月明かりにヤモリ

Moonlight Gecko

Category: 鳥類  

花束を君に

 ● 亜細亜の熱帯雨林、ボルネオの旅 ●
プロローグ. 暗黒大陸への渡航
1. 旅の終わりは、旅の始まり
2. エアアジアの激情
3. それぞれの乾杯で繋がる世界
4. 伏線のポッポヘジュセヨ
5. 森の人の恩返し
6. ジープが停まる理由
7. Monster Monkey Morning 
8. まるまるこのもり
9. 虎とか豹とか虎とか
10. 熱帯猿紀行
11. ジュラシック・リバー・クルーズ
12. クルーズ拒まず、サルを追う
13. 真っ暗闇に漕ぎ出して
14. 真っ暗闇を抜け出して
15. おはようボルネオ
16. 花束を君に





ウオクイワシ
ウオクイワシ Ichthyophaga ichthyaetus


 一羽のワシがボートに沿って飛んでいく。豊富な資源をたたえるキナバタンガン河の上を悠々と。本種はもっぱら魚類を主食とする大型の猛禽類で、日本でいえばミサゴPandion haliaetus のようなポジション。日本で魚食性大型猛禽類といえば、北海道や東北にオオワシHaliaeetus pelagicus 、オジロワシHaliae. albicilla がいるものの、本州の大部分ではミサゴ一強で、ほぼ競合相手がいないように思えるが、ボルネオではウオクイワシの他に同属のコウオクイワシI. humilis や前述したミサゴ、シロハラウミワシHaliae. leucogaster など複数種が生息しており、ライバルも多い。
 その上に夜は夜でマレーウオミミズクBubo ketupu だ。ボルネオの魚たちはいつなんどきも、空からの敵襲に怯えて過ごさなくてはならない。



シロガシラトビ
シロガシラトビ Haliastur indus


 別の空では、2羽のトビが二重の円を描きながら旋回している。日本でも稀に記録のあるシロガシラトビだ。翼を持つ生き物は海を越えることができるわけで、分布域の線引きは難しい。
 ここキナバタンガン河では、最も目にした猛禽類であった。



 川面に視線を戻すとボートが進むその先に、水上一面を覆う緑、緑、緑。それらは元々、この土地にはなかった者たちの絨毯爆撃。


オオサンショウモ
オオサンショウモ Salvinia molesta


 熱帯アメリカ原産のシダ植物。流れの少ない場所で猛烈に繁殖している。こいつはまだ序の口。



ホテイアオイ
ホテイアオイ Eichhornia crassipes


 繁茂するのは南米の浮き草。熱帯魚屋でもよく目にするホテイアオイだ。ただこれまで意識していなかったのだが、花は鮮やかな薄紫色で真上の花弁には黄色のスポットが入る綺麗な花だった。
 ホテイアオイは爆発的に繁茂し、河の流れをとめてしまうほど環境への影響も大きい。

 緑の絨毯で猛威を振るうホテイアオイも、花が美しいのでオヤジがボートを寄せて一つとってくれた。それをオヤジが例の男前くんにくれてやったわけだが、こいつがまた紳士なヤローで、さっそくホテイアオイの花束を奥さんにくれてやった。



花束
花束


 チクショー、悔しいが絵になるな。花束が一番美しいのは、束にした新鮮な時でもなく、女性が抱えている時でもなく、煌びやかな花瓶に飾られている時でもない。それは男性から女性に贈られるその瞬間こそが一番美しく輝くと思うわけで、異国のボートの上で美男が美女にホテイアオイの花を手渡す雰囲気の良きことよ。
 思わず写真を撮らせてもらっちゃった。そんな羨望の眼差しを送っていたアジア人の私に対し、 『 ほら、こういうのが撮りたいんだろぅ ? アジアンくん。 』 と言わんばかりに、花を顔の横まで持ち上げて私のカメラに向かってドヤ顔の微笑みをくれた。
  『 ぐぬぬ、この私を女っ気のないウブなアジア人だと侮っていやがるな ・・・ 』 と思いつつ、体は素直なもんで、気がつけば私の右人差し指はシャッターを目一杯押していた。

 その時の写真は顔がモロに写ってるので載せないが、なんだか電機屋に置いてあるカメラのカタログに出てくるような雰囲気のある写真が撮れて大満足。半逆光で金髪は透けるように輝き、弾ける笑顔とホテイアオイの鮮やかな薄紫色。PENTAXでもこんな写真撮れるのかと思うほど。



 ちなみにホテイアオイの花言葉は 【 揺れる心 】 【 恋の悲しみ 】 のようで、恋人には贈らない方が良い花らしいですよ、奥さん。そんなホテイアオイを旦那からもらった美女が微笑みかけてくるなんて、なんだか昼ドラの不倫が始まる瞬間みたいっすな。
 ただ残念ながら、私のクロコダイルはコビトカイマンPaleosuchus palpebrosus 級なので、奥さんを前にして大暴れすることはなかったわけだが ( 笑 )



ダイサギ
ダイサギ Ardea alba


 そんな緑と紫で彩られたホテイアオイ群落に、飾り羽をあしらったダイサギが佇んでいた。日本でも見ることのできるダイサギだが、こんなシチュエーションで出会う事がなかったので、とても新鮮な気持ちだった。

 よくライフリストばかりを気にされている鳥屋さんは、その種を今までに見たことが “ あるかないか ” で大きく価値観が左右されてしまうように感じられるが、見たことある種でも出会う環境や個体、季節などの違いにより全く違う装いを見せる場合も多いので、一見さん以外も楽しめるはずである。まして夏だけとか冬だけに日本に渡ってくる鳥なんて、それ以外をどう過ごしているか知りたいと思うもんじゃないのかなぁ。
 もちろん見たことがない生き物を見たいという気持ちはわかるんだけどね。珍鳥との一瞬の出会いで、その鳥を知った気になってさぁ次へ行こう、ってのはナンセンスじゃないかなぁと。わかる “ 広さ ” も大切だとは思うが、その一方で “ 深さ ” も面白みの1つだとも思うところ。



ブッポウソウ
ブッポウソウ Eurystomus orientalis


 こちらも日本で見られる鳥で、我が国には夏鳥として飛来する。 『 日本の鳥とされるものは、まず日本で見なくては 』 という国産第一主義みたいな人がたまにいるけど、やっぱりそれって良くも悪くもリストを意識しすぎている気がする。さっきの深みの話だけど、日本に来たその瞬間だけでその鳥を知れるわけじゃないし、その鳥のポピュラーな姿を見られれば良いんじゃないかなぁ。

 ちなみに私は別に鳥屋さんが嫌いなわけじゃないですよ、一応。やはりやってる人口が多いだけに、 『 なんかこの人は自分とは感覚が違うなぁ 』 って人の割合が多いだけ。もちろん逆もあるわけで、鳥屋の大半からは 『 サンショウウオの産卵時期に石めくりしてるなんてけしからん 』 とも思われているかもしれないわけだしね。なので綺麗事を言えば、お互いの妥協点が見つかれば良いなと思うわけで。

 おっと、だいぶ話が逸れてしまった。ボルネオに戻そう。



コウハシショウビン
コウハシショウビン Pelargopsis capensis


 昨晩見た時の印象とはガラリと異なり、ハツラツと大河を飛びまわって獲物となる小魚を求めていた。太陽の下ではやはり翼の水色が鮮やかで、特徴的な大きい真紅の嘴との対比が美しい。
 コウハシショウビンはサイズこそボルネオ最大のキングフィッシャーではあるが、動きはカワセミ類のそれと同じように直線的にキビキビと飛んでいく。ただあの真紅の嘴がいやでも目につくので、遠目には赤い矢が一直線に放たれているようなカッコ良さがあった。




 ボルネオの鳥記事を書いているとふと気がつく事があった。それはボルネオ渡航前に書いたこちらの鳥記事での 【 ボルネオで見てみたい鳥たち 】 の記述。なんとそのほぼすべてが見られていた。 ( ショウビン類を特定してミツユビカワセミCeyx erithacus と書いてしまっていたが、コウハシショウビンやルリカワセミAlcedo meninting がニアピン賞だろう。 )



ボルネオの鳥
上から、
コウハシショウビン
ウォーレスクマタカ Spizaetus nanus
ツノサイチョウ Buceros rhinoceros
ボルネオクモカリドリ Arachnothera affinis
マレーウオミミズク
アジアヘビウ Anhinga melanogaster


 そういう意味では鳥の成果は良かったのだろう。渡航前にパッと思いついた 【 見たい鳥 】 たちではあるが、それがここまで見られるとは正直思っていなかった。そしてあんなにサイチョウ類がたくさん見られるとは。完全にやつらに心を掴まれてしまった。


 素人の私でさえこれだけみられるのだから、ボートクルーズというのは確かに水辺の鳥見には最適なのかもしれない。効率も良いし見つけやすい環境でもあるし。
 とまぁ鳥についてつらつら書いてもアレなので、次回は爬虫類記事でキナバタン河のボートクルーズを締めくくろうと思う。




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Category: 哺乳類  

おはようボルネオ

 ● 亜細亜の熱帯雨林、ボルネオの旅 ●
プロローグ. 暗黒大陸への渡航
1. 旅の終わりは、旅の始まり
2. エアアジアの激情
3. それぞれの乾杯で繋がる世界
4. 伏線のポッポヘジュセヨ
5. 森の人の恩返し
6. ジープが停まる理由
7. Monster Monkey Morning 
8. まるまるこのもり
9. 虎とか豹とか虎とか
10. 熱帯猿紀行
11. ジュラシック・リバー・クルーズ
12. クルーズ拒まず、サルを追う
13. 真っ暗闇に漕ぎ出して
14. 真っ暗闇を抜け出して
15. おはようボルネオ
16. 花束を君に




 ボルネオで迎える4回目の朝。このくらいになるといよいよ目覚めの瞬間から、自分がボルネオにいるということが瞬時に理解できる。初めのうちは旅行者気分で、寝ぼけながらもじわりじわりとそれに気がつき、ゆっくりと 『 あ、そうか、今ボルネオにいるのか !? 』 と受け入れていたのだが、今ではシャキッと目が覚め 『 おはようボルネオ 』 と心の中で挨拶してしまうくらいに、ボルネオにいる事が非日常から日常へと変わっていた。

 そして朝から早速ボートに乗り込んで、モーニングクルーズといこうじゃないか。今朝の乗船メンバーは、船長のオヤジ、中川家礼二似のガイド、美男美女の欧米夫婦、ルンチョロサン、私、の6人で昨日の昼のクルーズでも顔馴染みのメンバーだ。
 客である欧米夫婦が昨晩のナイトクルーズに来なかったのを心配するふりをして、 「 昨晩は本当にスゴかったぜ、バケモノみたいなクロコダイルとハラハラドキドキの大アドベンチャーだったんだ。 」 と自慢してやった。 ( おぉ、我ながら性格悪い ・・・ )
 すると男前くんは 「 マジかよ、ナイトクルーズなんてやってたのかよ ?! そんなの知らなかったぜチキショー 」 と、ふがふが言いながら悔しがり、その分を取り返そうと前のめりになってボートにしがみついていた。
 奥さんの方に目をやるとそんなに悔しそうな顔をしておらず、 「 それだったらウチの旦那のクロコダイルの方が、昨晩は大暴れだったわよ 」 とでも言いたそうに落ち着き払っていた。ぐぬぅ、それはそれで悔しいが、日本では体験できないフィールディングだったのでまぁ良しとしよう。


 しばらくすると目を皿にして探していた男前くんが何かを発見する。

 「 What’s that ? 」

 見ると河の真ん中にプカプカとペットボトルが浮かんでいるのだが、なんだか様子がおかしい。ただ浮かんでいるにしては動きが不規則だし、違和感満載だった。男前くんを筆頭に、我々の頭の上にクエスチョンマークが浮かんだままボートはぐんぐん距離を詰めていき、またガイドと船長は嬉しそうにニヤニヤしている。
 ペットボトルの真横にボートをつけ、おもむろにガイドのオヤジがそれをヒョイと掴みあげると、先端に糸が50 cm ほど結びつけられていて、さらにその下から魚が姿を現した。どうやらこれは魚釣りの仕掛けだったようだ。




仕掛け
仕掛け


 こんな感じの仕掛け。おそらく昨晩船長のオヤジが夜釣りの際に仕掛けておいたものだろう。匂いにつられた夜行性のナマズが針にかかり、翌朝目印であるペットボトルを引き上げればナマズを得られるという漁法だ。
 ペットボトルは目立つものが良いのか、 “ 2 more orange ” というパッケージの、マレーシア版ファンタオレンジみたいなのが使われていた。




ナマズ
ナマズの一種


 こんなちゃちな仕掛けの割にはなかなかの獲物がかかっている。大きさは1.5 L のペットボトルより一回り大きいくらい。とりあえず知識が無いもんで、ナマズっていうことくらいしかわからないのが残念。
 餌には肉団子みたいなのが使われていたので、夕食の残りとかだろうか。



しまっちゃう
しまっちゃうオジサン


 そしてこいつはしまっちゃうオジサンにしまわれちゃうんだな。きっとオヤジの晩飯にでもなるのだろう。ん ? それとも昨日の晩飯に出たアレか ?? (笑)
 とにかくこうして釣られた魚は誰かの血となり肉となり、姿を変えて巡ってゆく。そんなことをぼんやり考えていると、ボルネオらしいあいつらが木々を揺らしていた。




テングザル
テングザル Nasalis larvatus


 連日テングザルが現れるのはさすがに慣れてきたボルネオとはいえ驚きだ。今度は昨日の個体に比べて鼻の大きいオス個体だが、まだまだ肥大化しておらず、残念ながらボスではないようだ。
 こいつらの体色で面白いのが、腰部に白い毛が生えている事。それが遠目には白いブリーフを履いているように見えて、一度そう見えてしまうとそのイメージをなかなか払拭できずに珍妙な生き物になり果ててしまう。


テングザル
テングザル


 それでいてコレだ。朝日を浴びながらグーっと伸びをしている姿なんて、 【 ボルネオ島の幻の珍獣 】 というよりも 【 隣近所のひょうきんなオジサン 】 といった雰囲気。これじゃあ嫌でも擬人化して見てしまうじゃないか。

 でもこれはこれで個人的にはお気に入りの写真。巨大クロコダイルがいる殺伐としたジャングルの中で、ふとした瞬間にゆる~い一瞬を見せるこのギャップがなんとも言えない。 “ The ボルネオの朝 ” 。こんなボルネオの一面もいいね。



 朝っぱらから良いものを見つけたおかげで、哺乳類スイッチが入ってしまった。せっかく河川に来たのだからそこでしか見られないような、哺乳類が見たいなぁと。
 ボルネオには、スマトラカワウソLutra sumatrana 、ビロードカワウソLutrogale perspicillata 、コツメカワウソAonyx cinerea の計3種のカワウソが生息しているので、せめて1種でも見たいと水面を見つめていた。

 すると、彼方の水面に “ 何か ” が泳いでいるのが目に飛び込んできた。



ボルネオゾウ
???


「 ん ? カワウソか !? 」  もうそれを探しているために、目の前にあるその “ 何か ” が 『 何カワウソなのか ? 』 と私の脳は模索し始めようとしていた。
 しかし遠いせいで、よく実体がつかめない。対象の進行スピードはそこまで早くないので、こちらもボートでどんどん接近していく。



ボルネオゾウ
???


 近づくにつれて、徐々に細かい造形が見えてくるのだが、どうやらカワウソではなさそうだ。時折水しぶきを上げながら上下する長い部分と、それに引き連れられるようについてくる固そうな塊。それがまるで呼吸するかのように潜っては浮かび、潜っては浮かびを繰り返している。

 着々と縮まる “ 何か ” とボートとの距離。そしてついにその正体がわかる時が来た。その瞬間、まるで数千万人いるサッカースタジアムで、自軍のゴールが決まってドッと湧き立つような、そんな団結力のある感動がボート上に巻き起こった。



ボルネオゾウ
ボルネオゾウ Elephas maximus borneensis


 「 Ooooooooh おぉぉぉ , Elephant おぉぉぉっ !! 」  まさかのボルネオゾウの河渡りに遭遇したのだった。まったく、リアルジャングルクルーズかよ。ボート乗りながら泳ぐボルネオゾウが見られるだなんて、完全に想定外。嬉しすぎる。想定していなかっただけに驚きと感動で胸いっぱいだ。
 そしてそれは他の乗船メンバーも同じこと。この出会いには一同大盛り上がりで、特に昨晩ナイトクルーズを逃した男前くんなんかはえらい喜びよう。転覆の恐れがあるから左右のバランスをとるために自分の席から動かないようにと乗船前に注意を受けたというのに、本人とは逆位置のゾウ側にいる奥さんのほうに寄ってたかって写真を撮り始める始末。まったくこっち側 ( ゾウ側 ) にはヘビー級の私がいるというのに来るんじゃないよ、マジで転覆するわ。
 とにかくしっちゃかめっちゃかに私たちは喜んでいた。


 私のイメージではゾウの河渡りというのは常に頭と鼻先、背中を水上に出して、犬かきみたいにして泳いでいる姿だったのだが、現実の河渡りは 『 トップン、トップン 』 と鼻先を出しては頭を沈め、頭を出しては鼻先を沈めというように、鼻先と頭を交互に水上に出しながら、体のほとんどを水中に沈めたままで泳ぎ方だった。初めは鼻先しか見えていなくて、それくらいのサイズの生き物を想定していたけど、これこそまさに氷山の一角。その下にあんな巨体が隠されていただなんて。
 アニメーションの表現でしばしば水中から鼻先だけ出して潜水艦のように振舞うゾウが登場したりするが、1枚目の写真なんかを見るとあながち非現実的な表現とは言い難い。




 それにしてもゾウだなんて、嬉しすぎるじゃないか。たぶん朝食を調達しに河を渡っていたのだろう。広いところで200 m はあろうかという流域面積の河を横切るとはなんてタフな生き物なんだ。泳ぎ方もアップアップで、必死に息継ぎしているような姿だったので、後半はただただ見守るように岸まで着くのを応援した。
 そして岸ももう間近。いよいよゾウだけに全身像のお目見えだ。



ボルネオゾウ
ボルネオゾウ


 その姿を見た第一印象としては 『 小っさ・・・ 』 それもそのはず、ボルネオゾウは世界最小のゾウなのだ。ゾウ科Elephantidae に属する3種のゾウの内、種で言えば最小種はアフリカのマルミミゾウLoxodonta cyclotis なのだが、亜種レベルまで落とすと、アジアゾウElephas maximus の亜種であるこのボルネオゾウが “ 最も小さいゾウ ” ということになる。
 英名で 【 borneo pigmy elephant 】 と現地では呼ばれ、やはり小さいことが特徴だと中川家礼二似のガイドのオヤジが言っていた。アジアゾウのメスでは牙が目立たないため、この個体はオス成体だろう。体高にして2mほどの小ゾウサイズだが、ボルネオゾウでは立派な大人だ。体つきも丸みを帯びていて、密林を闊歩するにはうってつけ。
 動物園でよく見るアフリカゾウLoxodonta africana とは、サイズもプロポーションも全くの別物だというのをまざまざと見せつけられた。



 ぬかるみに足を取られながらも器用に岸へと上がり、あっという間に彼は密林の奥へと姿を消してしまった。その出来事は一瞬だったのだが、体感時間としては非常に濃厚な時間を過ごすことができた。
 というか自分が海外のフィールドに出て、こんな生き物たちに遭遇しているのが本当に信じられない。子供の頃にTVの画面を通して見ていた 【 どうぶつ奇想天外 】 の世界に、実際に足を踏み入れ、余計なフィルターなしに自分自身の眼で捉え、そしてその土地の空気を吸っている。まるで自分が主人公の物語みたいだ。やっぱり未知なるフィールドは楽しいなぁ。



 最初のクルーズ記事でも書いたが、この流域にはいくつかジャングルクルーズを行なう観光宿があるので、時折他のボートとすれ違ったりもする。この日も何艘かのボートを見かけたが、ボルネオゾウが泳いでいる貴重な瞬間には我々以外に見ている者はいなかった。
 ただやたらに盛り上がっていた我々のボート。それを嗅ぎつけて 『 何か良い生き物でも出たのでは ? 』 と近寄ってくるボートが2艘ほどあったが、時既に遅し。彼らが駆けつけて来た頃には、ゾウが岸を這い上がったぬかるみの後くらいしか見る事はできなかったのだ。

 怪訝そうにこちらを窺っている連中に対して、例の男前くんが親指でぬかるみを指しながら 「 Elephant ! Elephant !! 」 とか自慢してやがる。もう行っちゃったんだからその言い方は誤解を招くだろうと思いながらも、 『 良いぞ、ハイエナどもにはもっと自慢してやれ 』 という悪魔の囁きのほうが優勢だったので止めてやることはしなかった。
 さらには 「 さっきまでそこにElephant がいたんだぜ、スッゲーよ。ホントあいつは最高にクールだったなぁ 」 とか言いながら欧米人特有のテンションが上がると出る 「 yeaaah ! 」 とか 「 foohhhh ! 」 とかも挟みつつ満面の笑みで自慢していやがるからタチが悪い。朝イチで私が厭味ったらしく自慢した憂さ晴らしをここでしているんじゃないかと思うくらいに、とにかくクレイジーだった。
 なかなか自慢の仕方がエグイ男前くんは、まぁこちら側だったから良かったものの、コイツがもし相手側の人間だったとしたらゾッとするね。(笑)


 まさかのボルネオゾウの出現に度肝を抜かれた朝のキナバタンガン河。宿から出発して 【 ナマズ釣り ~ テングザル ~ ボルネオゾウ 】 という今回の記事での出来事は、実はわずか30 分以内の出来事なのだから、その濃さには驚かされる。ウダウダ書いてしまう私の記事では伝わりにくいのだが、それほどまでに圧縮された30 分であり、濃厚な30 分だったのだ。私も写真を見返していて、撮影時間を確認してびっくりしたほどだ。


 モーニングクルーズは序盤でかなり盛り上がったが、今後もまだまだ楽しいボートの上。






Category: 爬虫類  

真っ暗闇を抜け出して

 ● 亜細亜の熱帯雨林、ボルネオの旅 ●
プロローグ. 暗黒大陸への渡航
1. 旅の終わりは、旅の始まり
2. エアアジアの激情
3. それぞれの乾杯で繋がる世界
4. 伏線のポッポヘジュセヨ
5. 森の人の恩返し
6. ジープが停まる理由
7. Monster Monkey Morning 
8. まるまるこのもり
9. 虎とか豹とか虎とか
10. 熱帯猿紀行
11. ジュラシック・リバー・クルーズ
12. クルーズ拒まず、サルを追う
13. 真っ暗闇に漕ぎ出して
14. 真っ暗闇を抜け出して
15. おはようボルネオ
16. 花束を君に





 流域面積の広い河だと、遡っているのか下っているのかがわからなくなる。ましてやこの暗闇だ。河が自分の右から左に流れているのか、左から右に流れているのかさえわからない状況。そもそも河を横切っているだけかもしれない。それほどまでに河の流れる向きがわからない。
 唯一方向がわかる手立てといえば河岸に沿って進む事で 『 上流下流のどちらかには向かっているんだな 』 ってのがわかるくらい。そんな岸にライトを向けてみると、水面にキラリと光るモノが。




イリエワニ
イリエワニ Crocodylus porosus


 まさしくワニだ !! ついに来た、この水上に光る目玉。日本の自然下では見られないワニ目Crocodilia という分類群。こんな日が本当にやってくるとは。
 幼い頃の私にとっては憧れの生き物であり、しかし同時に図鑑やTVを通してだったり動物園でしか見られないような、自分には遠い存在の生き物だと思っていた。それが目の前の自然下に、自分と同じ空間に、生息しているだなんて、右頬をつねりたい気分だ。すぐさま幼少期の自分に伝えてあげたい 「 こいつらと自然下で対峙できる時がいつか来るぞ 」 と、 「 絵空事じゃなく現実にだぞ 」 と。

 ボルネオに生息するワニは個体数の多い本種ともう1種、マレーガビアルTomistoma schlegelii がいる。マレーガビアルは希少で今回は見られずだったが、いつかは見てみたい。あの特徴的な細長い吻部。
 インドガビアルGavialis gangeticus が属する本家 ( ? ) ガビアル科ではなく、クロコダイル科にしてあの形態。マレーガビアルは恐竜だとスピノサウルスSpinosaurus とかバリオニクスBaryonyx などの、魚食性スピノサウルス類のような印象があって個人的には好き。
 インドガビアルほど細長くなってしまうとどうにもそれらの恐竜に似ているようには見えず、どちらかというと魚竜のイクチオサウルスIchthyosaurus っぽいなぁとか思ったり。
 まぁとにかく見ていないワニの話はここら辺にして、目の前のイリエワニだ。



イリエワニ
イリエワニ


 ある程度こちらがボートで近づいていくと、逃げるようにして岸へと上がった。全身を露わにしたその姿を見てみると、ずいぶんと可愛らしいまだ成体とは言えないような小さな個体だった。よくTVや写真で見るワニは泥にまみれて全身がくすんで見えるのに対して、幼体や亜成体のワニは体表も綺麗だし、斑に入る模様も明瞭である。ヘビにしてもカメにしても、やはり小さいうちは色鮮やかで可愛らしいやつが多い。

 前日までの豪華な宿には土産物コーナーも併設されており、さすがは自然散策で稼いでいる宿なだけあって種々の図鑑が取り揃えられていた。各分類群の図鑑もあれば、ボルネオの生き物写真集だったり、文化史だったり、その書籍コーナーを物色しているだけでも幸せになれるくらいとにかく品揃えがよかったのだが、その中にワニについての本があった。
 タイトルは 【 Man - eating Crocodiles of Borneo 】、そう “ ボルネオの人喰いワニ ” だ。ページをめくってみると男が服を捲ってワニにやられた傷を見せていたり、巨大な人喰いワニが討伐されて吊るされていたりしている写真が載っていて、いかにイリエワニが危険な生き物なのかが淡々と綴られていた。
 そんな書籍をこのキナバタンガン河に来る前に読んでいたので、興奮半分、恐怖半分のままボートに乗っていた。ただ、いざ川面に漕ぎ出してみれば興奮ばかりの楽しいクルーズな上に、目の前のイリエワニは可愛らしく美しい。 『 きっとあの本に出て来た巨大人喰いワニってのは伝説やら伝承で語り継がれているような、幻に近い存在なんだろうな 』 なんて、鼻で笑いながら目の前の小さいイリエワニが草むらに消えていくのを見送った。


 しばらくボートは進み、マレーウオミミズクBubo ketupu など夜の生き物を堪能してナイトクルーズも折り返し地点。 「 いやぁ今晩はなかなかにエキサイトだったなぁ 」 なんて言葉を漏らしながら、遡っているんだか下っているんだか、とにかく来た向きとは180度反対側へとボートは進む。

 途中、ただでさえゆっくりなスピードだったはずのボートが、みるみる推進力を失っていく。 『 船長が何か見つけたにしては、やけに慎重すぎるなぁ・・・ 』

 ただ一点を見つめる船長の、手にするライトが指し示す光線の先を目で辿ってみると、水面に浮かぶ反射する光。






イリエワニ
イリエワニ


 「 で、でかすぎる ・・・ !? 」 ただ息を呑むばかりで言葉に詰まる。さっき見たイリエワニが亜成体だとか子供だとか、そんなの勘定に入れなくたって桁違いにデカいのが、水面にチラリと出ている頭部だけでも容易に想像ができる。ましてや観光用で何度とクルーズでボートを操っている船長のオヤジさえ、声には出さない緊張が見てとれた。
 ただその中に、わずかに興奮の色が見え隠れする。 『 あぁ、この人も “ こっち側 ” か。 』   「 Go , Go !! 」 と小声ではやし立て、そろりそろりと近づいてもらう。ヤツを刺激しないように、ヤツを怒らせないように。
 15mくらいまで寄れただろうか、そこに至るまでヤツは物怖じせずにじっと水面から顔を覗かせていたのだが、突然 「 トップンッ 」 と水中へと姿をくらました。



「 ヤバい、来るっ !!?? 」

 こんなちゃちなボートじゃ、あの巨体にかかれば即座に沈められるじゃないか。一瞬で最悪のシナリオが頭をよぎった。 【 Man - eating Crocodiles of Borneo 】 本のタイトルと被害男性の痛々しい傷跡が脳裏にフラッシュバックする。


 嫌な予感がしたのは外国人である我々だけではない、現地人の船長さえ 『 こりゃあいかん 』 と思ったに違いない。すぐさま取舵いっぱいでモーターはフルスロットル。瞬時にその場を離脱した。
 実際は自分たちが走って逃げているわけではないのに、なぜかハアハア息切れしているという緊張感。 「 こえーこえー 」 と言いながらもなぜかニヤつく私とルンチョロサン。
 少し離れたところから、さっきまでヤツがいた場所に目をやってみるとヤツはまた水面まで浮上しており、獲物に逃げられたからだろうか、どこか退屈そうに見えた。


 「 よっしゃ、もう一度アタックしよう 」  船長もアドレナリンが出ているようで断られることもなく、再びモーターを奮い立たせる。近くで、その大きさを、その危険性を、体感した上での再チャレンジは、無鉄砲だったファーストコンタクトとは違っていくらか弱腰だった。それでもヤツを刺激しないようギリギリのところまで近づいたが、想像以上に警戒の琴線が張られている範囲が広く、またもやヤツは水中に。


イリエワニ
イリエワニ


 ずぶりと潜っていくヤツの尾部上面に立ち並ぶ板状の鱗は、恐竜たちを彷彿させ、同時に私を興奮させてくれる。
 「 マズイ、近づきすぎたか ?! 」

 そう思う間もなくヤツが再浮上。どうやら襲うわけではなく逃げて行くようだ。そりゃそうだ、基本的に襲ってくる生き物ではなく、逃げる生き物。クマなんかと一緒で、よっぽどのことがない限りは向こうが去るスタンスだ。
 ただ “ [ 海外で初めてのナイトクルーズ ] + [ 巨大ワニ ] + [ 被害本 ] ” という組み合わせにより、脳内ムービーで勝手に急展開になってしまっただけで、普通に考えれば現実はそんなところ。すぐ近くに支流の合流地点があったため、本流を逃れて小さな支流へと遡っていく。



イリエワニ
イリエワニ


 水深もあまりないため、ヤツの巨大な後ろ姿が露わになる。熱帯魚屋なんかにも売られている南米原産のホテイアオイEichhornia crassipes が水上に浮かんでいるので、おおよその大きさは伝わると思うが、全長にして4mほどはあったであろう大物だった。長さというより太さに目がいき、幅広の胴部は自分がまるまる腹の中に収まるのを想像するに容易い。こんな巨大爬虫類と野生下で遭遇していたとは。
 這うとも泳ぐとも言えないような緩やかな動きで、浅い支流の奥へ奥へと進んでいく。その後ろ姿は、彼らの祖先が恐竜ひしめく時代を生き抜いた “ 風格 ” を感じさせた。ヤツにもディノスクスDeinosuchus の血がわずかにでも混じっているのだろうか。


 座礁してしまうため、これ以上支流を追いかけることは叶わなかったが、それでもあの巨体と遭遇できたことは私のこれまでのフィールド経験に無いもので、アドレナリンの分泌も凄かった。さすがは海外フィールド、日本では得られないものを得た。
 まさかここまでのワクワクとドキドキが待っているとは、乗船前には思いもよらなかっただけに、帰りのボート上で受ける夜風はこれまた心地好いものだった。



 最高に楽しいナイトクルーズを終え、宿に着岸。なんとか無事に真っ暗闇から脱出することができたようだ。船長のオヤジと握手を交わし別れを告げると、どうやら彼らはここからが本番らしい。現地スタッフ2名が長い釣り竿を持って、我々と入れ替わりでボートに乗り込んだ。
 というのも仕事後にプライベートで夜釣りをするようで、船長も嬉しそうに煙草をくわえ出した。なるほど、良い生活だな。仕事と遊び、どちらもこの雄大な大河に育まれているわけか。






 宿に戻ったら、すぐさま生き物探し。というのも乗船寸前まで、宿の外壁についているヤモリを追いかけていて、待ち合わせ時間のためタイムオーバーに。その続きがあるので、さっそく壁虎探し。



フタホシヤモリ
フタホシヤモリ Gekko monarchus


 素敵Gekko が壁にたくさんついている。こちらの宿周辺の外壁は彼らが優先種のようで最も目にしたヤモリだ。ダナンバレーの森で泊まった宿ではホオグロヤモリHemidactylus frenatus やヒラオヤモリCosymbotus platyurus などの、典型的なハウスゲッコーが幅を利かせていたのだが、こちらではこいつらに蹴散らされるように隅でチラッと見かける程度であった。

 ホオグロヤモリやヒラオヤモリなどは頭胴長にして70mm弱とニホンヤモリGe. japonicus と同程度の大きさだが、このフタホシヤモリは一回り大きく100mm程はある。そのため力関係としてはやはり、体サイズが大きい方に分があるのだろう、蛍光灯下の絶好のポイントはこいつらが支配していた。
 英名でも warty house gecko と “ ハウス ” がついているので人家で比較的見られるヤモリのようだ。また warty ( イボ ) の名の通り、大型鱗が大きく突出しているため、ザラザラとゴツイ体表をしていていかにも強そうな風貌である。体色も明るいスポットが入ったり、背面中央の暗色班が二分されて尾部の中ほどまで続く模様だったり、日本で見られるGekko 属とは少し異なる様相であった。

 そんな彼らを渡り廊下で観察していると、頭上のトタン屋根から 「 カン、カン、カン、カカカ 」 と、ドングリでも落っこちて跳ねているかのような音が何度か聞こえてくる。ルンチョロサンとは 「 ネズミでも駆けてるのかねぇ ? 」 なんて話もしていたり。
 初めのうちは別段気にしていなかったのだが、風も弱く何かが結実して落ちているようでもなく、それもだいたい同じ位置からその音が聞こえてくるのが徐々に気になってくる。

「カン、カン、カン、カカカ 」   「 カン、カン、カン、カカカ 」
 フタホシヤモリと戯れながらも耳に入ってくるこの音に耳をすませてみると、なんだかトタンを叩くような音ではない気がする。

「 カン、カン、カン、カカカ 」   「 カン、カン、カン、カカカ 」
 不審に思って音の出どころを探ってみると、衝撃の正体が明らかになる。




スミスヤモリ
スミスヤモリ Ge. smithii


 まさかの憧れ、スミスヤモリとのご対面 !! あの音の主はスミスの鳴き声だった。
 Gekko 属の大型種にして、美麗種。その翡翠のような眼に魅了される人も少なくない。

 本種の頭胴長が190mmと記載されている図鑑もあり、あのアジアの巨大ヤモリで名高いトッケイヤモリGe. gecko ( 頭胴長185mm ) を凌ぐ大きさとも言われている。私が今回見たのは頭胴長150mmほどで、フタホシヤモリでも 「 おぉデカいなぁ 」 と思っていただけに、それより二回りほども大きいこのスミスヤモリの存在感たるや。
 彼らが縄張りとしている付近の壁には、それまで随所で見られた中ボス的なフタホシヤモリはおらず、堂々たるこのスミスヤモリが王者の風格を持って支配している。まさに大ボス的存在。


 力関係で言えば、 【 スミス > フタホシ > ヒラオ 】 の図式が成り立っている。だからと言ってスミスが一番個体数が多いのかというとそういうわけではなく、フタホシが随所に幅を利かせて最も数が多く、それに押されてヒラオやホオグロが隅っこで細々と餌にありつく。そして虫たちの誘引性が高いような絶好のポイントには、フタホシを蹴散らしてスミスが堂々と陣取るという勢力図だ。
 ただそのスミスは敵なしかというと、そうではない。 “ スミスの敵はスミス ” である。写真のように再生尾の個体が多く、いたるところで見られるというわけではないことから、種内競争が激しいことが窺える。

 そういった相関図が散策している内に見えてくるのが面白く、日本では環境毎にある程度分かれて生息するため、複数種が入り乱れて混在するこの状態は、新たなヤモリ観察の楽しみだなと気づかされた。




スミスヤモリ
スミスヤモリ


 なんと言っても魅力はこの美しき翡翠眼である。以前、大学の卒業旅行でタイを訪れた際、もしかしたらスミスヤモリかテイラーヤモリGe. taylori を見たかもしれないが、あまりに遠く視認できなかったため、泣く泣く帰国した記事を書いたが、ついに念願の緑眼を拝むことができたのだ。この調子でGe. verreauxiGe. siamensis など、他の緑眼のヤモリたちを見られる機会に期待したい。
 また、綺麗なのは眼ばかりではなく、体表に纏っているホワイトスポットも暗がりで見ると結構目立つ。




スミスヤモリ
スミスヤモリ


 別の場所では幼体も見られた。こちらは種内競争の波にさらされる前で尾は完全尾であるし、幼体特有の発色の良さからホワイトスポットも鮮やかでよく目立つ。
 ただチビでもちゃんと緑眼を持ち合わせてはいるのだが、まだまだ色濃さというか深みが足りない。きっと他の個体との死線を乗り越え、巨大化の末に行き着く支配者の業の深さこそが、彼らの瞳を一層深くさせるのだろう。




 そんなヤモリたちの勢力争いを見ながら改めて今晩の出会いを振り返ると、河でも陸でも、とにかく大物に遭遇できたアツい夜だった。もちろん見た目で海外の生き物は突飛であることが多く、それだけでも楽しめることも多いが、やはりワニにやられそうになる恐怖を感じたり、種々のヤモリが混戦している状況を見てきたりするのは、図鑑を眺めているだけでは得難いモノがあると思う。
やはり何にしても現地でその生き物と出会い、どういう暮らしぶりをしているのかを見るというのは、生き物探しの醍醐味だなと改めて感じさせられた。
 またそこで得た情報からいろいろ空想して、少しずつ少しずつその生き物について知っていくことが楽しいんだろうな。



 激動のフィールディングを終え部屋に戻ってベッドに入る。ヘロヘロだったのでいつもだったらすぐに爆睡だったはずだが、今晩はまだ自分の鼓動が聞こえて眠れない。

 「 ドックン、ドックン、ドックン、 」

 するとその鼓動を遮るように、
 「 カン、カン、カン、カカカ 」

 きっとどこかの闇夜に翡翠眼が煌めいているのだろう。


スミスヤモリ
スミスヤモリ






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