウのように偽茎部を伸ばすことはなく、1枚目の写真のように地面スレスレに仏炎苞を開くのも、風の吹き荒れる高山に適応したものだろう。



 両爬探しで訪れたものの、沢が見つからなかったりで気がついたら植物目で歩いてしまうため、途中からは結局いつもの植物探しに。



ミツバテンナンショウ
ミツバテンナンショウ A. ternatipartitum


 小葉が3枚しかない特徴的なテンナンショウで、それが由来の和名でもある。小葉が3枚しかないテンナンショウは他にムサシアブミA. ringens など少数存在するが、日本の多くのテンナンショウは5枚以上の小葉を持っている。


アオテンナンショウ
アオテンナンショウ A. tosaense


 本種も特徴的なテンナンショウで、舷部が糸状に長く伸びる。ウラシマソウA. urashima やカラスビシャクPinellia ternata などの糸状の部分は付属体の先端部が伸びたものだが、本種は舷部が糸状に長い。


ユキモチソウ
ユキモチソウ A. sikokianum


 憧れのテンナンショウ、ユキモチソウ。 「 マムシグサ、マムシグサ 」 と気持ち悪がれ敬遠されがちなテンナンショウ界で唯一、万人受けする麗しいテンナンショウ。その純白で柔らかそうな丸い付属体が特徴で、雪見大福と見間違えてしまいそうな見た目。
 あいにく私が訪れたタイミングは時期が遅く、花期を過ぎていたため仏炎苞を枯れ果てている株が多かったが、なんとか特徴的な付属体が残っていたので、その存在がわかった。あとは時期を見極め、この地を再訪すればそれはそれは麗しいユキモチソウと再会できるだろう。


 サンショウウオだけでなく、植物の面からも四国を再訪する理由ができた。これはなんとしても再び四国を訪れ、イシヅチサンショウウオを始めとする流水性サンショウウオや、ユキモチソウ・オモゴテンナンショウA. iyoanum などのテンナンショウ類を舐りたいと誓うのであった。


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ぼくのわたしの、スプリングエフェメラル


 台湾から帰国し、関連記事を書いている内に年をまたぎ年度をまたぎ、ついには半年以上も経ってしまった。ようやく通常運行となるわけだが、季節は夏から春へと移ろいで、いつしか生き物たちの忙しい季節に突入している今日この頃。帰国後もちょこちょこ面白いフィールドがあったのだが、せっかく通常運行に戻るので少しは季節感のある記事でも。



 “ スプリングエフェメラル ” という言葉がある。雪解け間もない早春に花を咲かせ、夏頃には葉も落として休眠してしまうような、春植物のことで、フクジュソウAdonis ramosa やニリンソウAnemone flaccida などがそれにあたる。その春先にしか姿を現さない儚さや美しさから 『 春の妖精 』 などと例え親しまれている。
 この言葉が普及し始め、段々と春の代名詞のような使われ方になってきて、早春に羽化するギフチョウLuehdorfia japonica やミヤマセセリErynnis montanus などの蝶類も同じくスプリングエフェメラルと呼ばれたりすることもある。なので、広い意味で捉えるならば、このスプリングエフェメラルという言葉は、その人にとっての “ 春を告げる生き物 ” ともとれるわけで、それぞれの人にとってコレという生き物がいても良いと思う。

 ということで、陽だまりの芝生に寝転がれば最高に気持ちの良い昼寝ができるこの早春の、私にとってのスプリングエフェメラルたちをご紹介。



キノコバエ?
キノコバエ?


以前 『 キノコバエで繋がる妖しい花たち 』 でも書いたが、この季節といったらやはりカンアオイとテンナンショウの珍奇植物たち。今年に入って続々と地上に姿を現し始めている。







ランヨウアオイ
ランヨウアオイ Asarum blumei


 普段良く見る冬時期のカントウカンアオイA. nipponicumとは異なり春咲きのカンアオイ。花が大きく縦筋が良く目立ち、ボテっと崖についていた。咲き始めなので右の花はようやく口を開けた寄生獣みたいな様相。



ランヨウアオイ
ランヨウアオイ


 正面から覗きこむとこれまた妖しげ。肉質といい、血色といい、なんとも淫靡な花。






タマノカンアオイ
タマノカンアオイ As. tamaense


 こちらはタマノカンアオイ。多摩丘陵に産する珍奇植物で、薄暗い林にひっそりと群生を作っていた。カンアオイの妖しさに魅了されていまうと、花がついていなくともその特徴的な葉の形ですぐに目に入ってくる。今まで風景としか見ていなかった場所も、この葉があるだけでまったく違って見えるしワクワクする。
 生き物を知って視野が広がり、こんなにも世界が違って見えると面白くてたまらないし、この感覚が中毒的過ぎて新しい生き物にのめり込んでいくのだろう。



タマノカンアオイ
タマノカンアオイ


 ランヨウアオイもなかなかの迫力を持っていたのだが、タマノカンアオイはまた別格。まるでラフレシアのような萼裂片と口に多数のつばを携える異形の花。バケモノが口を開いて飲み込もうとするような、とにかく珍奇植物に相応しい。
 きっとこれは万人受けするタイプの花ではないが、好きな人はものすごく好きなはず。私もその中の一人。








テンナンショウの一種
テンナンショウの一種 Arisaema sp.


 テンナンショウたちがニョキニョキと地面から這い出る。彼らには生えるというより這い出るが相応しい。




ミミガタテンナンショウ
ミミガタテンナンショウ Ar. limbatum


 西日を浴びるミミガタテンナンショウ。葉よりも先に仏炎苞が展開するので、咲き始めはなんとも妖しげな姿になる。
 ただ、こう西日が当たると雰囲気も柔らかく、 「 マムシグサ !! 」 と毛嫌いするにはもったいないほど。




ウラシマソウ
ウラシマソウ Ar. urashima


 シダの新葉が展開するよりも早く、ウラシマソウは釣り糸を垂れる。仏炎苞は葉よりも下に咲くので、グッと目線を彼らに合わせてやらねばならない。




オドリコテンナンショウ
オドリコテンナンショウ Ar. aprile


 伊豆半島に産する素晴らしい和名を持つテンナンショウ。仏炎苞も緑色で、さらに踊り子と付けられたこの植物は、肩身の狭い日本のテンナンショウ界ではなかなかに類を見ないプラスイメージの持ち主。背丈もそう大きくならず、なんとも可愛らしいテンナンショウ。
 初めはユモトマムシグサAr. nikoense かと思っていたが、偽茎開口部が襟状に開出する点で見分けられるようだ。





ムサシアブミ
ムサシアブミ Ar. ringens


 日本のテンナンショウの中でも奇抜な仏炎苞。いったい我々人間の誰がこんなデザインを思いつくであろうか。和名は馬具の鐙に似ていることに由来する。









ナガバマムシグサ
ナガバマムシグサ Ar. undulatifolium


 そして今春イチバンの植物はこのナガバマムシグサ。細長い小葉がたくさん連なり、中央には白い斑入りの葉。ホソバテンナンショウAr. angustatum よりも長い葉は他のテンナンショウが持ちえない最大の特徴で、とにかくスタイリッシュでかっこいい。さっそく私のスマホの待ち受けはこの写真だもの。
 こんな素敵なテンナンショウが伊豆の山では多く見られ、山道を歩けばそこかしこで鋭い葉を展開しているのだ。植物に興味がないときの私だったら両爬がなかなか出ないツマラナイ山道だったであろうが、今の私にとってはよだれが止まらん場所だ。

 ここら辺のヘンテコな植物にハマってから、フィールディングが牛歩の如くのんびりになった。というか面白いのがありすぎて前に進めない状態。今まで地図をみて2時間くらいだろうなと見当をつけた道も、今では5時間ほどかかってしまう始末。まぁ幸せな時間だし、山頂に行くことを目的としないので満足したら下山したらいい。
 この植物が見たいがために伊豆まで車を走らせたが、やはりあの土地は山が深く関東の山々の中でも雰囲気が違う。なかなか良い環境だなぁ、伊豆半島。







 とこんな様子で、いろいろ珍奇植物を堪能している春となっている。


カタクリ
カタクリ Erythronium japonicum


 もちろんこんなポピュラーなスプリングエフェメラルも堪能しているが、やはり私は珍奇なスプリングエフェメラルに心が躍る。ここ2か月中にこんなにもたくさんの植物に出会える幸せ。





スプリングエフェメラル



 ってダラダラしてたら5月になってた (笑) さぁ日本の素晴らしい生き物を堪能しよう。








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谷を渡って飾り付け

~ 麗しの島、台湾の旅 ~
1. 小汚いバックパッカーとダーティー兄ちゃん
2. トカゲたちの異なる境界線
3. 極彩色 Richly colored
4. 翡翠の純心
5. 蝦蟇が来たりて、夜は更ける
6. 翡翠の邪心
7. 谷を渡って飾り付け
8. 木登り蜥蜴の陰と陽
9. 至高のグルメ
10. 色とりどりの花咲き誇る
11. 斑蛇の明と暗
12. 既視感のオアシス
13. 蓮池や 咲いては消える 亀の華
14. 鼻先蛙は蛇の気配
15. モノクロームの鎮魂歌
16. 最終夜の晩餐
17. 老人と湯




 疲れ果てて深い眠りに落ちていたのだろう、目が覚めると目の前には見慣れぬ景色が全面のガラス張りに映り込んでいて、柔らかい日差しが朝を告げている。硬いシートの上で固まった足腰の疲れと、寝息と一緒に出た湿気でこもる空気 ( それもむさ苦しい男3人分の ) で、ようやく自分たちが台湾の地で車中泊をしていたことを思い出した。

「 よし、寝込みは襲われていないな 」

 初めての海外での車中泊で山賊や車上荒らしなんかを恐れていたが、無事に2日目の朝を迎えることができたようだ。私たちは夜中、陽明山から台北市内を抜けて南下し、雪山山脈の北端に位置する 『 烏来 ( ウーライ ) 』 という、日本でいえば伊豆や箱根のような山間の温泉地を訪れていた。
 2日目の朝は眩しいくらいの晴天で、すでに朝っぱらから暑いったらありゃしない。さすがは亜熱帯、台湾。感じとしては夏の西表島とほとんど変わらず、これからジャングルに踏み込むんだなという、冷や汗とは逆の嬉しい汗が背中を湿らせていた。



南勢渓
南勢渓


 烏来の温泉街に車を停め、2日目は南勢渓沿いに内洞国家森林遊楽区まで歩くことにした。ネットを見ているとこの川沿いで、ヒゴロモOriolus traillii やカワビタキRhyacornis fuliginosus 、ヤマムスメUrocissa caerulea などの魅力的な鳥に出会っている記事を散見したので期待していたのだが、出会うことは叶わなかった。
 めぼしい鳥としては遥か上空でオオカンムリワシSpilornis cheela hoya が旋回しているのをTOGU くんが見つけたが、私には識別はおろか目標をとらえることすらできなかった。それでもそんな鳥たちが出てくる事を期待して歩く台湾の道というのは、それだけでワクワクの冒険だ。




サクララン
サクララン属の一種 Hoya sp.


 鳥がなかなか見られないので植物をみる。川沿いの岩壁から垂れ下がっていたサクラランの仲間。おそらく沖縄などで見られるサクラランH. carnosa と同一種だと思われるが調べきれていないので一応属でとめておく。 carnosa の分布はオーストラリアからインド、中国、台湾、日本と広く分布する種のようで、wikipedia を見る限りでは他に台湾に分布するサクラランはいないようである。
 まるで木の枝にオモチャの風船が引っ掛かってしまったような面白い形態をしているので、まだ日本では見たことがなかったが図鑑で印象に残っていたので、すぐにサクラランの仲間だとわかった。植物にしても日本に近しい種がいるので、日本での経験値がモノを言うフィールドだなぁと思う。鳥を探して上ばかり見ていたから見つけたんだろう、いつもだったら下ばかりに目をやっているので今回は運が良かった。




内洞国家森林遊楽区
内洞国家森林遊楽区


 上ばかりに首を傾け約3時間、ようやく目的地まで辿り着いた。炎天下の中、アスファルトの道をひたすら長靴で歩くのはなかなかにこたえるが、烏来の温泉街からは車で抜けられそうになかったのでひたすら歩いた。しかし迂回ルートがあったようで、遊楽区の駐車場はすでに満車でごった返し、明らかに何時間も待つような渋滞が発生していた。相当な混雑っぷりに歩いてきて良かったと思う反面、かなり観光地化されていて散策しづらいだろうと不安も募る。
 入り口のモニュメントはアオガエルとハブカズラ的な彫刻で、いかにも亜熱帯なデザインに心躍る。しかもどちらも好きな私には、この入り口は期待しか抱かせない。





タニワタリの一種
タニワタリの一種 Asplenium sp.


 区内は沢と滝から溢れんばかりのマイナスイオンが放出されており、空中湿度が非常に高かったのでこういう着生シダ類がいたるところにある。これをみてホッとするのは沖縄に何度も訪れているからだろう、3人とも 「 沖縄っぽいね~ 」 という感想が口からこぼれる。ただここは台湾。沖縄と比じゃないような濃度なので、ひとつひとつの群落の大きさやその密度にはただただ圧倒させられる。




タニワタリ群落
タニワタリの群落 


 こんな素晴らしいタニワタリの群落があるのだ、もうアドレナリンが出まくっちゃって出まくっちゃって、空気中のマイナスイオンと結合して汗ダラダラですよ。なんかもうこれで1匹のモンスターのような、圧倒的な存在感を周囲に振りまいていた。
 台湾はタニワタリの仲間だけでも、オオタニワタリAs. antiquum 、シマオオタニワタリAs. nidus 、ヤエヤマオオタニワタリAs. setoi と数種も生息しているので、ここらを勉強して台湾で識別していたら楽しかったんだろう。 『 見上げればタニワタリ 』 といっても過言ではないほどに自生しているので、シダ屋さんにとってはパラダイスではないだろうか。
 かくいう私もこの密度に圧倒されて、 「 着生シダってなんかそそられるなぁ 」 とミーハーながらも魅力を感じてハマりつつある。その勢いで 【 シダの扉 - めくるめく葉めくりの世界 盛口満著 】 なんて本をすぐに買ってしまうあたりミーハー感がとまらない (笑) どっちかというと情報から入るタイプなので、読みやすいゲッチョ先生の本は入門する人間にとっては非常に夢を抱かせてくれる本である。これきっかけでシダ好きになれればいいなぁと思うので、どなたか使いやすいシダ図鑑教えてくださいな。あまりフィールドで使いやすいシダ図鑑が見つけられてない ・・・

 それほどまでに見事な群落だったのだ、この写真のタニワタリは。実物を見たら圧巻の存在感。






 途中、川の向こう岸にルリチョウMyophonus insularis が現れたのをTOGU くんが発見した。川辺の岩場に営巣しているのか、岩の隙間を出たり入ったりしていたので、観察しやすかった。
 遠目には黒い鳥にしか見えなかったが、なんとか辛うじてそう言われればそう見える程度。TOGU くんの写真で、翼の上面に白線があるように見えて 「 ルリチョウなのか ? 」 となったが、色が微妙に異なる青色の金属光沢部分が光の反射でそう見えたんだろう。本種は渓流沿いに生息するので、ようやく3時間かけて歩いたのが報われたような気がした。





ホザキヒトツバラン
着生ランの一種 Orchidaceae gen. sp.
→リュウキュウセッコク Eria ovata


 そして着生ランも発見。見た目はデンドロキラムDendrochilum 属のようなのだが、この属内で当てはまる種がおらず結局わからないまま。D. glumaceum に似ているのだが、フィリピンやボルネオに分布するようで違うし、台湾のデンドロキラムはD. formosum だが黄緑色の花を咲かせるので、この白い着生ランではない。
 海外でランを見つけるなんて、読み物だけの世界と思いきや、自分でもそんな体験ができるとは。それもまだ正体不明のランなので、少しずつ識別できるよう園芸書からでも調べていきたい。

→ボルネオのランを調べていたら、リュウキュウセッコクEria ovata だということがわかった。





カザリシダ
カザリシダ Aglaomorpha coronans


 そして今回の目玉、カザリシダ !! タニワタリがあまりの密度で自生しているので、楽しくなって見上げながら歩いていると、時々タニワタリとは違う形の着生シダが目に入る。ギザギザの葉に、着生した根元にある貯水葉、それが樹の周囲をぐるりと囲むように着生している姿は一度見たら忘れられないカッコ良さで、このシダこそがゲッチョ先生のシダ本を私に買わせた張本人である。
 元々、筑波実験植物園の温室で見たビカクシダPlatycerium が素敵すぎて、園芸店や植物園に行くたびビカクシダに見惚れていいたので、同じように着生しているシダで貯水葉を持つカザリシダをフィールドで見られたのは嬉しすぎる。カザリシダはビカクシダと同じくウラボシ科Polypodiaceae に属する着生シダのようで、ときめく理由はここにあったようである。

 貯水葉はネストリーフとも呼ばれる着生シダの器官で、腐葉を貯めて肥料とし、中に根を張る仕組みになっている。また貯水葉の名の通り水分も貯めておけるため、薄暗いところに群生するタニワタリと異なり、比較的陽の当たる明るい樹幹に着生していることが多かった。この貯水葉は緑色から褐色に変化し、それがピタッと着生部分を覆い尽くす姿がなんとも美しい。
 貯水葉に対し、ギザギザに葉を伸ばしている部分を胞子葉 ( フォリッジリーフ ) と呼び、他のシダ類と同じように、葉裏に胞子を付けている。厳密にはカザリシダには葉の2形 ( 貯水葉と胞子葉 ) が存在しないようだが、役割としては2形を担っているのでここではそう記載する。




 鬱蒼としたジャングルにたくさん点在するタニワタリも良いが、亜熱帯の眩しい日差しを果敢に浴びているカザリシダも猛烈にイイ !!思わず日なた感を出すために露出オーバー写真で。うん、南の島感、最高。
 台湾には他にホザキカザリシダAg. drynarioides という先端が細くなる美しい種も自生しているらしく、もしまた台湾に行く機会があるのならば着生シダ巡りをしてみたい。






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The Orchid in May


 5月のランはまだつづく。見に行きたいと思いつつも、なかなか予定がつけられずに花期を逃してしまうランも多い。しかもそれなりに遠出をしなければ出会えないランともなれば、はずしたときの代償は時間的にも金銭的にも、そして精神的にも大きいため慎重になりすぎてしまう。なのでじっくりと情報収集をして、天候・花期・休日が重なり合うタイミングで現地へと向かうのだが、去年はそれが噛み合わなかったため断念せざるを得なかった。今年は季節の巡りが早く花期の予想が難しかったのだが、タイミングを見計らって前々から見たいと思っていたランを探しに八ヶ岳へ。


 仕事終わりにレンタカーを借りて、ガラガラに空いている平日深夜の高速道路をひた走る。日々の業務の疲れが溜まってはいたけども、気持ちは高揚していて自然と眠くならずに麓のPAまで辿り着き仮眠をとった。早朝、用を足してベンチでぐーっと伸びをしながら 「 やっぱり空気がうまい !! 」 と、トラックの排ガス横目に目覚めのスイッチを入れていたら、革ジャンのお兄さんに声をかけられた。
  「 どこから来たんですかー? 」 とか 「 これからどこ行くんですかー? 」 といった挨拶的な会話からスタートして、その方はライダーだったらしく自分のバイクについて嬉しそうに語っていた。標高もそれなりにあって深夜から明け方バイクをとばしていたようで、だいぶ体感温度は低かったらしく、ようやく辿り着いたこのPAで小鹿のように震えながら 【 あったか~い 】 方の缶コーヒーをすすっていた。 「 へー、バイクにもETCとかあるんですねー 」 とか知らないことが多かったので私もそれなりに関心して話を聞いていた。
  『 旅先でのこういう出会いって良いもんだな 』 なんて思い始めたくらいに 「 ○○ っていう戦国アプリやってます? 」 と急展開。やっていないと伝えると 「 じゃあボクの紹介でアプリやってみてくださいよ、面白いですから 」 と勧められた。どうやら彼の招待でアプリをやると、ガチャが良いの出ますとか多く回せますみたいなことらしく、さらには紹介した彼にポイントが付与されるとかそんな話らしい。 「 お互い Win - Win な関係なので、ボクのいう番号を入力して登録してください 」 とバイク話以上の熱量で詰め寄られた。

 あぁ~、こわいこわいこわい !!

 旅の醍醐味かと思ったらとんだ落とし穴じゃないか。どうせスマホゲームをやらないタチなので、全然 Win - Win じゃないわー。そんなにカモっぽい顔してるのかなぁ、私は。
 とりあえずアプリをインストールしている間に “ 偶然にも ” 電池が切れるというハプニングが発生したと彼に説明して、 「 あ、いけない、もうこんな時間 !? 」 ってことでお別れをした。
 まぁ実際30分くらいは話していて、昇りかけの太陽が昇っちまったわけで、なんともったいない時間を過ごしてしまったんだろう。朝の30分は太陽の傾き方が大きく異なるので、森の中の印象が全然違うのに。
 車に戻ってから天気予報で、八ヶ岳地域にお日様マークがついていることをスマホでしっかり確認してPAを出発。登山口に到着するまで、いつも以上にアクセルを強く踏んでいたのは言うまでもない。



南沢
針葉樹林


 ハプニングはあったものの、山に入れば気分も和らぐ。今度こそ、こういう空気はうまい。フィトンチッド不足だった自分はみるみる回復して、登る足にも力がみなぎる。
 登山はやっぱり午前中が気持ち良い。太陽光が柔らかいし、自然光で撮ってて楽しいのはやっぱり午前。案外、やる気満々の午前中にいっぱい写真撮って、帰りの午後は疲れててあまり撮らないというのが最近の私のパターン。



イチヨウラン
イチヨウラン Dactylostalix ringens


 そんな朝日を背に浴びる美しいラン。唇弁と萼片・側花弁の基部に紫色の模様を持ち、他は緑色をしているので他の植物に紛れて見つけづらい花。花が綺麗に全開すると萼片と側花弁で大の字になるのだが、今回は少し早かったようだ。



イチヨウラン
イチヨウラン


 フカフカで水分を保つコケの上に咲いていて、ぷっくりとした1枚の花をつけている。その1枚しか葉をつけないという特徴からこの和名がつけられたという。サイズ感もちょうどよく、直立してこちらを見据えている感じが可憐で素敵。
 普段のフィールドではお目にかかれないような深山の植物なので、えらく感動してしまう。今回は植物眼でフィールドを歩くので見つける生き物も植物が多い。本来の狙いはこのランとは別のランだったのだが、探す眼が違えば見つかるモノも変わるというわけだ。





晴れ茶
晴れ茶


 あまりに天候に恵まれ気持ちの良い登山だったので、休憩中も心が躍る。最近フィールドに持参する飲み物は大抵この 『 世界の Kitchen から 』 シリーズの 【 晴れ茶 】 。緑茶とハーブをブレンドした飲み物で、最初はあまり口に合わなかったが、飲んでいるうちに気持ちが晴れやかになって心地好い後味がクセになってきた。
 この日もすごく天気が良く晴れやかだったので、太陽を透かして 『 まさに晴れ茶 』 ってのをやりたかったんだけど、思っていたよりも自分の指が短すぎて泣きたくなった。まるでクリームパンにポークビッツでもブッ刺したような私の手ですが、それはまぁ忘れていただいて爽やかな晴れ茶を感じていただければ。ゴロンと寝っ転がり、山地のひんやりとした風を受けながら仰ぎ見る太陽と晴れ茶は格別。





ホテイラン
ホテイラン Calypso bulbosa


 そしてお目当てのホテイラン。まるで妖精のよう。この小さくて愛らしい妖精を求めて八ヶ岳までやってきたのだ。

 植物の図鑑を購入して、童心に帰ったようにうつ伏せでページをめくる。そこに登場する植物たちは、全くの別世界の生き物のようで、普段どれだけ自分が植物に注意を払っていないかを思い知らされた。実際には身近に咲いていたり、少し努力をすれば探しに行けるところに彼らは咲いていて、思わずフィールドに出たくなる。
 中でも去年見つけたキバナノアツモリソウCypripedium yatabeanum とこのホテイランは、うつ伏せの状態から思わず正座になって見返してしまうほど衝撃を受けた花だった。どちらも唇弁が袋状になっているところをみると、おそらくそういう形が私は好きなのであろう。無意識に惹かれるものがある。

 ホテイランは図鑑で見る姿と実物とはやはり違うもので、想像以上に小さく可憐で、妖精という言葉がぴったりのランだ。さらにはこんな特徴的な形に鮮やかなピンク色。そりゃあ人を魅了させるなというものを持っている。




ホテイラン
ホテイラン


 薄暗い針葉樹の森で、うつむき加減に薄桃色の花をつけるホテイラン。花茎も短いため、花の正面から撮るにはだいぶローアングルで撮る必要があって、結果寝そべりながらの撮影が多くなる。夢にまでみた光景に、いつまでもゴロゴロとうつ伏せになって撮影をしていて、ふと図鑑を眺めていたあの頃とリンクした。今ではこうして書面ではなく実物と対峙していることに感動を覚え、思わずあの時に正座してしまったそのアングルで改めて写真を撮ってみると、なんだか自分的にはしっくりくる写真が撮れた。まるでお互いが正座で挨拶しているような、一歩この花に近づけた嬉しさがある。
 前述のイチヨウランと同じようにコケの上に咲き、湿度の保たれた環境に生えている。またこちらも葉は1枚だが、この特徴的な唇弁を七福神の布袋様のおなかに見立ててつけられた和名のようだ。属名のCalypso はギリシア神話の海の女神であり、なんとも神々しい花である。
 こんな素敵なランに出会える5月はとにかく凄まじかった。




山へ
八ヶ岳を望む


 時期的に赤岳や硫黄岳まで登ってツクモグサPulsatilla nipponica もついでに見られたら良いなと思っていたが、そもそも辿り着きもせず、山々が眼前に迫ったとこくらいで引き返しただけの山行だった。この写真を撮ったのがお昼過ぎくらいで、そんな時間からその山々に登ってたら確実に下山時に暗くなってしまうので断念し、次回はあの山に登るぞってことで登山っぽい写真。
 やっぱりこの登山靴モアブミッドはカッコイイなって思いつつも、私の短足が露呈してしまう悲しい写真。今回の記事ではチンチクリンな私の身体が登場してしまう記事になったが、花紀行の雰囲気が伝われば良いかな。



 ということで、前回の記事につづいてこれにて5月のランシリーズは終了。本当に良い月でした。



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皐月の蘭


 5月はランの月。そう言わざるを得ないほど、先月は植物探訪の機会が多く、慌ただしく終わってしまった5月。いつの間にやら植物屋まがいになり、季節や天候を気にしながら花期を予想して各地へと足を運ぶようになってしまった。こうなってくると車が非常に欲しい。仕事終わりに支度して車中泊で遠出できるし、ふと早朝に目が覚めても始発を待たずして出発できるし、なにより電車とバスとでは時間がかかってしまうのがもったいない。あぁ、ジムニーとかパジェロミニ欲しい・・・
 まぁドラゴンボールを集めたら~的な話はここら辺に致しまして、5月の花々を。


シラン
シラン Bletilla striata


 ランの中では丈夫な種で日当たりの良い草原などに生える。庭先や道路わきの花壇などにも植えられ非常に身近なランである。里山の草原にて。おそらく純然たる野生種ではないのだろうけども、ミシシッピアカミミガメTrachemys scripta elegans にしてもそうだが野生下で見て美しいと思えば美しいのだ。そこに 「 ガイライシュ・エンゲイシュ 」 というフィルターをかけて先入観で見てしまうと、本来の美しさは見えてこない。
 案外人間は視覚だけでなく、そのバックボーンを想像して美を認識するみたいだ。私ももちろんそうなんだけど、もっと素直な目で生き物を見ていきたい。つまり曇りなき眼で見定め、決めるということ。


キンラン
キンラン Cephalanthera falcata


 紫の次は金。お目当てのキンラン。春の里山に咲く姿を見たくて訪れた。去年は花が開ききっていないところしか見られなかったので今回は良いタイミングだった。
 暗い林内でストロボを焚いてしまうと、なんだか本当に金色みたい。



キンラン
キンラン


 豪華金蘭、いや豪華絢爛なキンラン。薄暗い林内でたまに差し込むスポット光を浴びて煌めいていた。ストロボを焚かずとも、こちらのキンランは輝きを放っているのが印象的で、夢中になって写真を撮っていると、同じく花を求め山を歩く奥様に。

 「 これはすごいわねぇ。アタシも良いかしら? 」

 と一緒になって写真を撮った。この株の良さを共有できる人に出会えたのが嬉しい1日だった。 『 あと数年遅く生まれてきてくれたらトキメキが止まらなかったのに 』 と、また他愛もない事を考えながら 「 それでは 」 と別れを告げた。



エビネ
エビネ Calanthe discolor


 素敵な出会いの後には、素敵な出会い。ランは花の形が特徴的な種が多く、本種も面白い形をしていて私には岡本太郎の作品のように見えてならない。
 このランも園芸の趣味人が多く、多様な品種も作出されている一つで、自生ではない場合もある。今回は杉林の崖地にひっそりと佇んでいたので、おそらく自生かと。また植えられたエビネは基本的にはまっすぐと伸びて ( もちろん自生種もまっすぐだが ) 、このように斜めに伸びることはあまりない。
 あと心配な事としては盗掘にあわないことを願うばかり。この手の人気のあるランは一時期の園芸ブームの立役者でもあり、今現在でも野の花を摘んでいくものがいるという。まぁ 「 採るのは絶対的に悪だ 」 とは私は言わないが、動けない生き物なだけあって、その地に再訪して会えると期待していたのに会えないというのは寂しい。見つけたその瞬間は誰のものでもなく自分のものであるのだが、これから先の未来、誰かが見つけて同じように嬉しい気持ちになってくれる事を想うと、その未来の感動を摘んではいけないなと思う。さらに言えば、自分に与えられた幸運な瞬間も、もしかしたら誰かが紡いでくれた幸せなのかもしれない。だからこの出会いに感謝して笑顔でさよならを言おう。

 おぅ、なんかミリオンセラーでもぶちかましそうな歌が1曲できそうだな。誰かプロデューサーになっておくれよ。






 里山の次は山を登る。



セッコク
セッコク Dendrobium moniliforme


 去年はタイミングを逃し見ることが叶わなかった着生ラン。大木や岩壁に着生して白い花を咲かせるランで、気にして探さないと見つからない。つまり上ばかり見ているので首が疲れるし、何よりその道中で両爬を偶発的に見つけることもなく、ただただ花を探すフィールディングになってしまうのが難点だ。
 沢の近くで空中湿度も高く、なおかつ隣接する樹との距離がある程度あって開けたところに着生しているのが多かった。マイナスイオンと朗らかなスポット光で気持ちの良いところだったが、沢に阻まれ高い位置に咲くということで、しっかり撮るには望遠レンズが必要だった。しかし残念ながら私には持ち合わせがない。
 望遠レンズ欲しいなぁ、300mmくらいで良いから。この季節だとササゴイButorides striatus とか撮りたいしなぁ。
PENTAXの★単焦点レンズとかほしいぜ。まさに高根の花というやつだ。 ( 花もレンズも )






サイハイラン
サイハイラン Cremastra appendiculata


 妖しいラン !! やっぱり豪華絢爛な花も良いですが、こういうテイストのランが好き。うつむきがちに花を開くので、ローアングルでスカートを覗きこむように撮るのがコツだとか。以前見た個体は花期を過ぎて、しわっしわで花も閉じていて、妖しくそそり立つだけのよくわからん状態だっただけに、もっさりと咲いているのに出会えるのは嬉しい。それもこの株を見つけた道沿いに点々と生えているので、 「 あ、またあった !! 」 とその都度写真を撮りたくなるのでなかなか前に進まなかった。




サイハイラン
サイハイラン


 淡いピンク色の花がたくさん垂れ下がってついていて、それが薄暗い林内の下草の間からズンっと出ているとなかなかに存在感がある。この株は花期真っ盛りだったので、ビンビンに立っていてほぼ垂直に花が開いていた。タイミングが良いと色鮮やかで、花内部の紫色も美しい。それが薄衣のピンク色から透けている妖艶な姿がこのランの魅力だと思う。


 去年タイミングを逃したセッコク、サイハイランがリベンジできたのは良かった。そしてここまでダラダラ書いてもまだ5月のラン紀行は書き切れない。ということで次も5月のランを。








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奈良の仏炎苞

キシダマムシグサ
キシダマムシグサ Arisaema kishidae


 ニホンカモシカCapricornis crispus と出会う30分ほど前、昇りきっていない太陽の光がマムシグサにスポットライトを当てていた。やはりこういう光景が好きみたいで、早朝の自然光に照らされる植物を見つけると、ついつい撮りたくなってしまう。というより一眼になって全然ストロボを使いこなせていないので、最近はこういう写真ばかり・・・



キシダマムシグサ
キシダマムシグサ


 妖しいマムシグサもずいぶん爽やかに写る。本種は近畿地方に産するマムシグサで、舷部は長く糸状に伸び、小葉は鋸葉になるのが特徴である。この特徴的なスネオヘアーがよく目立ち、今回訪れた林道ではたくさんのキシダマムシグサが生えていた。植林地だったりコンクリートで舗装されている林道のちょっと土が堆積したところなど、意外と劣悪な環境でも顔を出しており、私がヘビ探しでよく行くコンクリートで舗装された林道にも同じような感じでミミガタテンナンショウA. limbatum などが生えている。
 薄紫色の株が比較的多く見られ、太陽を透かすとまるで紫玉ねぎのようだ。朝食代わりにマヨネーズをつけて食べたいが、コレを食べてしまったらシュウ酸カルシウムの針状結晶が舌や喉を突き刺して、口中に激痛が走るだろう。慌てた私は大量のマヨネーズをチュッチュして中和させるだろうな。 “ マヨチュッ中和 ” だな。



ムロウテンナンショウ
ムロウテンナンショウ A. yamatense


 もう一種よく見かけたのがこのムロウテンナンショウ。付属体の先端が濃い緑色でさらに膨らんでおり、まるで中からE.T. の指が出てきているよう。付属体の反しが大きいためなのか、覗き込むとキノコバエが入っている株が非常に多い印象だった。
 こちらは前述のキシダマムシグサに比べて日陰を好むようで、薄暗い杉林などでよく見かけた。



マムシグサの一種
マムシグサの一種 Arisaema sp.


 地面からニョキニョキと次のやつら。近畿のこの地域には他に、舷部も花序柄も長いヤマトテンナンショウA. longilaminum 、仏炎苞の口辺部が内側に反り返る幌状のホロテンナンショウA. cucullatum 、伊豆半島にも産する妖しい色のオオミネテンナンショウA. nikoense var. australe などのマムシグサが分布しているようで、果たしてこのマムシグサの一種は何なんだろうか。この時期に遠征すると、普段見慣れていないマムシグサが咲いているから面白い。
 5月末~6月上旬くらいに再訪できれば、かっこいいヤマトテンナンショウに出会えるのだろう。ナガレヒキガエルBufo torrenticola のリベンジも兼ねて、また奈良に行く理由ができた。シャクナゲRhododendron japonoheptamerum と室生寺という組み合わせも見たいし、やはり 「 いま、ふたたびの奈良へ 」 だな。


 私の住んでいるところから夜行バスでアクセスも良いし、またどこかで行くかもしれん。奈良遠征は非常に楽しいモノでした。



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強欲な貴婦人たちの舞踏会

バナナワニ園
熱川バナナワニ園 


 先週は母方の親族と伊豆へと旅行に行ってきた。だいぶ幼い頃に訪れたらしいバナナワニ園にも行った。私は園内の記憶など全くなく、ただ入り口に貼られたポスターに子ワニと触れあえるイベントの告知が載っており、それが数日先からスタートだったので、「えぇ~、じゃあ今日は触れないじゃーん」といじけていた記憶しかない。今回も特にそういったイベントはなく、十数年ぶりにいじけたのは言うまでもない。


 んで前回の記事で最後に「やはりハペだよ」っていう事を言っていたのだからワニの記事書けよって話なわけだけど、思いのほか植物温室が素敵だった。そして今週末は会社の先輩に世界らん展に連れて行ってもらうので、こりゃあ温室で見たランを載せるしかないなと・・・

パフィオ
パフィオペディルム Paphiopedilum sp.


 特にプレートがなかったので確信はないが、調べる限りではP. venustum と思われる。この手のランは非常に心惹かれるので、らん展では心ゆくまで堪能したい。


 強欲な貴婦人たちに押しつぶされないよう気をつけよう。




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待ち人 来たる

 今回は時期も過ぎていたため、花は諦めて訪島した。「シダとかサトイモの素敵な葉っぱが見られれば良いだろう」と特に期待もせずに、緑生い茂るジャングルをかき分け、すばしっこいトカゲたちをアダンの棘に刺されながらも追いかけていた日のこと。
 昼を過ぎてトカゲたちは充電を完了させ、俊足で深緑の中へと駆け込み相手をしてくれないし、私は私で昼メシで腹を膨れさせ、そろそろ昼寝でもしたい気分になっていた。ウトウトと、意識も朧げながら無意識に上へ上へ、前へ前へと足は運び、森を抜けて山のだいぶ上の方に出てきた。低地の鬱蒼とした林内とは打って変わって、日光の照射量が多いこの頂付近はまた違った西表島の顔をみせる。




コウトウラン
コウトウラン Spathoglottis plicata


 環境が変われば棲む生物も違い、植生は目に見えて顕著である。自分の狙いの外側にいる想定外の素敵な生き物に会うには、様々な環境を歩いてみるのも手だ。こういったランもその一端で、夏に花をつける植物なので予想外の出会いだった。
 可愛らしいピンクの花弁を数個つけ、日当たりの良い山の斜面に生えていた。強い日差しを受けて、淡い桃色の影を地面に落とすその美しい光景に出会えて、本当に良かった。いくつか枯れつつあるものの、私を待っていてくれたようだった。




ナリヤラン
ナリヤラン Arundina graminifolia


 待ち人は一人ではなかった。おそらくおみくじを引いていたならば『待ち人』の項目には「来たる」とでも書いてあるんじゃないだろうか。なんと憧れのナリヤランまでこの目で見ることができるとは思いもよらなかった。
 「洋蘭のカトレアCattleya を思わせるような~」そんな表現をいろんな書籍やネットで見かけるが、まさにその通りだと感じる。豪華なドレスをまといしその花は、日本の花というよりかは洋風な趣で、肌寒い関東を抜けだし遥か異国の暖かい地で桃源郷でも見ているのかと思わせる。
 こちらも初夏から夏に咲く花なので遠目で見つけた私は、砂漠を彷徨って見る蜃気楼のオアシスのような、幻に近いモノを感じた。「図鑑を読み過ぎたからだろうか」 「暑い林道を歩き回ったからだろうか」 そんな蜃気楼の原因を考えつくより早く私の足はそのオアシスに辿り着き、蜃気楼ではなく本物のナリヤランだという事実に歓喜した。
 西表島探索のバイブル【西表島フィールド図鑑 横塚眞己人著】の表紙にも登場する花で、西表島を代表する花といっても過言ではない。この本によるとナリヤランの和名“ナリヤ”というのは西表島の内湾に浮かぶ内離島の成屋(なりや)集落に由来するという。ただその成屋集落は1920年に廃村となってしまったようで、現在内離島は無人島となっている。
 採炭や戦争など様々な歴史を経て、内離島からは人がいなくなり、成屋集落は消滅していった。私が蜃気楼のように感じたのは蘭ではなく、集落の方の“なりや”だったのかもしれない。この花は、そういった歴史を背負い込んでいるからこその美しさがあると思うと、なんだか感慨深い。ただただ姑息な盗掘者に狙われないことを願うばかりだ。




イリオモテヒメラン
イリオモテヒメラン Malaxis bancanoides


 そしてもう1種ランを見つけた。それがこのイリオモテヒメラン。日当たりの良いスポットライトを浴びたような前述の2種とは異なり、薄暗く湿度の高い森の中にひっそりと咲いていた。
 一見しただけではランに見えない、このラン。実は無数の小さな花が集まっている。


イリオモテヒメラン
イリオモテヒメラン


 コレでランなのだから、ランの多様性にはいつも驚かされる。進化とはここまで生き物の見た目を変え、人々を魅了するものだとは。まるで小さな顔がたくさん集まっているような、妖精の集合体のような、とても奇妙な花の集まり。
 なかなかの斜面に生えていたので、写真を撮る体勢はツライし、暗いのでシャッタースピードが上がらずブレるブレる。そのためこの暗くジメジメした森で長時間じっとしていたため、蚊の猛攻を受け続けていた。南西の蚊というのは厄介で、このかゆみがなかなか引かない。そして帰宅後3週間ほどはかゆみは引かず、今も刺された後は残っている。ただまぁこの時期にこれだけランが見られたから、その代償としては軽いものだろう。




 行く前には予想もしていなかった花々。ゆえに目に入った瞬間、心に一輪ずつ花が咲いて島を去る頃には花びらで満たされた。なんと素晴らしい花旅だろう。




1. 圧倒的生命力に溶けてゆく
2. セマルで合わせる “ 島時間 ”
3. WINGS
4. あめあめふれふれ
5. 待ち人 来たる
6. 川底の大鋏
7. ネズミのいなかったその島で
8. 第二の故郷はいつ帰っても暖かい



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甘美な紫

トリカブト
トリカブト Aconitum japonicum


 箱根外輪の山中で見つけた紫の烏帽子、トリカブト。地域的なこともあってこの土地特有のハコネトリカブト A. j. var. hakonense かとも思ったが、ハコネは草原に直立して生え、花が密集して咲く。この株は林内に垂れ下がるように花を咲かせていたことから、どうやらヤマトリカブト A. j. var. montanum のようだ。


 前の記事に登場したヒガンバナ Lycoris radiata も有毒植物として知られているが、毒を持つ植物としてはこのトリカブトほど世の中に名前が知れ渡っている植物もそうありはしない。
 トリカブト毒 “ アコニチン aconitine ” は自然界でもトップクラスの毒性を誇り、かの有名なフグ毒 “ テトロドトキシン tetrodotoxin ” に次ぐ毒性を持つ。フグ毒の半数致死量LD50は0.01mg/kg(簡単に説明すると体重60kgの人間が10人いてそれぞれ毒を0.6mgずつ摂取した場合、半数の5人が死ぬ値、つまりその量を摂取して死ぬ確率が50%の量ということ) と、とても強く、トリカブト毒もLD50は0.05~0.1mg/kg という強さだ。ちなみに我らが毒蛇ホンハブ Protobothrops flavoviridis のタンパク毒はLD50で1.74~2.39mg/kg 、推理小説なんかによく出てくる青酸カリはLD50が3~7mg/kg だったりと、いかにフグ毒やトリカブト毒が少量で死に至らしめることができるか、その毒性の強さがわかる。
 一口に毒といっても様々な成分・性質・生体への影響があるわけで、一概に一括りにすることは難しく、「この毒が最強!!」みたいな中学生じみたセリフを吐くのは些か憚れる。毒性で言えば、ニホンマムシ Gloydius blomphoffii のタンパク毒はLD50が0.98~1.19mg/kg でハブよりも毒性が強いのだが、そもそもの毒の注入量ではハブの方が多いためにマムシよりも危険視され、実際に多くの人が深刻な被害を受けている。



 様々な条件下で毒の効用というのは変化するわけだが、自然界で猛毒とされるテトロドトキシンとアコニチンは同じ “ ナトリウムチャネル ” に作用する毒である。神経細胞にあるナトリウムチャネルはナトリウムイオンが通過する際に電気が発生して、それにより我々は体を動かしている。テトロドトキシンもアコニチンも標的とするモノは同じなのだが、前者はナトリウムチャネルを阻害してナトリウムイオンが通過できず、筋肉や臓器にエネルギーが届かずに麻痺して死に至る。後者は逆にナトリウムチャネルを開放してナトリウムイオンが神経細胞に流入し過ぎることで筋肉や臓器が興奮し、そして死に至る。どちらも猛毒であるが作用としては正反対の働きをしている。


 「じゃあ2ついっぺんに飲んだらどうなるの?」
 好奇心旺盛な理科好き小学生がいたら、こんな疑問がぽつりと浮かぶだろう。


 ナトリウムチャネルを開く毒と閉める毒、つまりは拮抗してお互いの効果を打ち消し合うようだ。さらに面白い(関係者の方には不謹慎で申し訳ないが、科学的に興味深いという意味で)のが、この2つの毒は作用の継続時間が異なるので、これをアリバイトリックとして実際に殺人事件が行われた過去もある。


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 犯人とその妻は沖縄本島を訪れ、友人たちと合流して石垣島を目指す予定だった。しかし犯人は仕事を理由に石垣島へは渡らず、妻とその友人たちで石垣島へと渡ったのだが、別行動になってから1時間半後に妻は石垣島のホテルで苦しみ死亡してしまった。
 検死の結果、初めは心筋梗塞と判断されていたものの、トリカブトによる中毒死だということがわかった。しかしトリカブトは摂取して10~20分ほどで症状が現れるのだが、犯人である旦那と分かれてから1時間以上も経過して発症したため、アリバイがあるとされた。このアリバイトリックに使われたのが、フグ毒とトリカブト毒の拮抗作用を利用した遅効性毒である。


 犯人はテトロドトキシンとアコニチンを絶妙に調合することによって毒の症状が現れる時間をコントロールし、あたかも自分の関わっていないところで起きたように見せかけたのだ。毒薬を飲んだ始めのうちは両種の毒が拮抗して毒の症状が抑えられるのだが、毒の血中濃度が半分になるまでの時間、いわゆる “ 半減期 ” になるまでがテトロドトキシンのほうが短いため先に血中濃度が低くなり、そこから拮抗状態は崩れアコニチンの症状が発症した。
 つまり石垣島へ渡る最中は両種の毒が拮抗していて症状が現れなかったものの、ホテルに着く頃にはテトロドトキシンは半減期となってアコニチンが毒の効力を発揮し、遅れてトリカブト中毒となる。

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 ある種の遅効性毒ともいえるこの混合毒を用いて犯人はアリバイを作り、警察の目を掻い潜っていたようだ。実際、こういう毒を混合する場合、その配合は非常にシビアだろう。犯人はマウスを用いて割合を調整していたようだが、いざその混合率でヒトに投与した時に果たしてマウスと同じような効果が発揮されるかどうかは難しい。



 薬も毒も要は程度の問題であって、どう扱うかで使い道というのは変わってくる。いきすぎた薬は毒であるし、毒から薬が生まれることもある。トリカブトも猛毒ではあるものの、その根塊は附子(ぶし)と呼ばれる漢方にもなる。
 結局のところ “ 使う側 ” に委ねられているんだ、原子力にしたってピストルにしたって。



 「毒=紫」ってどこから生まれたイメージだかわからないけど、「毒のイメージカラーは?」と問われれば、ほとんどの人は紫色と答えるのではなかろうか。だから『猛毒 トリカブト』って書かれるとイメージ悪いけども、『森の小人の帽子』とでも表現してやればずいぶん可愛らしいはず。

トリカブト
トリカブト


 それでも私は、“毒”という甘美で妖しげな誘惑に惹かれたんだと思う。毒の話だったらやはり江戸川乱歩の 『 屋根裏の散歩者 』 が、ある種犯人とシンクロしているような感覚で読み進めることになり、なんとも言えないゾクゾク感がある。私がこの小説を知ったのは有栖川有栖のほうの 『 屋根裏の散歩者 』 が先なんだけど、こちらの話は江戸川乱歩をモチーフにした話で、それこそシンクロ云々はその小説内で説明されていて、そのイメージで読んでたから自然とそっちの方向に引き寄せられながら読んだんだと思う。
 それにしたってタイトルが素敵じゃないですか、 『 屋根裏の散歩者 』 だなんて。ましてや毒ってのは秘密裏にやるもんだから、それにこのタイトルは素晴らしすぎる。まぁいくら感動したところで、郷田三郎になってはいけないけども。


 まぁ、とにかく最近は“毒”という魅力に惹かれているわけです。両爬も毒を持つやつらは多いですからね、色々な視点でみていったら面白いだろう。



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冷たい赤

ヒガンバナ
ヒガンバナ Lycoris radiata


 「もう夏か・・・」だなんてついこの間感じていたかと思ったのに、気がつけば彼岸も過ぎてずいぶんと空気が秋めいてきた。野山を彩る草花たちも、盛んに伸び放題・咲き放題の勢いのある夏の顔から、所々に落ち着いた色合いをこっそりと咲かせる静かな秋の顔へと移り変わっている。
 こうなってくると、小雨で少し濡れるだけでもなかなかに肌寒くて、「もう帰りたい」だなんて泣き言を一人つぶやき始める。




ヒガンバナ
ヒガンバナ


 赤色は情熱的で活気のある色なのだけれども、どうしてこの花の赤は落ち着いた、どこか懐かしい、そしてなぜだか冷たく感じられるのだろう。
 小雨に濡れてなお一層、その体温の低さを憂いているかのよう。


 
 秋雨に

  泣いた童は

   赤衣


            月光守宮

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未来に咲く

ヤマユリ
ヤマユリ Lilium auratum


 あなたに少しだけの知識と、ちょっとした想像力があれば、この絵はきっと素敵に変化するだろう。この写真が美しいのは撮った瞬間ではなく、ほんの少し先の未来。
 写真は静物なんだけど、見る人が見ればそれは劇的に動き得るモノになる。この写真も、あと少し経っていたらヤマユリの蕾は華麗に花開き、道行く人々は足を止めて甘い芳香を楽しむことだろう。ただ、この時点ではそれがヤマユリの蕾だとわからなければ、想像し得ることはかなわない。気がつかなければ、人々は見向きもせずに立ち去ってしまう。素晴らしい未来が視えるかは、瞳に写すことよりも、脳裏に描くことが重要だ。


ヤマユリ
ヤマユリ


 少し時期が違えば美しく咲き誇る。 左側に見本があるでしょう。あとは少しばかりの想像力だけ。さぁ、そこにない未来を視よう。




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暑中お見舞い 頂きまして



 偶然なのか必然なのか、

 この世の中に同じ個体に惹かれ、同じように写真を撮っている人がいるだなんて。



 いつものように、ブックマークしてある素敵な生き物屋たちのブログをめぐっていた。そうしたらあるブログの最新記事に目が留まり、同時にある疑問が浮かんだ。「あれ、この写真・・・オレが撮ったやつじゃないか? いやこの景色・・・ついこないだ見たけど、これオレのじゃないな。」
 その写真というのがリンクさせていただいているクマGさんのブログ「未定」の【暑中お見舞い、的な。】という記事。この方は身近に棲まう様々な生き物を勢力的に撮影していて、植物からザトウムシやガ、粘菌まで多岐に渡る生物群に造詣が深い。ここ最近の私の植物熱の根幹的要因は実は彼にあって、以前撮られていたテンナンショウの写真があまりに素敵で一気に植物の世界に引き込まれた。
 そういう流れがあって植物を求めて野山へ出掛けているのでおのずと、惹かれる個体・好みのアングルなんかが影響を受けているんだと思う。


イワタバコ
イワタバコ Conandron ramondioides


 これが私の方の写真。

 なんたる偶然。いくら対象やアプローチが似ていようとも、このように同じ個体を撮るのは奇跡に近い。場所もそうだけど、時期も微妙にズレてしまえば花期も違うので、1週間ズレるだけで影響は大きい。
 そんな中、このようにシンクロしたかのような写真が撮れるだなんて、相手が女性だったらビビビときて「あ、この人が運命の人かも…」とか、なってたかもしれない(笑)

 全人類という分母に対して分子の少ない生き物屋の世界では、おそらく今後このような偶然は自分には起こらないであろう。それなのにリンク先のブログを覗く目は、どこか期待に満ちた目で見てしまう。
 案外気がつかないだけで、どこかで誰かとすれ違っているのかもしれない。


 クマGさん、これ本当にすごいですよね!?


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銀の龍の背に乗って

 部署が替わって土日休みになったということは、フィールドで人に出会う頻度が多くなるということ。とりわけ昨今の登山ブームで首都圏からアクセスの良い高尾山は、それはもう百鬼夜行と呼んでも遜色ないほどおぞましいものになる。進むペースも通るルートもほぼ人次第で、私のようにのんびり生き物探しながら登っている人間は邪魔者以外の何者でもないようで、気がつけば後ろに何人もの魑魅魍魎どもの列が出来上がる。道を譲るのも数が数なので気を遣うし、何か見つければやたらと声をかけられるしで、全くもって落ち着かないフィールドに困惑するばかりだった。
 人の往来が多いここ高尾山では文字通り“日の目を見ない”植物も、たくさんのスポットライトを当てられる事になる。

ギンリョウソウ
ギンリョウソウ Monotropastrum humile


 光合成をせず、モノトロポイド菌根の菌糸を介して共生関係にある樹木から養分を得る菌従属栄養植物、いわゆる腐生植物というやつら。葉緑体を持たないため透き通るような白さで地上に顔を出し、まるでキノコのように湿った薄暗い森に生えることから、ユウレイタケとも呼ばれるずいぶんと雰囲気のある植物。
 中国などでは水晶蘭とも呼ばれ、神秘的な捉え方をしている。幽霊のように不気味に感じている日本の感性とは違っていて、水晶蘭という名称はすごく素敵だ。

 腐生植物の中では認知度も高く、ハイカーのおばさん集団の5組に1組は、「あ、知ってる知ってる」と私に話しかけてくる。ごく稀にいるのが「名前何て言うんでしたっけ? ギンリュウソウ?」と、恐らく漢字から入ったであろう人に出くわす。でも個人的にはギンリュウソウのほうが響きは好き。竜安寺も“りゅうあんじ”のほうがしっくりくるように感じる。



ギンリョウソウ
ギンリョウソウ


 この株は岩のほんのわずかな隙間からけなげに咲いていた。それも下から生えているのではなく、奥から水平に茎を伸ばして顔を覗かせている。こちらは洞窟の中の水晶といった印象で、水晶蘭の名にふさわしい佇まいだった。

 見ている種類が同じだとしても、
  国が違えば名前も変わり、
   生まれ育った環境が違えば感じ方が異なり、
    時期や時間によってはまるで別の姿を見せる。

 私には私のギンリョウソウが、 あなたにはあなたのギンリョウソウが、 今もどこかで息づいている。



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花の壺で悦に浸る


 梅雨時期のフィールドは日々の週間天気予報とのにらめっこが欠かせない。目星を付けた予定日も、差し迫ってくるにつれて刻々と予報が移り変わっていき、直前になって悪天候のお知らせに変わることもザラにある。つまりはあくまで予報であってその日になってみなければわからないわけで、おおよその天気予報をもとにフィールドへと出向く。まして向かう先が山々の連なるところともなれば、『山の天気は変わりやすい』の一言で全天候を受け入れなければならない責務が我々にはあるようだ。
 仕事終わりで疲れも溜まっていたはずなのに久々にちょっと遠出して山に入る高揚感で溢れていたためか、気がつけば南アルプスへと向かう道中のコンビニ駐車場に私はいた。ナビを設定してみたら下道では4時間もかかるという事実を目の当たりにして、ハードな行程なんだと眠気覚ましの缶コーヒーで一息つきながらようやく実感する。もちろんやっぱり缶コーヒーは大好きなレインボーマウンテン。
 途中0時をまわっても営業している地方のラーメン屋で遅い晩メシを済ませて英気を養い、再び迫る睡魔と闘いながら目的地付近の道の駅へと辿り着く。狭い車内で寝袋を広げ、この日は車中泊で朝を待つ。



山


 目覚めてから五分五分くらいだった昨日の天気予報の答え合わせ。結果は五分五分の平行線。晴れればラッキーで登れるし、天気が悪くとも魔法の言葉“山の天気は変わりやすい”をモットーに、結局は山に分け入っていくわけだけども。



キノコ
キノコの一種


 たっぷりと水分を含んだ森は潤いに満ちていて、コケはふわふわだし、キノコはいたるところで傘を差しているし、私のお肌も保湿されてすべすべだし、この上なく気持ちの良い森林浴。やはり休みの日は外に出ている方が幸せだ。





ホテイアツモリソウ
ホテイアツモリソウ Cypripedium macranthos var. hotei-atsumorianum


 世界にはいくつもの美しいランが咲いているが、日本にも素晴らしいランがある。この豪華絢爛なアツモリソウは古くから親しまれ、様々な人を魅了してきた。唇弁が袋状になった特徴的な花で、以前載せたパフィオペディルムPaphiopedilum の仲間に似ているが、唇弁はより袋の形で口は狭まっている。
 またアツモリソウはいくつかの変種が見つかっているが、このホテイアツモリソウは花が大きく、より色が濃いことが知られている。



ホテイアツモリソウ
ホテイアツモリソウ


 ただ残念なことに、この花は金網の中だった。これだけ魅力的であるがゆえに盗掘は後を絶たず、1997年にはいわゆる『種の保存法』の特定国内希少野生動植物種に指定され手厚く保護されている。植物の場合、そこから移動するわけではないので、柵を立てたり金網で覆ったりすれば盗掘や食害から守ることができる。ただ花を拝むことが出きればいい人にとっては別段問題はないのだろうが、私のようにフィールドに出て探しまわり、ようやく見つけることができたことに喜びを見出す人間にとってはちょっとツマラナイ。
 花自体は美しく素晴らしいのだが、それに出会うまでのプロセスが生き物屋にとっては重要なわけで。でもまぁ自然下で咲いているのを見られるだけでも、昨今ではありがたい話なのだけども。次は花と自分との間に何も障壁がないまま、向かい合いたい。




 なんだか気持ち的には複雑だったんだけど、ただ今回の目的はホテイアツモリソウではない。あるランの花を求めて遥々4時間も仕事終わりに運転してきて山を登っているのだ。
 五分五分の空模様は昼前には快晴に傾き、ホテイアツモリソウを悠々と眺めることができたのだが、途中だんだんと雲行きが怪しくなり、ついにはぽつぽつと小雨が降り出した。ザックにレインカバーを取り付け歩き出すも、少しすると晴れ間が顔を覗かせ、また少しすると狐の嫁入り。コロコロ変わる天候だったが面倒なのでレインカバーは付けっぱなし。おかげでお茶のペットボトルを取り出すのが毎回不便だっが、そのストレスはやり場がない。「じゃあレインカバーとれよ」って話なんだけど。
 渋々面倒なお茶休憩を挟んでしばらく歩いたところで、ようやく目当ての花を見つけることができた。



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キバナノアツモリソウ Cypripedium yatabeanum


 同じ属のアツモリソウとはずいぶんと見た目が異なるが、これもシプリペディウムの仲間のようだ。花は小さく、唇弁は袋状というよりも壺状になっていてちょっと食虫植物的なカタチをしている。なんだか山の湿気だとか小雨だとかの水分は、全部この壺に流れて溜まってくるんじゃないかとさえ思える。その水の流れに身を任せて吸い込まれるようにこの花に出会えたのかもしれない。これがいくつも草の合間から顔を出しているのだ、もう喜びに浸るしかない。




undefined
キバナノアツモリソウ


 この色彩に、この模様に、この造形美 !  素敵すぎるでしょう。これが日本に自生しているというだけで素晴らしいよ。自分の足で、自分の眼で、直に体感することができるのだから。
 植物に目を向けるようになって1年は経ったであろう今、王道だけどランにハマっている。ツチアケビGaleola septentrinalis などの妖しい腐生ランから豪華絢爛なアツモリソウまで、多種多様な姿・生活史を持つランはずいぶんと奥の深い生き物で、数々の人々を魅了して人生を狂わせてきた。

 写真家はその美しく咲く姿を撮りたくて、
  園芸家は手元にいくつもの品種を収めたくて、
   画家はそれをボタニカルアートとして表現したくて、
    オーキッドハンターはまだ見ぬ珍しい種類を探したくて、

 なんだかとてつもない魔性のチカラを持っている植物なのだろう。オーキッドハンターという言葉も HUNTER×HUNTER 好きの私にとってはグッと来る名称で、それでいてランを取り巻く人間を含めた環境というのが、なんともハンター的な要素を含んでいる。





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キバナノアツモリソウ


 手段や方法だとか倫理観なんかは別として、こういう素晴らしい花を自分の手中に収めたいという純粋な願望・欲望というのはよく理解できる。それだけの花なわけだし。
 小さい頃に虫を捕まえるのだったり、珍しいカードを集めたりするのだったり、所有欲というのは誰しもが持っているモノだと思う。それが大人になって高級時計だったりオシャレな洋服だったり、芸術的な絵画に移り変わって。
 手に入れてどうするというよりも、“自分が所有している”ということに悦びがある。

 あとは今置かれている現実とどう向き合うかなんだろうけど。よく考えて、いろんな人の意見に触れて、また考え直して。
失敗することだってあるだろうけど、大切なのはしっかり考えること。



 今回は絶滅に瀕した花を見ていろいろ考えるところがあった。ブログじゃあんまり突っ込んだことは書かないだろうけど、自分の中でしっかりと落とし込みをしていきたい。




 そして花ばかりじゃないですよ、ちゃんとヘビも見ましたよ。一応これでも両爬屋なので、次回はヘビ載せます。あまり花ばかり載せていると“ふぬけた”とか友人たちに言われますからね。別に花がふぬけているというわけじゃないけど、私はハペがメインでして。花ばかりだとボクの子猫ちゃんたちが満足しないもんですから(笑)



Category: 草本類  

蘭の魔性に吸い寄せられて

Paphiopedilum lowii
Paphiopedilum lowii


 やられた、完全にやられた。筑波実験植物園で日本の希少な植物の展示を目の当たりにして、その多様さや美しさに目を奪われて心の中にどっぷりと日本の植物の面白さがインストールされたのだったが、道草で立ち寄った“熱帯雨林温室”に足を踏み入れた時、私の植物観がより一層広がった。
 そこには世界各地から、過去幾度となくオーキッドハンターが未開の地を切り開いて見つけ出したであろう多種多様なランの仲間が所狭しと、しかしそれでいて自由に咲き乱れていた。ただでさえ日本固有の植物展で感化されたミーハーな人間が、そんなブッ飛んだ世界に入り込んでしまったらもう帰って来られるわけがない。とにかく色んなランがあったのだが、中でも写真のパフィオペディルムPaphiopedilum の仲間が魅力的だった。この世のモノとは思えぬ造形にドンドン惹き込まれ、気がついた時には蘭世界の密林へと迷い込んでしまう。そこに出口はない。ひたすら奥へ奥へと進む他なく、取り憑かれたように追い求めるようになってしまう。世の植物屋が人生を狂わせてでもランを追い求める気持ちが少しだけわかったような気がしたが、その片鱗に触れた途端にあっという間に引きずり込まれるのだから、ランの魔性というのは恐ろしい。


 気がついたら国産ランを探す遠征の予定を立てていたり・・・と、とんでもなく奥の深い世界だ。



Category: 草本類  

筑波に行くわけ

ハルユキノシタ
ハルユキノシタ Saxifraga nipponica


 同属のユキノシタS. stolonifera は比較的低地に咲き、目にする機会も多い。和名にしても見た目にしても覚えやすく、去年私が見た記憶も鮮明に残っている。そんな花に似た植物を見つけた、名をハルユキノシタという。
 山の奥から涼しい風が吹き抜けてくる、そこは苔むした冷涼な沢の入り口。そのびっしりと苔を纏った岩肌に、小さな妖精たちがこちらに顔を向けてゆらゆらと揺れていた。この花は山地の湿った沢の周辺に咲いていて、ユキノシタよりも山の奥に入らなければ見ることが叶わない。そんな私の知らない素敵な花というのは、日本にはまだまだたくさんあるのだ。


 話は飛ぶが、実はこれから筑波へ向かう。両爬屋の私が筑波だ。当然『ツクバハコネサンショウウオOnychodactylus tsukubaensis を探しに行くんだろう』とか、『ヒキガエルBufo 好きとしては筑波のガマは外せないだろう』とかそういう発想になるはずなのだが、実はそうではない。今回は国立科学博物館 筑波実験植物園で【日本固有の植物展】が催されているのでそれを観に行くのだ。今度の日曜日で終わりなのでギリギリ滑り込みセーフといったところだろう。
 先に紹介したハルユキノシタも日本固有の植物で、学名にnipponica とつく日本だけにしか咲かない花である。まだ見ぬ、むしろまだ知らぬ貴重な日本の草花を学ぶ良い機会なので、じっくりと堪能してこようと思う。両爬屋諸兄には呆れられるかもしれないが、両爬屋である前に生き物屋なのだと自分に言い聞かせ、その大分類を言い訳にぬくぬくと植物に想いを馳せることにしよう。
 というか本心で言えば“カンアオイ手ぬぐいが欲しい”ただそれだけ。すごく素敵なんですよ、あの手ぬぐい。アレは本当に好きな人が、好きで好きでたまらなくって作った感じが強くて、その熱意みたいなものが生き物屋の心を打つのだと思う。とにかく手ぬぐいは買う、他のグッズも向こうに行ったら買ってしまうだろう、本とかも買い漁りたい。

 もちろん世界の植物も見たいね。最近で言うとTBSの生き物のTV番組は選んでいる分類群がなかなか惹かれるモノがあって、この前やってた食虫植物のやつとかすごいドキドキした。ウツボカズラNepenthes が魅力的すぎるわけで、ミーハーな私は『ネペンテス、やべぇ』となっちまっているわけだ。ボルネオの高山で巨大なウツボカズラを見つけるとか羨ましすぎるし、映像観ているだけでワクワクが止まらなくなってしまう。やはりどうぶつ奇想天外といい、民放だったらやはりTBSが生き物は面白いな。



 ということで、どっぷりと植物の英知に飲み込まれてくるとしよう。



Category: 草本類  

潜在的な妖しさ

オオマムシグサ
オオマムシグサ Arisaema takedae


 春の陽気に誘われて里山を歩けば、太陽はもうすっかり夏支度。遠くの方から「コロコロ・・・」とシュレーゲルアオガエルRhacophorus schlegelii の声が響き渡っているのに、日差しは今にも蝉時雨が降り注ぎそうな強いものだった。あまりの暑さに、たまらずシダの生い茂る日陰へ逃げ込むことにした。
 鬱蒼としたシダの森を抜けた先に、緩やかな流れの小川とポカポカした草原が広がっているのが見えた。その岸辺に見慣れた形の、しかし見慣れぬ大きさの、私の大好きな植物が草の合間から顔を出していた。見かけない色彩で初めはなんだか分からなかったが、長く垂れ下がった舷部や大きく膨らんだ付属体の先端、そして何より大きな仏炎苞から、これがオオマムシグサだということがわかった。漢字で書けば“大蝮草”というなんとも両爬屋が好きそうなネーミングで、その奇妙な造りにも魅了される。

 テンナンショウArisaema の仲間は比較的薄暗い森の中に咲いているグループなのだが、本種はしばしば日当たりの良い草原などで見られることも多い。名前こそおどろおどろしくていかにも湿った薄暗い森に咲いていそうなのだが、この個体は陽の光をたっぷり受けて小川の畔で悠然と咲いていた。だからいつもだったらテンナンショウは妖しい雰囲気で写真を撮りたいのだが、本種に関しては明るく朗らかな写真になってしまった。
 ただし、『のどかな日常に潜む悪意』というか、どこか潜在的な妖しさが隠れきれていない感じがなんとも良い。なんてったって、名前が“大蝮草”ですから。どこぞに毒牙を隠し持っているかもしれませんよ。この写真の明るさが、逆に彼らの持つ妖しさを引き出せたらなぁ、なんて思うわけです。




Category: 草本類  

ゆっくりとした足取りの春

シュンラン
シュンラン Cymbidium goeringii


 近くの里山にも春模様。のんびりと里山を散策し、道ゆく御年配の方と野草トークに花を咲かせた休日。

 「ここはGWくらいになると、わずかながらキンランCephalanthera falcata 、ギンランCe. erecta が咲くよ。」
 「この花は何て言うの?」
 「これはシュンランと言って、春の蘭と書いてシュンランなんですよ。」
 「そういえばさっき向こうでムサシアブミArisaema ringensを見ましたよ。」


 フィールドで植物追っかけてると、いろんな方に声をかけていただく。両爬屋の場合、同志とフィールドで出会うことがまず無いので、基本的に奇異の目を向けられることがほとんどである。しかし人間が同じでも、植物をやってるとやたら多くの人が好意的に話しかけてくる。対象物の違いでこうも人との関わりが異なってくるとは。でも趣味の話ができるのは嬉しいもんで、ジェネレーションギャップがあろうとも楽しくおしゃべりができる。
 とんでもなくゆったりとした時間が流れ、無我夢中になって好きな話をする。なんだかそんなスローライフなフィールディングが素敵だなと思ったりも。まだ20代だっていうのにそんなジジイの老後の楽しみみたいなのが、やけに心地好いのはなぜだろう。



 ふぅ、今年も無事にまた春が訪れた。




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ウフュイの花

ザゼンソウ
ザゼンソウ Symplocarpus foetidus


 突如できた連休。早い段階で日にちが決まれば久々に南西諸島へと向かっているところだったのだが、思うように航空券が取れず南の島への想いは絶たれた。しかしどこも行かずただ自宅で呆然としているのもアホらしいので、時期も近かったということで少し遠出をしてザゼンソウを探しに行くことにした。うーむ、最近はめっきり山野草ブログと化してきたなぁ笑


 電車を乗り継ぎようやく山に辿り着いたのは正午近くで、重ね着した服がいよいよ煩わしくなってくるほど暖かい春の陽気だった。山間を流れる小さな川にいくつもの更に細い小川が合流していて、その一つを脇目に山へと分けいる。しばらく登ると少し開けた湿地に出て、そこに目当てのザゼンソウがいくつも咲いているのを見つけた。これでようやく遠出してきた甲斐があるというものだ。植物は逃げないのが良い。だからこの楽園を見つけたらすぐに飛びつくのではなく、喜びを噛みしめてカフェオレで一息入れることもできる。スローライフでいいね。
 そしてゆっくり堪能する。時期はちょうど見頃を迎えていたようで、いくつものザゼンソウが仏炎苞を開き、ちょこんと肉穂花序をのぞかせている。ザゼンソウの和名の由来はいくつかあるが、仏炎苞が光背、肉穂花序を座禅を組む僧侶に見立てるという話が1番しっくりくる、というか自分のイメージに合致している。神々しく神秘的で、対面するとありがたい気持ちがこみ上げてくる。小さい株は精霊や妖精のような印象も持ち合わせていて、写真の個体も小川の片隅で肩を寄せ合って咲いているのがなんとも可愛らしい。



ザゼンソウ
ザゼンソウ


 このように青い個体も稀に混ざる。でもやっぱり赤いほうが好きだ。
 この写真を見てわかるように、ザゼンソウの周りの雪が溶けている。このザゼンソウという植物、見た目が奇妙で面白いというだけでなく、実は“発熱する植物”としても注目を浴びている。積雪の中では花を咲かせることはできない、仮にできてもその花粉を運ぶポリネーターと出会えない。そこで彼らは肉穂花序を発熱させ、いち早く雪上に顔を出して、まだ他の競争相手が花を咲かせる前に受粉を終えようという作戦のようだ。まだ積雪の残る場所では、いくつものザゼンソウがボコボコと雪を溶かして突き出していて圧巻である。
 しかしそんな寒いうちに花を咲かせて、果たして運んでくれる生き物はいるのだろうか。これがまたいつものパターンで、マムシグサArisaema にしろカンアオイAsarum にしろ妖しい植物は大抵がキノコバエ Mycetophilidae が関与していて、どうやらこのザゼンソウもそのキノコバエが受粉に携わっているようだ。こうなってくると妖しい植物が好きなのか、キノコバエが好きなのかわからなくなってくるほどだ。むしろ私はキノコバエと同じ嗜好性があるのかもしれない。




 大雪に

  埋もれるなかれ

   座禅草

            月光守宮



Category: 草本類  

暗い森に一輪の姥

ウバユリ
ウバユリ Cardiocrinum cordatum


 前回は果穂の記事だったので、続いて今回は花期の記事。梅雨も明けた初夏の後、たっぷりと雨水を貯えた湿潤な森の片隅で、ひっそりと一輪だけ携えた可憐なウバユリに出会った。潤った空気に包まれたウバユリは実に幻想的で、薄黄緑色が暗い森でほのかに灯る。ヤマユリLilium auratum やオニユリL. lancifolium などが持つ華やかさとは異なり、幽玄な雰囲気が漂う。


 ウバユリという和名は花期に葉が枯れ落ちることが多いため、『葉(歯)がない』というところから姥に例えられた。なんとも可哀想なネーミングだが、その姿と和名が相まってより一層幽玄に感じる。オオウバユリC. c. var. glehnii という変種は豪華絢爛だが、なんだか不気味な咲き方もしているので、コチラもちょっと見てみたい。




Category: 草本類  

高い空へ向かって口を開け

ウバユリ
ウバユリ Cardiocrinum cordatum


 この時期は緑も少なく、枯れ果てて萎れた茶色の林縁に、点々と口を開いて立つ植物がある。これはウバユリの果穂で、中の種は風に吹かれて飛んでいく。この飛ぶ種は“カラスノオカネ”と称されていて、先人の方々のセンスの良さには改めて感服する。
 やはり植物に目が行くようになると、今までなんともつまらなかった寒空の下のフィールドも、途端に楽しい発見が相次ぎ押し寄せてくる。こういった知的好奇心を満たす発見があるからフィールドは飽きないし、多角的・多面的に自然を眺めることで無限とも思える面白さをすくい上げることができる。
 以前の記事でヤマユリLilium auratum の蕾がゼルダの伝説に出てくる『デクババ』っぽいと書いたが、コイツもなんかデクババっぽい、というかヤマユリよりデクババっぽい。ユリ科ってのはデクババが多いなぁ。


 カラスノオカネは私にとって、お金以上に価値のあるモノのようだ。この奇怪な姿の植物、実は夏に花が咲いている間も、妖しく、そして魅了するようにひっそりと薄暗い森に生える。
 次回はその美しくも怪しげな花期のウバユリをご覧いただきましょう。



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