月明かりにヤモリ

Moonlight Gecko

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Category: 爬虫類  

鬼が出るか蛇が出るか


 スネークフックを新調した。新調と言っても自作の3代目になるのだけれど、今回は携行性を重視してコンパクトかつ軽量に。また前よりもL字の先端部もヘビの胴体にかかりやすく、そしてするりと抜けられないように改良。見てくれはテープぐるぐる巻きなので悪いが、伸ばせば1mほどになるので使い勝手は良くなった。
 欠点としてはやはり携行性重視のため耐久性があまりなく、腕くらいの太さの大型蛇には折られてしまう懸念も。



スネークフック

 だいたい私がスネークフックを弄りだすのは、決まって遠征の前だ。つまりこのスネークフックは対国産蛇用ではなく、対外産蛇用のために。何しろ国内のヘビならば南西諸島のハブかウミヘビ用に使うくらいで、本土にいる分には特に必要性に駆られることもほとんどない。
 ということで、この夏もなんとかお休みを使ってあの麗しの島へ。


タイヤル



 社会人になると中々まとまった休みを取るのが難しくなるのが現状だが、それでも馬車馬のように働き詰めでは、果たして何のために働いているのか目的がわからなくなってしまう。
 働く事への意義としては、皆それぞれ違うだろうけど、私としてはまだ独身なのでとにかく自分の休暇を充実させるための給料を稼ぎたい。まだまだ遊びたくてたまらないのだ。いい歳になってきたけれど、まだまだ子供なんだ。


 だから今年の夏も、少年ハートを抱いて夏休みを堪能してやる。虫捕り網と自転車があれば最強だと思っていたあの頃とはだいぶ環境も状況も変わってしまったが、今はそれをスネークフックと車に持ち替えて、麗しの島で毒蛇たちと相見えん。



組写真



 はてさて、鬼が出るか蛇が出るか。今回の旅では何が待ち受けているのだろう。両爬メインなので今回はヘビの成果をあげたいな。
 去年のボルネオはあまりヘビ欲を満たせなかったので、今年こそはヘビにまみれたい。。



 今年の夏は友人数名がそれぞれ別々だがボルネオに行くという話を聞いている。ぐぬぅ、羨ましい。そんな彼らも羨むような成果を、あの百歩歩いているうちにあの世へいっちまう毒蛇を。


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夜のさざ波 岩にトビハミ


 シコクハコネサンショウウオOnychodactylus kinneburi を見つけることができた四国遠征。リベンジできたのはサンショウウオだけではない。去年は沢探しに奮闘しすぎたばかりに、夜中のフィールディングはおろそかになってしまった。それが今回はある程度、夜も動ける時間が作れたので狙っていた瀬戸内の爬虫類も見つけることができた。

 せっかく四国まで行くのだから見たいヤモリ、タワヤモリGekko tawaensis だ。海岸付近の岩場や内陸部の露岩地で見られるヤモリで、分布は瀬戸内海周辺地域に限られる。そんな訳で海にほど近い山地を巡り、良さげな岩場を丁寧に見ていくことになるのだが、去年はただただ海岸沿いのドライブに終わってしまった悲しい記憶がある。基本的にこの手の生き物は、まずその生息しているポイントを見つけるまでに労力がかかる。
 今年もGoogleマップで目星をつけていたいくつかのポイントに出向いてみたが、その実、空振りも多かった。そんな中でようやく彼らが生息している岩場を探し当てることができ、環境としてもぼんやりとだが掴めるようになった。


 見つけたのは海に面する崖の岩場。海沿いを車で走っては、車道沿いの岩場を見て回っていたのだが全然出ず、少し林に入って崖を見ても全然出ず、車道の法面も全然出ず、これは一筋縄でいかないなと実感していた頃である。そこで平凡社の両爬図鑑 ( 通称 : 赤本 ) のタワヤモリの頁に載っていた写真にあるような、直下に海が迫る場所にチャレンジしてみた。
 実は自分の中では半信半疑だった環境で、あまりに海に近いので餌となる節足動物も少ないので難しいのではないかと思っていた。ところが、打ち寄せる波の音が間近に迫る中で岩肌を丁寧にライトで照らしていくと、そこにはようやく憧れたヤモリの姿が。





タワヤモリ
タワヤモリ 


 さてどこにヤモリがついているか、おわかりになるだろうか。画質が荒いので難しいかもしれないが、ヤモリ探しに慣れている方なら比較的簡単だと思われる。大きさで言うとブログロゴの “ Gecko ” くらいのサイズで、完全尾の個体なのでGekko 属でよくみられる尻尾の縞模様を頼りに探せば、難なく見つけられると思う。



タワヤモリ
タワヤモリ


 近寄るとこんな姿勢。正解は写真真ん中に入る亀裂の右横あたりに。近づいて見ても岩肌に似た体色と模様で見事にカモフラージュされている。慣れないと見つけにくいかもしれないが、一度見てしまえば後は次々に見つけられる。
 まさかこんな潮風が当たって高波でも来たら濡れてしまうような岩場にいるだなんて。





フナムシ
フナムシ  Ligia exotica


 当然ながらこういった岩場にはフナムシが多いこと多いこと。フナムシ以外にも小さいクモ類が多少見られたが、あまりタワヤモリが食べそうな生き物の種類は多くない。砂浜とかに行けば、海浜性の昆虫がいるのだろうが、こういった岩場ではほとんど見かけないので、それこそフナムシを食べているのではないだろうか。
 とはいってもフナムシも結構サイズは大きいので、食べられるとしても小さい個体だけなんだろうけど。


 ヤモリを探すならばやはり重要なのは “ 隙間 ” だろう。ただの綺麗な岩肌についていることは少なく、ヒビが入っている岩だったり、コンクリートでもつなぎ目の隙間なんかがあればヤモリは見られる。今回も1枚目の写真にもあるように、岩の割れ目があるところでほとんどタワヤモリを見つけたし、彼らも危険を察知したらすぐさまそこへ逃げ込む。
 なので隙間という隙間を見て回るのだが、目の前が海ということもあって、ほとんどの隙間はフナムシに占拠されていた。果たしてタワヤモリたちは肩身の狭い中で、どのように暮らしているのだろうか。






タワヤモリ
タワヤモリ


 環境的にはニシヤモリG. sp. も似たような環境だろうか。あちらの方が海岸性という印象が強いので、もっとすごい環境にいるのかも。また岩場というところでは台湾の蘭嶼にいるG. kikuchii なんかも内陸のタワヤモリと似た環境に生息していそうな感じ。これらの岩場でのヤモリ探しも楽しいな。


 昼間はサンショウウオ探し、夜間はヤモリ探しと、両爬屋としては面白い遠征になった四国。うどんもうまいし、まだイシヅチサンショウウオHynobius hirosei も見られていないし、またどこか折をみて行きたいなぁ。



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水鏡の亀


 去年の今頃、望遠レンズを手に入れたけれど、見える世界・写せる表現というのは広がるもんだ。純粋に遠くのモノが撮れるっていうのはもちろんあるけど、やはり頂点距離が長いだけあってよくボケる。
 生き物を撮る上では背景にある生息環境なんかも入れて、ゴチャゴチャした中で撮るのが結構好きなんだけど、案外周辺がスッキリして生き物が際立つ撮り方もなんだかんだでわかりやすくて良いなと最近は思うようにもなってきた。






ミシシッピアカミミガメ
ミシシッピアカミミガメ Trachemys scripta elegans


 ハペ的に言えばやはり距離的なアドバンテージで、圧倒的にカメを撮るのが楽しい。近づきたくても近づけない水辺のカメは情景的には美しいけど、それを写真にするのが難しかった。それがこんな水鏡まで狙えるだなんて。
 やはりアカミミは綺麗なカメだ。特にこの写真のようなまだ小さい個体というのは本当に色彩が鮮やかで、 “ 外来種 ” なんていう色眼鏡で見なければ実に美しい。ニホンイシガメMauremys japonica やクサガメM. reevesii などの腹甲が暗い色のカメたちに比べて、鮮やかな黄色い腹甲は水鏡に映し出されて実物よりも鮮やかなのは一目瞭然。


 長玉で狙えるといっても、甲羅干し中のカメたちはのんびりしているようで意外と警戒心が強く、こちらにすぐ気づいて水中にドボンと逃げられることも多い。特に河川で見つけるニホンスッポンPelodiscus sinensis なんかは容易には人を寄せ付けない。コンクリートブロックに同化していて、それに気がついた時にはいっつも水の中だ。
 いつしかスッポンの綺麗な写真撮りたいなぁ。




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支流の小径

● 亜細亜の熱帯雨林、ボルネオの旅 ●
プロローグ. 暗黒大陸への渡航
1. 旅の終わりは、旅の始まり
2. エアアジアの激情
3. それぞれの乾杯で繋がる世界
4. 伏線のポッポヘジュセヨ
5. 森の人の恩返し
6. ジープが停まる理由
7. Monster Monkey Morning 
8. まるまるこのもり
9. 虎とか豹とか虎とか
10. 熱帯猿紀行
11. ジュラシック・リバー・クルーズ
12. クルーズ拒まず、サルを追う
13. 真っ暗闇に漕ぎ出して
14. 真っ暗闇を抜け出して
15. おはようボルネオ
16. 花束を君に
17. 支流の小径
18. 尻尾の理由を聞かせておくれ
19. 未知へと続く道




 海外の河と言えば、ワニ︎ !!  ガイドのオヤジが昨日、 「 朝は潮の満ち引きの関係で水深が浅くなっているから、早朝は岸が露出してワニがバスキングしてるぞぉ 」 と言っていたので楽しみにしていたのだが、夜が明けた川縁を見てみても昨日とさして変わらない水量の河。ワニがいなかっただけならば生き物だから仕方ないとしても、岸辺が顔を出しておらずそもそもワニがバスキングできそうな状態じゃないってのはどういうことなんだ、オヤジよ。
 朝日をさんさんと浴びながら、口を開けてバスキングしているワニどもを想像しながら昨晩はベッドに入ったのに、これじゃあ話が違うじゃないか。


 とまぁ、そうは言っても仕方ないもんは仕方ないし、途中でボルネオゾウElephas maximus borneensis が出てくればケロリと忘れて浮かれている私だ。 『 バスキングのワニはアフリカに行った機会にでもナイルワニCrocodylus niloticus で見られれば良いだろう 』 だなんて希望的観測の妥協案で納得しようとしていたところで、水面に不自然な丸太の様なものが浮かんでいるのが目に入った。






イリエワニ
イリエワニ C. porosus


 「 Oooooh Crocodyle !! 」  それはまさにクロコダイル。岸辺でバスキングしている姿は見れずとも、川面に浮上して背中いっぱいに太陽光を浴びているようだった。
 陸場のない溜め池にいるカメも同じようにやっているのを見たことがあるが、きっとそれと同じことなんだろう。甲羅干しで乾燥させて寄生虫予防とまではいかないにしても、体温上昇やビタミンD3合成の目的で、水面に浮かびながらのバスキング。オヤジの話が本当ならば岸辺でのバスキングができていたはずだったので、それの代替案といったところだろうか。
 獰猛さなど感じさせることなく、ただのんびりと背中で太陽の温もりを味わっているようだった。

 昨晩ナイトクルーズに参加できなかった男前くんが、ボルネオゾウ発見の時と同じようにこの時はえらいはしゃぎようだったのを覚えている。まったく、ボートの左右を動き回るのは感心しないな。ゾウの河渡りだったら仮に転覆したとしてもずぶ濡れになるくらいで別段問題ないが、頼むからワニの時はやめてくれよ。
 せめて落ちるならアンタだけにしてくれ、美人の奥さんは私がもらってやるから。ホテイアオイEichhornia crassipes の花言葉から連想される昼ドラ的展開への伏線回収かとも思ったが、残念ながら未亡人とのボルネオライフとはいかなかった。
ということで、私のコビトカイマンPaleosuchus palpebrosus も出番なし。




クルーズ
支流へのクルーズ


 ボルネオゾウやイリエワニが現れる大河から、今度は頭上に木々がせり出す支流へとボートは進む。ボートのモーター音が進行速度とともに落ち着いてくると、少し緊張感がある。 ドドドドド ・・・ 、 ドドドドド ・・・ 。ゆっくりゆっくりと、枝葉のトンネルをくぐり抜ける。




マングローブヘビ
マングローブヘビ Boiga dendrophila


 迫り来る枝葉の中に、明らかに “ 危険 ” を具現化したような体色のヘビが混ざっていた。マングローブヘビだ。以前台湾で見たタイワンオオガシラB. kraepelini と同じBoiga 属のヘビで、その後牙から毒が流れる毒蛇である。タイワンオオガシラとは違って本種は一目で “ 危険な生き物 ” だと理解できる警告色の黄色と黒色のバンド模様。
 『 こいつはBoiga 属に属する後牙類の毒蛇だな 』 と考察をするまでもない、素人目にもわかる毒蛇感。



マングローブヘビ
マングローブヘビ


 マングローブなどの汽水域や河川など水辺の環境に生息するヘビで、両生類や爬虫類だけでなく、鳥類や小型哺乳類までも口に入れる広食性のヘビである。学生時代、追い出しコンパの際に同期の友人からもらった世界の両爬図鑑に載っていて、一目惚れした憧れのヘビがコイツだ。
 ついにそれがフィールドで出会うことになるとは、あの頃の私は想像もしていないだろう。

 今回見られなかったが、レティックことアミメニシキヘビPython reticulatus もこのような水辺にせり出す木々で休息しているのが見られるという。やはりこのような環境ではいろいろな餌を確保できるのだろう。



 アミメニシキヘビはその巨大な体躯で、マングローブスネークは後牙より流れる毒で、それぞれの武器を駆使しながら生活しづらそうなマングローブ環境を生きている。





 そんな楽しかったボートクルーズもこれにて終了。テングザルNasalis larvatus にツノサイチョウBuceros rhinoceros にボルネオゾウにイリエワニに、と様々な生き物を育むこのキナバタンガン河の懐の大きさには、ただただ圧倒される日々だった。
前にいた密林環境のダナンバレーとはまた一味違った生き物の息吹を感じさせられ、これもまた面白いボルネオの一面だなぁと実感する。


 旅程としては、この日の内にコタキナバルの街へ戻る必要がある。その翌日に帰国するためだ。なので朝のボートクルーズの後は1カ所寄り道しながら近場の空港まで行き、夜にはコタキナバルへと戻る行程だ。
 出発までの時間がいくらかあるので、近くのジャングルを散策する。



 ここではガイドというか道案内人くらいのポジションのオヤジが同行してくれた。宿の従業員なのかガイドといった風貌ではなく、ネルシャツを着てキャップをつっかけただけのただの現地人風。名をマースという。


マース



 マースは我々と同じくロクに英語を話せないオヤジで、お互い基本的には簡単な英単語を連呼してコミュニケーションをとる。これまでにあったミンやルディといった現地ガイドとは違った、近所のおっさん的なポジションで気を遣わないでラクだ。
 杖代わりに使っていた棒を、急に孫の手のようにしてシャツの中に入れて背中を掻いたり、ヘッコラヘッコラ歩いたり、とにかくゆるいおっさん。そんなマースと川沿いのジャングルを少し歩く。




トビトカゲ
トビトカゲの一種 Draco sp.


 途中で憧れのトカゲが、ちょこちょこと樹の幹を駆け上がる。トビトカゲだ。折りたたまれた長い肋骨を広げるとそこに皮膜が広がり、それで木々の合間を滑空するというドラゴン。
 それにオスには色鮮やかな咽喉垂があり、それでディスプレーするという。

 今回は幹を駆け上る姿だけで、実際に滑空する姿は見られなかった。また捕まえられたわけでもないので、その特徴的な皮膜は見られず仕舞いだったので、 “ なんともひょろいアガマを見た ” くらいのもんだったのが寂しいところ。
 よって種同定もできず。ダナンバレーでのトビヤモリPtychozoon sp. といい、このトビトカゲといい、滑空系の爬虫類が見られたのに捕まえられないという悔しい結果になったのが今回のボルネオの反省点だろう。



 まぁそんな事をウダウダ言っていても仕方ないので先を行こう。だってもうマースがヘッコラヘッコラと木々の向こうへと進んで行っているのだから。









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真っ暗闇を抜け出して

 ● 亜細亜の熱帯雨林、ボルネオの旅 ●
プロローグ. 暗黒大陸への渡航
1. 旅の終わりは、旅の始まり
2. エアアジアの激情
3. それぞれの乾杯で繋がる世界
4. 伏線のポッポヘジュセヨ
5. 森の人の恩返し
6. ジープが停まる理由
7. Monster Monkey Morning 
8. まるまるこのもり
9. 虎とか豹とか虎とか
10. 熱帯猿紀行
11. ジュラシック・リバー・クルーズ
12. クルーズ拒まず、サルを追う
13. 真っ暗闇に漕ぎ出して
14. 真っ暗闇を抜け出して
15. おはようボルネオ
16. 花束を君に
17. 支流の小径
18. 尻尾の理由を聞かせておくれ
19. 未知へと続く道






 流域面積の広い河だと、遡っているのか下っているのかがわからなくなる。ましてやこの暗闇だ。河が自分の右から左に流れているのか、左から右に流れているのかさえわからない状況。そもそも河を横切っているだけかもしれない。それほどまでに河の流れる向きがわからない。
 唯一方向がわかる手立てといえば河岸に沿って進む事で 『 上流下流のどちらかには向かっているんだな 』 ってのがわかるくらい。そんな岸にライトを向けてみると、水面にキラリと光るモノが。




イリエワニ
イリエワニ Crocodylus porosus


 まさしくワニだ !! ついに来た、この水上に光る目玉。日本の自然下では見られないワニ目Crocodilia という分類群。こんな日が本当にやってくるとは。
 幼い頃の私にとっては憧れの生き物であり、しかし同時に図鑑やTVを通してだったり動物園でしか見られないような、自分には遠い存在の生き物だと思っていた。それが目の前の自然下に、自分と同じ空間に、生息しているだなんて、右頬をつねりたい気分だ。すぐさま幼少期の自分に伝えてあげたい 「 こいつらと自然下で対峙できる時がいつか来るぞ 」 と、 「 絵空事じゃなく現実にだぞ 」 と。

 ボルネオに生息するワニは個体数の多い本種ともう1種、マレーガビアルTomistoma schlegelii がいる。マレーガビアルは希少で今回は見られずだったが、いつかは見てみたい。あの特徴的な細長い吻部。
 インドガビアルGavialis gangeticus が属する本家 ( ? ) ガビアル科ではなく、クロコダイル科にしてあの形態。マレーガビアルは恐竜だとスピノサウルスSpinosaurus とかバリオニクスBaryonyx などの、魚食性スピノサウルス類のような印象があって個人的には好き。
 インドガビアルほど細長くなってしまうとどうにもそれらの恐竜に似ているようには見えず、どちらかというと魚竜のイクチオサウルスIchthyosaurus っぽいなぁとか思ったり。
 まぁとにかく見ていないワニの話はここら辺にして、目の前のイリエワニだ。



イリエワニ
イリエワニ


 ある程度こちらがボートで近づいていくと、逃げるようにして岸へと上がった。全身を露わにしたその姿を見てみると、ずいぶんと可愛らしいまだ成体とは言えないような小さな個体だった。よくTVや写真で見るワニは泥にまみれて全身がくすんで見えるのに対して、幼体や亜成体のワニは体表も綺麗だし、斑に入る模様も明瞭である。ヘビにしてもカメにしても、やはり小さいうちは色鮮やかで可愛らしいやつが多い。

 前日までの豪華な宿には土産物コーナーも併設されており、さすがは自然散策で稼いでいる宿なだけあって種々の図鑑が取り揃えられていた。各分類群の図鑑もあれば、ボルネオの生き物写真集だったり、文化史だったり、その書籍コーナーを物色しているだけでも幸せになれるくらいとにかく品揃えがよかったのだが、その中にワニについての本があった。
 タイトルは 【 Man - eating Crocodiles of Borneo 】、そう “ ボルネオの人喰いワニ ” だ。ページをめくってみると男が服を捲ってワニにやられた傷を見せていたり、巨大な人喰いワニが討伐されて吊るされていたりしている写真が載っていて、いかにイリエワニが危険な生き物なのかが淡々と綴られていた。
 そんな書籍をこのキナバタンガン河に来る前に読んでいたので、興奮半分、恐怖半分のままボートに乗っていた。ただ、いざ川面に漕ぎ出してみれば興奮ばかりの楽しいクルーズな上に、目の前のイリエワニは可愛らしく美しい。 『 きっとあの本に出て来た巨大人喰いワニってのは伝説やら伝承で語り継がれているような、幻に近い存在なんだろうな 』 なんて、鼻で笑いながら目の前の小さいイリエワニが草むらに消えていくのを見送った。


 しばらくボートは進み、マレーウオミミズクBubo ketupu など夜の生き物を堪能してナイトクルーズも折り返し地点。 「 いやぁ今晩はなかなかにエキサイトだったなぁ 」 なんて言葉を漏らしながら、遡っているんだか下っているんだか、とにかく来た向きとは180度反対側へとボートは進む。

 途中、ただでさえゆっくりなスピードだったはずのボートが、みるみる推進力を失っていく。 『 船長が何か見つけたにしては、やけに慎重すぎるなぁ・・・ 』

 ただ一点を見つめる船長の、手にするライトが指し示す光線の先を目で辿ってみると、水面に浮かぶ反射する光。






イリエワニ
イリエワニ


 「 で、でかすぎる ・・・ !? 」 ただ息を呑むばかりで言葉に詰まる。さっき見たイリエワニが亜成体だとか子供だとか、そんなの勘定に入れなくたって桁違いにデカいのが、水面にチラリと出ている頭部だけでも容易に想像ができる。ましてや観光用で何度とクルーズでボートを操っている船長のオヤジさえ、声には出さない緊張が見てとれた。
 ただその中に、わずかに興奮の色が見え隠れする。 『 あぁ、この人も “ こっち側 ” か。 』   「 Go , Go !! 」 と小声ではやし立て、そろりそろりと近づいてもらう。ヤツを刺激しないように、ヤツを怒らせないように。
 15mくらいまで寄れただろうか、そこに至るまでヤツは物怖じせずにじっと水面から顔を覗かせていたのだが、突然 「 トップンッ 」 と水中へと姿をくらました。



「 ヤバい、来るっ !!?? 」

 こんなちゃちなボートじゃ、あの巨体にかかれば即座に沈められるじゃないか。一瞬で最悪のシナリオが頭をよぎった。 【 Man - eating Crocodiles of Borneo 】 本のタイトルと被害男性の痛々しい傷跡が脳裏にフラッシュバックする。


 嫌な予感がしたのは外国人である我々だけではない、現地人の船長さえ 『 こりゃあいかん 』 と思ったに違いない。すぐさま取舵いっぱいでモーターはフルスロットル。瞬時にその場を離脱した。
 実際は自分たちが走って逃げているわけではないのに、なぜかハアハア息切れしているという緊張感。 「 こえーこえー 」 と言いながらもなぜかニヤつく私とルンチョロサン。
 少し離れたところから、さっきまでヤツがいた場所に目をやってみるとヤツはまた水面まで浮上しており、獲物に逃げられたからだろうか、どこか退屈そうに見えた。


 「 よっしゃ、もう一度アタックしよう 」  船長もアドレナリンが出ているようで断られることもなく、再びモーターを奮い立たせる。近くで、その大きさを、その危険性を、体感した上での再チャレンジは、無鉄砲だったファーストコンタクトとは違っていくらか弱腰だった。それでもヤツを刺激しないようギリギリのところまで近づいたが、想像以上に警戒の琴線が張られている範囲が広く、またもやヤツは水中に。


イリエワニ
イリエワニ


 ずぶりと潜っていくヤツの尾部上面に立ち並ぶ板状の鱗は、恐竜たちを彷彿させ、同時に私を興奮させてくれる。
 「 マズイ、近づきすぎたか ?! 」

 そう思う間もなくヤツが再浮上。どうやら襲うわけではなく逃げて行くようだ。そりゃそうだ、基本的に襲ってくる生き物ではなく、逃げる生き物。クマなんかと一緒で、よっぽどのことがない限りは向こうが去るスタンスだ。
 ただ “ [ 海外で初めてのナイトクルーズ ] + [ 巨大ワニ ] + [ 被害本 ] ” という組み合わせにより、脳内ムービーで勝手に急展開になってしまっただけで、普通に考えれば現実はそんなところ。すぐ近くに支流の合流地点があったため、本流を逃れて小さな支流へと遡っていく。



イリエワニ
イリエワニ


 水深もあまりないため、ヤツの巨大な後ろ姿が露わになる。熱帯魚屋なんかにも売られている南米原産のホテイアオイEichhornia crassipes が水上に浮かんでいるので、おおよその大きさは伝わると思うが、全長にして4mほどはあったであろう大物だった。長さというより太さに目がいき、幅広の胴部は自分がまるまる腹の中に収まるのを想像するに容易い。こんな巨大爬虫類と野生下で遭遇していたとは。
 這うとも泳ぐとも言えないような緩やかな動きで、浅い支流の奥へ奥へと進んでいく。その後ろ姿は、彼らの祖先が恐竜ひしめく時代を生き抜いた “ 風格 ” を感じさせた。ヤツにもディノスクスDeinosuchus の血がわずかにでも混じっているのだろうか。


 座礁してしまうため、これ以上支流を追いかけることは叶わなかったが、それでもあの巨体と遭遇できたことは私のこれまでのフィールド経験に無いもので、アドレナリンの分泌も凄かった。さすがは海外フィールド、日本では得られないものを得た。
 まさかここまでのワクワクとドキドキが待っているとは、乗船前には思いもよらなかっただけに、帰りのボート上で受ける夜風はこれまた心地好いものだった。



 最高に楽しいナイトクルーズを終え、宿に着岸。なんとか無事に真っ暗闇から脱出することができたようだ。船長のオヤジと握手を交わし別れを告げると、どうやら彼らはここからが本番らしい。現地スタッフ2名が長い釣り竿を持って、我々と入れ替わりでボートに乗り込んだ。
 というのも仕事後にプライベートで夜釣りをするようで、船長も嬉しそうに煙草をくわえ出した。なるほど、良い生活だな。仕事と遊び、どちらもこの雄大な大河に育まれているわけか。






 宿に戻ったら、すぐさま生き物探し。というのも乗船寸前まで、宿の外壁についているヤモリを追いかけていて、待ち合わせ時間のためタイムオーバーに。その続きがあるので、さっそく壁虎探し。



フタホシヤモリ
フタホシヤモリ Gekko monarchus


 素敵Gekko が壁にたくさんついている。こちらの宿周辺の外壁は彼らが優先種のようで最も目にしたヤモリだ。ダナンバレーの森で泊まった宿ではホオグロヤモリHemidactylus frenatus やヒラオヤモリCosymbotus platyurus などの、典型的なハウスゲッコーが幅を利かせていたのだが、こちらではこいつらに蹴散らされるように隅でチラッと見かける程度であった。

 ホオグロヤモリやヒラオヤモリなどは頭胴長にして70mm弱とニホンヤモリGe. japonicus と同程度の大きさだが、このフタホシヤモリは一回り大きく100mm程はある。そのため力関係としてはやはり、体サイズが大きい方に分があるのだろう、蛍光灯下の絶好のポイントはこいつらが支配していた。
 英名でも warty house gecko と “ ハウス ” がついているので人家で比較的見られるヤモリのようだ。また warty ( イボ ) の名の通り、大型鱗が大きく突出しているため、ザラザラとゴツイ体表をしていていかにも強そうな風貌である。体色も明るいスポットが入ったり、背面中央の暗色班が二分されて尾部の中ほどまで続く模様だったり、日本で見られるGekko 属とは少し異なる様相であった。

 そんな彼らを渡り廊下で観察していると、頭上のトタン屋根から 「 カン、カン、カン、カカカ 」 と、ドングリでも落っこちて跳ねているかのような音が何度か聞こえてくる。ルンチョロサンとは 「 ネズミでも駆けてるのかねぇ ? 」 なんて話もしていたり。
 初めのうちは別段気にしていなかったのだが、風も弱く何かが結実して落ちているようでもなく、それもだいたい同じ位置からその音が聞こえてくるのが徐々に気になってくる。

「カン、カン、カン、カカカ 」   「 カン、カン、カン、カカカ 」
 フタホシヤモリと戯れながらも耳に入ってくるこの音に耳をすませてみると、なんだかトタンを叩くような音ではない気がする。

「 カン、カン、カン、カカカ 」   「 カン、カン、カン、カカカ 」
 不審に思って音の出どころを探ってみると、衝撃の正体が明らかになる。




スミスヤモリ
スミスヤモリ Ge. smithii


 まさかの憧れ、スミスヤモリとのご対面 !! あの音の主はスミスの鳴き声だった。
 Gekko 属の大型種にして、美麗種。その翡翠のような眼に魅了される人も少なくない。

 本種の頭胴長が190mmと記載されている図鑑もあり、あのアジアの巨大ヤモリで名高いトッケイヤモリGe. gecko ( 頭胴長185mm ) を凌ぐ大きさとも言われている。私が今回見たのは頭胴長150mmほどで、フタホシヤモリでも 「 おぉデカいなぁ 」 と思っていただけに、それより二回りほども大きいこのスミスヤモリの存在感たるや。
 彼らが縄張りとしている付近の壁には、それまで随所で見られた中ボス的なフタホシヤモリはおらず、堂々たるこのスミスヤモリが王者の風格を持って支配している。まさに大ボス的存在。


 力関係で言えば、 【 スミス > フタホシ > ヒラオ 】 の図式が成り立っている。だからと言ってスミスが一番個体数が多いのかというとそういうわけではなく、フタホシが随所に幅を利かせて最も数が多く、それに押されてヒラオやホオグロが隅っこで細々と餌にありつく。そして虫たちの誘引性が高いような絶好のポイントには、フタホシを蹴散らしてスミスが堂々と陣取るという勢力図だ。
 ただそのスミスは敵なしかというと、そうではない。 “ スミスの敵はスミス ” である。写真のように再生尾の個体が多く、いたるところで見られるというわけではないことから、種内競争が激しいことが窺える。

 そういった相関図が散策している内に見えてくるのが面白く、日本では環境毎にある程度分かれて生息するため、複数種が入り乱れて混在するこの状態は、新たなヤモリ観察の楽しみだなと気づかされた。




スミスヤモリ
スミスヤモリ


 なんと言っても魅力はこの美しき翡翠眼である。以前、大学の卒業旅行でタイを訪れた際、もしかしたらスミスヤモリかテイラーヤモリGe. taylori を見たかもしれないが、あまりに遠く視認できなかったため、泣く泣く帰国した記事を書いたが、ついに念願の緑眼を拝むことができたのだ。この調子でGe. verreauxiGe. siamensis など、他の緑眼のヤモリたちを見られる機会に期待したい。
 また、綺麗なのは眼ばかりではなく、体表に纏っているホワイトスポットも暗がりで見ると結構目立つ。




スミスヤモリ
スミスヤモリ


 別の場所では幼体も見られた。こちらは種内競争の波にさらされる前で尾は完全尾であるし、幼体特有の発色の良さからホワイトスポットも鮮やかでよく目立つ。
 ただチビでもちゃんと緑眼を持ち合わせてはいるのだが、まだまだ色濃さというか深みが足りない。きっと他の個体との死線を乗り越え、巨大化の末に行き着く支配者の業の深さこそが、彼らの瞳を一層深くさせるのだろう。




 そんなヤモリたちの勢力争いを見ながら改めて今晩の出会いを振り返ると、河でも陸でも、とにかく大物に遭遇できたアツい夜だった。もちろん見た目で海外の生き物は突飛であることが多く、それだけでも楽しめることも多いが、やはりワニにやられそうになる恐怖を感じたり、種々のヤモリが混戦している状況を見てきたりするのは、図鑑を眺めているだけでは得難いモノがあると思う。
やはり何にしても現地でその生き物と出会い、どういう暮らしぶりをしているのかを見るというのは、生き物探しの醍醐味だなと改めて感じさせられた。
 またそこで得た情報からいろいろ空想して、少しずつ少しずつその生き物について知っていくことが楽しいんだろうな。



 激動のフィールディングを終え部屋に戻ってベッドに入る。ヘロヘロだったのでいつもだったらすぐに爆睡だったはずだが、今晩はまだ自分の鼓動が聞こえて眠れない。

 「 ドックン、ドックン、ドックン、 」

 するとその鼓動を遮るように、
 「 カン、カン、カン、カカカ 」

 きっとどこかの闇夜に翡翠眼が煌めいているのだろう。


スミスヤモリ
スミスヤモリ





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ジープが停まる理由

 ● 亜細亜の熱帯雨林、ボルネオの旅 ●
プロローグ. 暗黒大陸への渡航
1. 旅の終わりは、旅の始まり
2. エアアジアの激情
3. それぞれの乾杯で繋がる世界
4. 伏線のポッポヘジュセヨ
5. 森の人の恩返し
6. ジープが停まる理由
7. Monster Monkey Morning 
8. まるまるこのもり
9. 虎とか豹とか虎とか
10. 熱帯猿紀行
11. ジュラシック・リバー・クルーズ
12. クルーズ拒まず、サルを追う
13. 真っ暗闇に漕ぎ出して
14. 真っ暗闇を抜け出して
15. おはようボルネオ
16. 花束を君に
17. 支流の小径
18. 尻尾の理由を聞かせておくれ
19. 未知へと続く道






 前回の記事ではオランウータンというボルネオの森からのおもてなしを受けたことを綴ったが、立ち往生していたジープを助けた恩返しは、道中他にもあった。

 初めてのオランウータンに出会ってから30分ほど、道の脇にまで押し寄せるフタバガキやメンガリスの巨木群と、それの上部まで絡みつくツタ状の植物群が織りなすボルネオの森に圧倒されていた頃。数m先の道の上で、1台のジープが停まっているのが目に入った。だいたいこの手のシチュエーションで考えられるパターンとしては 『 またもや故障して立ち往生している 』 か 『 何か生き物に遭遇して停まっている 』 かぐらいである。基本的にそれ以外で、ジャングルを抜ける道でジープが停車していることはあまりない。

 幸いにもまたもやということはなく、後者の理由で停まっていたようだった。



スマトラムツアシガメ
スマトラムツアシガメ Manouria emys emys


 なんとリクガメの横断だった。こんな幸せな待ち時間はない。道路に出てきたカモの親子を見守るかのような暖かさ。
先発車のおこぼれに預かって我々も観察させてもらう。
 甲長にして30cmくらいの大きさのリクガメだった。それもイシガメ科Geoemydidae の陸生種ではなく、分類的にもれっきとしたリクガメ科Testudinidae に属するリクガメで、この短い人生の中で野生のリクガメに出会えるとは想像もしていなかった。
 ボルネオでカメといったらやはりボルネオカワガメOrlitia borneensis を連想するぐらいの頭しか持ち合わせていなかったので、リクガメはノーマークだった上に、インドホシガメGeochelone elegans やケヅメリクガメGeochelone sulcata 、ガラパゴスゾウガメGeochelone nigra などの面々がいわゆるリクガメ像を作っていたため、目の前のこのカメの存在が何なのか初めはわかっていなかった。

 しかしどこか見覚えのあるリクガメだなぁとその時は既視感を覚えていたのだが、その要因がわかった。前日の夜、最初の宿でナイトハイクを終えた後に行なった同定会で、ガイドのミンが使用していたサバ州の両爬図鑑 【 AMPHIBIANS AND REPTILES IN SABAH 】 のページにこのリクガメが載っていたのを思い出したのだ。
 なぜピンポイントで思い出したかというと、そのページには少年が大きなスマトラムツアシガメを抱えている写真がでかでかと載っており、ちょうどその姿が目の前のルンチョロサンと重なりフラッシュバックしたのだ。



リクガメとルンチョロサン
リクガメとルンチョロサン


 その時の写真がコレだ。図鑑の少年とそっくりだったのでピンときたというわけだ。わかりにくいが後肢付け根から突出する長い鱗が “ 六つ足 ( ムツアシ ) ” という和名の由来になっている。ちょうど肛甲板の先端くらいから出ているのがそれ。 ( 左側に長く出ているのは尾 )

 リクガメというと我々日本人からしたら遠い国の生き物のように感じるかもしれないが、今から約2万年ほど前の宮古島から沖縄本島、徳之島までの地層からオオヤマリクガメManouria oyamai というリクガメの化石が産出しているので、あながち遠い存在でもないのだ。人間が沖縄にやってくるわずか数万年前までリクガメが住んでいたのだから、やはり沖縄というところはすごいわけで。
 さらに面白いのが、そのオオヤマリクガメという化石種のカメが、今回私たちが見たスマトラムツアシガメと同属だというのだから驚きだ。まぁ順序的に言えば逆で、化石を見たらムツアシガメの仲間の特徴を持っていたので同属にしようとなったわけだが。それを考慮すると今回出会ったスマトラムツアシガメにも自然と親近感が湧いてくるのは、きっと私が情報に流されやすいからだろう。
でももしこんなリクガメが、ヒカゲヘゴCyathea lepifera の下を歩き、リュウビンタイAngiopteris lygodiifolia の根元で休息し、ノグチゲラがSapheopipo noguchii ドラミングで飛ばした木くずを被っても気にせず食事に勤しんでいたりしていたら、などと妄想の中の琉球列島にこのカメを登場させるのも悪くないと思うのである。なんとも夢のあるカメだ。



スマトラムツアシガメ
スマトラムツアシガメ


 そして彼を見送る。ゆっくりとした足取りで鬱蒼とするジャングルへと消えていく。途中でふと歩みを止めて振り返った。その瞳は一体何を語るのだろう。
 私にはなんだか、 「 情けは人の為ならず 」 と諭されているようにも感じられた。彼の長い人生にとっては、私との遭遇というのはほんの瞬き程度の時間に値するのだろうけれど、確かに私はボルネオのジャングルで彼と同じ時を刻んだ。




 その後宿に到着し、前回の記事にあるように、見事なフランジオスのボルネオオランウータンと出会ったわけである。威厳あるオランウータンを見送り、宿のトラックである場所へと向かった。それは熱帯雨林の散策の中でもやってみたかった憧れのアレ。




キャノピーウォーク
キャノピーウォーク


 そう、キャノピーウォークだ。熱帯雨林のジャングルの木々は非常に背が高く、森林内は複雑な立体構造をしているため、高さによって異なる生態系が発達しており、 [ 林床部・低層部・中層部・樹冠部 ] などと分けて考える必要があるほどだそうだ。
 中には一生を樹冠部で過ごす生き物も少なくないようで、まだ我々が見つけていない新種も多いと聞く。そんな樹冠部を観察する目的で造られたキャノピーウォーク。やはり小さい頃からの憧れであったのでやはりそこは体験しておかないと。



ハカマウラボシ
ハカマウラボシの一種 Drynaria sp.


 さすがキャノピーなだけあって、ハカマウラボシが近い。太陽を透かした泥除葉の葉脈の美しいことよ。最初の宿周辺で見たハカマウラボシと同種なのかはわからないが、こちらは泥除葉が枯れても濃い茶色にはならず、薄く茶色になる程度だった。こんな素敵な着生シダを目にしてしまうと、キャノピーでのシダ探しも一段と楽しくなる。
 憧れであるビカクシダPlatycerium の仲間も自生している国なので、それが着生していないか探し回ったが、残念ながら今回の旅では見られなかった。それでもこんなのがすぐ眼前にまで迫り、それがいくつもの木々に着生している姿を、揺れるキャノピーから眺められるのは本当に幸せだった。



着生ラン
着生ラン


 キャノピーの足場のわずかな隙間にも着生しているランもあった。バルブの形がBulbophyllum のようにも見えるが、ここら辺は難しい ( そもそもBulbophyllum もいろんな形がある ) ので断定は避けたいと思う。
 しかしこれを見つけた時は 「 さすがはボルネオ 」 と言わざるをえない。生命の力強さを足下の小さな着生ランに感じた一瞬だった。





 キャノピーでの散策を終えたら、川原をトレッキング。陽が暮れ始めると、深い森の中に届く光量は急激に少なくなり、一気に暗くなる。川辺まで出るとまだいくらかは明るいが、いよいよ夜がそこまで迫ってきているのを、肌に当たる風で感じていた。
 鳥たちも帰り支度だろうか、川の中州にある大きな岩の上で翼の手入れをしていたリュウキュウツバメHirundo tahitica のようなツバメたちも、いつの間にか上空を舞っており、気がつけば巨木を飛び越えいなくなっていた。この頃の私とルンチョロサンといえば、ボルネオの大地に足をつけて2日目だというのに、未だにしっかりとヘビを見つけられていないことに焦りを感じていた頃である。
 幅の大きな川に合流する小さい小川で私がヘビを探していると、遠くから日本語で 「 ヘビ、ヘビ !! 」 という声が。またしても目の良いルンチョロサンが見つけることとなった。



モックバイパー
チャマダラヘビ属の一種 Psammodynastes pictus ( 英名 : painted mock viper )


 駆けつけるとヒバカリHebius vibakari の幼蛇くらいにひょろひょろの小さいヘビが、川岸の浅瀬を草伝いに泳いでいた。 『 よくこんな小さなヘビを見つけるもんだ 』 と関心する半面、最初にヘビを出されて悔しい気持ちも。
 競っているわけではないが、やはり自分が第一発見者になりたいという願望は、たとえ後輩とのフィールデイングでもふつふつとあるわけで。

 陸に上がったその小さなヘビは、よく見ると精巧に作られたフィギュアのように模様が細かく入っていて、胴の側面下側には黒いラインが眼を通過して吻端まで続き、その眼も虹彩部分には黒いライン状になっているので線が繋がっているように見える。いわゆる過眼線になっていた。また英名の painted にあるように、胴部背面にはポツポツと水玉模様をいくつも描いており、その小さな体躯と相まってずいぶんと可愛らしい印象だった。
 ネットでも川辺で見つけている人がおり、本種はそういった環境で魚を捕食していると思われる。図鑑にも魚を食べるという記述があるので、小魚を狙って川に出てきたのだろう。

 本種は台湾などにも生息するチャマダラP. pulverulentus と同属のヘビで、mock viper の名で呼ばれているが、おそらくチャマダラと同属なので同じく弱毒はありそうな気がする。ガイドのルディも 「 毒だ毒だ 」 というのでおそらくそうなのだろう。水辺に出るヘビって毒持ちが多い気がする。




ミズトカゲ
ミズトカゲ属の一種 Tropidophorus sp.


 流れ込む小川にはミズトカゲの一種がいた。彼らは近寄ってくる私に気がつくと、チャカチャカとバシリスクBasiliscus のように水面を走り抜けて逃げていく。最初の宿周辺の川沿いでも見られたことから、比較的ポピュラーなトカゲなのだろう。
 見られた環境としては川幅が3m以下で流れのゆるやかな川に限られたが、それは彼らが渡りきれる条件だったり、水面に浮いた虫を捕食するのに適していたりするのだろう。

 この写真の個体は、わずかに水が流れる川幅30cmほどの小川環境で見つけ、ちょうど渡る途中の石で小休憩をしているところ。
タニシ類がついていることからも、そんなに流れが早くないのが窺い知れるような場所だった。おそらくこいつは体サイズ、斑紋、色彩から判断してT. beccarii だと思う。
 micropusは体サイズが小さいこと、brookei は頭部が赤くなること、mocqurdii は鱗が滑らかなこと、から判断しても T. beccarii であろう。


 初め水面を駆ける生き物がいるというのは認識できたが、それがどの分類群なのかわかっていなかったので、小休止している生き物がトカゲだということに気がついて驚いた。もう少し軽い生き物が動いているのかと思っていたからだ。
 日本にはいないタイプのトカゲなので、動きがとにかく面白い。じっくり腰を据えて観察出来ていなかったから、もしできるなら彼らの捕食などの生態シーンも、ぜひとも覗いてみたいものだ。


 そして両爬成分を味わっている内に辺りはかなり暗くなってきてしまった。空を見上げると雲の動きが早い。
 夜は夜でお楽しみがあるので、切り上げて晩飯に向かうことにする。こちらの宿に移動してきてさっそくオランウータンだリクガメだとすごすぎる出会いの連続なだけに、夜への期待も高まっていく。


 さてさて、夜はどんな素敵な生き物が待ち受けているのだろうか。







Category: 爬虫類  

それぞれの乾杯で繋がる世界

 ● 亜細亜の熱帯雨林、ボルネオの旅 ●
プロローグ. 暗黒大陸への渡航
1. 旅の終わりは、旅の始まり
2. エアアジアの激情
3. それぞれの乾杯で繋がる世界
4. 伏線のポッポヘジュセヨ
5. 森の人の恩返し
6. ジープが停まる理由
7. Monster Monkey Morning 
8. まるまるこのもり
9. 虎とか豹とか虎とか
10. 熱帯猿紀行
11. ジュラシック・リバー・クルーズ
12. クルーズ拒まず、サルを追う
13. 真っ暗闇に漕ぎ出して
14. 真っ暗闇を抜け出して
15. おはようボルネオ
16. 花束を君に
17. 支流の小径
18. 尻尾の理由を聞かせておくれ
19. 未知へと続く道








 移動続きでクタクタになっていた体も、うまいメシを食えば回復するもんで、食事が済んでいよいよナイトハイクとなると疲れを忘れて夢中で準備準備。荷物を詰め込んだザックを背負い、ヒル除けスプレーを噴霧した長靴を履いて、片手には懐中電灯、もう片方にはスネークフック、首からカメラを提げて、頭にヘッドライトを装着する。
 よし準備万端だ。


 部屋を出ると辺りに灯りがあるのはこの宿だけで、周囲360度を熱帯の森に囲まれているため、非常に暗い。この暗さは恐怖もあるが、同時に奥地に来たのだなと実感させてくれるので期待も高まる。まずは宿の入り口でガイドと待ち合わせ。

 そう、私の人生初 “ ガイド同行のフィールディング ” である。ここボルネオのダナンバレーは一帯を自然保護区に指定されているため、基本的にフィールド散策はガイドの同行が義務付けられており、いつも我々がやっているような好き勝手な生き物探しというのはなかなかやらせてもらえないようだった。なのでこの宿の敷地内ならば夕方のように散策できるのだが、そこから出るにはガイド同行で行かなくてはならないらしい。


 今回ガイドを買って出てくれたのはミンという中華系の青年。歳は我々と同世代くらいの20代、陽気で人当たりの良いニイチャンって雰囲気。ラハダト空港に迎えにきてくれたのがこのガイドのミンと運転手で、宿までの道すがら未舗装でガッコンガッコン揺れる悪路で、今にもエアアジアからパクってきたゲロ袋のお世話になりそうな私とルンチョロサン ( 彼はたくましいので車酔いせず)に向かって、 「 どんな生き物が見たいんだ ? 」 「 ボルネオは初めてか ? 」 「 オレを雇ってるマスターは偉いんだ 」 「 この道はたまにゾウが通るんだ 」 などと、助手席に座ったミンが後部座席の我々に向かって振り返りながら矢継ぎ早にいろんな話をしてくる。そんな元気で人懐っこい性格のガイドである。

 道中話した 「 我々は両爬探しをしたい 」 という要望も、 「 オレは全然詳しくないんだよねー、むしろオレに教えてよ 」 という口ぶりなので、動物についてアレコレ説明したり専門で扱っている、というよりも土地勘がある案内人みたいなもん。ただ彼はできるだけ我々の要望に応えたいと思ってくれているのか、集合時にはボルネオの両爬図鑑を読みながらスタンバイしていたので、 「 お、これはガイドというより友達として一緒にフィールディングしたいな 」 と思わせるキャラクターだ。

 いよいよ準備もできたので、ミン ・ ルンチョロサン ・ 私でナイトハイクに出掛ける。まずは夕方盛んにカエルが鳴いていた湿地付近を散策。夜になるとよりその賑やかさが増しているのだが、依然としてその姿は認められない。 「 むむむ~ 」 、と湿地を巡っていると細長い体躯がゆったりと水中を移動する。
 「 ヘビ ! ヘビ ! 」 と叫ぶも、それでは日本人の我々にしか通じないので 「 Snake ! Snake ! 」 とミンにもわかるように翻訳して叫ぶ。おそらくユウダ類だと思うのだが、湿地の水草に隠れてしまいただただスネークフックに水草を絡ませる作業で終わってしまった。体躯的にはヒバカリHebius vibakari 程度の大きさだった。


 すると今度はそれよりも小さいが確実に鱗のある生き物が私の足下をすり抜ける。

タテスジマブヤ
タテスジマブヤ Eutropis multifasciata


 海外なのである程度同定のもと捕獲する必要があるが、ヘビでなくトカゲだとわかった瞬間にすぐ手が出せた。夜にトカゲというのも意外だったし、この時は湿地ということもあってウォータースキンクの類いかと思っていたが、英名で sun skink と呼ばれる昼行性のマブヤトカゲの仲間だとわかった時はもっと驚いた。
 以前はアフリカからアジアに分布するここら辺の分類のトカゲは、 「 とりあえず Mabuya 属に 」 って感じで、カエルでいえばアカガエルRana 属的な扱いのトカゲであったが、細分化されアジアのマブヤトカゲ類は現在ではEutropis に分類される。

 以前は属名から和名を 【 ~ マブヤ】 と していたわけだが、今となっては別属扱いではあるものの以前から和名がついていたのでそれを当ブログでは採用する。まぁ分類が変更される度にコロコロ和名を変えていては本来の和名としての機能も薄れてしまうので、学名でしっかりと分類体系が追えていれば良いかなと。
 さっそくボルネオの両爬に出会えてテンションが上がるし、ミンも 「 Oh , you're crocodile hunter !! 」 なんて大げさに褒めてくれる。ただまぁクロコダイルハンターは言い過ぎだ。本物のクロコダイルハンターってのは細川茂樹みたいなイケメン俳優の事を言うのだよ。さらに言えばスネークハンターはフィリップであり、ミスター木伏なんだな、私の中では。 ( 詳しく知りたい方は “ ワレワレハ地球人ダ! ” で検索 )



ミドリホソカロテス
ミドリホソカロテス Bronchocela cristatella


 葉脈の面白い葉で眠るカロテストカゲ。種小名にもあるように成長するとクレストが発達するのだが、この個体はまだ若い個体なのであまり発達していない。大学の卒業旅行でタイを訪れた時にシロクチカロテスCalotes mystaceus を見つけたのだが、その時は早々に逃げられてしまって悔しい思いをしたので、今回ゆっくりとカロテスの類いを見られたのは良かった。
 ボルネオにもこういったトカゲの寝込みを襲う樹上性のヘビもやはり多いため、振動を感知しやすい枝先で寝るのが定石らしい。



 次に林の中を探索してみるも、鬱蒼としているだけでイマイチ両爬が見つからない。林に突入する際には 「 こんなとこ入っていくのか !? アオハブ類とか大丈夫かな ? 」 なんて心配もしていたが、そんな心配もどこ吹く風。地表ではアシダカグモがコソっと動き、暗い樹上ではフクロウが鳴き声だけをみせてくれるくらいだったので、林は諦め次に少し開けた川沿いを目指す。



ゾウの足跡
ゾウの足跡  ( 写真だとわかりにくいが ) 


 川辺を歩いていると、それまでフランクでへらへらしていたミンだったが、急にまるで別人に入れ替わったかのように真剣な眼差しで我々を制した。

「 これはゾウの足跡だ。 」

 見ると川辺の砂地に丸太でも打ちつけたかのような大きな窪みが、川に沿って点々と並んでいた。その窪みの大きさから察するに、相当な巨体の持ち主がただ1頭、数時間前~数日前に通ったであろう痕跡で、そののっそりと歩く姿を想像するだけで畏敬の念を抱いてしまう。

「 そうか、これがゾウの ・・・ 」

 そんな感動に包まれていると、落ち着き払ったミンがこう付け加えた。 「 これは孤独オス ( alone male ) のものだ。孤独オスは非常に気性が荒くて危険なんだよ。 」 さらには数日前、車で宿へ向かう途中の悪路で孤独オスにばったり遭遇し、そいつに追い立てられたというムービーも見せてもらったが、それがまさにジュラシックパークでティラノサウルスから車で逃げるマルコム博士のシーンを彷彿させるものだった。
 そして小さな声で 「 ブブオーン 」 と唸るようにミンが発し、 「 威嚇するときはこういう音を出すんだ、あいつらは。だからもし、森の奥でこんな音を耳にしたらすぐにその場所から離れるべきだ。 」 と。



 まるで映画のワンシーンのようなやりとりだった。 『 この後とんでもない巨象が現れて次々に我々のメンバーが襲われ宿が襲われ ・・・ 』 だなんてモンスターパニック的な展開を妄想してしまう。これで足跡に溜まった雨水が、 「 ズシンズシン 」 と波紋が出来れば完璧だったが、現実はそこまで都合良くはいかないな。まぁ何にしてもドキドキする体験をした。



カブトシロアゴガエル
カブトシロアゴガエル Polypedates otilophus


 ゾウの足跡が向かっていく反対側へと川に沿って歩いて行くと、少し小さいヒキガエルくらいの大きさのカエルを見つけた。それは日本にも外来種で入り込んでいるシロアゴガエルP. leucomystax と同属のカブトシロアゴガエルだったのだが、初見ではその体サイズからこの仲間だとは思いもよらなかった。
 カブトシロアゴガエルは図鑑でみて、アオガエル科という樹上性のカエルでありながら、頬の張り出た厳つい顔がなんともカッコ良く、さらに体表は木目のような体色で覆われている姿に目を奪われていた。
シロアゴガエルと同属ということで、その体サイズについては同じくらいのイメージだっただけに、ファーストコンタクトのインパクトは絶大だった。それが良い意味で期待を裏切られたのでより一層このカエルが好きになった。





マレーシベット
ジャワジャコウネコ Viverra tangalunga


 宿周辺まで戻ってくると、何やら中型哺乳類がうろついている。 【 危険を察知するため 】 というよりも 【 食いもんを探すため 】 に時々頭を上げては周囲を窺いながら歩いていて、あまり恐れをなしていないのかこちらをちらりと見るも逃げる素振りはなく、餌探しに勤しんでいるようだった。おかげでじっくりと観察することができたこの生き物はハクビシンと同じくジャコウネコ科のジャワジャコウネコだ。
 英名のカタカナ読みである “ マレーシベット ” という名前もそれなりに浸透しているし、現地ではこちらの名称を使って他の人ともコミュニケーションをとっていたのでマレーシベットのほうが自分の中では馴染みがある。ミンに聞くと、夜な夜な頻繁に宿周辺にやってきては残飯なんかを漁っているとのことで、ここのスタッフからしてみたら日常のような光景らしい。ただ外国人である我々からしてみたら、こんな生き物には国を跨がなければ出会えないわけで、夢中になってシャッターを切っていた。




マレーシベット
ジャワジャコウネコ


 足は短いが胴や首が長いためにスラっとした印象を受ける。さらに歩き方も優雅で、背中を軽く後ろに反らせながらしなやかに足を出して「 スッ スッ 」 と歩くので非常に気品が溢れている。また模様も複雑で、尾にはリング状、胴にはヒョウ柄、首にはストライプ状、の斑紋があり、まるで別の生き物からそれぞれのパーツをくっつけて作ったような組み合わせも面白い。
やはり哺乳類はその体サイズから、出会った時の興奮は大きくドキドキさせてくれるので、初日からなかなかに楽しませてもらった。
 ジャワジャコウネコを見送って、この日のナイトハイクは終了。ミンは 「 両爬をあまり見せられずに申し訳ない 」 と言っていたが、そんなことで憤慨などするもんか。ガイドといってもサファリパークに来て端から紹介してもらっているわけではなくて、実際にフィールドに出て探しているんだから見られない時があるのは当たり前。そもそも自分たちも歩き回っているわけだから、見つけられなかったのは単に私たちも実力不足。彼らにとっては探し出すのが仕事なので責任を感じるのはわからなくもないが、それで 『 あのガイドは使えねー 』 とか思うようになったら生き物屋としては道を外れたなと思うわけで。とにかく楽しかった旨をミンに親指を立てながら伝える。


 一旦荷物を置いて食堂に再集合。各々の図鑑を持ち寄って、今晩見られた生き物の同定会。 「 小川を横切ったのはウォータースキンクの一種だろうね 」 とか 「 寝てたアガマはミドリホソカロテスだね 」 とか、ミンも交えておさらいしていく。
 どうやら食堂には宿周辺を散策していたフランス人家族たちが先に戻っていたようでみんなで談笑している。彼らは少年 “ アドリュー ” を中心に、そのお姉ちゃん、ダディ、マムの4人家族で来ていた。アドリューは中学生くらいでほっそりとした体型で性格は少しシャイだが友好的。夕食時に会った時はきちんと自己紹介してくれたし、スプライトも分け与えてくれた。
 そんなアドリューが私たちの同定会を興味津々な眼差しで見ていたので仲間に入れてあげると、お姉ちゃんの方も 「 図鑑見ても良いかしら ? 」 と輪に入ってきた。

 昼間ヘビを見たんだと言われて写真を見たら、Macropisthodon rhodomelas ( 和名不詳 ハブモドキM. rudis の同属ってことで直訳するならアオクビハブモドキ? blue necked keelback ) だったので教えてあげたり、私が持参した日本の生き物の写真アルバムを貸してあげたら喜んで見てくれた。こういうこともあろうかとコミュニケーションツールとして自分で撮り貯めた写真を現像して持って来たのが功を奏したし、やはり自分の写真が褒められるのは嬉しい。
 そこからは今日見られた生き物の話だけでなく、向こうの家族がボルネオに来る前に旅行していたタイの写真を見せてもらったり、次にどこへ行くのか話したり、不慣れながらいろいろと英語で会話して楽しんだ。中でも驚いたのは、アドリューのお姉ちゃん美人だなぁと思っていたら、まだ若干の “ 17歳 ” という年齢だということ。向こうの女の子は成長が早いもんでずいぶんと大人っぽく見えるなぁ。
 語学が上達するのは、いっぱい勉強することも大切だが、相手に気持ちを伝えたいっていう想いもまた重要なんだろう。


 ワイワイと盛り上がってきたところでアドリューのお姉ちゃんが突然私たち2人に 「 20分だけでも良いんだけど、時間あるかしら ? ちょっと向こうに行かない ? 」 と持ちかけてきたのだ。


なんだこの展開は ?


「 こっそり抜け出してイイコトしましょ 」 的なやつなのか ??!! それなのか??!!
 と鼻の下を伸ばしながら 「 お、おぅ。 OK OK 」 と承諾し席を立つと、後ろからバタバタとアドリューが追いかけてきた。この時ばかりは自分の先輩という権限をフル活用し、 「 お前はアドリューの相手をしろ、俺は、お姉ちゃんだっ !! 」 とルンチョロサンに言ってやろうかと思ったが、どうやらイイコトってのは宿の敷地内にある動物観察用のタワーまで行ってちょっとだけ生き物探しをしようという提案だった。


 ま、まぁそんなの最初からわかってたけどな。みんなで談笑している時に生き物の話題で盛り上がったんだから、フィールディングに決まってるじゃないか。そもそも17歳って聞いているのに、そんな良からぬ妄想なんぞするほうがおかしいわ。


 ってなわけでミンを連れ出して5人でナイトハイク延長戦、ボーナスステージ。往路の途中でカブトシロアゴガエルを見つけるもびよんと木道から外れた枝先に跳ばれてしまい、アドリュー共々悔しい思いをする。
 「 また帰りに来た時に戻ってきているかもしれない。その時は静かに行こう 」 とアドリューが熱弁を奮うのだが、復路で先陣を切って彼が行き、立てた人差し指を口元にあて 「 Shhhhhhh ( 静かにの意 ) , Be quiet ! 」 と小声で我々を制するが、願いも虚しく木道にカブトシロアゴガエルの姿はなく、先程逃げ跳んだ枝先にいるのが葉の隙間から見えるのみだった。

 またトビヤモリの一種Ptychozoon sp. も出たのだが、これもまたすぐに逃げられてしまい確認ならず。そんなあまり奮わない結果になったものの、みんなで雑談しながらフィールディングできたのも楽しかったわけだが、アドリューとしては納得のいかない悶々とした結果だったようで、出発前に話していたカエルの話を思い出して、 「 まだそのカエルがいるかもしれないから、最後にそっちにちょっと行ってみようよ 」 と提案される。
 この頃になるともう友達感覚になっているようで、10歳以上は年下なのだが彼から見たら身長の低い私は同世代のようなもんなんだろう。道中生き物の話で盛り上がったかと思えば、急に 「 Be quiet ! 」 と制止させられる関係になっていた。結局目当てのヒョウトビガエルRhacophorus pardalis は出ずにトボトボと食堂に戻ってみると、フランス人家族や宿のスタッフたちはビールを飲んで良い雰囲気の宴が始まっている。
 我々も一杯と思ったら、ダディが驕ってくれるとのこと。どうやら子供たちと遊んでやったお礼といったところなんだろう。そのお返しにとルンチョロサンが羽田空港で買っておいたせんべいを持参し、みんなに分けていた。海外の旅先では日本のお菓子をあげると結構喜ばれるようで、そういったコミュニケーションツールとして日本のお菓子は良いらしく、みんな 「 うまいうまい 」 と食べてくれた。
 熱帯の環境ではやたら喉が乾いてしまうので、頂いたタイガービールの350mlはすぐに飲み干してしまうが、すぐに次を勧めてくれる良きダディ。こりゃあ酔うなと思いながらも次の缶へと手が伸びる。

 いよいよ盛り上がってきて、それぞれの国で乾杯を意味する言葉をみんなで一緒になって唱える頃には宴は最高潮に達していた。

 「 ソンテッ ! 」
 「 アラマイティッ ! 」
 「 カンパイッ ! 」



 フィールドで生き物を探すのはもちろん楽しいものだが、日本人、フランス人、マレーシア人、それぞれが1つの言語を使って、生き物という共通の話題について談笑できるのって幸せだなと感じた。何より本当に久しぶりに「生き物が好き」っていう純粋な話題で酒を呑める楽しさよ。( なんだか大学時代のサークルでの新入生歓迎会を思い出した。 )


 楽しい宴は日を跨いでも続いたが、翌日は早朝もフィールディング予定なので、なかなか解放してくれないアドリューを振り切りなんとか解散することに。移動疲れ + 初熱帯フィールディング + タイガービール のトリプルパンチだったので、部屋についたらシャワーを浴びて即爆睡。なんだか面白くなってきたぞというのを実感できたボルネオ初日であった。






Category: 爬虫類  

石化け


- - - - - 「 たまにはのんびり沖縄を旅するのも良いんじゃないですか ? 」

 大学のサークル仲間で飲んでいたとき、ふっと湧き出たようにそんな話題が出た。いつものパターンだと那覇空港に着くや否やヤンバルに直行し、昼も夜も生き物探しに明け暮れて、観光などろくすっぽしないのがお決まりになっていた。
 そもそも 『 沖縄に行きたい ! 』 と衝き動かすのは、 『 沖縄に棲まう生き物に会いたい 』 という欲求であって、それ以外の例えば 『 常夏のビーチでバカンスしたい 』 とか 『 美ら海水族館を見学したい 』 とか 『 新垣結衣みたいな沖縄美人と出会いたい 』 といった理由から、沖縄を訪ねたことがなかったのだ。そんなもんだからゆっくりと沖縄の地を観光した記憶が高校の修学旅行以来なく、言われてみれば確かにのんびり旅をするのも良いかもしれない。

 と、妙に納得してほろ酔いでその夜は帰った。後日1回の打ち合わせを経て、大学時代の後輩2人と共に2泊3日の沖縄旅に出掛けることとなったのだった。






 仕事を抱え込んで一気に終わらせた木曜日。この日の深夜が旅の出発日だ。振替休日を金曜日に持ってきて、土日と合わせる3連休。木曜日の終電で羽田空港に向かい、翌日金曜日の早朝便で沖縄へ向かう旅程である。
 なので冒頭2泊3日と書いたが四国遠征同様に、正確には3泊3日の沖縄旅。


 早朝便は家から間に合わない私ともう1人が空港で夜を明かす。台湾旅の時に友人たちの優しさにより、 “ 床で寝させていただきました ” ので空港の床で寝ることに何の抵抗もなくなっていた私。今回も当然のように床で寝る算段をつけていた私だが、一緒の後輩は人間の尊厳を捨ててはいないようで 「 床で寝るのはどうですかね、私はこの机に突っ伏して寝られれば ・・・ 」 なんて言っている。
 そもそも周りは床で寝ている人間などおらず、成田空港の第3ターミナルとの品性の違いをまざまざと見せつけられていたが、こちとら床で寝られるように底冷え防止のマットを持参し、ビール片手に電車でやってきたのだ。もう床で寝る以外の選択肢など考えられなかった。

 とはいえ久々に会ったのでいろいろ話したかった事もあり、談笑しているうちに夜明けも近くなってきてしまった。 「 とりあえず一眠りはしよう 」 ということで追加の発泡酒を飲み干し、彼は机に、私は床に、泥のように溶けて眠った。今回の空港1泊は快適そのもの。
 それもこれも、きっと優しいTOGUくんとFくんが親ライオンのように私を崖から落としてくれたおかげなんだろう。対策を立てればこんな快適なことはない。あぁ、ありがとう、お二人さん。




 そして話は飛んで沖縄着 !!

 レンタカーを借りたら近くの道の駅で朝食を調達。



ポークたまごおにぎり
ポークたまごおにぎり


 やはり沖縄のソウルフード 『 ポークたまごおにぎり 』 は塩気があってうまい。スパム文化最高。



マース煮
たまんのマース煮


 北上して名護で昼食。名護漁港にある食堂で現地では “ たまん ” と呼ばれているハマフエフキLethrinus nebulosus を、 『 マース煮 』 と呼ばれる塩と泡盛で煮た料理を食す。上品で淡白な肉質であり、それを塩で似るシンプルな味付けは “ たまん ” の旨みを純粋に味わえる食べ方だ。水揚げされたばかりの鮮度の良い魚を調理できる、漁港の食堂ならではのグルメ。



 そして北上北上でついにヤンバル着。 「 観光で沖縄来た 」 と前述しておきながら1日目はヤンバルでフィールディングの日。


林道


 到着当初はスコールが降りしきりしばらく侵入を拒まれたが、雨が上がると湿度ムンムンのジャングルへと変貌し、何年ぶりかのヤンバルに心が躍った。やっぱり本土とは違った雰囲気で、林床にはクワズイモAlocasia odora 、樹上にはタニワタリ類Asplenium sp. と、こういった林道を歩くだけでも癒やされるわけで、興奮気味な精神状態と高い空中湿度によってあっという間に背中はびっしょり。




ヒメハブ
ヒメハブ Ovophis okinavensis


 沢を散策していると、昼間だというのにヒメハブが堂々と待ち伏せしていた。それも私は踏みかけた。長靴は履いていたとはいえ、久々にギョッとした。
 沢を上っている時、中州のような沢の中央の陸地に足をかけようとした際、 『 どこかで見た模様だなぁ ・・・ 』 と、ふと脳裏によぎるモノがあった。足を接地する直前になって、 「 うわっ、これヒメハブだ ?? !! 」 と気がつき足を引っ込めることができたが、その違和感に気がつかなかったら確実に踏んづけてしまう位置にヒメハブは鎮座していた。それもシダの茂みに隠れており、本当によくよくカモフラージュしている。




ヒメハブ
ヒメハブ


 久々に毒蛇で危機を感じて焦っていたが、昼間に見るヒメハブは新鮮でこれはこれで面白い。薄曇りの空に湿度の高い沢、そこで出会うヒメハブに脅威を感じつつも、見慣れた姿ではないいつもと違う印象を受けた。






リュウキュウヤマガメ
リュウキュウヤマガメ Geoemyda japonica


 3時間ほどしかフィールディングできなかったが、3個体ものヤマガメが出迎えてくれた。それもスコール後なので甲羅が綺麗に洗われて小汚くないヤマガメに。

 彼らは “ 石化けの術 ” を使う。初めの個体は、私がイボイモリEchinotriton andersoni を見つけて2人のところへ呼びに駆け寄ったら、ちょうど我々の魔のトライアングルの中にいるというミラクルな見つけ方。いつの間にこんなとこにいたんだよって出会い。
 どう考えてもさっきまでそこにはヤマガメがいないと思っていたのに、急にフッとヤマガメが現れる。まるで今まで石に化けていたのが解けたかのよう。
 2個体目なんか、この1個体目を撮影している最中、急に 「 フシューフシュー 」 と荒い息づかいが聞こえると思ったら隣に現れた。つまり広くてもわずか10 m程の範囲内に2個体ものヤマガメがいたということで、数分前にはどちらにも気がついていないことになる。これはもうさっきまで石としてそこにいたに違いない。何かの拍子に石化けが解けて、姿を現すのだろう。
 だからきっと、ヤンバルにある手頃な石は、大半がヤマガメが石化けしたもの。パイレーツオブカリビアンに出てくるカニみたいな感じ。何がカギになって目の前に現れてくれるかはわからないが、とりあえず言えることは我々は運が良いということ。

 大学4年の時にヤンバルを訪れた時も、5人が縦一列になって歩いていると前の4人は足下のヤマガメにはまったく気がつかず、最後尾にいた私が 「 あれ、ヤマガメいるじゃん 」 と発見に至った。
 その時は内心 「 みんなまだまだだなぁ~ 」 と見つけた自分を褒め称えていたが、今思えばあの時も石化けだったのかもしれない。4人分はやり過ごせたものの、最後の最後で解けてしまったに違いない。




いのぶた丼
猪豚丼


 道の駅 『 ゆいゆい国頭 』 に戻って晩飯を食らう。大学生最後のヤンバルで食べたあの味が忘れられず、またあの 『 わぁー家~ 』 の猪豚丼をオーダーする。甘辛のタレが豚本来の甘い脂身とマッチして、ガンガン米が進むがっつき飯。フィールドで腹ペコになった胃袋に一気に詰め込み、懐かしさとおいしさを堪能する。
 健康診断で血圧のことをチクリと言われ、塩分は控えなければならない私だが、朝昼晩と塩分たっぷりな食事事情。まぁたまには、というか旅の時くらい良いじゃないかと自分を甘やかして贅沢をする。


 観光観光言っても、我々の性分としては生き物も見たいので1日目はフィールディングに車中泊。グルメ成分が多いもののいつもと変わらないパターンでもある。
 ぐっしょりとした汗を洗い流すため風呂に入り、夜に備えるとする。




Category: 爬虫類  

空を泳ぐ

クサガメ
クサガメ Mauremys reevesii


 蓮池を悠然とクサガメが泳いでゆく。

 葉の隙間から顔を覗かせ、こちらを窺いながら。




クサガメ
クサガメ


 蓮の葉には 「 浮き葉 」 と 「 立ち葉 」 がある。

 水面にぴたりと張りつく浮き葉。
 水上にばさりと広がる立ち葉。
 そして、水面に反射して映るもうひとつの立ち葉。


 この3つの葉っぱが、池と空の境目を、そして上と下との境界を、ぼかして曖昧にする。







 クサガメが泳いでいたのは池だろうか空だろうか。
 そもそも僕がいたあの場所は、どっちの世界だったのだろうか。



不忍池



 まぁ、どっちだって良いか。
 物事の裏表ばかりに気をとられるよりも、まず目の前のモノをただ愛でていたい。

 蓮の浮き葉のいと小さきを、うつくしいと思えるような、そんな人間になりたい。




クサガメ裏
クサガメ



Category: 爬虫類  

モノクロームの鎮魂歌

~ 麗しの島、台湾の旅 ~
1. 小汚いバックパッカーとダーティー兄ちゃん
2. トカゲたちの異なる境界線
3. 極彩色 Richly colored
4. 翡翠の純心
5. 蝦蟇が来たりて、夜は更ける
6. 翡翠の邪心
7. 谷を渡って飾り付け
8. 木登り蜥蜴の陰と陽
9. 至高のグルメ
10. 色とりどりの花咲き誇る
11. 斑蛇の明と暗
12. 既視感のオアシス
13. 蓮池や 咲いては消える 亀の華
14. 鼻先蛙は蛇の気配
15. モノクロームの鎮魂歌
16. 最終夜の晩餐
17. 老人と湯



 タイワンオオガシラBoiga kraepelini なんていう大陸系のヘビを見られただけでも 『 良い夜だったわ 』 と感想を洩らすには十分すぎる最終夜。彼らの夜に順応した鋭い猫目と、一抹の不安を持たせる後牙が、程よい距離感になって遊ばせてくれた。
 ただ、この夜は雨後でスウィンホーハナサキガエルOdorrana swinhoana がフィーバーしているコンディション。ともすればタイワンオオガシラだけに留まらないのは、これまでの経験則から明らかであった。

 最初のタイワンオオガシラを見つけた時からさかのぼること数時間前。夜の山道を車で巡っていると、濡れた路面にバンド模様を持つヘビを車内から認めた。 『 きっとまたアカマダラDinodon rufozonatum rufozonatum だろう 』 なんて話していたが、個人的には一瞬ではあったがアカマダラの紅色を感じられなかったので、自分の眼で確認するまでは断定できなかった。

 車からの発見はとにかく確認である。それが木の枝だろうがゴムチューブだろうが、怪しいと思ったら戻ってしっかり確認する必要がある。経験を積んでもやはり車内からの視認は一瞬なので正確ではなく、案外見過ごしや思い込みも多いので、確実に全容を確かめるまでは断定できない。
 今回もその例に漏れず、だが嬉しい方向に好転した。




タイワンバイカダ
タイワンバイカダ Lycodon ruhstrati ruhstrati


 バイカダである。バンド模様はバンド模様であったが、アカマダラとは似て非なるもの。
 車から降り、路面を這う白黒バンドの蛇に一瞬ギョッとしたが、バイカダであることがわかると安堵して掴みかかる。

 亜種関係にある先島諸島のサキシマバイカダL. r. multifasciatus が結構な宇宙人顔なのに対して、タイワンバイカダは割と端整な顔立ちである。むしろ近縁な属にいるシロマダラDi. orientale の方が、見た目の印象は近いものを感じる。





白黒斑比較
左からシロマダラ、タイワンバイカダ、サキシマバイカダ


 比べてみようと似たようなアングルの写真を並べてみたが、こう見るとシロマダラもそれほど似ていない。眼の雰囲気はどれも似ていないし、印象としてはバラバラ。まぁシロマダラはまだ幼体だし、条件はそこまで揃っていないわけだけど。
 ただ鼻孔の形や吻端板のへこみを見ると、確かにタイワンバイカダとサキシマバイカダが近いヘビだというのが窺い知れる。そしてマダラヘビの眼はチャーミングにアホっぽいなぁとも。どことなくこの眼はメジロザメCarcharhinus plumbeus のそれに似ていて、どこか焦点の合わないような虚ろな眼の中に、静かな狂気を秘めているようなそんな眼。
 こう並べてみるとタイワンバイカダが最も落ち着いた眼をしている印象。




タイワンバイカダ
タイワンバイカダ


 バンドの入り方ももちろんサキシマバイカダに似ているのだが、あちらに比べて頸部が細くならずにマダラヘビくらいの太さを持っているので、こうやって後ろや上からタイワンバイカダを見てみると、どうにも私の知る “ バイカダ像 ” とは異なっている。ただタイワンバイカダも成体と言うよりかはまだまだ頭部の白斑が残るお子様なので、もうちょっと成長すれば頸部が細くなりそうだ。図鑑を見る限りではそんな印象。顔つきは成体になっても宇宙人顔にはならず端整な顔立ちなので結構なイケメン蛇である。
 別亜種というよりも別種を見ているような感覚なので、キグチキノボリトカゲJapalura polygonata xanthostoma を 「 あぁ、こりゃあリュウキュウキノボリトカゲJ. polygonata の一亜種だねぇ 」 というような感覚で見ているのとは違って、とても新鮮な気持ちで観察できたのは嬉しいかぎり。



 雨に誘われて出てきたカエルを食べに来ているわけではないと思うが、なぜかこういう雨後というのはヘビを見やすい。タイワンバイカダの場合はカエルというよりかは、まだタカチホヘビ類Achalinus やナガヒメヘビCalamaria pavimentata を狙っているならなんとなくありそうだけど、実際どうなんだろうか。それ見たさにしごいて、貴重なヘビとのご対面ってのもなんだか切ないが。何にしても嬉しい出会いだった。
 動きとしてはサキシマバイカダのようにひょろひょろと予測しにくい動きをするのに対して、タイワンバイカダはマダラヘビのように予測通りの分かりやすい動きをする。さほど地面での活動が不慣れな印象は受けず、ヘビっぽいヘビだった。



 そしてこのタイワンバイカダとの出会いがまるで布石であったかのように、突如として我々の目の前に大本命の白黒バンドのヘビがおいでなすった。










タイワンアマガサ
タイワンアマガサヘビ Bungarus multicinctus multicinctus


 ついにあのアマガサヘビが現れたのだ。わずか数 mg で死に至るほどの毒を持つ、あのブンガルスに。
現地の人が恐れているあの毒蛇に。



 冒頭で車からの視認性について 『 確認 ・ 確認 』 と再三書いたが、今回見つけたアマガサヘビに至っては別格。注意していたというのもあるが、あの白黒バンドで背面中央部が盛り上がる特徴的な三角形の体躯は、見紛うことなき恐れていた、そして待ち望んでいた毒蛇のそれであった。
 車内から見つけた両爬屋である、Fくんと私の両名が 『 アレは絶対アマガサ !! 』 と興奮を抑えられず各々が奇声に近い歓声をあげ、原住民が槍を片手に狩りに繰り出すが如く、それぞれスネークフックを手にして車外へと飛び出したのも、アマガサヘビだからそうさせるのだろう。


 目の前にして湧き上がる感情は、恐怖と歓喜、焦燥と安堵、冷静と情熱。体の状態としても、冷や汗を垂らしながらも、モクモクと興奮で湯気が沸き立つという、相反するモノのが不均衡に混在する夢の中の自分のような不思議な感覚。





タイワンアマガサ
タイワンアマガサヘビ


 強い毒を持つからか動きは非常に緩慢で、写真を撮ろうにもユルユル動いて一向に止まらないので、撮影には難儀した。このヘビを美しく撮っておられる方の技量にはただただ頭が下がるばかりだ。頭をガシっと押さえて丸めて撮りたいくらいだったが、強毒種相手にはなかなか手が出ない。
 ヒャンSinomicrurus japonicus japonicus の時も思ったが、クサリヘビのように咬蛇姿勢をとってくれれば画になるのだが、コブラ類は難しい。



 場所としては民宿に隣接する空きスペースで、近くには大きな川が流れる比較的湿ったところ。ちょうど奥の川側にあるイネ科草本の隙間から這い出てきたような出会い方だった。
 我々に弄られている最中も特別焦るようでもなく、 「 こちらには猛毒があるのだぞ 」 と言わんばかりの余裕だった。咬まれてしまったら筋肉が動かせなくなり、呼吸困難に陥るブンガロトキシンの持ち主。アマガサヘビの種類によっては2, 3 mg で死に至るとも。 wiki によればこれを針の先端につけて刺すだけでも大人を死に至らしめるとか、恐ろしい記述があった。
 これじゃあまるで 『 0.1 mg でクジラとか動けなくする薬なんだけど 』 的なヤツではないか。


 そんな恐ろしい毒を持つ生き物が人々の生活圏内で何気なく這っている。現地の人々にとっては怖くて仕方がないだろう。
とてもじゃないが、自分はそんなところで暮らしていける気がしない。だが事実、そこで現に暮らしている人がいるわけで、その人たちにも会っているわけだ。
 このアマガサヘビに出会えたのは嬉しかったのだが、実はこの時、私の胸の中にはモヤモヤとしたものがあった。それはこのヘビを見つけた際、我々がワイワイと撮影していると近隣の住人が声に気が付いて様子を窺いに来たのだ。
 おばさんは遠巻きに私たちが囲んでいる “ モノ ” を認めると、一瞬にして顔色が曇り、 「 “ それ ” をどこか遠くに逃がしなさい 」 と言うような中国語と手で払うジャエスチャーで、彼女は拒絶の意を示した。
  「 この料理ウマイね 」 とか 「 親切にしてくれてどうもありがとう 」 というニュアンスが、言葉が通じなくても理解できるのはとても嬉しい事だし、この旅で意思疎通の重要性をより実感していた。しかし今回の一件も、 『 言葉が通じなくても理解できる 』 というのは同じだが、喜びの共有ではなく悲しみの共有だったので、言葉で言われるよりもツライ思いをしてしまった。
 なにより我々が彼女の意向に沿わず、 「 もうちょっとだけ撮らせて 」 と “ そいつ ” を逃がそうとせず、いっそう彼女の機嫌を損ねてしまったので、初めにあった 【 拒絶 】 という感情よりも我々に対する 【 憎しみ 】 が増していったように思えた。


 親切心もあったのかもしれない。それを無下にして撮影している私たちをしばらく監視するように睨み、時折手を払う動きを見せた。
 いつまで経っても 「 もうちょっと 」 が終わらないのに呆れ、家に帰って行ってしまったが、最後まで彼女の負の感情はその場を支配していた。なんだか本当に申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
 ようやく目当てのヘビが出ていて興奮していたのだけれども、全然客観的に物事を考えられず軽率な行動だったと今更ながらに反省。私も良い大人だというのに文化的な配慮がまったく足りなかったなぁと後悔している。

 その土地の人からしたら “ あれ ” はきっとイヤなもの。自分が眠る床の下にいるのではないかと考えれば、それこそ夜も寝られないような恐ろしいもの。
 これは日本に帰っても言えることだが、 「 自分が大丈夫だからいいじゃん 」 という主観的な考えだけでなく、周りの人がそれを見てどう感じるかを配慮できる客観的な視野も必要である。ただでさえ少数のマイナーな趣味であるため誤解も生じやすく、分母の小さいものの1人というのは影響力が必然的に大きくなってしまう。だからこそ、同胞の方々の印象を悪くしないためにも他人や文化への配慮は大切であると気づかされた。
 もちろん生き物の話だけではない。マイノリティーな趣味には当てはまるものだと思う。そしてマイノリティーにはどこか、 『 わかる人にはわかる 』 という “ 驕り ” があるので、配慮から遠くなる傾向にあるように思える。
 だから少しでも他人に迷惑をかけずに、なおかつ自分が楽しめる最大公約数的なものを追い求めるべきだなぁと、今回の旅で生き物観察のスタイルを見直す良いきっかけになった。




 とにかく色々書いたが、この一件でとても後悔してしまったので、これからは慎ましく生き物やりますよっていう話です。話は戻ってアマガサヘビ。おばさんが遠巻きに見ても毒蛇と認識できるヘビ。
 「 ブンガルスとリコドンの違いは ~ 」 という知識がなくとも、それが毒蛇だと判断する理由は 【 白黒バンドのヘビ = 危険 】 という認識があるからだろう。日本でいうところの 【 頭が三角形のヘビは毒蛇 】 みたいなもんで。

 それがタイワンアマガサだろうがタイワンバイカダだろうが、白黒のヘビは危険。
 ニホンマムシだろうがシマヘビだろうが、頭が三角のヘビは危険。

 とりあえず誤認があったとしても逃げられるわけだし、毒にやられる時はいつもその特徴のヘビなので、サイエンスは抜きにしてあながちその考え方が実生活では役に立つのだ。そういう意味では、タイワンバイカダを含むオオカミヘビのアマガサヘビへのベイツ型擬態も功を奏しているように思える。私がタイワンバイカダを見て一瞬ぎょっとしたのもそういうわけである。
 ただ知識を持って出くわせば、それが毒蛇か否かを判断することができるのだ。


 それでも危ないのが颯爽と草むらに逃げ込む白黒のヘビを野生下で見つけた時である。水槽に入れて 「 さぁこれはどちらでしょう 」 とじっくり見比べるなら容易いが、捕まえなきゃいけないし、きちんと同定しなければならないしで、早い判断力いわゆる “ 思考の瞬発力 ” が重要になってくる。 『 いかに対処するか 』 をすばやく幾通りも考え取捨選択し、適切な対処法を実行に移すまでの刹那が成果を左右すると言っても過言ではない。台湾でいえばその白黒のヘビがアマガサヘビなのかバイカダなのかを瞬時に判断しなければならないということ。それを実践できたのでドキドキの反面、良い訓練になったなとも思う。外の世界はこんな魅惑と危険が隣り合わせなのである。


 同日に強毒種と擬態種を見られる素晴らしい夜だった。その後も夜の台湾を無我夢中で巡った。狙い目だったヒャッポダDeinagkistrodon acutus の姿はついぞ拝むことはなく、朝を迎えることとなったが、それでも様々な生き物に会えたので興奮が冷める時がなかった。
 そうして台湾の旅最後の夜は雨上がりの土の匂いを残したまま明けていった。



烏来の川沿い







Category: 爬虫類  

鼻先蛙は蛇の気配

~ 麗しの島、台湾の旅 ~
1. 小汚いバックパッカーとダーティー兄ちゃん
2. トカゲたちの異なる境界線
3. 極彩色 Richly colored
4. 翡翠の純心
5. 蝦蟇が来たりて、夜は更ける
6. 翡翠の邪心
7. 谷を渡って飾り付け
8. 木登り蜥蜴の陰と陽
9. 至高のグルメ
10. 色とりどりの花咲き誇る
11. 斑蛇の明と暗
12. 既視感のオアシス
13. 蓮池や 咲いては消える 亀の華
14. 鼻先蛙は蛇の気配
15. モノクロームの鎮魂歌
16. 最終夜の晩餐
17. 老人と湯




 しんと静まり返った夜の森に、雨音たちだけがはしゃぐ世界。葉を揺らし、地面を叩き、あっという間に辺りはたくさんの 「 ぽちょん 」 に包まれる。我々が動き始めた頃、彼らはすでにどこかへ去ってしまった後のようで、台湾の夜の森に潤いだけを残していった。
 雨に打たれずに湿ったフィールドに出られるという条件はかなりの好機で、ヘビが出そうな気配が存分にあり、左ハンドルを握る手にも力が入る。


 目星をつけた林道にたどり着き、この素晴らしい条件を堪能すべく、じっくりと林道歩きを始めた。濡れたシダに懐中電灯の明かりが当たって、細かい小羽片に溜った水滴をチラチラと反射させているのが美しい。
 相変わらず優占種として現れるスウィンホーハナサキガエルOdorrana swinhoana もこの日は数が違って、扱いがぞんざいになるほど林道にごった返していた。 ( 中には奇抜な色彩の個体が出るので無視もできないが。 )   この感覚はヤンバルでフィールディングしたことのある両爬屋なら共感しやすいと思うのだが、こんな日は 『 当たり日 』 だと直感する。ヤンバルの濡れた林道に多数のハナサキガエルO. narina が現れれば、それ目当てだったり、似たような出現条件だったりで他の数多くの両爬に出会えたりするのだ。こういう日に当たれば、それまでただ呆然と歩いているだけだった林道歩きが劇的に変化して、歩みを遅らせるほど様々な面々が姿を見せる。

 これまでに写真で登場した樹上のタイワンアオヘビCyclophiops major 成体のタイワンアオハブViridovipera stejnegeri stejnegeri アカマダラDinodon rufozonatum rufozonatum などのヘビが見られたのもこの時である。期待通りヘビが出ているので、 「 これはまだ未見のヘビも出てくるな 」 と胸を膨らませていると、遥か先頭を行っていたFくんが見慣れぬ細長いヘビと格闘していた。





タイワンオオガシラ
タイワンオオガシラ Boiga kraepelini


 それはなんとボイガ。本属は東南アジアからアフリカ大陸まで分布するヘビで、いろいろ海外の図鑑やサイトなんかを見ているとよく登場する。樹上性のヘビで鳥類やトカゲ類なんかを食べている連中で、有名どころだと特定外来生物に指定されているミナミオオガシラB. irregularis がいる。
 ミナミオオガシラは国際自然保護連盟 ( ICUN ) が定める “ 世界の侵略的外来種ワースト 100 ” に選ばれるほどの悪名高いヘビで、外来種問題・環境問題に詳しい人によく知られている。所業としてはグアムに侵入した本種は固有鳥類を少なくとも7種絶滅に追いやったようである。メジロZosterops japonicus くらいの小さい鳥を捕食するのかと思っていたが、ヤンバルクイナGallirallus okinawae と同属のグアムクイナG. owstoni だとかマリアナオオコウモリPteropus mariannus なんかも食っているようなので驚きである。その他食虫類やトカゲ類などを捕食し、生態系に与える影響はかなりのものだそう。

 日本ではミナミオオガシラの他にミドリオオガシラB. cyanea ・イヌバオオガシラB. cynodon ・ボウシオオガシラB. nigriceps ・マングローブヘビB. dendrophila の4種が特定外来生物とされ、Boiga 属の残りの種についても幼体時の種同定が難しいことから未判定外来生物の扱いなので、実質国内に他のボイガが輸入されることはない。そのため日本国内ではなかなかお目にかかれない分類群のヘビなのである。 ( どこかの動物園ではマングローブヘビとか見られたと思う ・・・ )



 どうやら地面を移動中の個体にFくんは出くわしたようで、咬蛇姿勢をしきりにとっていたので後から来た ( それまでアカマダラと戯れていて遅れた ) 私とTOGUくんも拝むことができた。彼らは弱毒の後牙類なので、死亡事例は無いにしても、海外でその手のトラブルには巻き込まれたくないため、あまり手出しできないままではあったが、それでも十分堪能できたのは元来の樹上性という性質ゆえなのか、地上では動きが緩慢であった。
 これはセダカヘビPareas なんかでも同じで、背中が高く盛り上がった胴をしているヘビは往々にして地上での動きはあまり機敏ではない。

 頸部が細くなっているので相対的に頭部が大きく見えるため、オオガシラという和名がついているが、この顔を右に左に向けるのでなかなかに愛嬌があって可愛らしい。また瞳孔も猫のように縦長なので、ヘビの中では個性的な顔立ちであって見ていて飽きない。というか表情があるようで面白い。
 ただ頭部の長さも 2cm ほどしかなかったので、これで鳥を呑めるのかは疑問がある。どちらかというとヤモリとかキノボリトカゲばっか食っていそう。



タイワンオオガシラ
タイワンオオガシラ


 色彩はバリエーションに富んでいて、別個体だとこんなにも体色が違う。林道歩きの後に車で回っていると路上を移動中のこの個体に出くわしたのだが、そのあまりの体色の違いに先程見たばかりの同種のヘビだとは思えないほどだった。しかし背の高い胴に細い頸部という特徴的なフォルムからすぐにタイワンオオガシラだと、頭の上に電球マークが灯るように気が付いた。
 本種は和名に “ タイワン ” の名を冠するが、分布は広く中国、ラオス、ベトナムなんかにもいる。体色のタイプとしては2つに大別されるようで、最初に見た灰褐色のタイプと、次に見た褐色タイプがいるようである。種内でこんなにも体色にバラつきがあるので、ただ1個体見ただけではその生き物を語れないなと改めて思わされる。

 結局我々がフィールドにヤミツキになってしまうのは、まだ見たことのない種に会いたいというのはもちろんのこと、このように同じヘビでも全然違う見た目のやつが出てくるところにも面白さがあるんだろう。んでもって異国の地で仲間と感動を共有し、生き物についてあーだこーだ言いながら、夜の林道を散策できることのありがたみ。このヘビの、この個体の、この瞬間、というのは唯一無二の出来事なので、旅が終わって友人たちと飲んでる時も、 「 あの時のあのヘビが ・・・ 」 なんて話で永遠にお酒が呑めるのも貴重な証だと思う。きっといつまで経ってもみんなで顔を合わせて酒を呑み交わせば、台湾の話が出てくるだろう。


 この日は雨が降った影響でカエルがたくさん出てきている中、タイワンオオガシラ2個体がどちらも地面で行動していたことを考えると、こういう日はカエル類を狙っているんだろうと思われる。そしてこの夜はやはり条件が良かったのか、他にもまだ台湾の濡れた大地をするりするりと這って出てきているヘビに出会えていた。









Category: 爬虫類  

蓮池や 咲いては消える 亀の華

~ 麗しの島、台湾の旅 ~
1. 小汚いバックパッカーとダーティー兄ちゃん
2. トカゲたちの異なる境界線
3. 極彩色 Richly colored
4. 翡翠の純心
5. 蝦蟇が来たりて、夜は更ける
6. 翡翠の邪心
7. 谷を渡って飾り付け
8. 木登り蜥蜴の陰と陽
9. 至高のグルメ
10. 色とりどりの花咲き誇る
11. 斑蛇の明と暗
12. 既視感のオアシス
13. 蓮池や 咲いては消える 亀の華
14. 鼻先蛙は蛇の気配
15. モノクロームの鎮魂歌
16. 最終夜の晩餐
17. 老人と湯




 台湾バーダーに紛れて散策する台北植物園。鳥ばかりだとせっかく台湾に来ているのにもったいないので、上ばかり見てないで両爬も探して園内を回る。
 キノボリトカゲの話で出たスウィンホーキノボリトカゲJapalura swinhonis はこの時に見つけた個体で、日陰の涼しげな樹の幹についていた。先の記事でも書いたが、遠目からキノボリトカゲだとわかって近づいてみると、これまでに見てきたキグチキノボリトカゲJ. polygonata xanthostoma とは明らかに印象の異なる暗い雰囲気を持ったキノボリトカゲで、すぐに別種だとわかった。
 この時の個体はまだまだそこまで大きくないオスだったが、こいつらの成熟したオスは日本のキノボリトカゲや台湾に生息する別種のキノボリトカゲよりも一回りほど大きくなり、感情が荒ぶるとクレストを逆立てドス黒い口内を誇張して開口する姿がとても勇ましい。今回は見られなかったがぜひともそんなスウィンホーキノボリに会いたいものだ。静岡にでも行くか ・・・ 笑




タイワンハナガメ
ハナガメ Mauremys sinensis


 子ガメは軽いからだろう、ハスの葉上でバスキングだなんて優雅ではないか。こういった公園内の池というのはカメ類を探すのにもってこいだが、ミシシッピアカミミガメTrachemys scripta elegans がたくさんいるイメージだった。
 ただ今回の旅では見かけることはなく、カメもハナガメのみだった。





マダラロリカリア
プレコの一種


 その代わりといってはなんだが、この池にはたくさんのプレコが生息していた。南米原産のナマズの仲間で、ペットとして数多く取り扱われる一方、ミシシッピアカミミガメ同様初めは小さい個体なのだが成長につれてだいぶ大きくなってしまうので遺棄されてしまうケースがある。沖縄でも要注意外来生物に指定されるマダラロリカリアLiposarcus disjunctivus が定着してしまっている現状を考えると、今回台北植物園で見られたプレコも本種かその近縁種だろう。

 安易に購入できるのも完全悪とはいえないが、飼育をする以上は最後まで自分の責務を全うしなければならない。知識なく買ってしまったとしても、自分の手に負えないようならば “ 遺棄 ” という安直な手段をとるのではなく、 “ 処分 ” など自分の手で完結させるべきなのではないのだろうか。
 それが命をお金で買っている者の負うべき責任であろう。






 ハスの葉に乗っているのはハナガメだけでなく、トノサマガエルPelophylax nigromaculatus と同属のフッケンプランシーガエル? ( 和名不詳 中国語で金線蛙 ) P. fukienensis なんかもワラワラと。
 そんなハスとカエルという画になるものを夢中で撮ってると、台湾のおばちゃんにも私の両爬好きが伝わったのか、 「 こっちこっちぃ !! ハスの花にたくさんのカエルが集まってるとこがこっちにあるわよぉ 」 的なニュアンスでめちゃくちゃ手招きをしている。


キンンセンガエル
金線蛙 Pelophylax fukienensis


 こいつは良い。まさに万国共通のカエルのイメージなんだろう。ただね、おばちゃん。ありがたいんだけど20分くらい前に同じとこで同じ写真を撮っているのよ ・・・
 かといってそんな失礼なことを中国語でしゃべれるわけではないので、両手を大げさに広げながら 「 Wow !? 謝謝、謝謝 」 ( ありがとう、ありがとう ) とおばちゃんの親切心を無下にしないよう満面の笑みで激写する。自国の生き物が好まれているのは嬉しいものだ、私も逆の立場だったらお節介に教えちゃうかもしれない。

 このとき近くにTOGUくんもいたのだが、案の定彼はこういうやりとりにはノッてこないんだな。こんなシチュエーションは日本のフィールドでもよくあることで、散策していて人に会うと大概相手をしているのは私で、さっきまで近くにいたTOGUくんは厄介事を察知してスッと姿をくらますのを何度か体験している。
 まるで私を囮のようにして、自分はその間に見たい生き物を狙うのである。まぁ相変わらずな対応に安堵もするが、彼はクールと薄情が紙一重なやつなのだ。 笑


タイワンハナガメ
ハナガメ


 夢中でカエルを追っていると、時たまハスの葉の合間から、ヌッっと音もなくハナガメの成体が息継ぎに現れる。実はおばちゃんに呼ばれている際も、我々が狙っていたのがこの個体なのだ。池はハスの葉で覆われ、どこから顔を出すやもわからないので葉の隙間を懸命に見張っていた。
 やはりアジアンタートルの中でも抜群の美しさを持つ本種。頸部に入るラインはクサガメと異なり乱れず直線になり、また3本のキール部分はオレンジ色が入り、幼体だと顕著で美しい。

 以前はOcadia 属に分類されていたが、分子系統からChinemys 属と同様にMauremys 属に統合された。化石種でニホンハナガメO. nipponica という種が千葉で発見されているが、こいつもMauremys に移されるとなると、ニホンイシガメM. japonica と学名の意味がカブってしまってややこしい。まぁシノニムではないのだけど。




 午後は再び烏来に戻り、山中を散策。


ハブカズラ
ハブカズラ Epipremnum pinnatum


 岩壁にハブカズラが這う。沖縄なんかでもそうだが、こういう植物たちが自分の 『 南の島へ行きたい病 』 を治す手助けになっているのだろう。タニワタリにハブカズラに大型ヘゴにクワズイモ。大体ここら辺の植物が繁茂していると落ち着く。



 しばらく歩いているとポツポツと雨が降り始める。ちょうど登りに差し掛かったところで、 「 これ以上登っても何か出そうもないし、オレは下で探しているよ 」 とFくんと分かれた直後くらいに。相変わらずこういう勘が働く男だ。
 案の定、私とTOGUくんは何かを見るわけでもなく、すごすごと待ち合わせ場所の駐車場に撤退。



 ただこの夕方からの雨は嬉しい。これはこれで日頃の行いが良いと言えよう、夜の生温かい雨は両爬の狼煙。こういう雨が降ると夜にヘビが見られる確率が上がり、憧れのヒャッポダDeinagkistrodon acutus がもしかしたら見られるかもしれない条件になってきた。
 そんな期待に大きく胸が膨らみ、トウモロコシ味のうまくないスナック菓子をわしゃわしゃとかきこんで、ついでに腹も膨らませる。

 待ちに待った雨の夜、最終夜。翌日は帰国を残すのみなので一晩中散策に費やせる絶好のチャンス。今回の旅最大の一大イベントである。
 そんな夕立ちが烏来を、そして我々を潤し、温泉から立ち昇る湯気と同じように、我々もモクモクと期待を膨らませた。そして台湾を訪れて3回目の夜がゆっくりと湿気を保ってやって来るのであった。










 台湾記事を書いてついに13話目。気がつけば2015年も終わろうとしているではありませんか。いつもなら1年の総括的な記事を書いたりするんだけども、年内に台湾記事を書き切れなかった。台湾以外にもお花を求めて各所を巡ったんだけども、せっかく連チャンで書いている台湾話なので、流れを切らさないためにも今回はなしで。
 なので 【 AKE ★ OME 】 的な記事も書かない予定。

 ですので皆さま、今年も当ブログをご愛好いただきありがとうございました。2016年もいろいろ探しに行きますので、たまにブログを覗きに来てやってください。
 それでは良いお年を。





Category: 爬虫類  

斑蛇の明と暗

~ 麗しの島、台湾の旅 ~
1. 小汚いバックパッカーとダーティー兄ちゃん
2. トカゲたちの異なる境界線
3. 極彩色 Richly colored
4. 翡翠の純心
5. 蝦蟇が来たりて、夜は更ける
6. 翡翠の邪心
7. 谷を渡って飾り付け
8. 木登り蜥蜴の陰と陽
9. 至高のグルメ
10. 色とりどりの花咲き誇る
11. 斑蛇の明と暗
12. 既視感のオアシス
13. 蓮池や 咲いては消える 亀の華
14. 鼻先蛙は蛇の気配
15. モノクロームの鎮魂歌
16. 最終夜の晩餐
17. 老人と湯


 2日目の夜は烏来周辺地域を車で流していた。山間部の道を走っていたのでそこまで車通りは無いものの主要な道路というのは限られているので、そこで暮らしている地元の方の車がビュンビュンとばして我々のノロノロしたレンタカーを猛スピードで追い抜いていく。山間部に点々とする集落独特の、 『 人の気配はあるがしんと静まっている 』 雰囲気は日本も台湾も同じである。人々の灯りが遥か後方へと移り、しばらく人気のない長い山道に差し掛かったところで、路上を照らすライトにヘビの這う姿が浮かび上がる。

 「 おぉっ ! ! ヘビヘビっ ! ! ! ! ! 」

 まるで初めてヤンバルや西表島でヘビを見つけた時のような、あのなんとも言えない興奮と緊張感が3人を満たす。皆、学生時代に南西諸島への遠征を経験しており、このようなシチュエーションで生き物を見つけることが多いため、どう動けば良いかはわかっているので言葉なしですぐに最善の行動をとれる。
 “ ライトを握りしめて識別・捕獲に向かう者 ”
 “ 車を安全な場所に駐車させる者 ”
 “ 通行してくる車の危険を察知する者 ”
 誰がどの役割を果たすかはその時々で、状況によって判断が必要になるのでこればかりは経験しないことには難しい。そういう意味でも遠征慣れしているメンバーだったので車中泊も夜の散策も、気を使わずフルパワーが出せるのが今回のありがたいところ。




アカマダラ
アカマダラ Dinodon rufozonatum rufozonatum


 路上に現れたのは日本人にも馴染みの深いアカマダラ。日本では対馬と尖閣諸島に分布するヘビだが、私は未だ日本の生息地を訪れることができていないため、国産のアカマダラは未見である。
 写真やネットなどでみる対馬のアカマダラはこの個体よりも赤みが強くパッと見の印象が異なる。台湾のアカマダラは黒っぽく、そう見えさせているのは黒い横帯が大きく、間隔が狭いのが要因だろう。同じ亜種でも色彩に地域変異があると思われる。
 日本に生息する別亜種のサキシママダラD. r. walli でも、地域で色彩変異がある。


サキシママダラ比較
サキシママダラの島嶼間色彩比較
上:宮古島
下:西表島


 アカマダラの 【 台湾 】 - 【 対馬 】 での色彩の違いは、日本でいうところのサキシママダラの 【 西表島 ・ 石垣島 】 - 【 宮古島 】 での違いと同じような気がする。黄色部の面積の違いで見た目が全然異なって見えるので、これらの色彩パターンは表現型として固定されやすいものなのかもしれない。実際並べてみて思うが、全然違うのが見てとれる。これをぜひ対馬のアカマダラでやりたいなぁ。

 アカマダラは台湾では見かける機会の多いヘビのようで次の日も、前日も発見していた。感覚的にはサキシママダラに近いように思える。
 捕まえてもそこまでの攻撃性はなく、逃げの姿勢。その際にぶちまけられるマダラ臭を嗅ぐと、西表島での楽しい記憶がふと思い出される。やっぱりマダラは臭いぜ ・・・



アカマダラ
アカマダラ


 前日の陽明山では、夜の散策中にやぶにいるところを私が見つけた。自分の眼でこの小さな幼蛇を見つけ出したのにはえらく感動したものだ。
 一般的には成蛇よりも幼蛇の方が色彩が鮮やかなのだが、幼蛇パワーをもってしてもこの赤さである。渋いと言えば渋いのだが、やはり鮮烈な赤い個体を見てみたい。やはり対馬かなぁ。ツシママムシGloydius tsushimaensis も見たいし、固有のハペも多いのでなんとか行ってみたい。





 2日目の夜は早々にアカマダラが見られたので期待していたのだが、希望虚しくその後はただただ山道のドライブに興じるだけに終わってしまった。カーナビとにらめっこしたり、よくわからん細い道に入ったりして、どんなフィールドになっているかを下調べするような形になったが、 『 それは明日以降にも活きること 』 と心の中で言い聞かせ、この日は散策終了。
 限界まで運転して、眠くなったら駐車スペースを見つけそのまま眠る。行動力をフルで使えるのが、車中泊の旅の良いところである。

 ただ溜まった疲れと固定されたシートということで3日目の朝ともなると体が軋んでいるのが実感できる。しかしモチベーションもあるので、外に出てグッと伸びをしながら大あくびでもしてしまえばある程度はリセットされる。


肉まんと沙士
肉まんと黒松沙士(サーシ)


 朝飯はコンビニが開いているのでそこでパパッと済ませる。コンビニの中華饅といえど本場は本場なので、すんごいハオツー、めっちゃハオツー。
 そしてジークさんも以前台湾を訪れており、その際に紹介していただいたのがこのサーシ。 「 ルートビアが好きならぜひオススメ 」 と教えてもらいようやく念願が叶ったのだ。沖縄に行くと真っ先に買いたい飲み物がルートビア。それの台湾版ということで、レンタカー屋横の劉ちゃんのいるファミマで最初に買ったのもサーシ。
 甘ったるくてシップの香りがする素敵な炭酸飲料で通称 『 台湾コーラ 』 。ルートビアに比べてベタつく甘さではなく、さっぱりしたのどごしなので暑い地方向けと言った感じ。亜熱帯気候のフィールドで汗をかきまくってから飲むサーシはバツグンにハオツー。またベタつかないので朝の寝起きに飲んでもハオツー。
 ちなみに写真のサーシは 『 加塩 』 タイプだったが、私には通常品との違いがイマイチわからなかった ・・・ ( 味音痴 )



 とにかく台湾コーラで力をつけて、さぁこれから3日目スタート。4日目は帰国日で散策もしないので実質フィールディングの最終日。なんとかこの1日で見たいものを出すしかない ・・・



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木登り蜥蜴の陰と陽

~ 麗しの島、台湾の旅 ~
1. 小汚いバックパッカーとダーティー兄ちゃん
2. トカゲたちの異なる境界線
3. 極彩色 Richly colored
4. 翡翠の純心
5. 蝦蟇が来たりて、夜は更ける
6. 翡翠の邪心
7. 谷を渡って飾り付け
8. 木登り蜥蜴の陰と陽
9. 至高のグルメ
10. 色とりどりの花咲き誇る
11. 斑蛇の明と暗
12. 既視感のオアシス
13. 蓮池や 咲いては消える 亀の華
14. 鼻先蛙は蛇の気配
15. モノクロームの鎮魂歌
16. 最終夜の晩餐
17. 老人と湯


 内洞国家森林遊楽区の川沿いを歩き進めると、大半の観光客の目的地兼折り返し地点である滝が見えてくる。とりあえず烏来温泉街から歩いてきたことを考えると結構な距離なので、ここいらでマイナスイオンを浴びながら休息をとることにした。
 ここまでで予想以上に鳥の成果がないためか、TOGUくんはその間も滝の周辺でめぼしい鳥が出ないかと散策に勤しんでいて、 「 やはり鳥屋の歩く体力には関心するなぁ 」 と実感。私なんぞは腰を下ろしてしまったらこれがまた上げるのが重たいわけで、貴重なペットボトルの水分も残りが 1/3 になるほど飲んでようやく立ち上がる。ルートとしてはここで引き返すルートと、山を登るルートの2パターンがあるが、 「 さぁどうしようか ? 」 と作戦会議。結果、もうちょい進む山ルートに決まったが、体力を考えてFくんは留まる事にし、そして帰りの時間も考慮してこの場所にあと40分後に集合というのが条件になった。

 ということでTOGUくんと40分間のハイキングスタート。Fくんの待つ滝のポイントは三段の滝の下層瀑布で、中層瀑布・上層瀑布を拝むためにはこの山ルートを行かなくてはならないため、少ないとはいえまだまだ観光客が絶えないところである。それこそ高尾山のような感じで、身軽な服装の観光客たちが生き物を弄くる我々を、冷ややかな横目でやり過ごしていくあの感覚というのは、日本も台湾も同じなのだなと肌で感じる。そんな態度にはもう既に慣れっこな我々は、ワーキャーとキノボリトカゲの写真を撮る。




キグチキノボリトカゲ
キグチキノボリトカゲ Japalura polygonata xanthostoma


 典型的なキグチキノボリの図。日なたにもよくチョロチョロと出てきてこちらを気にしている性格明るめな感じ。オスの咽頭垂は写真の個体のようにオレンジ色が出てよく目立つ。

 また学名をみてわかるように、このキノボリトカゲは我が国に産するリュウキュウキノボリトカゲJapalura polygonata と同種である。
 リュウキュウキノボリトカゲはいくつかの亜種に分けられ、
オキナワキノボリトカゲJ. p. polygonata 【 奄美諸島・沖縄諸島 】
サキシマキノボリトカゲJ. p. ishigakiensis 【 与那国島を除く先島諸島 】
ヨナグニキノボリトカゲJ. p. donan 【 与那国島 】
キグチキノボリトカゲ【 台湾 】
 以上の4亜種に分けられる。

 なので馴染みのある姿をしていて、どこか懐かしささえ感じさせる風貌なのだ。動きもまんま日本のキノボリトカゲのそれなので、捕獲も容易い。



キグチキノボリトカゲ
キグチキノボリトカゲ 


 こちらは陽明山で見た幼体。陽明山もこのキノボリトカゲが多いが、台湾には5種ものキノボリトカゲが生息しているのでしっかりと同定しなくてはならない。




キグチキノボリトカゲ口内
キグチキノボリトカゲ


 本種は和名の通り、口内および舌が鮮やかなオレンジ色を呈しており、訪台初期はとにかくキノボリトカゲを捕まえては口を開けさせていた。体色には環境や興奮状態などで明暗差があり、明色時はオキナワキノボリトカゲに似た薄緑色になるが、暗色時では濃い緑と薄い緑が入り混じり複雑な模様が現れてカッコイイ。
 また1枚目の写真のようにオスの咽頭垂と腹面の黄色みもよく目立つキノボリトカゲである。

 案の定観光客の多いところでも、 “ キノボリトカゲの口内を覗き見なければ気が済まない病 ” が出てしまうので、とにかくお構いなしにお口を開けさせる。ただ 「 開けたい開けたい 」 と気持ちがはやるおかげで、知らず知らず自分も間抜け面して 『 ぽか~ん 』 と口が開いてしまっているときがあるので、台湾でキノボリトカゲを捕まえる方は注意されたし。




 キノボリ繋がりでいえば、3日目に市内の公園を散策していて別のキノボリトカゲを見つけた。


undefined
スウィンホーキノボリトカゲ Japalura swinhonis


 キグチキノボリに比べて明らかに陰険な風貌。こいつに関しては “ キノボリトカゲの口内を覗き見なければ気が済まない病 ” の発作が出る間もなく、違うキノボリだと悟った。感覚的にはラピュタの 「 はっ !? さっきのロボットじゃない ??!! 」 みたいな、なんか違うじゃないかという雰囲気をかもし出ていたキノボリ。

 吻が短くて厚みのある頭部、そして全体的に灰褐色でダークな印象。明らかにこれまでたくさん見ていたキグチキノボリとは異なる顔つきに、Fくんと顔を見合わせて 「 キグチとは顔が全然違うね 」 とお互いが抱いた感想を持ち寄ったら見事に一致した。これは両爬屋の後輩たちも共通認識のようで、帰国後に2種のキノボリ写真を見せてみると、口裏を合わせたかのようにみんな 「 顔つきが違う 」 と答えてくれたので、なんだかみんな同じ感覚で生き物を見ているような気がして嬉しかった。
 識別点を認識して同定することももちろん大切なのだが、フィールドワークをする上ではこういった直感的な部分も必要だと常々思う。標本や写真などの静物を観察して、その生き物が 「 何であるか 」 と判断するのは時間も判断材料もたくさん用意できるが、実際にフィールドで出会った動物 ( ここでは静物の対義語 ) では限られた材料で判断しなくてはならない。そういう意味では瞬発的な直感力を磨くのも重要だと思うし、毒蛇もしくはそれに擬態したヘビを見つけた際には、案外大事な能力である。




ということで、今回は2種のキノボリトカゲを見つけることができた。日本では1つの島に複数種生息していることがないので、まじまじと同定せずに決め付けてしまっているふしがある。台湾で改めてじっくりとキノボリトカゲを見てみると、識別するのが難しい分類群なんだと思わされた。
 パッと見で識別ができるようもっと精進しなくてはならないなぁ。



キノボリトカゲの陰と陽
スウィンホーキノボリトカゲ ( 左 ) と キグチキノボリトカゲ ( 右 )


 両種の雰囲気があまりに対極に感じたので1つの画像に。まるで光と影、陰と陽。互いが互いを際立たせる、そんな存在。隣に並べると雰囲気の違いがよくわかる。


 陽気なキグチや着生ランを観察したりでタイムアップ。Fくんと合流し、果てしない復路を歩き始める。






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翡翠の邪心

~ 麗しの島、台湾の旅 ~
1. 小汚いバックパッカーとダーティー兄ちゃん
2. トカゲたちの異なる境界線
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4. 翡翠の純心
5. 蝦蟇が来たりて、夜は更ける
6. 翡翠の邪心
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8. 木登り蜥蜴の陰と陽
9. 至高のグルメ
10. 色とりどりの花咲き誇る
11. 斑蛇の明と暗
12. 既視感のオアシス
13. 蓮池や 咲いては消える 亀の華
14. 鼻先蛙は蛇の気配
15. モノクロームの鎮魂歌
16. 最終夜の晩餐
17. 老人と湯




 ヒキガエルたちを観察したあとは、渓流沿いを散策。森の中は滝の水しぶきによって高い空中湿度を保ち、マイナスイオンとぬかるみ豊富な夜の森を3人で訪れる。

 「 こっちの道に行ってみたい 」
 「 あっちにある石の裏とかに何かいないかな 」
 「 写真をもうちょっと撮っていたい 」
 「 どんどん前に進んでいろんな生き物を見つけたい 」

 三者三様の欲求は海外の危なげな夜の森でも湧き出てくる面々なので、いつの間にか各々別々に行動し始める。とはいってもお互い遠征慣れしたメンバーで、こういう場面では適切な距離感を保って行動してくれるのでありがたい。
 例えば闇夜の中でもお互いの懐中電灯でそれぞれの位置が視認できるくらいの距離だったり、生き物を見つけた時に大声で呼べば駆けつけられる距離だったり、別々に行動していてもある一定の範囲内に留まって行動しているのでやりやすい。これを “ 許容分散範囲 ” とでも呼ぼうか。
 この許容分散範囲というのは不定形であり、環境・天候・時間 ・・・ etc. によって大きく影響される。一本道の林道なら道も外れないので結構奥まで進んでも大丈夫だし、雨のナイトハイクは声が通りにくいので離れずに行動したり、様々な条件下でこの範囲の大きさや形は変わる。
 この範囲は言葉で互いに確認し合ったり、半径 ○○ m 以内と相談して定義するわけでなく、体感的に体得した距離感なので、いかに一緒に様々なフィールドに出ていたかが範囲を把握する肝になる。さらに言えば、各メンバーの行動パターンや性格がわかってくればより精度の高い範囲になり、 「 まだあの生き物を見つけられていないから、血眼のコイツの歩みは遅いだろうとか、アイツは昼間あまり見たい生き物が少ないから、きっとこの先の休憩ポイントにいるだろう 」 などと想像できれば、どこまでなら離れても大丈夫という範囲が見えてくる。
 そんな気遣いだけではなく、 「 こいつはたまに変な生き物出すんだよな、勝負所に強いんだよな 」 などと思う場合は、近くでおこぼれに期待してあえて離れず行動するズル賢いパターンもある。


 今回は案の定バラバラにはなったものの、許容分散範囲内だったので生き物の共有ができた。






タイワンアオハブ
タイワンアオハブ Viridovipera stejnegeri stejnegeri


 オオジョロウグモNephila clavata に似た大型のクモの巣に、マダラゴキブリRhabdoblatta の一種が引っ掛かっていて、ずいぶんスケールの大きなハンティングだなぁと眺めていると、その大きなクモの巣を透かして見たその枝先に、美しき緑色の毒蛇が絡み付いていた。台湾のフィールドに出る際に最も気をつけていたのがこのヘビで、やられるならコイツだろうなぁと思っていたら本当に油断したところで出現した。この個体が絡み付いていたのは地面からおよそ50cmほどの高さの枝だったので、もし気づかず歩いていたら足をやられていただろう。そう思うとゾッとするし、若干の興奮もする。

 基本的に動かず周囲の緑に溶け込んでいて、見つけようと思わなければなかなか緑の中からこのヘビを抽出して発見するのは難しいのだが、ネットでいろんなパターンの画像を見ていたおかげだろう、クモの巣を見ていてもその奥に何かしらの違和感を感じたのでピントをずらしてみたら案の定そこにいたのだ。一瞬ドキッとする恐怖が襲ってくるものの、憧れの毒蛇を目にしてあっという間に歓喜が押し寄せ 「 Wow ! ? 、アオハブ !! 」 と 『 欧米か ! ? 』 とツッコミたくなるようなリアクションが出た。
 友人たちも離れすぎない許容分散範囲にいてくれるので、私が 「 アオハブっ !! 」 と叫ぶとすぐさま駆けつけてきてくれるので、感動の共有ができる。社会人になってからはもっぱら1人でフィールドに出ることが多くなったので、大学時代のように数人でフィールディングする機会が少なくなった。そんな中で見知らぬ国の真夜中、美しい毒蛇の感動を共有できることがどれだけ素晴らしいことか。
 そしてそこがヤンバルだろうが西表島だろうが台湾だろうが、ボクらは変わらずバカみたいに生き物追いかけて、 「 すげーすげー 」 と感動しているっていうのは、実はすごく貴重でかけがえのない瞬間なんだなって思う。クサい表現だけども、本当にそう思える。そう思えるほどの魅力と感動をフィールドは秘めているのだろう。




 事前に調べた中では、尻尾の先端および虹彩は真っ赤な色をしているのが本種の特徴だったが、この個体はそこまで赤みが強くなく褐色気味だった。体長は 30 cm ほどと小さくまだ幼蛇であるからかもしれない。
 ただ、こういうのは大体成体になるにつれて色褪せそうなものだけども。







タイワンアオハブ
タイワンアオハブ


 こちらは別日の成蛇。中国名の “ 赤尾青竹絲 ” が指すようにイメージ通りの赤みがある個体だった。珍しく枝先にはおらず、コケや地衣類の生える岩壁に陣取って待ち伏せをしていた。
 この日は雨が降ったので体表面はつやつや。またこのヘビは背面と腹面の境に白いラインが入るのも、素敵なポイントのひとつだ。


 顔はまさにピットバイパーだし、周囲に溶け込む体色だし、そんなんがギロリと目の前の枝先で睨みつけている。そんな刺激的なフィールドはなかなか経験がなく、しばらく興奮状態だった。やっていることはヤンバルや西表島とほとんど変わらないのに、 「 あぁ海外のフィールドに身を置いているんだなぁ 」 というのをまざまざと実感させられる。




 車への帰り道、 『 悪犬 』 の恐怖にさらされながらもなんとか帰還。犬嫌いの私にとってはピットバイパーより野犬が怖い。
 遡ること数時間前、車を降りて林道沿いを散策しているときに 『 森林水源管理局 』 のようなものの入り口があった。建物は遥か先にあり、そこへ通じる小道の門がガチガチにフェンスや鉄格子で固められていて、 『 猛犬注意 』 ならぬ 『 悪犬有 』 の看板が掲げられていた。なんともおぞましい看板に慄いていた私だが、勇敢というかただ無謀にもFくんはその門にグイグイと近づいていったのだ。
 ただでさえ怪しい我々の気配がヤツらの琴線に触れたのか、激しい咆哮で3,4頭の番犬が彼方から猛スピードでこちらに向かってきているのが音だけで恐怖と共に感じさせられた。すぐさま我々は逃げ出したが、門の鉄格子の幅がちょうど犬ならすり抜けられるかすり抜けられないかぐらいだったので、とにかく必死になって逃げた。こんなところで犬なんぞに噛まれたくない。というか悪犬というくらいだからギタギタにされそうだ。
 ある程度距離をとっても永遠に吠え続けていたが、こちらに来られないことから想像すると鉄格子は越えられなかったんだとホッとした。


 ただ車に帰るにはまたそこの前を通過しなければならないのだが、怪しい匂いを嗅ぎつけていた悪犬は闇夜でも 500 m くらい前のところからまた吠え始めてしまった。お化け屋敷に入る小学生のように、各々距離を縮めてくっついて縦一列になって通過していく。鳴き声でわかる、すぐ門のところまでヤツらは来ている。
 通り際、F くんがそちらの方をヘッドライトでチラとみたら、光る目玉がいくつか見えたといっていて本当に怖かったが、悪犬が飛び出してくることはなく、なんとか事なきを得た。
 車に戻ってきてふと後ろを見ると1頭小汚い野犬がこちらに向かってテクテク歩いてきていた。エンジンをかけたりドアの閉める音で警戒して襲っては来なかったが、おそらく悪犬なんだろう。
 車で林道を後にするときも、例の門の前を通るのだが、そのときに黒くて体格の良い、けれど品が無く薄汚れたドーベルマンみたいな犬が門の外、道路の真ん中に2頭出てきていて驚愕した。まるでバイオハザードみたいな犬じゃねーか。あと少し帰るのが遅かったら、悪犬と道路でばったり会っていたかもしれない。そう考えると恐ろしくてたまらないのだが、こちとら車なのでいくら吠えられようとも屁でもない。
 ただ 「 あんな悪犬、私だったら勝てないな 」 と、心の中で静かに敗北宣言をした。

 それに近くに民家などが無くてよかったなとも思う。すごい迷惑をかけてしまうわけだし、なんだかんだで人間とのトラブルが最も厄介だから。


 そんなこんなで初日なのになかなか濃い体験をいくつもしてしまった。 「 これがあと3日もあるなんて 」 そう想像するだけでニヤけた顔が戻らない。
 そして陽明山を堪能したあとは別のフィールドに向けて移動する。





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翡翠の純心

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14. 鼻先蛙は蛇の気配
15. モノクロームの鎮魂歌
16. 最終夜の晩餐
17. 老人と湯




 夜の帳が下りてきたので、一度陽明山を後にして台北市内に晩飯調達。市内に下っていくにつれて道路を走る車とバイクの数は瞬く間に増加していき、市街地まで出てくると昼間のそれとは比べ物にならないほどの濁流となっていた。帰宅ラッシュと重なった絡みで、まるで1匹の大蛇のようなバイクの列が縦横無人にすり抜けていき、台北市内の飲食店への侵入を拒んだ。
 この時はTOGUくん運転だったが、ガンガン横入りしてくる車やバイクにイラつきはしていたものの適応は早く、左ハンドルのコツと台湾人の習性を掴んで難なく運転していった。しかし台北市内は非常に駐車場が少なく、かつ路上駐車の文化なのでほとんど止められない状況で、小一時間ほど市内をグルグル回ってみたが入れそうなところが全くなかった。人がごった返す台北の夜市にはいくつもの旨そうな屋台が軒を連ねて栄えていたが、到底入れそうな場所もなく、結局それを横目に諦めて陽明山に戻ることを決めた。
 今度台北市内を訪れるときは、少し郊外の駅などに車を置いて、電車やバスで台北市内を散策したほうが良さそうだ。そうすれば濁流に呑み込まれずに、安心して晩飯にありつけるはず。

 仕方ないので再度陽明山にナビをセットし直し、賑やかな台北を空腹で後にする。ナビは日本語対応のものを借りられたので、馴染みある日本語が機械的な女性の声だとしても聞けるのはありがたかった。ただナビ子ちゃんの 「 U ターンしてください 」 という指示に従ったのに、した途端にもう一度 「 “ できるだけ ” U ターンしてください 」 という無茶苦茶な要望には我々も困惑した。 「 そのままの道で合ってたんじゃないか !? 」 しかも間違えに気がついたからなのか “ できるだけ ” ってなんやねん、その申し訳ない感じ。そんな気遣いができる機能まで搭載されているとは、日本人の心情をよくわかってるじゃないか。それを聞いたときは3人で 「 はぁ? 」 となったが、 “ できるだけ ” がついてなかったらただただ憤怒していただろうに、その5文字をつけ足されるだけで全然受ける印象が違う。改めて日本語の細やかな表現に感動するし、なんだかナビ子ちゃんとはうまくやっていけそうな気がした。 ( いやしてないか。 )

 結局晩飯は時間もなくなってしまったので陽明山に向かう途中のセブンイレブンで購入。グルメも楽しみたいが、夜の散策時間もたっぷり欲しいので仕方あるまい。




乳加
乳加


 台湾のあま~いドリンク。パッケージにある花生巧克力とは、 【 花生 : ピーナッツ  巧克力 : チョコレート 】 という意味で、スニッカーズみたいなお菓子で乳加というのがあり、それをドリンクにしてしまったもの。見るからに激甘で味も容易に想像できるものだが、せっかく知らない国に来たので面白そうなのにはチャレンジしたい。
 もちろん乳加というお菓子も、ピーナッツチョコ味というのも、現地ではわからず今になって調べてわかったことだが、当時は 「 コレ絶対こんな味だ 」 という確信のもと購入。飲んでみるとまさに予想通りの味で、チョコボールのピーナッツ味のドリンクといった感じだ。想定していた味なので、一緒に購入した菓子パンとベストマッチ。やはり旅はこういうのが楽しいなぁと思いながら、昼間撮った写真を激甘ドリンク片手に整理する。



タイワンアオヘビ
タイワンアオヘビ Cyclophiops major


 夕方、駐車場の裏側にある林にて、トタンをめくったら出てきた個体。見た瞬間、 「 緑のヘビ ・・・ どっちだ !? 」 と身構える。台北地域には緑色のヘビが2種いて、無毒である写真のタイワンアオヘビと、被害件数トップを誇る有毒ヘビのタイワンアオハブViridovipera stejnegeri stejnegeri の二択で迷いが生じていた。 ( ちなみに南東部まで足を延ばせば、スジメアオナメラRhadinophis frenatum という樹上性の美しい種もいる )
 迷っている間にその緑色のヘビはするりと逃げ出し、まだ識別できていないのでおっかなびっくりで手出しができないままオブジェクトを退かしながら追いかける。動きが遅くなればキールの質感だったり頭部の形態でどちらかわかるのでようやくアオヘビだと確信でき、2人がかりでようやく捕まえられた。


 背面は日本にいるリュウキュウアオヘビC. semicarinatus よりも明るい緑色でパッと見は鮮やかだが、腹面は薄い黄緑色なので全体的に落ち着いた雰囲気を醸し出している。リュウキュウアオヘビは派手な黄色い腹面なのでメリハリがあってインパクトがある。 ( 参考記事 : 1. 2. )
 性格は温和なようで咬蛇姿勢はとらずに逃げの一手、そういうところは距離的にも近いサキシマアオヘビC. herminae によく似る。

 ただ日本の2種ではあまり見かけないのだが、本種は夜間の休息の際は樹上で休むようである。



タイワンアオヘビ
タイワンアオヘビ


 別の個体だが、夜間フィールディングしている最中に、頭上7, 8 m くらいの細い枝先で休んでいるのを見つけた。おそらく日本とは違って地面での休息が危険なのだろう。ヒャッポダDeinagkistrodon acutus だったりタイワンアマガサBungarus multicinctus だったり、捕食者ひしめく台湾では容易に寝られないのかもしれない。
 そういった近縁種間の違いを見出すのって面白い。きっとその背景を想像するのが楽しいからで、そういった妄想をするには材料の知識をもっともっと学んで身に付けなければならない。そういう意味では両爬に留まらずに、もっと広い知識を吸収する必要がありそうだ。





タイワンアオヘビ
タイワンアオヘビ


 横顔は穏やかで極めて愛らしい。日本の種に比べて吻が短く、小顔なためにそう映るのかもしれない。枯葉の上では目立ちすぎるその翡翠色の体躯も、するりするりと台湾の亜熱帯林に帰っていくと、濃い緑の森に溶けていくようにあっという間にわからなくなってしまった。
 さぁ今度は僕らの番だ。いかにしてその土地の緑に溶け込めるかで、生き物の出は違ってくる。森の呼吸を感じて、地面の鼓動を聞いて、まだ見ぬ生き物を求めてフィールドを駆け巡ろう。これから夜の散策だ。










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トカゲたちの異なる境界線

~ 麗しの島、台湾の旅 ~
1. 小汚いバックパッカーとダーティー兄ちゃん
2. トカゲたちの異なる境界線
3. 極彩色 Richly colored
4. 翡翠の純心
5. 蝦蟇が来たりて、夜は更ける
6. 翡翠の邪心
7. 谷を渡って飾り付け
8. 木登り蜥蜴の陰と陽
9. 至高のグルメ
10. 色とりどりの花咲き誇る
11. 斑蛇の明と暗
12. 既視感のオアシス
13. 蓮池や 咲いては消える 亀の華
14. 鼻先蛙は蛇の気配
15. モノクロームの鎮魂歌
16. 最終夜の晩餐
17. 老人と湯


 強引に進路変更してくる車や傍をスイスイと抜けていく2人乗りの原付きバイク、対向車が左側を通る慣れない道路。とにかく落ち着くため、そしてカーナビをセットするために、レンタカー屋を出てすぐのファミマに入る。台湾では 『 全家 』 という表記らしい。向こうのコンビニも日本とほとんど同じで、おにぎりがあったり化粧品があったり、iTunes カードがあったり、パッと見た限りでは日本も台湾も変わらない様相。
 明らかな違いと言えば、八角の香りが店内に充満しているくらいか。香りの根源は 『 茶葉蛋 ( チャーイエダン ) 』 という煮卵で、お茶や漢方なんかを配合したドス黒い液体で殻のまま煮込む怪しげな料理で、どこのコンビニでも売っているほどポピュラーな食べ物らしい。見た目がなかなかにエキゾチックな怪しさを含んでいたので手を出さずにいたのだが、どこのコンビニにも売っているほど台湾に根ざしたソウルフードのようなので、ついに3日目に口にしてみた。漢方の苦みやクドさもなくあっさりとしていて、あれだけ店内が八角臭で充満していたのに卵本体にはほんのりと八角の香りが付いている程度だった。また黄身の味は濃厚で、まさにポップにある 「 元気満分 」 の文字通り、パワフルにたぎってくるような食べ物でなかなかに気に入った。見た目はそれなりに抵抗のあるものですが、台湾に行かれたら是非チャレンジしてもらいたい庶民料理かなと。

 そんなファミマで昼飯を買い込む、初の台湾のお会計。あっちもコンビニでは学生みたいな人がアルバイトしているようで、初店員さんは 『 劉 ( りゅう ) ちゃん 』 という三つ編みおさげの女子高生(?)で可愛らしい女の子だった。
 レジでやりとりするとこちらがロクに中国語をしゃべれないのを察して、必死にボディランゲージで業務を全うしようとしている一生懸命な姿が尋常じゃなく可愛い !! 日本じゃ目も虚ろで 「 しゃしゃせぇ~ ( いらっしゃいませの意 ) 」 とやる気のないバイトばかりだが、台湾は素晴らしい国ではないか。
 最初に並んでいたFくんはおつりをもらった際に 「 謝謝 ( ありがとうございましたの意 ) 」 と、とびっきりのスマイルをもらっていて、小銭を財布にしまいながら店を出ていく彼の横顔は、今までに見たことのないほどダラしなくニヤけていた。これまでの8年間くらいの付き合いの中で、一度として彼がそういう女性関係で鼻の下を伸ばしたりデレデレしたりするところを見たことがなかったので、彼の新たな一面が見られて衝撃的な嬉しさだ。見た目も日本人とほとんど変わらないし、それほど良い国なんだ、台湾は。あっぱれ台湾。
 次に並んでいた TOGU くんの後ろで既にニヤけてしまっていた私だが、あろうことかオバサンがヘルプにきてこちらへどうぞとか言ってやがる !! そんなぁ、オレの劉ちゃんタイムがぁ・・・ 悲しげにオバチャンにお会計を渡していると、なんと横から劉ちゃんが袋詰めして最後に手渡してくれた。ありがたや。んでもって 「 謝謝、バイバイ 」 と手まで振ってくれたので涙が出そうになったぜ、コノヤロー。そこから車内は劉ちゃんの良さで盛り上がる一同。劉ちゃんありがとう !!



 初日は昼間からのスタートであまり活動時間も少ないので、台北近くの陽明山を目指すことにした。初の左ハンドル & 東南アジア特有の優しくない交通事情で運転は相当ハード。日本の感覚が染みついているので、運転席の位置取りが自然と右ハンドルでの位置になってしまいだいぶ右にはみ出しながら運転してしまった。ましてや見慣れない地名のナビ見たり標識みたりしながらだから、ふと目を離すと右へ右へ。
 何度、助手席の TOGU くんから 「 寄りすぎ、寄りすぎぃぃぃ !! 」 という悲鳴に近いような嘆きを浴びせられたことか。彼からしたら右のわき腹をえぐられるような恐怖だったのだろう、ホンマすんません。
 コツとしては左側にある中央線と運転席との間隔を意識すれば、うまいこと運転できるのだが、私はどうにもうまくいかなかった。それでも事故を起こさずに済んだのは幸いだったんだろう。

 尋常じゃないほど神経をすり減らしてなんとか陽明山着。初の海外フィールディング開始だ !!







インドトカゲ
インドトカゲ Sphenomorphus indicus


 台湾初ハペはインドトカゲ。台湾なのにインドって和名でちょっとややこしいけども笑 行く前にはサキシマスベトカゲScincella boettgeri やヘリグロヒメトカゲAteuchosaurus pellopleurus などの日陰者のリタースキンク的なイメージだったが、日向にも出てくるしずいぶんと活動的で、今回の台湾では最も目にするトカゲだった。
 大きさで言えば前述の日本にいる2種よりも大きく、日本のスジトカゲPlestiodon ( キシノウエトカゲPl. kishinouyei を除く ) くらいのサイズなので、カサカサ音もよく聞こえる。本種は台湾から中国南部、インドシナ半島、チベットまで生息している広域分布種で、 『 沖縄の ○○ 島で過去に記録があった 』 というような記述をどこかの文献で読んだ気がしたのだが失念してしまった。なんだっけな。たしかシーボルトやスタイネガーらの絡みだったような気がするんだが思い出せない。まぁ見つけたら追記するかも。
 日本での記録といってもスベトカゲやヒメトカゲの類いの誤認である可能性もあるわけだが、八重山くらいならいてもおかしくなさそうだし。



インドトカゲ
インドトカゲ


 幼体も非常に多い。見た目によらず立体活動も得意で、壁面だったりこのように樹の幹をチョロチョロと登ったりもするので陽明山のいたるところでみられた。成体に比べてプロポーションはバランスが良く目がクリっとしていて可愛らしい。大きくなると小顔で胴長短足になっていくので、そっちのほうが私としては愛着の湧きそうなプロポーションである。
 帰ってから図鑑や文献で調べてみると、どうやらコイツは卵胎生の種らしく、分布域の広さもあってそれなりに知名度のあるトカゲらしい。だから多く見られた幼体はもしかしたら生後間もない個体だったのかもしれないし、それゆえ時期的な関係で多く見られたというのもあるかもしれない。
 卵胎生のトカゲと言われて思い浮かべるのは、我々日本人だったらコモチカナヘビZootoca vivipara だと思うし私もそう思っていたので、卵胎生というのは寒冷地への適応だと思っていたが、亜熱帯から熱帯にかけて生息している本種がこの繁殖形態をとっているのには驚いた。
疋田努著 『 爬虫類の進化 』 でも寒冷地への適応以外に、子の保護という点にも触れられているように、必ずしも寒い地域だけのものではないようだ。


 今回見られなかったが、台湾にはもう一種このミナミトカゲ属Sphenomoruphus のトカゲがいる。前回の記事でも触れたように、台湾の爬虫両棲類相は垂直分布でも違いが見られ、インドトカゲが 1,500 m 以下の低標高地に生息しているのに対して、もう一種のSp. taiwanensis (和名不明 中国名:台湾蜥蜴 英名:Taiwan Alpine Skink)は標高 1,800 ~ 3,200 m もの高標高地に生息している台湾固有種で、どうやらこの近縁な2種は標高で棲み分けをしているようだ。
 生息環境としては山地の礫がゴロゴロしているところにいるようで、環境としては結構過酷にみえるのだが、こちらの産卵形態は卵生のようだ。 【 2種とその近縁種の系統地理 】 や 【 卵胎生の獲得時期 】 なんかを想像しながら考察したら面白そうなのだが、それに必要な知識が乏しいのが残念でならない。琉球列島ハペの系統地理を考える上では複合的に考えないといけないので、ちょっとずつ調べていけたら良いなぁ程度だな。




アオスジトカゲ
アオスジトカゲ Plestiodon elegans


 今回の旅ではインドトカゲが優先種であったように思う。次によく見られたのが本種。比較的山地よりのフィールドが多かったため、チュウゴクトカゲPl. chinensis formosensis は見られず、プレスティオドンは本種のみ。
 尖閣諸島にも分布していることから本種は日本の爬虫類としてカウントされているが、実際日本で出会うにはほぼ不可能に近い。そういう意味では海外というレッテルはつくものの、国産プレスティオドンはあとクチノシマトカゲ Pl. kuchinoshimensis とニホントカゲPl. japonicus だけまだ見られていないことになる。


 台湾では先程の 【 インドトカゲ - Sp. taiwanensis 】 の関係と同様に、 【 アオスジトカゲ - チュウゴクトカゲ 】 の間にも垂直分布にて棲み分けが成されている。ただし今回我々が見られた “ 低標高側 ” のインドトカゲと “ 高標高側 ” のアオスジトカゲという組み合わせからわかるように、それぞれの種群での垂直分布の境界線は異なっているのだ。
 Plestiodon の2種は日本と同じパターンでの分布様式で、大型で強い種が日当たりの良い平地を占拠し、小型で弱い種があまりバスキングのできない山地に追いやられるという図式のようにみられる。日本でいえば 【 バーバートカゲPl. barbouri とオキナワトカゲPl. marginatus・オオシマトカゲPl. oshimensis 】 や 【 イシガキトカゲPl. stimpsonii とキシノウエトカゲ 】 のような関係性。
 山地に追いやられた方は尾の青みが強く、今回みたアオスジトカゲにおいてもそれは例外でなく、むしろ後肢まで青くなってしまうほどのやりすぎ感。なので標高が高ければアオスジトカゲだというよりも、平地をチュウゴクトカゲに乗っ取られている感じ。

 対してSphenomorphus の2種は標高による生息環境の違いで境界線が変わるのではないだろうか。森林などのリター層のある環境にインドトカゲが、崖地や礫地などの乾燥した環境にSp. taiwanensis がそれぞれ別に暮らしているように思える。
 台湾という同じ土地で、同じく垂直分布で棲み分けをするトカゲ2種群の分布境界線が、実は異なる要因によってその境界線が一致していないというのが面白い。そう考えると台湾はいろいろと考察できる島なんだなと、期待が膨らむ。



 やっぱりトカゲは面白い。






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試作品は失敗するのが役目


 ここ1週間ほど、まさに梅雨の天候でグズグズ雨模様が続きようやく週末に晴れ間がのぞいた。爬虫類的にはようやくの日光浴日和となり、今日はたくさんのヘビに恵まれる結果となった。本当は雨が明けた昨日がベストだったが、その日は友人たちと今度の旅行の打ち合わせをしていたため、1日空けて今日となった。
 旅行とは台湾遠征で、もう出発まで1週間を切っている。とにかく今週は準備だ準備。それも観光ではなく生き物探し、初の海外フィールデイング。こんなに心躍ることはない、そして不安になることも。

台湾には、

フードを広げる典型的な毒蛇 タイワンコブラ Naja atra
樹上に潜む鮮やかな毒蛇 タイワンアオハブ Viridovipera stejnegeri stejnegeri
色の無い白黒の毒蛇 タイワンアマガサヘビ Bungarus multicinctus
噛まれて百歩歩くうちに命が尽きると言われる 毒蛇の王様 ヒャッポダ Deinagkistrodon acutus

 と、錚々たる毒蛇メンバーが台湾には生息していて、ここに紹介できていない毒蛇もまだまだ生息している。そのどの種にも会いたいし、写真も撮りたいが、なかなかに難敵ばかり。

 だからちょっとでも対抗できるようにスネークフックを準備したり。もちろん正規のモノはお値段的に手が出せないので、100均のモノで自作してみた。それのテストも兼ねて、蛇日和にヘビ探し。




ニホンマムシ
ニホンマムシ Gloydius blomhoffii


 そして願っていた絶好のテスト相手、ジャパニーズピットバイパー。試した感じだと、まだ改善しなければいけない点がいくつか見つかった。というかスネークフックは扱いが難しい。

 このマムシをこんな風に扱えるまでに、シマヘビElaphe quadrivirgata 2個体、アオダイショウE. climacophora 1個体、ニホンマムシ1個体、の計4個体も捕まえ損ねていて、そのどれもがうまくフックを扱えなかったことに起因していた。むしろフックなしで今まで通り素手のほうが成功率はグンと上がるが、さすがに毒蛇の多い台湾では誤同定して手を出していたら大惨事。とにかくフックに慣れる他ない。


ニホンマムシ
ニホンマムシ


 ってことでこんな感じでボテっと落ちているマムシで練習をしたというわけ。他のヘビたちは崖の上やら草むらにいて失敗ばかり。果たして実践でどこまで通用するだろうか。


 この日は小さいタカチホヘビAchalinus spinalis 幼蛇の乾燥死体も見つけられたし、良い蛇日和だった。さっ、準備がんばろっ !! あとは台風11号次第だなぁ。頼むぞ〜。



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幼い牙


 まだ5月だというのに真夏日を記録するほど暑い2015年。生き物のサイクルも読みづらく、今年は早いことは早いようだが、未だに掴みきれていない私。そんなもんだから、気候に左右される植物を追いかけるのが必至すぎて、今月はほぼ植物目的のフィールディングばかりだった。せっかく暖かくなってきて爬虫類たちも盛んに動き回っているのに、私としたことがあっという間に5月も終わってしまう。
 そんな中、ラン科植物を求めて里山を歩いていると、ヒバカリAmphiesma vibakari と見紛うほどの小さい蛇を見つけた。


アオダイショウ
アオダイショウ Elaphe climacophora


 本種の幼蛇特有のハシゴ模様を有し、眼の後ろに伸びる黒い筋模様がはっきりとしていて美しい幼蛇だった。もちろん小さい個体なのでおめめクリクリ。んでもってどこかアヒル口をしているようで大変可愛らしい顔をしていた。
 ただ、意外と性格はアグレッシブで、捕まえた際に私は流血してしまった。 「 まさかこんな幼蛇に !? 」 きっとそう思う方もおられるだろう。もちろん噛まれた本人でさえ、そう感じていたのだから。

 指先に絡ませていたら自分の手に血がついていることに気がついた。私はてっきりアオダイショウの血だと思っていた。しかしヘビの体を調べても流血している箇所はなく、ムムムと考えを巡らせて自分の手についた血を見返すと、人差し指と中指の間に赤い泉を発見した。
 どうやら私の血のようだ。捕まえる直前に避けたと思っていた彼のアタックが、痛みを感じさせずに実は当たっていたのだ。それも指と指の間にあるいわゆる “ 水かき ” のところ。その薄いところを狙われたようで、まさかこんな幼蛇に血を流すことになるとは。
 おかげで 200m 平泳ぎのタイムが5 ~ 7秒ほど遅くなったとか、ならないとか ・・・




 最近は植物に現を抜かしまくっていたので、きっとその洗礼だろう。ブログのカテゴリーを見ていたら、ずいぶんと爬虫類を更新していなくて慌てて更新したのも半ば爬虫類たちへの懺悔の気持ちもある。そして5月はとにかくラン科植物を追いかけていたので、次の記事はそんな植物紀行の話になってしまうだろうから、それの前にとりあえず爬虫類をっと。
 ということで次回はランです。5月はランの月でした。今年最も見たかったランが見られて大満足でしたが、季節が読みにくい今年は非常に花期を見極めるのが大変でした。まとめてドバッと載せるか、チマチマ小出しにしていくかは思案中。



 ということでこれから沖縄居酒屋 !! オリオンビールで乾杯だっ !!





Category: 爬虫類  

毒蛇の棲まう黄金郷



先日、深夜のテレビ番組でジャララカBothrops jararaca という毒蛇が出ていた。ブラジルの『 Ilha de Queimada Grande 』という無人島は “ 毒蛇島 ” と呼ばれるところで、海軍と政府の許可がないと上陸できないほど毒蛇密度の高い危険な島のようだ。サンパウロのオヤジは「その島に行ったら95%の確率で死ぬ」とか、もうゲームに出てくる寂れた村の村長みたいなセリフを吐いてやがる。
 その島にわんさかいるのがこのジャララカというわけだ。本種はブラジル南部からアルゼンチンに広く分布するようで、この島の個体群は渡り鳥を食っているらしく、その毒性は非常に強い。
 番組では近縁なアメリカハブ B. sp.はマウスを15秒で仕留めたが、ジャララカはなんと2秒で即死させたという驚異的な強さらしい。






ホンハブ
ホンハブ Protobothrops flavoviridis

 そいつがどうにもホンハブに似ていて、思わずテレビにかじりついていた。番組が終わっても熱が冷め止まず、パソコンカタカタ。


 調べてみるとどうにもテレビで観たヘビはジャララカとは異なるように思えた。島とジャララカの学名で検索をすればそれっぽい個体に行き着くので、島という隔離された環境ゆえにちょっと違うのかなと思っていたが、いろいろ調べてみるとどうやらこの島の毒蛇はB. insularis という別種のヘビだということがわかった。どうやら両種は近縁でinsularis はこの毒蛇島のみに生息するという。
 コモンネームはゴールデン・ランスヘッド・ヴァイパー( golden lancehead viper )で、そのままカタカナで呼ばれているが、本属のヘビをヤジリハブと呼ぶことから直訳してオウゴンヤジリハブとかのほうがカッコイイのではないだろうか。
まぁゴールデン・ランスヘッド・ヴァイパーも十分カッコイイのだが、特に和名がついていないようなら(千石先生や鳥羽先生が既につけているかもしれないが)私はオウゴンヤジリハブを提唱したい。

 もうね、日本の毒蛇が好きな人なら絶対好きだよ、あの顔。ホンハブとかトカラハブPr. tokarensis の体色が淡い個体みたい。というかホンハブやトカラハブが属するProtobothrops という属名自体、ヤジリハブ属Bothrops に対してつけられた属名のようだ。
 マムシ亜科の起源は東アジアで、その中のグループがベーリング海峡を渡ってアメリカ大陸で進化したのがガラガラヘビCrotalus やヤジリハブらしい。なので【原始の-、最初の-】という意味のproto- をつけてProtobothrops とされている。記載はBothrops が先で、その後アジアのハブはTrimeresurus に分類され、さらにアオハブ類から分離されることで現在ホンハブやタイワンハブが所属するProtobothrops という属ができたようである。


 話が脱線したのでオウゴンヤジリハブに戻す。島と薄い体色からトカラハブやフィリピンの島嶼にいるらしい白いハブ Trimeresurus flavomaculatus mcgregori なんかに共通する特徴を持っていて、結構トカラハブも鳥を食うらしいし、もしもTrimeresurus flavomaculatus mcgregori も鳥を食っているならば(調べてもわからずどうかわからない・・・)、島嶼の鳥喰い毒蛇というのはある程度似てくるのかもしれない。
 鳥は爬虫類や哺乳類とは異なる視覚を持っていて、それに対する対応策のように体色が薄いなら面白いな。伊豆諸島各島のオカダトカゲPlestiodon latiscutatus 幼体の体色パターンが捕食者によって異なるように、鳥喰いの島毒蛇たちもそんなふうになってたらなんて妄想する。鳥にしか狙われない八丈島のオカダトカゲの幼体が胴のストライプも尾の青さも持っていないことから、あながち無くはないんじゃないかと思っている。


 とにかくこのオウゴンヤジリハブにめちゃくちゃそそられる。毒性も強く、密度の高い無人島にしか生息していないというその悪条件が猛烈に冒険心を掻き立てられる。一度で良いから現地で対峙して写真を撮ってみたい。

それには、

 ・許可
 ・手段
 ・資格
 ・契約

が、最低でも必要だろう。まるでHUNTER×HUNTERの【暗黒大陸】を目指すような困難な道のりだ。ましてや5%しか戻って来られないと言うし、毒という“厄災”を持ちかえってしまいそうなリスクもある。でもそこにロマンがあるんじゃないか。
 いつか行ってみたいなぁ、黄金の眠る毒蛇島。






Category: 爬虫類  

ネズミのいなかったその島で

 夜の1人ドライブはなかなかに眠い。昼間に聞く沖縄ラジオはゆるくて気持ちがほぐれるので快適なのだが、一晩中その気の抜けたトーンを聞いていると、ついウトウトと眠気を誘われる。こりゃいかんと、商店でテキトーに買ってみた謎の洋楽(200円の中古CD)をかけてみるものの、なんだか宗教的でクレイジーな曲だったから、こっちはこっちで頭が痛くなって疲れる。


パワーギア
パワーギア 

 そんなツライ夜の運転にはコレ。オロナミンCみたいな味がして500mlもあるハイパーエネルギーチャージ飲料。このパワフルなドリンクが自動販売機で120円という破格の値段で販売されていて、味がちょいと薄めなので500mlを軽々飲み干してしまう。
 ひとたび口にすれば三日三晩ハンドルを握り続けられるほどの覚醒が得られるエナジー飲料。パッケージの草野仁似の「チバリヨー!」(がんばれの意)がイカしているもんだから、そのイメージが強くて商品名よりチバリヨーと呼んでしまう。またごく一部の人間はパワーギアを飲んで夜の生き物探しをもう一踏ん張りすることを “チバる” という。普通に沖縄方言で言えば “頑張る” の意味だが、なんだかスペシャルな言い回しな感じがして、「ヘビ出ねーなぁ、ちょっとチバろーぜ」みたいに一服の感覚でも使える。
 買うところはいつも決まった自動販売機で、一度西表でチバったことがある人は写真の風景で「あぁ、あそこね」となるはず。これでひとまず充電をして夜のドライブを続けた。


 今回はずいぶんと乾燥していてヘビの出がよくなかった。また私の興味の対象が広くなったからだろうか、大学1年の春合宿で体験した “1晩で64匹のヘビを見た” あの衝撃の体験がまるで夢のよう。それでもなんとかヘビたちに出会えたのは、チバったおかげだろう。


サキシマスジオ
サキシマスジオ Elaphe taeniura schmackeri


 日中道路を塞ぐようにびろーっと伸びているのを見つけるパターンが多いが、今回は夜の横断中だった。眠気は一気に覚める。もう3回チバるのと同等くらいに覚める。
 先に書いたように西表にはあまり雨が降ってなかったようで、道路上に落ちている紛らわしい木の枝は少なく、『明らかにヘビ』というシルエットがハイビームのライトに照らされた。

 スジオナメラの先島諸島亜種で、種としては日本のヘビの中でとりわけ分布域が広く、インドから中国東部、台湾やボルネオ島、そして日本と、固有種の多い日本のヘビ類では珍しくワールドワイドなヘビである。分布が広く、ビルマスジオE. t. callicyanous (※)も含めれば8亜種にも分けられるほど地域間で体色や食性にも違いがみられる。マレースジオE. t. ridleyi の体は幽玄な前半部とスタイリッシュな後半部とのメリハリがきちっとしていて美しく、さらには洞窟に生息してコウモリ類を食らうという珍しい食性も持つ。
 その中でサキシマスジオは東限の個体群 (沖縄本島に帰化したタイワンスジオE. t. friesi を例外として) で、日本のヘビ類の中で最も大きなヘビである。顔はアオダイショウE. climacophora に似ていて眼の後ろに黒いラインが走り、下側は乳白色・上側は褐色という体色だ。さらに腹面には側稜があり木にもよく登るあたりもアオダイショウと似た特徴を持ち、さながら先島諸島のアオダイショウといったところだろう。
 アオダイショウよりも面長な顔でシュッとしていてイケメンな面構え。同じく西表島に生息するイワサキセダカヘビPareas iwasakii なんかと比べたらずいぶんと端正な顔立ちだ。


 私の中でこのヘビは鳥屋が見つけてくる印象。サークルの合宿で登山道をみんなで歩くと、狙う対象によって足並みにズレが生じてくる。両爬や蟲を探している者は後ろでのろのろと、鳥を探す者はさっさと先を進み、我々が後ろの方でサキシマキノボリトカゲJapalura polygonata ishigakiensis やイシガケチョウCyrestis thyodamas でワーキャーやっている間に、リュウキュウキビタキFicedula narcissina owstoni を見たりしていた鳥屋たちはサキシマスジオも見ていたようで、昼飯時に合流した際に「スジオいたよ~、見なかった??」とさらっと自慢されるヘビなのだ。別の日もミフウズラTurnix suscitator 探してたらキビ畑で見ただの、なんだか鳥屋に縁のあるヘビのイメージ。それがようやく自分の手柄で見つけられたのは嬉しいかぎりだ。


サキシマスジオ
サキシマスジオ


サキシママダラDinodon rufozonatum walli やサキシマハブProtobothrops elegans は条件が悪くとも見かける機会が少ないわけではないが、その次がなかなか出ない。6日間の旅なんだからその2種の他にもう2,3種見られるだろうと思っていたのに、結局それ以上にはならなかった。まぁ、海浜性のハエにたかられて逃げ出すくらいですからね、そりゃあこの体たらくですわ。このスジオが出なかったら散々だったわけだ。今回はこの個体の他に亜成体くらいの別個体も見た。
 あと特筆すべきはクマネズミRattus rattus の目撃頻度。以前に比べてはるかに見かける機会が多く、キビ畑や道路だけでなくキャンプ場をもうろついているほど広い範囲で何度も目撃した。
 実は西表島はヘビの種数が多い割に(多いからこそでもあるが)ネズミ食のヘビは少なく、陸生ヘビ類10種のうちサキシマスジオとサキシマハブだけである。というもの元々西表島にはネズミ類はおらず、小型哺乳類としては食虫類のジャコウネズミSuncus murinus かコウモリ類がいるだけで、クマネズミは後から入ってきた生き物なのだ。そのため同じ大きさのネコ科に比べて珍しく、イリオモテヤマネコPrionailurus bengalensis iriomotensis は小型哺乳類だけでなくクイナなどの鳥やカエル・トカゲといった両爬や昆虫、甲殻類なども多く食べる幅広い食性を持っている。同じく日本に生息するツシマヤマネコPri. b. euptilurus では獲物の約80%がネズミ類という報告もあるほど他のネコはネズミを食べているのに、イリオモテヤマネコはこのネズミのいなかった西表島をその広い食性で生き抜いたという。
 その島にクマネズミが侵入し、ヤマネコのメニューにも追加されたわけだが、ヘビたちにも追加メニューだろう。以前リンク先の『T.Room of hobby 2』のtakaさんが西表島の道路でクマネズミを飲み込むビッグサイズのサキシマハブを撮影されていた。なんとも興奮する写真で、まるでタイワンハブPro. mucrosquamatus のような個体だった。
 おそらくスジオも食っているだろう。それで栄養状態が良くなって増えたのか、この私が2個体も見られるなんて。
 クマネズミも外来種・外来種と言われるが、ペットや動物園から逃げて帰化しているわけではなく、人間の生活圏に近いところに生息域があり、我々人間を利用してうまく分布しているわけだから、ジャワマングースHerpestes javanicus やオオヒキガエルRhinella marina などの外来種と同じカテゴリーに入れてほしくはない。彼らの戦略で海を渡りやってきたのだから、『ガンバの冒険』みたいなもんだ。
 良い悪いは別にして、その恩恵と被害は西表島を変えてゆく。その流れで私はサキシマスジオに会ったのかもしれない。そんなことをぼんやり考えながら、少し残っていたパワーギアを飲み干してドライブを続ける。しかしその後はヘビが全然姿を現してくれなかった。






(※) ビルマスジオの亜種記載はElaphe 属を細分化したOrthriophis 属でされていて、属名が女性名詞から男性名詞に変わったことで、種小名もtaeniura からtaeniurus に変わった分類を採用していた。
私の今回の記事ではスジオナメラの属名にまだ保守的にElaphe を使っており、本来ならばビルマスジオの亜種小名callicyanous を女性名詞に合わせて語尾変換をしなければならないのだが、私に学がないのでわからずそのままcallicyanous を使用しているのをご了承いただきたい。ビルマスジオの学名をちゃんと扱いたい人はOrthriophis 属のほうのを使うか、callicyanous の語尾変換をして使っていただきたい。



1. 圧倒的生命力に溶けてゆく
2. セマルで合わせる “ 島時間 ”
3. WINGS
4. あめあめふれふれ
5. 待ち人 来たる
6. 川底の大鋏
7. ネズミのいなかったその島で
8. 第二の故郷はいつ帰っても暖かい

Category: 爬虫類  

セマルで合わせる “ 島時間 ”

 長い休みを頂くということで日々の業務をだいぶ圧縮していたため、西表島に渡る前日は深夜2時にようやく準備を整えて布団に入ることができた。そして2時間後の4時に起きて羽田の早朝便に乗り込む。ずいぶん短い就寝時間だったので、当然飛行機で残りの睡魔たちを清算する予定だったのだが、隣のいい年したオジサンの香水があまりにキツくて寝るどころではなかったし、窓側だったからCAさんとの距離が遠くて寂しいしで、ぼんやりと外のふわふわした塊を眺めているくらいしかやることがなかった。
 乗り継ぎの那覇空港は場内にいくつもの素敵な洋蘭が配置されており、「う~ん、これこれ!」と、ソムリエがワインをドヤ顔でテイスティングするようにランの香りを楽しんで、鼻に染みついたオジサンの香水の臭いを上書きしていく。さすがにあのアホな感じのアロハシャツは石垣島まで行かないだろうと勝手に決め付け、自分の乗り継ぎ便の座席を探していると、私の座るべき席の隣にはまたしてもあの見覚えのあるアロハ !! 結局いそいそとそいつの隣に座り、せっかくのランの香りがまた上書きされたのだった。

 完全に鼻が犯されたというのに未だ飛行機は離陸しようとしない、おいどうした。どうやら前の方の便でバードストライクがあり、30分ほど足止めを食らうことになったようで、飛行機に缶詰。その間、じわじわと暑くなる機内。
 那覇に着いた時はさすが沖縄という陽気でそれなりに暑かったが、この機内は異常だ。気づいたら汗だくになっていて、おかしいと思い送風口に手をかざしてみると “ なんと熱風 !! ”。どうやら客の誰かが冷房が利き過ぎだと文句を言ったおかげで、空調をいじったら暖房になってしまったらしい。
 CAさんが「調整しようとしたら、おかしくなってしまったんですぅ。」とか言ってるけど、おかしくなっちまうのはこっちだぜ。これはなかなかの地獄だ・・・
 だけどそんなどうしようもないとこが大好きだぜスカイマーク。冷房に戻ったおかげで散々かいた汗が冷えて、最高にCOOLなフライトになりましたよ。そんなこんなで余計な闘いを強いられながらも石垣島へと向かって飛び立った。


 小綺麗になった新石垣空港を散策する暇もなく、急いで港行きのバスに乗り込んだものの、上原港行きのフェリーは海が荒れていたため欠航になっていた。西表島には2つの港があり、欠航になった上原港は私の生活拠点となるキャンプ場がある港なのだが、島の反対側にある大原港へはまだフェリーが出航していた。
 仕方なく大時化でグラグラのフェリーに乗り、送迎バスで上原港まで1時間ほど揺られ、ようやくなんとかしてキャンプ場まで辿り着いたときには陽も傾き始めるころだった。宮古島のときもそうだったが、社会人になって時間が無いってのに、行きはどうもトラブルが付き物だ。



ヤエヤマセマルハコガメ
ヤエヤマセマルハコガメ Cuora flavomarginata evelynae


 キャンプ場に着くと、トロ舟にどこからかやってきたヤエヤマセマルハコガメが、古びた温泉宿の番頭さんがゆっくりと挨拶するように、のっそり顔をあげて私と目を合わせた。今回の初両爬となったセマルはたびたびこのキャンプ場のトロ舟を訪れていて、最終日にも顔を合わせた長期滞在者であり締めの両爬もセマル(それも同じ個体)だった。なんだかこの個体はとてもゆっくりとした時間軸で生きているような悠然さがあって、今回の旅を占うかのように私の旅はゆっくりとした足取りで西表島を堪能することとなった。
 ここまでのアクセスがうまくいかなくて時間に対してカリカリしていた自分が清められるようで、すっと落ち着きを取り戻して体内時計を “ 島時間 ” へと合わせた。せっかくの一人旅なのだから、ゆったりたっぷりのんびり過ごそう。



ヤエヤマセマルハコガメ
ヤエヤマセマルハコガメ


 今回は初めて夜中にセマルに遭遇した。林道脇をテクテク歩いていて私が駆け寄ると、『カタンッ』とフタをしてしまった。なかなか顔を出したところを写真におさめられずに閉じ籠もってばかりだったかと思うと急にテクテク歩きだし、地面に落ちたイヌビワFicus sp. の実を無心で食べ始めた。


ヤエヤマセマルハコガメ
ヤエヤマセマルハコガメ







 そして写真を撮る時に一番厄介な技がコレ。
ヤエヤマセマルハコガメ
ヤエヤマセマルハコガメ 頭を隠して歩くの術


 これでチャカチャカとゼンマイ式のオモチャみたいになって歩く姿は何とも愛おしい。


 とにかくフリーダムな生き物で、みんなに愛されているセマル。今回はその足並みのようなフリーダムな一人旅でした。





1. 圧倒的生命力に溶けてゆく
2. セマルで合わせる “ 島時間 ”
3. WINGS
4. あめあめふれふれ
5. 待ち人 来たる
6. 川底の大鋏
7. ネズミのいなかったその島で
8. 第二の故郷はいつ帰っても暖かい




Category: 爬虫類  

南の島へ行きたい病を治すには・・・

キシノウエトカゲ
キシノウエトカゲ Plestiodon kishinouyei


年がら年中罹っている、南の島へ行きたい病。社会人になってそんなに休みがないのはわかっていても、実際にこうも行きたい衝動に駆られるのは本当に病なんだろう。この病を治すには、仕事に没頭して生き物の魅力を忘れ去れば、きっと「別に行かなくてもいいか」となるのだろうけども、私のような健康優良不良青年は定期的に南の島へ渡ることでしか、中毒的に発作を抑えることができない。ある意味で “ 島中毒(しまんちゅ) ”なのだ。

今年の夏は台湾に行けるかもしれなかったが、うまく休みが取れず断念して、そのモヤモヤがくすぶっていた。だが10月という、いよいよ秋の風吹くこの季節に長期の休みが取れる(というかここくらいしか業務上行けなそう)ので、居ても立っても居られず、今やミニスカートのCAさん付きとなったスカイマークの石垣島行きのチケットを購入した。他の航空会社のように高級感を謳うわけでもなく、格安をゴリ押しするわけでもなく、「CAさんがエロくなりましたよ」みたいな意味のわからん差別化が、アホらしくて好き。もともとスカイマークのCAさんの雰囲気は好きだったけど、その方向性が彷徨っている姿は余計私を後押しした。いやむしろそれで私のようなアホが何の気なしにチケット買うんだから、それはそれで購買に繋げる戦略なのかもしれぬ。ただ残念なのは私の乗る便は、ミニスカじゃないということ、ただそれだけ。


まぁCA談義はいいんだけど、あとは石垣島に着いてから西表島にフェリーで渡るだけ。かれこれ6年ぶりの西表島。最後に訪れた時期に小学校へ入学した初々しい子らも、今では中学生となって頭の中はピンクでいっぱいなのかと考えると、ずいぶん月日が経ったんだな。
友人から聞く話では、当時よりも雰囲気は変わったようで、良い意味でも悪い意味でも観光地化は進んでいるようだ。久しぶりの西表島との再開に期待が膨らむ。今回はヘビもいっぱいみたいし、トカゲも写真撮りたいしで両爬がだいぶメインなんだけど、今密かにテナガエビに惚れていて、むこうにいるコンジンテナガエビ Macrobrachium lar というとんでもないやつを釣りたくて仕方が無いのだ。その横道にどれだけ逸れるかだなぁ。


果たしてどんな生命たちが待ち受けているか、どんな旅になるか。今回実は初めての南西諸島一人旅。関東で2泊の一人旅くらいならしたことがあるが、今回なんと5泊だし沖縄だし、旅に出るだけでもテンション上がる。天気は良さそうだし、あとは無事に帰ってくるのみ。


ウイスキーとやる気でスキットルを満タンにして、いざ西表島へ‼


Category: 爬虫類  

黒き瞳



シマヘビ
 その黒き鱗。

  カラスの雨覆のようで、
   センザンコウの体鱗のようで、
    遥か古の竜の逆鱗のようで・・・



 トカゲを求めて箱根外輪山を2山ほどはしごしてみたものの、この日はお天道様のご機嫌がよろしくなかったため曇りがちでトカゲの出があまり良くない。長い道のりを歩いたものの、結局小さい2個体しか見られず、それでいて捕まえられず。
果たして彼らはどちらだったのだろうか・・・
 それでもいくつかトカゲのいそうな場所を巡りながら登山をしたおかげで、今回のフィールディングでは素敵な黒い鱗に出会うことができた。登山道を横切る形で横に迂回する砂利道の林道は、木々に遮られることなく日光が地面に降り注ぐ明るい場所で、曇りの日でも僅かな太陽光が雲間から差しこんでいる。この日のような天気の場合、やはりこういった場所でトカゲを探すのが良い。小さいプレスティオドンPlestiodon がチロチロと動き回るのが見てとれたが、捕まえることは叶わず崖下へと下って行った。
 名残惜しく崖に沿って歩いていたら、ちょうどその縁の部分にヘビがいた。結構こういう状況でヘビを見ることは少なくなくて、獲物が通りやすいのか崖下に逃げ込みやすいのか、なかなかの頻度で崖の縁でヘビを発見することが多い。



シマヘビ
シマヘビ Elaphe quadrivirgata 黒化個体


 それも通称 “ カラスヘビ ” の名を持つシマヘビの黒化個体だったから、トカゲそっちのけである。カラスヘビはそれなりの頻度で現れるようで、とんでもなく珍しい変異というわけではなく稀に出てくるようで、またこのヘビ自体が人の生活圏に近いところに生息していたり、目立つところで活動していることもあって、目撃されることの多い変異だと思う。
 とはいっても私にとって見るのは今回が初めてで、その美しい黒にただただ引き込まれていくばかりであった。背面中央の数列の鱗はキールが目立っていて、それこそ竜の鱗を彷彿させるような力強さがあって、腹面に近い鱗は滑らかで漆塗りのような上品さが漂っている。

 シマヘビの中にカラスヘビ以外にもいろいろバリエーションがあるように、一口にカラスヘビといっても、そのメラニスティックはバリエーションに富む。
 縞に沿ってクリーム色が残る個体。
 斑のスポット状にクリーム色が残る個体。
 唇周辺のみ綺麗な白色が残る個体。
 そして黒一色の真の漆黒、カラスヘビ。

 私が今回出会ったカラスヘビは頭部周辺にクリーム色を多く残し、体鱗は1枚だけクリーム色の鱗をポツポツと散らせた体色であった。またどうやら左目を怪我しているようで、大きく腫れ上がっていたのが心配だった。
 彼らは前の記事で書いたように非常に目が良く、おおよそ視力に頼って獲物を捕まえているのが伺えるのだが、その有能な眼の片方が機能していないのは、彼にとっては大きな痛手であろう。


シマヘビ
シマヘビ 黒化個体

 カラスヘビの特徴としてはやはりこの眼だろう。そしてこの個体もカラスヘビの例に漏れず、吸い込まれそうな漆黒の瞳をしている。あの如何にも噛みついてやるという気迫に満ちた真っ赤な虹彩に鋭い瞳孔、そしてグッと目つきを悪くする下がった眼上板。あの好戦的な眼差しがもっぱらシマヘビを「噛みつきそうだ」と想像させるのだが、カラスヘビのなんと落ち着いた仏面か。
 こんな愛らしいヘビだったとは。体色の変異でこんなにも印象が変わるだなんて、まるで女性のお化粧と同じだな。
 優しそうな眼をしているもんだから、スッと掴んで腕に絡ませ弄くっていたら、シャッとこちらに向かって噛みついて来た。危ない危ない、見た目に騙されていたけど、やはりシマヘビはシマヘビ。相変わらず好戦的だこと。

 やはり女性と同じですねぇ・・・お化粧で美しくなっていても騙されちゃいけませんよぉ。どこまでいっても女性なんです、その内在するモノは。皆さんも気をつけてくださいねぇ。

 えぇっと、何の話でしたっけ。あぁ、カラスヘビね。素晴らしいヘビですよ、カラスヘビ。次は混じりっ気のない真っ黒なシマヘビに会いたいなぁ。
 真っ黒な女性は勘弁ですけど笑



Category: 爬虫類  

Buffer Zone

 あまり見かけない食われ方をしたマムシグサArisaema の実があった。この仲間の実を食べる生き物は少なく、ジョウビタキPhoenicurus auroreus などはこれをついばんでいくように食べる。その際は綺麗に一粒一粒とられるのだが、今回見たそれはがぶりと齧ったような跡があった。
 「こりゃあ珍しい」と、カメラの電源を入れようとしたら、うんともすんとも言わない。あれ、おかしい・・・そういえばいつも重いはずの一眼がやけに・・・軽い !?
 恐る恐るフタを開けると、そこにあるはずのバッテリーがなかった・・・電車に飛び込んだ時点でウイスキーを入れたスキットルを家に忘れたのに気がついたというのに、まさかその間もバッテリーはただただ充電され続けていただなんて…

 酒と写真という二大娯楽を失った状態で、まさかの塔ノ岳アタック。もうスタートからげんなりですよ。とはいえフィールドは心地好く楽しいもので、かえってカメラがないほうがサクサク進むし、いろいろと考え事をしながらの登山となった。
 日帰りのザックの軽さと、写真を撮らないという行動の削ぎ落としにより、4時間で塔ノ岳山頂に辿り着いた。前に訪れたときは7時間かかって夕暮れに着いたのに今回は昼メシ時。山頂でのツナマヨがえらいうまかったのは、快調に進んだ山行からだろうか。




ヒガシニホントカゲ
ヒガシニホントカゲ Plestiodon finitimus

 まぁ大好きなツナマヨの話は置いておいて、実は山頂に到着したときにヒガシニホントカゲを見つけた。山頂付近ではなく、山頂でだ。(ちなみにこの写真は別のときに、塔ノ岳の山頂間近で見た個体。)
 一般に小動物にとって大きな山脈や河川は、個体群間の交流を分断する地理的障壁になることがあり、トカゲ類も対象となり得る生物群だ。

 今回のヒガシニホントカゲは標高1,491mの塔ノ岳山頂で見かけたし、去年の表丹沢縦走でも稜線上で数個体目撃している。つまり丹沢山地はヒガシニホントカゲには地理的障壁にはなっていないであろうことがわかるし、おそらくそれはオカダトカゲPl. latiscutatus にも言えるだろう。
 伊豆半島に棲まうオカダトカゲと本州のヒガシニホントカゲ、その両種の分布境界や分布の重なるところというのは果たしてどこら辺なのだろうか。今のところ怪しいと睨んでいるところは箱根山の古期外輪山あたりかなと。箱根の南側ではオカダトカゲが見られたし、この付近の山がどうも怪しいので確かめたいところ。

 先ほど書いたヒガシニホントカゲに対する地理的障壁の話だけども、あれはあくまで丹沢での標高の話ね。ミクロな視点でみれば越えられないことだってある。
 例えば緯度。同じような標高でも屋久島の太忠岳1,497mや北海道の暑寒別岳1,492mとでは環境が全く異なるわけで、一概に標高だけで判断は難しい。ましてその土地の環境がトカゲに合う合わないもあるわけで、天敵の生息状況や餌資源、隠れる場所や通年の外温推移など、細かい要因はいくらでもあって、それらが複合的に影響することで障壁になり得たりする。
 また競合種となり得る近縁種のオカダトカゲとヒガシニホントカゲでは、ハビタットや生活史はどのように異なっているんだろうか。本当にごく僅かな違いかもしれん。両種間のハイブリットも報告されているから、緩衝地帯は同定が非常に困難かもしれない。まぁとにもかくにも数と場所を見るしかないな。

 いざトカゲを求めて!!


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