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月明かりにヤモリ

Moonlight Gecko

Category: 爬虫類  

食うために進化して、食われないために進化して

●カラッカラ空梅雨の南ぬ島●
1. 10年振りに、南ぬ島へ
2. 奇蟲の森
3. 小心者に口笛を、王様には冠を
4. セマルハコガメとこれからの両爬屋
5. いとしのトニー
6. 食うために進化して、食われないために進化して



 なんとしてもヘビが見たい最終夜。ヘッドライトに照らされた腕時計に目を向けてみると、短針はすでに12の文字盤を通過してから随分経っているというのに、未だにヘビは出てこない。
 日付が変わって最終日に突入したので、いよいよボウズでの帰宅も頭をよぎり始めている。一度気分転換に、ポイントを変えてみる必要があるかもしれないと下山を決意し、湿地まで降りることに。





ヤエヤマセマルハコガメ
ヤエヤマセマルハコガメ Cuora flavomarginata evelynae


 湿地ではセマルが姿を見せてくれた。あまりの乾燥続きの影響か、水浴びをしに来たようだ。いつもは土塊がついてくすんだ印象の甲羅も、綺麗に洗われて艶やかになり、甲羅本来の模様・配色の美しさが全面に出てきている。リュウキュウヤマガメGeoemyda japonica にしてもそうだが、やはり陸棲カメ類は雨の後だったり湿地・渓流に入った後だったりのタイミングで会うのがイチバン綺麗だな。

 結局ここではカエルとカメが出たにとどまり、ヘビ成果はなし。こうなれば本格的に別のポイントをめぐる。車での移動の最中に、ようやく求めていたにょろりと動く影が道路を横切る。





サキシママダラ
サキシママダラ Dinodon rufozomatum walli


 追いかけると八重山の代表蛇、サキシママダラがそこにいた。前に何本も出てきた西表島の夜を思うと、このありがたみは信じがたいが、ようやくの今回の旅初ヘビだったので嬉しさが溢れる。こんなにも嬉しいとヘビの匂いで1番苦手な “ サキシママダラの糞尿臭 ” ですら感動の再会だ。
 よくよく思い起こせば、これまで何度か石垣島を訪れたが、サキシママダラの印象が薄い。タイミングにもよるんだろうけど、西表島・宮古島の方が出会う頻度が多いような。特に宮古島の個体群は模様も変わってて結構面白い。


 『 よーし、とりあえずボウズだけは免れたぞ 』 とホッと一息ついて再び車を走らせる。なんだか同じ林道でもまるで違う道を走っているかのような感覚だ。どこか 【 ヘビを見ずして石垣島を去る 】 ことが大きなプレッシャーになっていたみたいで、気分が変われば感性も変わり、近くの側溝からヤエヤマアオガエルRhacophorus owstoni の鳴き声が聞こえているのに気が付いた。
 音源の方へ向かってみると、そんなカエル狙いのライバルが一足先に陣取っていた。



サキシマハブ
サキシマハブ Protobothrops elegans


 やっぱりこんな空梅雨の時は水場狙いが定石なんだろうか。地色が薄く、背中に入る模様がより濃く見えるようなメリハリのある綺麗な体色のサキシマハブがじっと待ち伏せをしていた。
 これは今まで会ったサキシマハブの中で1番美しい模様だなぁ。石垣島は他の八重山諸島のサキシマハブよりもこのようなメリハリのある模様が多く、加えて背中線にオレンジ色を持つ個体が多いように個人的には思う。西表島なんかは結構いろんなバリエーションがごちゃごちゃいて、特にハイポやメリハリがあまり無い単色っぽい雰囲気を持つ個体が多い。今回のは私の中で 【 The 石垣島のサキシマハブ 】 みたいな個体。



サキシマハブ
サキシマハブ


 そしてようやく即席で作った300円スネークフックが役に立った。なんだかこの写真は今回の石垣島のバタバタを象徴するような思い出深いものに。 うんうん、いい感じだ。







 ようやくヘビが出始めた。というより実力なさすぎなんだろう、最終夜でなんとかバタバタと発見が続く。この後さらに追加でサキシママダラを見つけられたので、やっと 『 モーターのコイルが温まってきたところだぜ 』 といった具合だ。
 この勢いならばなんとか面白いヘビが出てくれそうだなという時に、2日遅れで素敵な誕生日プレゼントが舞い込んできた。









イワサキセダカヘビ
イワサキセダカヘビ Pareas iwasakii


 この素晴らしき珍蛇も学生以来の10年ぶりの再会で、あの頃は仲間が発見したおこぼれだったしみんなでわちゃわちゃしてたけれど、今回は自分の実力で見つけ出し、尚且つそれを独り占めできる最高のシチュエーション。あぁ、弾丸でも石垣島に来て良かった。

 体色は薄い黄土色 ~ 濃い赤茶色のタイプがいて、初めて見たのは黄土色タイプだったが今回は赤茶色タイプで、10年という月日もあってか随分と印象が違った。こっちの方がシダとの色の対比があってカッコいいな。
 器用にシダの上を伝う姿はさすが樹上棲といったところで、和名にもある通り盛り上がった背中の体型もそうだが、このような下草環境では腹板の鱗と鱗の間がしっかり段差になり、そこをうまく引っ掛けてバランスをとっているようにみえた。





イワサキセダカヘビ
イワサキセダカヘビ


 このヘビの素晴らしさはなにもその珍しさやフォルム、樹上棲ということに限らない。センター試験でも出題されるヘビなので、ご存知の方もいると思うが、彼らの食性と被食者の進化が面白い。

 彼らセダカヘビの獲物はカタツムリで、それも殻ごと丸呑みするのではなく、軟体部だけを綺麗に抜き取る変わった捕食方法をとる。カタツムリには右巻きのカタツムリと左巻きのカタツムリがいるのだが、遺伝様式や繁殖方法などの影響で、圧倒的に右巻きのカタツムリの方が世の中に多いため、イワサキセダカヘビも右巻きのカタツムリを食べやすいように進化した。
 これらの話はセダカヘビ・カタツムリの研究者である細さんの著書 【 右利きのヘビ仮説   細将貴 著 】 に詳しく面白く綴られているので、ちゃんと知りたい方はご参照されたし。

 簡単に書くと下顎の歯の本数が左右で異なっており、右の方が歯の本数が多いということだ。右巻きのカタツムリを食べる際、殻の奥まで差し込む左の歯の本数は引っかからないよう少なく、一方で引きずり出した肉を留めておくため右の歯の本数は多いと考えられているようだ。海外のセダカヘビ科のヘビも同様に右下顎の歯の本数が多く、唯一左右の歯の本数が同じマラッカセダカヘビAsthenodipsas malaccanus においてはなんと殻の無いナメクジ食という面白い食性。



 そんな右巻きカタツムリを食べることに特化したセダカヘビの仲間だが、その捕食圧もあってカタツムリ側の進化も促進している。
先に述べたようにカタツムリは右巻きが多いのだが左巻きもゼロではない。その左右の比率がセダカヘビの仲間が分布する地域では、セダカヘビのいない地域に比べて左巻きの比率が多くなるという。石垣島・西表島に分布する左巻きのカタツムリであるクロイワヒダリマキマイマイSatsuma yaeyamensis では、天敵であるイワサキセダカヘビの捕食から実験下では逃げられたということもあるらしく、自然下でも同様のことが起きていると考えられる。

 また食べられやすい右巻きのカタツムリでもイワサキセダカヘビに食われまいと進化したカタツムリがいる。それがイッシキマイマイS. caliginosa caliginosa だ。こいつの何がすごいかというと、イワサキセダカヘビに対する防御機構が幼体時と成体時で2パターンあることだ。 ( Hoso 2012 )
 まず幼体ではイワサキセダカヘビに噛みつかれた時に軟体部である腹足を自切して捕食から逃げるのだ。いわゆる “ トカゲのしっぽ切り ” の要領で本体は無事生き残り、その後で腹足部分は再生するという。
 とはいっても自切にはエネルギーの損失が伴う。そこで次の防御機構だ。こちらは殻の構造を変える防御であるため、成長で殻を大きくしていく段階の幼体時では成長にエネルギーを割くため行われなかったが、ある程度成長した成体ならではの方法だ。それは殻口部を変形させてコブ ( 殻口修飾物 ) を作るもので、これによりイワサキセダカヘビがうまく捕食できなくなるようで逃げられる仕組みらしい。
 イッシキマイマイに近縁な台湾に分布するタンスイマイマイS. bairdi でも同じようにコブを発達させていて、セダカヘビの仲間は台湾に3種 ( タイワンセダカヘビP. formosensis 、タイヤルセダカヘビP. atayal 、コマイセダカヘビP. komaii ) も分布するため、イッシキマイマイ同様にセダカヘビからの捕食から逃れるための変形かと思われる。

 殻の変形はカルシウムを消費する防御であるため、自切ほどでは無いにしてもそれなりにエネルギーを割いている。面白いことに、セダカベビのいない与那国島 ( 地理的に台湾と石垣島・西表島の間にある島 ) に分布しているイッシキマイマイの別亜種ヨナクニマイマイS. c. picta にはこのコブは発達しないことから、彼らは島嶼形成でセダカヘビのいない環境で育ち、わざわざコストをかけて殻を変形させることをやめたのではないだろうか。


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 余談だが、台湾に旅行に行ったことがある人やフィールディングしようと考えた人ならピンとくるかもしれないが、タンスイマイマイのタンスイとは [ 海水 - 淡水 ] のタンスイではなく、台湾北部にある地名の [ 淡水 ] のようで、模式産地が淡水であるためにそのような和名があてられているようだ。

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 せっかく台湾のセダカヘビの話をしたので書かせてもらえば、細さんの研究ではタイワンセダカヘビとタイヤルセダカヘビの下顎の歯の本数の比較では、タイワンセダカヘビで明らかに左右差が小さく、歯の本数が左右同数に近かったようだ。 ( Hoso 2017 )  つまりタイワンセダカヘビは上で述べているマラッカセダカヘビのようにナメクジを専食しているらしく、台湾北部で分布域が被っている上に偏食ヘビだから共存できるのかなぁと思っていたのだが、どうやらうまいこと餌資源の違いで棲み分けている可能性がありそうだ。


 いろいろごちゃごちゃと書いてきたが、このセダカヘビ関連の話は面白すぎる。細さんの研究成果を見ているだけで、自然ってよくできてるなぁと思わせる魅力が詰まっていて感動するので、ぜひとも細さんの今後の発見を期待したい。






イワサキセダカヘビ
イワサキセダカヘビ


 一時は “ 蛇ボウズ ” の可能性も覚悟したが、セダカが見られてなんとか石垣島まで来た甲斐があった。私にとっては素敵な誕生日プレゼントとなって、最後の最後でうれしい成果。
 とりあえず眠たい目を擦ってでも、夜な夜なフィールド出なきゃダメなんだろうな。



 獲物に対して、適応進化していかなければ。


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Category: 両生類  

いとしのトニー

●カラッカラ空梅雨の南ぬ島●
1. 10年振りに、南ぬ島へ
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5. いとしのトニー
6. 食うために進化して、食われないために進化して


 『 夕方になれば暑さも和らぐだろうか 』 喉元過ぎればなんとやらを期待していたが、空梅雨の石垣島ではそうもいかなかった。汗だくでヤエヤマセマルハコガメCuora flavomarginata evelynae を撮影して、陽が傾いた頃に山を降りてきてもまだまだ気温は下がらない。アスファルトが熱を持っちゃってるから、一雨でも来てくれないとまた今夜は熱帯夜だよ。

 さて、遠征最後の夜に備えて今晩はガッツリ良いものを食おう。と言っても毎食沖縄そばでも良いくらいゾッコンなので、今日も今日とてそば屋へ向かうわけだけど。




栄福食堂
栄福食堂



栄福食堂
栄福食堂


 おぉ、この怪しげな外観。そばとの関係性が全く見えない水色の外壁と、そこかしこに存在する謎の男の絵とメッセージが書かれた板。かろうじて看板に 【 八重山そば 】 と 【 食堂 】 の文字が見えるので、そこがメシ屋だということがうかがえるが、そうでもしなければなかなかこの出で立ちの店には関わりたくない。


栄福食堂
店内


 中を覗けば壁という壁に男の肖像。ここ栄福食堂が店名ではなく 【 トニーそば 】 という愛称で呼ばれる所以がこれだ。トニーとは映画俳優である “ 赤木圭一郎 ” の愛称で、店主のおっちゃんがあまりのトニー好きが高じてこんな店構えになったようだ。
 初めてこの店に来たのはもう10年以上も前。サークルの西表島合宿の延長戦で数人の有志で石垣島を巡っていた時に先輩に連れて行ってもらったのが最初だった。




トニーそば
トニーそば (小 ) [ 左 ] と ヤギ汁  [ 右 ]


 豪勢にいこうじゃないかと、トニーそば ( 小 ) とヤギ汁を注文。トニーそばはベーシックな八重山そばに豆腐が入ったもので、具材のお肉が甘く煮られているのでそれがゆっくりとスープに染み出してくる優しいお味。またしばらく食べ進めたあと、そばと共に添えられて出てきた別皿の石垣島の塩をひとつまみ入れてやれば、そば全体の味がグッと引き締まり、さらにコクと旨みをプラスする。
 シンプルな素材の組み合わせなだけに、ここまでバランスのとれた旨さを引き出すのは簡単なことではないはず。店主のワザが光る逸品、◎




ヤギ汁
ヤギ汁


 そして栄福食堂といえばコレ。初めて来た時に先輩に 「 トニーといえばコレだよ 」 と一口もらったのがファーストコンタクト。そのたった一口がとにかく臭みが凄くて、一発でダウン。コレをまるまる一杯とか、全然食べられる気がしなかった。
 「 うへぇ、こんなん 『 うまいうまい 』 言って食ってるとか、先輩は変態ですわ 」 とか罵ったりしたくらいに強烈な味だったのを覚えている。

 ただそれも10年以上昔の、私が10代だった頃の話だ。これでも一応大人になったつもりではいるので、昔キライだったナスも今では天ぷらで率先して選ばれる具材へと変貌したように味覚は過去から変化してきているため、せっかくトニーにきたのだからヤギ汁に再チャレンジしない手はないなと注文した。
 おそるおそる大きめにカットされたヤギ肉を口の中へと放り込む。噛むと表面のゼラチン質の脂がブルンと歯に当たり、そのまま力を入れていくと簡単に肉質部分は嚙み切れる。ほろほろと柔らかく崩れた肉と、ブルンとした脂は、例えて言うなら豚足とバラ肉の間みたいな食感で、他の肉にはない噛み応えを楽しめる。追いかけるようにして乳白色のクリーミーなスープを一緒にすすれば、口いっぱいにヤギ汁を堪能できる。
 そしてその味はというと 、 、 、 なんとうまいではないか。やっぱり味覚は変化するもんだわ、全然イヤな臭みを感じない、むしろ臭うまい。一緒に入っている臭み消しのヨモギの効果もあるのだろうが、それなしでもヤギ臭さなどほぼ無いに等しいくらいの味だった。
 『 なるほど、コレはイケるな 』 そう思い食べ進める中でふと、添えられて出てきた七味的な小瓶が気になった。それは 【 ピパチ ( またはピパーチ ) 】 という調味料で、ヒハツモドキという東南アジア原産のコショウの仲間が原料のスパイシーなシナモンみたいなものである。少し振り入れると独特の香りに包まれるわけだが 、 、 、 『 むむ、この味どこかで食ったことがあるような ・ ・ ・ 』 と、脳味噌の片隅が疼くような感覚があった。なんだろうなんだろうと記憶を辿っていくと、それは10年以上前の、それもこの店での記憶に行き着いた。 『 そうだ、先輩からもらったヤギ汁、アレの味だっ !? 』

 点と点が繋がった。そう、つまり初めてここのヤギ汁を食べた時、あまりのクセの強さでギブアップした10代の私だったが、月日が経ってヤギの臭みが30代になり食えるようになったわけではなくって、あの時に先輩がピパチを振りまくっていたためにヤギ汁ではなくピパチ汁と化してクセの強い味になっていたということが判明した。なんだよ、結局あの先輩が変態ってことじゃねーか ( 笑 )
 その先輩はキャンプでのメシは超絶にうまいし、宅飲みで出してくれる料理も絶品な上、西表島合宿で “ ミキ ” とか “ ルートビア ” の一風変わったうまいドリンクを教えてくれたのもその先輩だったわけで、メシ関連については絶対の信頼を置いていた方だっただけに、このピパチの偏食は盲点だった。

 そうなるともう目の前のヤギ汁はただただうまい料理でしかなく、過去の苦手意識なんてあっという間に払拭された。





おっちゃん
石垣島のトニーこと、栄福食堂の店主


 夢中になって食っていると店主のおっちゃんが色々と話しかけてくれ、私が今住んでいるところに 「 昔はワシも住んでた 」 とか、 「 10年前もここに来たけど変わってないっすね 」 とか、次から次へと話題が転がり転がっていく。私も懐かしくなって身の上話なんかもしているとグッと距離が縮まったのか、 「 今夜、魚捕りに行くけど、一緒に行くか ? といっても一晩中だから帰ってくるのは朝方だけどな。 ガハハハッ。 」 と漁に誘ってくれたのだ。
 とっても嬉しい誘いだし、なんといってもこの名物のおっちゃんについて行くわけだからコレは絶対に面白い事になるなと、芸人じゃなくてもオイシイ話なのが分かる展開だったのだけど、弾丸で石垣島に来たもののヘビの成果が壊滅的で今夜は何としても結果を出したい最終夜だったので、 「 行きたいのは山々なんだけど、今夜は一晩中森で散策するんでちょっと厳しいっす。 」 と断腸の思いで断ってしまった。本人は特に気にする様子でもなくケロッと別の話題へと移って、 「 前にロンリープラネットに載ったんだよ 」 とか言っているので果たして本気で誘っていたのか冗談だったのかよくわからん。
 でもメシ食ってんのにガンガン話しかけてくるそんなトニーのおっちゃんが大好きだぜ。フラっとまた石垣島を旅しに来た時にでも、今度こそ漁に連れてってくれよなおっちゃん。

 ということでせっかくのお誘いを断ってしまったので、盛大にお店の話題でも書いて宣伝しとく。皆様、石垣島へお越しの際はぜひ、愉快なおっちゃんがやっている 【 栄福食堂 】 へ寄ってくださいな。石垣港の近くですのでフェリー利用者はぜひ。




 さぁ英気を養ったのでフィールディング開始だ。まずは沢の水が緩やかに流れ込む湿地を訪れる。空梅雨が続いても水気の多いところなら両爬が見込めるだろうという算段だ。



リュウキュウカジカガエル
リュウキュウカジカガエル Buergeria japonica


 虫みたく 「 フィフィフィフィフィフィ 」 と細かく鳴いているのはリュウキュウカジカガエル。こんな鳴き方をするので、知らない人が聞いたら虫の音かと勘違いしそうな鳴き声。湿地のそこかしこで鳴いており、今回の旅ではオオヒキガエルRhinella marina に次いで多く見たカエルだ。
 本土のカジカガエルB. buergeri と同じように、オスはちょこっと高い石や枝に登って鳴くが、それが高い位置すぎてもダメなのか、10 cm 以上高いところで鳴いているやつはあまりいない。大抵が地面から 5 cm くらいの高さでよく鳴いているので、あまり上過ぎるとメスに見つけてもらえないのだろうか。
 人間でいえば学校の教室で、机に立って騒いでいる目立ちたがり屋の男子ってとこか。

 本種は台湾にも分布するのだが、過去2回の遠征とも台湾産を見ていないのが残念だ。八重山と台湾で共通種がどの程度違うのか見てみたかったのに。山間部にいる時間が長かったからなのか、リュウキュウカジカガエルではなく同属で大型になるムクカジカガエルB. robusta の方ばかりを見た。


ムクカジカガエル
ムクカジカガエル


 ムクカジカガエルの方はカジカガエル的というよりはアオガエル的で、結構立体的な動きをするカエルのようで手すりだったり枝だったりの高所で見かける場合が多い。まぁカジカガエルも繁殖で河川にいる時以外に会う場は案外立体活動してる時が多いけれども。







ヤエヤマアオガエル
ヤエヤマアオガエル Rhacophorus owstoni


 湿地を抜けて山道に入るくらいのところでアオガエル。リュウキュウカジカガエルに引き続き、八重山のカエルの話をするときに台湾の話もしたくなってしまうのが台湾経験者の悪いクセかな。しかもこっちは別に見たわけではないのに、ただ繋げたいだけという強引さ。
 そのカエルとはモルトレヒトアオガエルR. moltrechti というヤエヤマアオガエルの近縁種。大学時代の同期 3 人で台湾に行った時は見たい見たいと思っていたが残念ながら見られなかったカエル。しかし一緒に台湾に行ったFくんは、その後何度も台湾に遠征をしており、そこでなんとモルトレヒトアオガエルを見ている。
 ぐぬぅ、相変わらずこっちが見たいやつを見つけてくるぜ。遠征から帰ってきた後の彼の成果報告のLINEが、楽しみでもあり、憂鬱でもある。両爬屋の先輩が Twitter で発言してたのを F くんから又聞きしてなるほどなと妙に納得したことだけど、 《 嫉妬と羨望こそが生き物屋の原動力 》 とな。なるほど、正しくその通りだ。
 誰かの活躍が嬉しくて眩しいんだけど、 「 オレだって採りたいんだ 」 「 私だって見たいんだ 」 「 僕だって撮影したいんだ 」 と、喉から手が出るほどの悔しさがあるからこそ、我々の足はフィールドへと向かうのだろう。やはりあの方は核心を突くなぁ。
 そんな悔しさを石垣島でふと思い出す午前 1 時。



コガタハナサキガエル
コガタハナサキガエル Odorrana utsunomiyaorum

 コガタハナサキガエルについては同属種であるオオハナサキガエルO. supranarinaよりも今回は多く出会うことができた。これについても空梅雨が影響していると思われ、これまでのパターンならばオオハナサキは島内の比較的広い範囲で見られていたのだが、今回は沢周辺でわずかに見られただけであった。一方のコガタハナサキは水しぶきがかかったり沢中から突き出た岩の上なんかにいて、沢から離れた場所で見たことがこれまでにないほど、沢環境に依存しているように思える。
 つまり空梅雨の影響というのは林内に分散したオオハナサキが乾燥で見づらくなってしまったが、コガタハナサキは沢に依存しているため、水量の少なくなった沢筋に集結して見やすくなっていたのではないだろうかということ。そもそもこんなに狭い島に2種のハナサキガエルが分布していること自体がすごいことなのだが、それを可能にしているのは両種の棲み分けだろう。

 前述したようにオオハナサキは林内に、コガタハナサキは沢内に、それぞれミクロな分布域を持っているわけだが、なぜそのような分布になったのだろうか。個人的な見解としては回避行動に由来していると思う。
 オオハナサキはとにかく跳躍力がすごい。車内から発見していざ降りて近寄ろうとすると、一発のジャンプで “ ばびょーーーん ” と逃げられてしまう。この跳躍を活かして広い林内でも天敵から逃げおおせることができるというわけだ。
 一方のコガタハナサキは、オオハナサキほど体も大きくなければ跳躍力があるわけでもない。むしろ小型化して小回りが利くボディになり、生息環境を沢内に限ることで、跳躍力ではなく潜行性で勝負するように沢に積み重なる岩陰にひょいと逃げ込む。

 逃げるにしてもそうした回避戦略の違いがそれぞれの生息域を分けているのではないかと個人的には思うところ。冬時期に八重山に行ければ、繁殖行動も観察できるからもっとミクロな相違点が見えてくるんだろうなぁ。産卵場所とかオタマジャクシの動きとか、いろいろ見たいなぁ。



 まだまだ通い足りない。
 いやむしろ住み足りない。

 沖縄のどこかの島に移住するなら、私は石垣島だなぁ。生き物的な要素以外にも 24 時間営業のスーパーがあったり店関係も充実していて便利だし。

 そしてもちろん 【 栄福食堂 】 がありますしね。





Category: 爬虫類  

セマルハコガメとこれからの両爬屋

●カラッカラ空梅雨の南ぬ島●
1. 10年振りに、南ぬ島へ
2. 奇蟲の森
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4. セマルハコガメとこれからの両爬屋
5. いとしのトニー
6. 食うために進化して、食われないために進化して




 朝のカンムリワシSpilornis cheela の勢いに乗りたい2日目。唯一フルで活動できる日なので、この快晴のタイミングで色々見ていきたい。




海


 海に向かって走る下り坂。初夏の沖縄、窓全開で潮風を浴びて走る下り坂は贅沢以外の何物でもない。こういう風に、登り坂から急に視界が開けて海が見えるあの爽快感に、何か名前がないものだろうか。コレすごい好き。

 ラジオではひっきりなしに沖縄の空梅雨の話が持ち出され、 「 ダムの貯水率が50% 以下 ( 私が行った時で47% ほど ) になっていますので節水のご協力を。 」 とか、まるで雨乞いのように 「 こんな空梅雨なので、雨に関連した曲をリスナーの皆さんにリクエストしてます。 」 といった内容が飛び交っているので、余計にこちらまで暑くなってくる。





イシガキトカゲ
イシガキトカゲ Plestiodon stimpsonii


 美しい海の青を見た後は、鮮やかな青い尾を持つイシガキトカゲを。バスキングが好きな彼らでさえ、午前中早々に切り上げて日陰を走り回ってる。尾の青さは国産Plestiodon の中でも濃い青を持っているトカゲで、普段見慣れているヒガシニホントカゲP. finitimus に比べて1.2 倍くらい青い ( 当社比 )
 と言っても国内ではバーバートカゲP. barbouri に勝る青さはおらず、バーバートカゲこそ国産Plestiodon 随一の青さであり、そこと比べてしまうとシマヘビElaphe quadrivirgata のいない青ヶ島のオカダトカゲP. latiscutatus の尾なんて 【 半分、青い。 】 レベルである。 ( 当社比 )


 夢中で追いかけている時は良いが、ふと我に返ると大粒の汗が頬からボロボロとこぼれていくのに気がつく。これは今日のフィールディングはなかなかにキツイだろうというのが容易に想定できる。





ハチジョウシュスラン
ハチジョウシュスラン Goodyera hachijoensis


 和製ジュエルオーキッドことシュスランの仲間は、きめ細かく入った葉脈が美しいラン科植物で、本州にもミヤマウズラG. schlechtendaliana やベニシュスランG. bifloraなど宝石のような葉を持つ近縁種がおり、愛好家も多いランである。海外ではマコデスMacodes spp. 等のランがジュエルオーキッドの名で通っていて、これら宝石蘭たちは熱帯地域の系統で、古くからその葉体を愛でてこられたグループだ。
 日陰になった林床に群生があり、いたるところで宝石が展開している光景を独り占めできる嬉しさは暑さも和らぐ。





サキシマキノボリトカゲ
サキシマキノボリトカゲ Japalura polygonata ishigakiensis


 今回はキノボリトカゲに関しては小さい個体ばかりで、あまり大きな個体を見ることがなかったのが残念だった。彼らがモリバッタと同じような類縁関係を地理的に示したら面白いだろうなぁ。
 2つ目の記事で書いたモリバッタの話を最初の記事にもちらっと登場する両爬屋の後輩に話してたら、 「 アオヘビ属Cyclophiops とかどうなんでしょうね ? 」 という助言をもらった。なるほど、リュウキュウアオヘビCyc. semicarinatus ・サキシマアオヘビCyc. herminae ・タイワンアオヘビCyc. major の類縁関係か。たしかにサキシマが遠縁ならばモリバッタと同じだなぁ、これは面白そうなトピックを教えてもらったな。
 やっぱりこういう話ができる友人大事。



 午前中ですでに汗ダクダクだ。とりあえず次のポイントに行く間に水分と塩分を補給しにメシ屋へ行こう。




知花食堂 そば
知花食堂 そば(大)


 メニューは八重山そばとトーフチャンプル他2種類くらいしかないシンプルなメニュー欄で、私はそば(大)を注文。おばちゃん1人で切り盛りしているみたいで店内はこじんまりと静かで、沖縄の離島の食堂といった趣。
 肝心の八重山そばは非常に優しい味付けでカツオ出汁が活きるシンプルなそば。具材の卵焼きもほわほわで、優しい味とはこのことか。


知花食堂 生姜
すりおろし生姜


 具材で面白いのが、すりおろし生姜が入っていること。紅生姜は結構入っている沖縄そば屋も多いのだが、こういったすりおろした生姜が入っていることはあまりなく、最初はかなり恐る恐る溶き入れていたんだけど、ここのシンプルなカツオ出汁のスープに合う︎んだこれが。というかシンプルな味付けだからこそ生姜が際立ち、またカツオ出汁の良さを全力で縁の下から盛り上げてくれているような旨さ。そしてこれで450円という破格の安さ。
 都内にある沖縄料理屋の沖縄そばとか、うまいけど全然庶民価格じゃないんだよなー。うぅ、沖縄そば屋があるだけで、沖縄移住したい。


 遠征に出かけるとブログ記事もグルメ要素がだいぶ増える傾向にあるようで、次の記事もグルメ要素ありの予定。やはりせっかく旅するならその土地の美味しいものをいただきたいし、忘れないように写真撮って記事にしたい。





 八重山そばでしっかり充電したら午後の部スタート。



ヒカゲヘゴ
ヒカゲヘゴ Cyathea lepifera


 午後は太陽の高さも一段と上がって、ジャングルに入っても射し込む太陽の光でだいぶノックアウト気味。そんな [ 気怠さ ] と [ 生き物見たさ ] を天秤にかければ、かろうじて [ 生き物見たさ ] が勝っているのでなんとか頑張れるが、結構しんどいレベルで暑さにやられてる。というか精神力でなんとかフィールディングしてる感じ。
 もし心が折れてたら石垣港近くにあるクーラーの効いたA&Wに引っ込んで、ルートビアを浴びるようにおかわりしまくってるレベルだよ、この暑さ。空港店はジョッキじゃなかったしね、飛行機に乗り遅れるレベルでおかわりしまくりながらダラダラしてた思い出の店だったから今回も行きたかったんだけど、残念ながら時間を捻出できず。まぁ、また西表島行く時とかに寄っていこう。



タニワタリ
タニワタリの一種 Asplenium sp.


 欝蒼とした日陰で一休みは絶対大事。こんな暑い中でガツガツとジャングルトレッキングしてたらどこかでぶっ倒れちまうわ。
ぬるくなったさんぴん茶を流し込み一休み一休み。
 そしたら遠くで何やらガサゴソ落ち葉の音が聞こえてくる。これは何か動物が落ち葉の上で行動しているに違いない。
そう思って忍び足で駆け寄ってみる。




ヤエヤマセマルハコガメ
ヤエヤマセマルハコガメ Cuora flavomarginata evelynae


  「 セマルぅーーー︎ !! 」 おぉ、愛しのセマル。カンムリワシに続いてまたも天然記念物との出会い。

 この時はイヌビワの実か何かをガシガシと首を伸ばして食べていたところで、その動きに連動して落ち葉がガサゴソと音を立ててしまっていたようだ。その音に気がついてすぐにそっと近づいて私はセマルを認識したのだが、それとほぼ同時にセマル自身が “ 私に認識されたことを ” 認識した。すると、大きく口を開けてイヌビワにかぶりつこうとするその瞬間に目が合ってピタリと動きが止まり、トムとジェリーのワンシーンのようにあんぐり口を開けたまま静止 ( しているよう感じたが、残念ながら実際には口は閉じてしまった。現実はそうコミカルにいかないな ) 。 いわゆる石化けだ。
 彼ら陸生カメ類がやる危険回避行動の一つで、外敵の存在を察知するとピタリと動きを止め、周囲の石や落ち葉に溶け込む [ 石ころ帽子 ] 的なテクニック。案外これをやられると気がつかないもので、以前も友人たちとヤンバルを歩いていて林道の真ん中にいたリュウキュウヤマガメGeoemyda japonica が石化けをしていたら、前を歩く4人は気がつかないでそのまま素通りして、最後尾にいた私が気がつくということがあった。それほど 【 動かない 】 というのは武器らしい。
 ただまぁ、今回はこちらが先に気配を察知して発見してしまったので、今さら石化けは通じないんだな。

 前日夕方に逃げられて悔しい思いをしていたところで、久々のセマルは嬉しすぎる。畑とか路上とかで見かけることが多いだけに、こうして森の中で出会えるのは言うまでもなく最高で、私が大学1年の西表島合宿最終日になんとか念願だったセマルを森で見つけた感動が思い出された。




 両爬との邂逅を胸に抱きながら生き物系サークルに入って、 「 見たい生き物は ? 」 と問われれば馬鹿みたいに 「 セマルです︎ ! 」 と返答していたあの頃の私にとって、セマルハコガメというのは憧れの、いやそれ以上の存在になっていたんだと思う。図鑑で見ていた “ それ ” が目の前で歩いていて、腹甲を閉じて箱になって、実際に同じ空間にいることができて、西表島合宿の最終日は今までの人生では味わうことがなかった 【 達成感 】 が得られる瞬間だった。





ヤエヤマセマルハコガメ
ヤエヤマセマルハコガメ ( 当時初めて出会った個体 )


 あの時のセマルは甲長にして10 cm ほどのまだまだ小さい個体だったが、思えばもう10年以上も前の出会いだったからきっと今は良いサイズの個体になっているんだろう。カメラの設定なんて全然わからずにシャッターを切っていた時代だったので写真こそあれだが、それでもやっぱり思い出深い個体だったので思い出すだけで感動する。
 一眼レフを手にしてから写真の質に目が向きがちになってきてしまっているが、綺麗に撮れなくても写真は写真であって、 『 好きな生き物に出会った 』 という記憶には違いないのだから、こういった思い出を大切にしていきたいね。やっぱりセマルは良いよなぁ。



 そうやって悦に浸りながら更新しようとしたところで、Yahooニュースにタイムリーなセマルの記事が。どうやら石垣島のヤエヤマセマルハコガメを無許可で捕獲し飼育していた輩がいて、文化財保護法違反の疑いで書類送検されたとか。ヤエヤマセマルハコガメは国指定の天然記念物であるため、捕獲はおろか触れることさえ文科省の許可が必要な生き物である。


 石垣島の於茂登岳では、それこそ10年前は 【 アサヒナキマダラセセリOchlodes asahinai を採らないで 】 というポスターが貼られていたくらいだったが、今回の旅では石垣市の教育委員会の方が常駐されていて、声掛け運動やチラシ配布まで行っていた。
 石垣島では自然環境保全条例に基づき、保全種と保護地区が指定され、2015年より対象種および保護地区内での全ての動植物の捕獲は原則禁止とされていて罰則規定もある。石垣市希少野生動植物保全種は要注意種を含めて爬虫類で7種、両生類で4種が指定されており、個人的な感想としては非常に警備強化・条例強化されている印象だったので、こういった話題を目にすると残念で仕方ない。


 我々、両爬屋としてはこれは重大な事件だと受け取らなくてはならない。いくら真面目に条例を守っていようとも、こういう不祥事が起きてしまっては信頼回復するのはなかなかに難しく、世間の目は今後益々厳しいものになっていくことは必至である。
 生き物屋も、マニアも、写真家も、業者も、登山家も、観光客も、それぞれの境界線・区分は曖昧な部分もあり、件の不届き者と一緒にされたくはないが世間一般の目にはみんな 【 容疑者 】 として映ってしまうこともあるだろう。ルール違反を犯さず身の潔白を証明できるよう、ルールの認知は最低限必要である。
 この記事を読んでいる両爬屋のみならず生き物屋の方々には、改めて条例や法律のルールの再確認を、せめて遠征などで訪れる土地については行なってほしいと願います。我々生き物屋としては昔に比べて非常にやりづらい趣味になってきてしまったのは事実ではあるが、時代が時代なので文句ばかりを連ねるのではなく、なんとか模索してルールの範囲内で最大限楽しめるようにしていきましょう。



 大好きなセマルがネガティブイメージのニュースで発信されているのが辛すぎる。





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