月明かりにヤモリ

Moonlight Gecko

Category: 哺乳類  

尻尾の理由を聞かせておくれ


● 亜細亜の熱帯雨林、ボルネオの旅 ●
プロローグ. 暗黒大陸への渡航
1. 旅の終わりは、旅の始まり
2. エアアジアの激情
3. それぞれの乾杯で繋がる世界
4. 伏線のポッポヘジュセヨ
5. 森の人の恩返し
6. ジープが停まる理由
7. Monster Monkey Morning 
8. まるまるこのもり
9. 虎とか豹とか虎とか
10. 熱帯猿紀行
11. ジュラシック・リバー・クルーズ
12. クルーズ拒まず、サルを追う
13. 真っ暗闇に漕ぎ出して
14. 真っ暗闇を抜け出して
15. おはようボルネオ
16. 花束を君に
17. 支流の小径
18. 尻尾の理由を聞かせておくれ




 マースに連れられてジャングルを歩く。ジャングルといっても彼にとっては裏山みたいなモンなんだろう、いつもの散歩道を歩くようにヘッコラヘッコラと前を行く。風貌からは似合わないが一応ガイド的な事をしようと、道すがら生き物に関する面白いものがあれば我々に教えてくれる。



ドリアン
ドリアン


 「 コイツはオランウータンが食ったヤツだ。 」 そう言っておもむろに拾ったのは本人曰わくドリアンの仲間らしいフルーツ。画像検索しても浅学な私にはコレが何という種なのかは結局突き止められなかった。ボルネオにある赤ドリアンにも似ているが、可食部が赤くなかったのでそれも違う。

 とにかくそんな果実を拾っては、我々に見せてくれるのだ。 「 ここはゾウたちの通り道だ。ほら、ここに体を擦った痕があるだろう。 」 といって泥の付いた樹だったり、ぬかるみに残った巨大な足跡なんかも教えてくれる。
 今度は 「 面白いものがあるから来てみろ。 」 と言われ、巨木の立ち枯れに案内された。



立ち枯れ
巨木の立ち枯れ


 この樹の根元に直径わずか 50 cm ほどの穴があり、ここから巨木の中に入れると言う。 『 最近太って太って仕方がない私だ、ケツでも引っかかって黄色いクマさんみたいなことにならないだろうか ? 』 と心配していると、案内したマースは腰を下ろして休憩モードで、 「 入れ入れ。 」 と笑顔で促すだけだった。


 入ってみると成人男性が4人ほどは入れるほどの空間になっており、中は空洞だった。上部もすっぽり抜け落ちてしまっているので、太陽の光が中に差し込んできていてそれなりに明るい内部。 『 さて、マースの言っていた面白いものとは ・・・ 』 と探すまでもなく、私が入った瞬間からそれは飛び回っていた。




コアラコウモリ
コアラコウモリ Megaderma spasma


 それは小型コウモリだった。 「 キーキー 」 という可聴音に加えてパタパタと飛び回る羽音が、耳元すぐ近くをかすめながら飛んでいく。見るとすぐ近くに 3, 4 個体、もっと上のほうに 7, 8 個体がいるようだった。

 大きな耳にキクガシラコウモリRhinolophus ferrumequinum などとは違った特徴的な鼻葉の形態から、コアラコウモリだということがわかった。ちなみに和名はユーカリ食べてるアイツじゃなくて、 “ コ ・ アラコウモリ ” 、lesser なアラコウモリね。



 アラコウモリ類はカエルやトカゲ、それにネズミや他種のコウモリなどの小型哺乳類に加え、鳥類までも捕食するという気性の荒いコウモリのグループ。その獰猛な食性から荒蝙蝠という和名があてられた。
 調べてみるとアラコウモリの仲間は尾が短く、ほとんど見えないようだ。自分の写真を見返してみても確かにそうだ。それがなんだという話だけども、私は “ ある仮説 ” が閃いた。 ( まぁ既に知られている事実かもしれないけども。 )


 我々日本人に馴染みのあるアブラコウモリPipistrellus abramus を始めとする小型コウモリ類の捕食行動は、後肢と尾の間にある尾膜を使い、網ですくうように飛翔昆虫を捕らえる。本でそれを知り、以来コウモリという生き物はそうやって餌を捕るもんだと思っていた。
 しかし、このアラコウモリたちが他のコウモリを襲うシーンをナショジオのムービーで見たのだが、まるでマントで覆い被さるように翼で包み込むようにして他種のコウモリを捕食していたのだった。既成概念でガチガチだった私は衝撃を受けた。 『 何だこの食い方は ・・・ 』
 そして同時にあることを思い出した、 “ アラコウモリの尾は短い ”

 ということはコウモリにとっての尾というのは、尾膜を発達させて餌の捕獲に役立てているのではないだろうか ?  裏を返せばそういう捕食をしないコウモリたちにとっては尾は不要なものであり退化傾向を示すのではないだろうか ?
 そう思って、パッと思いつく昆虫食ではないコウモリたちの尾を調べてみた。果実食のオオコウモリ類、花の密を舐めとるヘラコウモリ類、家畜の血を吸うチスイコウモリ類、爪で魚を釣るウオクイコウモリ類、カエルに直接かぶりつくカエルクイコウモリ類。なんとどの種も尾がなかったり退化傾向を示すではないか。ということは、これはそういう事なのではないだろうか。

 つまり飛翔昆虫を尾膜で捕らえるコウモリたちは、尾を支柱にして尾膜を折りたたみその中に捕らえるようにしていると。そういった獲物ではなく、植物や大型の動物を食べる場合には尾膜を使って食事をするわけではないので、尾が不要になり退化していったということだろう。アラコウモリたちも獲物が大きく尾膜で押さえられないので狩りの方法も異なり、尾が退化していったのではないだろうか。
 残った尾膜は使えたとして舵取りとかブレーキの役目があるのだろう、尾膜は残っている種も多い。ただ面白いことに、羽音で獲物に気づかれてしまうため、ロクに飛びもしないでピョンピョン跳ねて狩りをするチスイコウモリ類に至っては、その尾膜さえ退化傾向である。


 そして今度気になるのが、日本にも分布するオヒキコウモリTadarida insignis だ。彼らは尾は普通にあるものの、尾膜が退化傾向なのだ。尾膜が発達してないことから、捕食方法はアブラコウモリなどとは異なる事が想像できるが果たしてどのようにしているのだろう。そして尾が退化していないのはなぜだろうか。
 たとえば 【 小型コウモリ類が分化するにあたって、途中で尾を支柱にして尾膜で捕獲するグループが出てきてそこにオヒキコウモリの祖先が属していたとか。そしてその形質が発生上重要な遺伝子座にあるもんだから、オヒキコウモリは尾の退化には至らなかった。 】 とかだったら私の説が支持されたまま面白い話になりそうなんだけども、小型コウモリの系統関係を見てみるとちょっと無理があるっぽいな。
 まぁいろいろ語るにはもうちょっと知識が必要なので妄想はここら辺にしておこう。でも久々に生き物で面白い気づきがあって楽しい。そういう観点でコウモリを見てみるとこれまた面白い生き物だ。



 と、あまりにも妄想が長くなったがコアラコウモリだ。気性が荒いと言われようとも、その顔はずいぶんと可愛らしく愛嬌のあるコウモリだった。
 そうして楽しいトレッキングを終えて宿に戻ってくると出発に良い時間。ささった準備をしてロビーに向かうと、前日にラハダトからこの宿まで送迎してくれたガッチリ体型のイアンが迎えに来ているではないか。しばし再会を喜びながら、さっそく車に乗り込み、キナバタンガン河を後にする。前日助手席に乗っていたイアンだが、今回はドライバーだ。
 滞在時間こそ短かったものの、ここキナバタンガン河での生き物との出会いは実に濃厚だった。ダナンバレーのジャングルとは違う、大河を生き抜く生き物たち。そんな彼らとの思い出を反芻しているうちに、気がつけばまた移動の車内で眠りにつく。ここから約2時間半かけて空港近くまで行くので、これも貴重な休憩時間。


プランテーション
アブラヤシのプランテーション


 時々目を覚まして外の景色でも眺めてみようと思うものの、車窓から見えるのは高確率でアブラヤシのプランテーションばかり。道路の両サイドまでせり出すほどにアブラヤシ天国だ。本当にこの土地ではこのアブラヤシから採れるパーム油が産業として大きく成り立っているのだろう。
 ボルネオ関連の書籍を読むとこれ見よがしに 『 アブラヤシのプランテーションによって貴重な熱帯雨林が失われて~、 』 とか 『 動物たちの生息地が奪われて~、 』 なんて話をよく目にするけども、ここまでプランテーションが随所に見られればそれについて触れたい気持ちもわからなくもない。事実、私もこうして言及しているわけだけど。

 ただやはり現代の我々の生活ではパーム油は切っても切り離せない存在になっており、世界的にも消費量第2位の油脂であることから、現実的にはこのプランテーションの増加を止めるのは難しいのではないだろうか。何億人もの人間を支えるために生産されているパーム油を、 【 動物たちのために ・・・ 】 なんてのは現実的ではないと感じてしまう。みんなその恩恵にあずかっちゃっているわけだしね。理想だけを語るならそうなんだろうけども、現実はそううまくはいかないね。
 それこそある漫画の冒頭にあるように、


   人間の数が半分になったら、いくつの森が焼かれずにすむだろうか ・・・・・
   人間の数が 100 分の 1 になったら、たれ流される毒も 100 分の 1 になるのだろうか ・・・・・


 ってな話になるんなら、もしかしたら ・・・  そんなどうしようもないことを考えてしまうほど、規則正しく並んだアブラヤシだらけの情景は、疲れた私の脳をわけのわからん方向へと誘ってくれる。



ナシチャンプル
昼食


 途中コタキナバタンガンの街で昼食をとる。今日のランチは屋台のナシチャンプル ( ぶっかけ飯 ) だ。ライスを基本に好きなおかずを皿に盛っていくご飯。 【 ナシ ( ご飯の意 ) + チャンプル ( 混ぜるの意 ) 】 という意味のようだ。
 沖縄のゴーヤチャンプルーだったり、長崎のちゃんぽんなどと語源は同じ ( 混ぜるの意 ) である。 ( 沖縄のチャンプルーはちゃんぽんの沖縄方言読みらしい )  何でかわからんが同じ意味を持っていて、同じ呼び方をしているマレーシアと沖縄。これはまた面白い共通点だ。


 遅い昼食を済ませてしばらく走ると目的地が見えてきた。


看板
ラボックベイ


 ここは “ ラボックベイ テングザルサンクチュアリ ” という、テングザルの餌付けに初めて成功した施設で、保護活動も行っているところ。テングザルは特殊な食性から餌付けは難しいと言われていたが、この施設ではそれがうまくいったようで3グループのテングザルの群れが訪れに来るという。

 コタキナバルに戻るための国内線空港であるサンダカン空港近くにこの施設があるため、最後にこちらに寄り道して時間調整をする。





テングザル
テングザル Nasalis larvatus


 群れで集まって食事をする。中央部には鼻が肥大化したボスがどっしりと座り、辺りを警戒しながら食事に勤しむ。もし近くに別の群れの連中が来たならば、真っ先に 「 ノ、ノ、ノ、ノ、ノ、 」 と鼻を浮かせながら威嚇をし、それでも近づくようならば牙をむき出しににして追っ払う。



テングザル
テングザル


 振り返り様にこの眼光だもの、威圧感ありすぎ。他のオスよりもボスは体格も大きくなり肩も盛り上がるようにモリモリになるので、首元から肩にかけて生える白い体毛もフサフサでまるでマフラーでもしているよう。
 やはりサルはボスの厳つさに限るね。カッコイイ。



シルバーコノハザル
シルバーコノハザル Trachypithecus cristatus


 和名的にはシルバーリーフモンキーやシルバールトンの方がポピュラーな感じ。テングザルの餌付けに紛れておこぼれをもらいにきた奴ら。いつしか施設に普通に出入りするもんだから、いつの間にか彼らにも餌が与えられるようになったようだが、さすがにテングザルのを奪うまでの力関係ではないので、別の餌が与えられていた。



 しばし近い距離でのサルたちを観察した後、イアンの待つ車に揺られてサンダカン空港へ。気がつけば陽もだいぶ傾いて、西に沈む太陽の淡い光が、見飽きたアブラヤシのプランテーションをオレンジ色の姿に染め上げていた。
 なんだか一概にプランテーションを責めたりはできないなぁと思いながらオレンジ色の車窓は流れていった。

 ついにこれでボルネオもあとは帰るのみとなってしまった。ただまぁ距離が距離なので、自宅に帰るまでが旅である。次回の記事でようやく帰宅となる予定。






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Category: 爬虫類  

支流の小径

● 亜細亜の熱帯雨林、ボルネオの旅 ●
プロローグ. 暗黒大陸への渡航
1. 旅の終わりは、旅の始まり
2. エアアジアの激情
3. それぞれの乾杯で繋がる世界
4. 伏線のポッポヘジュセヨ
5. 森の人の恩返し
6. ジープが停まる理由
7. Monster Monkey Morning 
8. まるまるこのもり
9. 虎とか豹とか虎とか
10. 熱帯猿紀行
11. ジュラシック・リバー・クルーズ
12. クルーズ拒まず、サルを追う
13. 真っ暗闇に漕ぎ出して
14. 真っ暗闇を抜け出して
15. おはようボルネオ
16. 花束を君に
17. 支流の小径



 海外の河と言えば、ワニ︎ !!  ガイドのオヤジが昨日、 「 朝は潮の満ち引きの関係で水深が浅くなっているから、早朝は岸が露出してワニがバスキングしてるぞぉ 」 と言っていたので楽しみにしていたのだが、夜が明けた川縁を見てみても昨日とさして変わらない水量の河。ワニがいなかっただけならば生き物だから仕方ないとしても、岸辺が顔を出しておらずそもそもワニがバスキングできそうな状態じゃないってのはどういうことなんだ、オヤジよ。
 朝日をさんさんと浴びながら、口を開けてバスキングしているワニどもを想像しながら昨晩はベッドに入ったのに、これじゃあ話が違うじゃないか。


 とまぁ、そうは言っても仕方ないもんは仕方ないし、途中でボルネオゾウElephas maximus borneensis が出てくればケロリと忘れて浮かれている私だ。 『 バスキングのワニはアフリカに行った機会にでもナイルワニCrocodylus niloticus で見られれば良いだろう 』 だなんて希望的観測の妥協案で納得しようとしていたところで、水面に不自然な丸太の様なものが浮かんでいるのが目に入った。






イリエワニ
イリエワニ C. porosus


 「 Oooooh Crocodyle !! 」  それはまさにクロコダイル。岸辺でバスキングしている姿は見れずとも、川面に浮上して背中いっぱいに太陽光を浴びているようだった。
 陸場のない溜め池にいるカメも同じようにやっているのを見たことがあるが、きっとそれと同じことなんだろう。甲羅干しで乾燥させて寄生虫予防とまではいかないにしても、体温上昇やビタミンD3合成の目的で、水面に浮かびながらのバスキング。オヤジの話が本当ならば岸辺でのバスキングができていたはずだったので、それの代替案といったところだろうか。
 獰猛さなど感じさせることなく、ただのんびりと背中で太陽の温もりを味わっているようだった。

 昨晩ナイトクルーズに参加できなかった男前くんが、ボルネオゾウ発見の時と同じようにこの時はえらいはしゃぎようだったのを覚えている。まったく、ボートの左右を動き回るのは感心しないな。ゾウの河渡りだったら仮に転覆したとしてもずぶ濡れになるくらいで別段問題ないが、頼むからワニの時はやめてくれよ。
 せめて落ちるならアンタだけにしてくれ、美人の奥さんは私がもらってやるから。ホテイアオイEichhornia crassipes の花言葉から連想される昼ドラ的展開への伏線回収かとも思ったが、残念ながら未亡人とのボルネオライフとはいかなかった。
ということで、私のコビトカイマンPaleosuchus palpebrosus も出番なし。




クルーズ
支流へのクルーズ


 ボルネオゾウやイリエワニが現れる大河から、今度は頭上に木々がせり出す支流へとボートは進む。ボートのモーター音が進行速度とともに落ち着いてくると、少し緊張感がある。 ドドドドド ・・・ 、 ドドドドド ・・・ 。ゆっくりゆっくりと、枝葉のトンネルをくぐり抜ける。




マングローブヘビ
マングローブヘビ Boiga dendrophila


 迫り来る枝葉の中に、明らかに “ 危険 ” を具現化したような体色のヘビが混ざっていた。マングローブヘビだ。以前台湾で見たタイワンオオガシラB. kraepelini と同じBoiga 属のヘビで、その後牙から毒が流れる毒蛇である。タイワンオオガシラとは違って本種は一目で “ 危険な生き物 ” だと理解できる警告色の黄色と黒色のバンド模様。
 『 こいつはBoiga 属に属する後牙類の毒蛇だな 』 と考察をするまでもない、素人目にもわかる毒蛇感。



マングローブヘビ
マングローブヘビ


 マングローブなどの汽水域や河川など水辺の環境に生息するヘビで、両生類や爬虫類だけでなく、鳥類や小型哺乳類までも口に入れる広食性のヘビである。学生時代、追い出しコンパの際に同期の友人からもらった世界の両爬図鑑に載っていて、一目惚れした憧れのヘビがコイツだ。
 ついにそれがフィールドで出会うことになるとは、あの頃の私は想像もしていないだろう。

 今回見られなかったが、レティックことアミメニシキヘビPython reticulatus もこのような水辺にせり出す木々で休息しているのが見られるという。やはりこのような環境ではいろいろな餌を確保できるのだろう。



 アミメニシキヘビはその巨大な体躯で、マングローブスネークは後牙より流れる毒で、それぞれの武器を駆使しながら生活しづらそうなマングローブ環境を生きている。





 そんな楽しかったボートクルーズもこれにて終了。テングザルNasalis larvatus にツノサイチョウBuceros rhinoceros にボルネオゾウにイリエワニに、と様々な生き物を育むこのキナバタンガン河の懐の大きさには、ただただ圧倒される日々だった。
前にいた密林環境のダナンバレーとはまた一味違った生き物の息吹を感じさせられ、これもまた面白いボルネオの一面だなぁと実感する。


 旅程としては、この日の内にコタキナバルの街へ戻る必要がある。その翌日に帰国するためだ。なので朝のボートクルーズの後は1カ所寄り道しながら近場の空港まで行き、夜にはコタキナバルへと戻る行程だ。
 出発までの時間がいくらかあるので、近くのジャングルを散策する。



 ここではガイドというか道案内人くらいのポジションのオヤジが同行してくれた。宿の従業員なのかガイドといった風貌ではなく、ネルシャツを着てキャップをつっかけただけのただの現地人風。名をマースという。


マース



 マースは我々と同じくロクに英語を話せないオヤジで、お互い基本的には簡単な英単語を連呼してコミュニケーションをとる。これまでにあったミンやルディといった現地ガイドとは違った、近所のおっさん的なポジションで気を遣わないでラクだ。
 杖代わりに使っていた棒を、急に孫の手のようにしてシャツの中に入れて背中を掻いたり、ヘッコラヘッコラ歩いたり、とにかくゆるいおっさん。そんなマースと川沿いのジャングルを少し歩く。




トビトカゲ
トビトカゲの一種 Draco sp.


 途中で憧れのトカゲが、ちょこちょこと樹の幹を駆け上がる。トビトカゲだ。折りたたまれた長い肋骨を広げるとそこに皮膜が広がり、それで木々の合間を滑空するというドラゴン。
 それにオスには色鮮やかな咽喉垂があり、それでディスプレーするという。

 今回は幹を駆け上る姿だけで、実際に滑空する姿は見られなかった。また捕まえられたわけでもないので、その特徴的な皮膜は見られず仕舞いだったので、 “ なんともひょろいアガマを見た ” くらいのもんだったのが寂しいところ。
 よって種同定もできず。ダナンバレーでのトビヤモリPtychozoon sp. といい、このトビトカゲといい、滑空系の爬虫類が見られたのに捕まえられないという悔しい結果になったのが今回のボルネオの反省点だろう。



 まぁそんな事をウダウダ言っていても仕方ないので先を行こう。だってもうマースがヘッコラヘッコラと木々の向こうへと進んで行っているのだから。









Category: 鳥類  

花束を君に

 ● 亜細亜の熱帯雨林、ボルネオの旅 ●
プロローグ. 暗黒大陸への渡航
1. 旅の終わりは、旅の始まり
2. エアアジアの激情
3. それぞれの乾杯で繋がる世界
4. 伏線のポッポヘジュセヨ
5. 森の人の恩返し
6. ジープが停まる理由
7. Monster Monkey Morning 
8. まるまるこのもり
9. 虎とか豹とか虎とか
10. 熱帯猿紀行
11. ジュラシック・リバー・クルーズ
12. クルーズ拒まず、サルを追う
13. 真っ暗闇に漕ぎ出して
14. 真っ暗闇を抜け出して
15. おはようボルネオ
16. 花束を君に
17. 支流の小径




ウオクイワシ
ウオクイワシ Ichthyophaga ichthyaetus


 一羽のワシがボートに沿って飛んでいく。豊富な資源をたたえるキナバタンガン河の上を悠々と。本種はもっぱら魚類を主食とする大型の猛禽類で、日本でいえばミサゴPandion haliaetus のようなポジション。日本で魚食性大型猛禽類といえば、北海道や東北にオオワシHaliaeetus pelagicus 、オジロワシHaliae. albicilla がいるものの、本州の大部分ではミサゴ一強で、ほぼ競合相手がいないように思えるが、ボルネオではウオクイワシの他に同属のコウオクイワシI. humilis や前述したミサゴ、シロハラウミワシHaliae. leucogaster など複数種が生息しており、ライバルも多い。
 その上に夜は夜でマレーウオミミズクBubo ketupu だ。ボルネオの魚たちはいつなんどきも、空からの敵襲に怯えて過ごさなくてはならない。



シロガシラトビ
シロガシラトビ Haliastur indus


 別の空では、2羽のトビが二重の円を描きながら旋回している。日本でも稀に記録のあるシロガシラトビだ。翼を持つ生き物は海を越えることができるわけで、分布域の線引きは難しい。
 ここキナバタンガン河では、最も目にした猛禽類であった。



 川面に視線を戻すとボートが進むその先に、水上一面を覆う緑、緑、緑。それらは元々、この土地にはなかった者たちの絨毯爆撃。


オオサンショウモ
オオサンショウモ Salvinia molesta


 熱帯アメリカ原産のシダ植物。流れの少ない場所で猛烈に繁殖している。こいつはまだ序の口。



ホテイアオイ
ホテイアオイ Eichhornia crassipes


 繁茂するのは南米の浮き草。熱帯魚屋でもよく目にするホテイアオイだ。ただこれまで意識していなかったのだが、花は鮮やかな薄紫色で真上の花弁には黄色のスポットが入る綺麗な花だった。
 ホテイアオイは爆発的に繁茂し、河の流れをとめてしまうほど環境への影響も大きい。

 緑の絨毯で猛威を振るうホテイアオイも、花が美しいのでオヤジがボートを寄せて一つとってくれた。それをオヤジが例の男前くんにくれてやったわけだが、こいつがまた紳士なヤローで、さっそくホテイアオイの花束を奥さんにくれてやった。



花束
花束


 チクショー、悔しいが絵になるな。花束が一番美しいのは、束にした新鮮な時でもなく、女性が抱えている時でもなく、煌びやかな花瓶に飾られている時でもない。それは男性から女性に贈られるその瞬間こそが一番美しく輝くと思うわけで、異国のボートの上で美男が美女にホテイアオイの花を手渡す雰囲気の良きことよ。
 思わず写真を撮らせてもらっちゃった。そんな羨望の眼差しを送っていたアジア人の私に対し、 『 ほら、こういうのが撮りたいんだろぅ ? アジアンくん。 』 と言わんばかりに、花を顔の横まで持ち上げて私のカメラに向かってドヤ顔の微笑みをくれた。
  『 ぐぬぬ、この私を女っ気のないウブなアジア人だと侮っていやがるな ・・・ 』 と思いつつ、体は素直なもんで、気がつけば私の右人差し指はシャッターを目一杯押していた。

 その時の写真は顔がモロに写ってるので載せないが、なんだか電機屋に置いてあるカメラのカタログに出てくるような雰囲気のある写真が撮れて大満足。半逆光で金髪は透けるように輝き、弾ける笑顔とホテイアオイの鮮やかな薄紫色。PENTAXでもこんな写真撮れるのかと思うほど。



 ちなみにホテイアオイの花言葉は 【 揺れる心 】 【 恋の悲しみ 】 のようで、恋人には贈らない方が良い花らしいですよ、奥さん。そんなホテイアオイを旦那からもらった美女が微笑みかけてくるなんて、なんだか昼ドラの不倫が始まる瞬間みたいっすな。
 ただ残念ながら、私のクロコダイルはコビトカイマンPaleosuchus palpebrosus 級なので、奥さんを前にして大暴れすることはなかったわけだが ( 笑 )



ダイサギ
ダイサギ Ardea alba


 そんな緑と紫で彩られたホテイアオイ群落に、飾り羽をあしらったダイサギが佇んでいた。日本でも見ることのできるダイサギだが、こんなシチュエーションで出会う事がなかったので、とても新鮮な気持ちだった。

 よくライフリストばかりを気にされている鳥屋さんは、その種を今までに見たことが “ あるかないか ” で大きく価値観が左右されてしまうように感じられるが、見たことある種でも出会う環境や個体、季節などの違いにより全く違う装いを見せる場合も多いので、一見さん以外も楽しめるはずである。まして夏だけとか冬だけに日本に渡ってくる鳥なんて、それ以外をどう過ごしているか知りたいと思うもんじゃないのかなぁ。
 もちろん見たことがない生き物を見たいという気持ちはわかるんだけどね。珍鳥との一瞬の出会いで、その鳥を知った気になってさぁ次へ行こう、ってのはナンセンスじゃないかなぁと。わかる “ 広さ ” も大切だとは思うが、その一方で “ 深さ ” も面白みの1つだとも思うところ。



ブッポウソウ
ブッポウソウ Eurystomus orientalis


 こちらも日本で見られる鳥で、我が国には夏鳥として飛来する。 『 日本の鳥とされるものは、まず日本で見なくては 』 という国産第一主義みたいな人がたまにいるけど、やっぱりそれって良くも悪くもリストを意識しすぎている気がする。さっきの深みの話だけど、日本に来たその瞬間だけでその鳥を知れるわけじゃないし、その鳥のポピュラーな姿を見られれば良いんじゃないかなぁ。

 ちなみに私は別に鳥屋さんが嫌いなわけじゃないですよ、一応。やはりやってる人口が多いだけに、 『 なんかこの人は自分とは感覚が違うなぁ 』 って人の割合が多いだけ。もちろん逆もあるわけで、鳥屋の大半からは 『 サンショウウオの産卵時期に石めくりしてるなんてけしからん 』 とも思われているかもしれないわけだしね。なので綺麗事を言えば、お互いの妥協点が見つかれば良いなと思うわけで。

 おっと、だいぶ話が逸れてしまった。ボルネオに戻そう。



コウハシショウビン
コウハシショウビン Pelargopsis capensis


 昨晩見た時の印象とはガラリと異なり、ハツラツと大河を飛びまわって獲物となる小魚を求めていた。太陽の下ではやはり翼の水色が鮮やかで、特徴的な大きい真紅の嘴との対比が美しい。
 コウハシショウビンはサイズこそボルネオ最大のキングフィッシャーではあるが、動きはカワセミ類のそれと同じように直線的にキビキビと飛んでいく。ただあの真紅の嘴がいやでも目につくので、遠目には赤い矢が一直線に放たれているようなカッコ良さがあった。




 ボルネオの鳥記事を書いているとふと気がつく事があった。それはボルネオ渡航前に書いたこちらの鳥記事での 【 ボルネオで見てみたい鳥たち 】 の記述。なんとそのほぼすべてが見られていた。 ( ショウビン類を特定してミツユビカワセミCeyx erithacus と書いてしまっていたが、コウハシショウビンやルリカワセミAlcedo meninting がニアピン賞だろう。 )



ボルネオの鳥
上から、
コウハシショウビン
ウォーレスクマタカ Spizaetus nanus
ツノサイチョウ Buceros rhinoceros
ボルネオクモカリドリ Arachnothera affinis
マレーウオミミズク
アジアヘビウ Anhinga melanogaster


 そういう意味では鳥の成果は良かったのだろう。渡航前にパッと思いついた 【 見たい鳥 】 たちではあるが、それがここまで見られるとは正直思っていなかった。そしてあんなにサイチョウ類がたくさん見られるとは。完全にやつらに心を掴まれてしまった。


 素人の私でさえこれだけみられるのだから、ボートクルーズというのは確かに水辺の鳥見には最適なのかもしれない。効率も良いし見つけやすい環境でもあるし。
 とまぁ鳥についてつらつら書いてもアレなので、次回は爬虫類記事でキナバタン河のボートクルーズを締めくくろうと思う。





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