月明かりにヤモリ

Moonlight Gecko

Category: 鳥類  

真っ暗闇に漕ぎ出して

 ● 亜細亜の熱帯雨林、ボルネオの旅 ●
プロローグ. 暗黒大陸への渡航
1. 旅の終わりは、旅の始まり
2. エアアジアの激情
3. それぞれの乾杯で繋がる世界
4. 伏線のポッポヘジュセヨ
5. 森の人の恩返し
6. ジープが停まる理由
7. Monster Monkey Morning 
8. まるまるこのもり
9. 虎とか豹とか虎とか
10. 熱帯猿紀行
11. ジュラシック・リバー・クルーズ
12. クルーズ拒まず、サルを追う
13. 真っ暗闇に漕ぎ出して




 ボートに揺られた感覚が陸に上がってもまだぼんやりと残っている。陸酔いの余韻を残したままに、食堂へと向かう。サイチョウにサルにと、興奮続きのクルーズでペコペコになっているおなかをブュッフェの品々で落ち着かせる。



夕食
夕食風景


 相変わらず欧米人だらけ。今回の旅では泊まったどの宿も食事はブュッフェスタイルだったので、毎食毎食満腹になるまで食べることができ、空腹に悩まされる事はなかった。なんだかんだで海外のフィールドは神経を使うため、とにかく腹が減る。
 そういう意味でたらふく食べられる環境というのは、フィールドワークをする上ではとても重要なファクターである。腹が減っては戦ができない。この夕食でも、もうそりゃあパンパンになるまで食べたさ。だって夜のお楽しみがあるんだもの。


 程よい疲れと満腹感に、ふかふかのベッド。部屋に戻って食後の休息を取るとき、いっそのことベッドでこのまま寝ちまおうかと睡魔の誘惑が凄かったが、なんとか振り払ってフィールディングの準備をする。
 薄暗い桟橋を慎重に歩いて辿り着いたのは船着き場。そう、夜もボートで河を散策するナイトクルーズである。これまた未体験ゾーン !! 抑えようと思っても胸の高鳴りは止まらないフィールディングだ。

 しかもこの晩に集まったのは船長とルンチョロサンと私の3人だけ。昼間は欧米カップル2組に我々、ガイド、船長の8人体制だったことを考えると、今回は完全なるプライベートボートという贅沢な乗り合わせ。こいつは自由にフィールディングができそうだ。


 さっそくボートに乗り込み、明かりのない真っ暗な水面へと漕ぎ出す。昼間と違って慎重に進む必要があり、またライトで照らしながらの散策となるためボートの進行スピードが極めてゆっくりになる。よってボートのモーター音は非常に静かで、かつ昼間に猿やら鳥やら虫やらで騒がしかったジャングルはしんと静まり返っている。
 加えておしゃべりな中川家の礼二似ガイドもおらず、あまり英語が得意ではない寡黙な船長が、ボートを巧みに操りながら生き物を探す職人っぷり。自然とこちらも息を殺すようにライトの照らされている先を見つめ、聞こえているのはわずかなモーター音と、岸から跳ね返ってくるボートの波のちゃぷんちゃぷんという音だけ。なんとも緊張感がある。


 しばらくするとライトが一点に留まり、そちらに向かってゆっくりボートで向かう。さすがは経験値の違うベテラン船長、次々に闇夜の中から生き物を発見していくではないか。




ルリカワセミ
ルリカワセミ Alcedo meninting


 眠る宝石。最初船長が何を発見したのか理解できなかったが、ゆっくりとボートを近づけるとそいつの正体がつかめた。どうやら日本にいるカワセミA. atthis の、色を濃くしコントラストをはっきりとさせたような鳥だという事がわかった。
 あいにく頭部は隠れたままお休みだったので、お顔を拝見することができなかったが、日本では “ 清流の宝石 ” とまで評価され愛好家たちが盛んに写真に収めれているカワセミの上位互換のような存在。大きさも同じくらい。なのできっとカワセミ好きにはたまらない鳥だろう。




コウハシショウビン
コウハシショウビン Pelargopsis capensis


 続いて同じくカワセミ科のコウハシショウビン。ただし前述のカワセミやルリカワセミがカワセミ亜科Alcedininae なのに対して、本種はアカショウビンHalcyon coromanda などと同じショウビン亜科Halcyoninae に含まれサイズも同様に大きい。またリュウキュウアカショウビンH. c. bangsi が樹上のタカサゴシロアリNasutitermes takasagoensis の巣を利用するように、コウハシショウビンも樹上のシロアリの巣を利用することもあるようなので、そういう意味でも似ているところがある。
 本種はボルネオ島で最大のキングフィッシャーで、その大きさは良く目立つ。今回も船長が先に見つけたのだが、本種ならば瞬時にどこにいるかがわかった。赤い嘴に水色の翼は南国風で、こういった様々なカワセミ類が見られるのも日本ではなかなかない感覚。寝ていたところを起こしてしまったようで申し訳ない。





マレーウオミミズク
マレーウオミミズク Bubo ketupu


 こちらは夜行性なので活動中。岸近くの枯れ木にとまり、水面を睨みつけていた。本種についても、渡航前の記事で書いていた見てみたい鳥の一角だった。和名のとおり魚を狩るミミズクなので、泳ぐ魚を捕えるための鋭く長い鉤爪が特徴的。
 それにしてもこの手のフクロウ類は名ハンターだと思う。よくフクロウ類で言われるのが聴力の凄さだ。耳の穴が上下左右対称ではなくズレているので位置関係を把握しやすいだとか、カラフトフクロウStrix nebulosa では顔面がパラボラアンテナのようになっていて集音機能に優れ、雪の下を動くハタネズミ類を雪上から狩るという凄技を身につけていたりもする。
 では、このウオミミズクの仲間はどのようにして水中の魚を暗闇から見つけ出すのだろうか。観察する限りではジッと水面を睨んでいたので視力に頼っているように見えたが、もしかしたら聴力にも頼っていて、水面付近で跳ねたりチャプチャプしている魚を狙っているのかもしれない。足の毛がなかったり、魚には聞こえないのでバサバサなる羽音だったり、他のフクロウ類とちょっと違う特徴のウオミミズク。狩りについても他のフクロウ類とは違うアプローチをしているのかもしれない。



マレーウオミミズク
マレーウオミミズク


 以前はシマフクロウBubo blakistoni と同じくシマフクロウ属Ketupa とされていたので、現地では 「 Ketupaだ、Ketupa 。 」 と喜んでいたが、調べてみるとシロフクロウ属Nyctea などと共にワシミミズク属Bubo に統合されるという分子系統解析があるようだ。それについては 【 鴎舞時 / Ohmy Time 】 というブログの 【 ワシミミズク複合体 】 という記事に詳しい。
 こちらのブログではさらに、 「 日本産鳥類目録第7版ではシマフクロウはKetupa のままだが、シロフクロウをBubo にしていることに整合性がない 」 と指摘されている。なるほど確かにそうだ。せめてどちらもBubo にするか、Ketupa ・ Nyctea どちらも残しておくか、というのが自然だろう。


 それにしてもこちらのブログは非常に勉強になる。いくつか両爬の記事も書かれているのも魅力だ。内容が濃いのでゆっくり時間をかけて過去記事を読もう。
 ということで今回はseichoudokuさんにならってマレーウオミミズクおよびシマフクロウはKetupa ではなくBubo をあてることにする。記載時にシマフクロウはBubo blakistoni とされていたから、学名の変遷としては元に戻った形かな。


 結局狩りの瞬間は拝めなかったが、なんとも素敵な鳥を見させてもらった。記事を書くにあたってフクロウの事を調べてたら、だんだん見たくなってくるミーハー気質の私。ロシアでカラフトフクロウとか見たいし、ついでに日本とは亜種の違うマンシュウシマフクロウB. b. doerriesi なんかも面白いかも。まぁ海外はハードなので北海道にコモチカナヘビZootoca vivipara を見に行くついでにシマフクロウとかオオワシHaliaeetus pelagicus とか探せたら楽しいかもしれない。




 夜のリバークルーズは昼間とは違った趣がある。興奮気味にはしゃいでいると、船長のオヤジもニヤリと親指を立てる。嬉しさが伝わったようだったので、 「 Good eye !! 」 と褒めて親指を立て返す。

 この時はただただ楽しいクルージングであった。まさかこの後のクルーズであんな恐ろしい目に遭うとは、親指を立てていた私には思いもよらなかった。
 そしてボートはゆっくりと暗闇を進む。




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Category: 哺乳類  

クルーズ拒まず、サルを追う

 ● 亜細亜の熱帯雨林、ボルネオの旅 ●
プロローグ. 暗黒大陸への渡航
1. 旅の終わりは、旅の始まり
2. エアアジアの激情
3. それぞれの乾杯で繋がる世界
4. 伏線のポッポヘジュセヨ
5. 森の人の恩返し
6. ジープが停まる理由
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8. まるまるこのもり
9. 虎とか豹とか虎とか
10. 熱帯猿紀行
11. ジュラシック・リバー・クルーズ
12. クルーズ拒まず、サルを追う
13. 真っ暗闇に漕ぎ出して




 『 ブロロロロ ・・・・・ 』 ボートに搭載されたモーターの回転数が徐々に落ちていく。何か見つけたのだろう、巧みにボートを操る船長が一点を見つめ、船首の向きをゆっくりと変えている。

 船上での生き物探しなんて三宅島へ向かうフェリー航路で点のようなミズナギドリ類を見たくらいで、小型ボートでの散策はほとんど初めてに等しい。アプローチの仕方が初体験なのでイマイチ探すコツが掴めておらず、大抵は経験の長い船長、次いで同乗しているガイドが生き物を見つけるため、客である我々はどうにも歯がたたない。
 だが生き物屋としては、やはり第一発見者になりたいところ。 『 短い滞在時間だが、なんとしても自力で見つけ出したい 』 と思っていた矢先に出鼻をくじかれる。


 船首が向き直り、だんだんと近づいていく中でようやく、船長が見つめていた “ 何か ” を捉えることができた。




テングザル
テングザル Nasalis larvatus


 ボルネオのサルといったら本種だろう。近隣のスマトラ島やジャワ島にはいない、ボルネオ島の固有種である。密林の大物であるボルネオオランウータンPongo pygmaeus と、大河の大物であるテングザル、このボルネオ二大モンキーをこの目で見ずして、この地を去ることはできないだろう。
 とはいってもこの個体はおそらくメス。オスは和名の通り鼻が大きく、群れのボスともなると体格と共に鼻までもが肥大化する。オランウータンでいうところのフランジ個体のように、 “ 霊長類はボスを見ずしてその種を語れない ” と個人的には思うだけにボスも出てこないかワクワクしていたが、こいつは単独行動をしているようだった。

 こちらに気がつき一瞬は緊張したものの、その後はこちらをチラチラ見ながら警戒しつつ、葉を口に運ぶ手を止めようとはしない。やはり植物食の生き物は相当量食べなくてはならないのだろう。彼らの腹が出ているのは私のように食い過ぎというわけではなく、有害物質を含む葉も分解できるよう腸が長く、また霊長類では唯一、反芻行動をみせるようである。そのため、誰に邪魔されるわけでもなく、とにかく多くの葉をゆっくりと摂取するのである。



テングザル
テングザル


 観察していると位置を変え、ついには段差に座り込んで手はお膝の上、なんと行儀の良いことでしょう。こう見るとどうにも人間臭い動きをしていて、シワの具合がなんともおばあちゃん風だ。人間っぽく見えるのは枝を引っ張って口で葉を取るのではなく、1枚1枚葉を手でちぎり取り、それを器用に口に運ぶからだろう。珍獣と呼ばれている彼らだが、実物を見てみるとまるでイメージが違っていて、少なくとも私からしたおばあちゃんだな。



 しばらく観察を続けた後、他の個体が現れる様子もないし、このおばあちゃんに至っては永遠に葉を食べ続けていらっしゃるので、食事の邪魔をしても行けないので別れを告げて先を行く。
 ボートに乗り合わせた他の観光客と共に、初テングザルの喜びでワイワイ賑やかになっていると、我々の一団の他にも賑やかな声が、それも樹上の方から聞こえてくる。




カニクイザル
カニクイザル Macaca fascicularis


 カニクイザルの群れである。チビどもは木の実を探したり追いかけっこして走り回ったりと騒がしい。この若い個体なんかは、 【 警戒心 < 食欲 】 なのだろう、すぐ横を我々のボートが通り過ぎようとも気にも留めず、木の実探しに余念がない。
 彼らはニホンザルM. fuscata と同じマカク属に含まれるマカクモンキーで、見た目だけでなく仕草や行動なんかもよく類似する。若い個体のわんぱくで好奇心旺盛なところなんかはそっくりである。



カニクイザル
カニクイザル


 そんなチビどもが走り回る傍ら、木陰で肌を寄せ合い眠りについている。果たして家族なのか、彼らの血縁関係まではわからないが、右の個体は赤ん坊を抱きしめていたので母親だろう。なんとも仲睦まじいではないか。



カニクイザル
カニクイザル


 さらには陸上で授乳中の母親までいた。やたら伸びる乳房をぼんやりと眺め、 「 ゴムゴムのぉ~、オッパイ !! 」 なんてくだらないことで笑っていたとかいないとか。
 どんなにチンケでくだらないことをデカイ声でしゃべっていても、日本語を理解できるやつはこのボートには私とルンチョロサンしかおらず、その状況が余計にくだらないことを誘発させるようだった。ただふと我に帰れば、良い年したおっさんが、何を小学生レベルな事を言っているのだろうと悲しくなるので、そこは海外でテンションも上がっておかしくなっていたってことで、自分の中では納得するようにしている。うん、きっとそうだ。





カニクイザル
カニクイザル


 動き一つとっても可愛らしく面白いのは、こういった中型以上の哺乳類の特権。この個体は我々を警戒しつつ、川の水を飲みに岸までやってきた。この水域にはワニもいるので、 『 このタイミングでザバーンと子ザルに食いついたりしないかなぁ 』 なんてサル側からしたら不謹慎な妄想をしたりしてしまうわけだけど、私は両爬屋でワニ側なので、 『 来い来い !! 』 と切実に願っていた。もちろんその希望も虚しく、喉を潤した子ザルは無事に樹上の仲間の元へと戻って行ってしまった。

 写真としてはいろいろな表情が見られたので撮っていて面白かった。アフリカでヒヒの類いを見に行くのもアリだなぁなんて、前回の記事に引っ張られた感想まで漏らしてしまう。あぁ、それよかやっぱりギンガオサイチョウBycanistes brevis だよ、ギンガオサイチョウ。



 賑やかなカニクイザルの群れを見送り、ボートは細流で180 度方向転換して宿へと船首を向ける。いよいよ陽も傾き始めた川面には、同じ方向を向いたボートが数隻、白波を立てながら浮かんでいるのが見えた。我々もそこに混ざり合うように細流から本流へと戻って行ったのだが、その時ちょうど本流を下るボートとタイミングが合致し、2隻のボートが水平に並ぶかどうかというところまでなった。相手のボートは近隣の宿から出航している、いわばライバルのボートである。また観光客を楽しませようというノリもあったのかもしれないが、帰路を急いでいたためどちらもブルローーーーンと加速して、互いに抜き去ってやろうというレース的展開になった。
 しかし相手方はクルーザータイプのちゃんとした作りのボートに対して、こちらと来たら “ 手漕ぎボートにモーターとスクリューを搭載しました ” という程度のボートで、マシン性能では明らかに分が悪い。それでも我がボートに乗っていた中川家の礼二に似た中華系のガイドのおっちゃんがえらい煽るもんだから、船長もしぶしぶモーターを唸らせる。

 本流に合流しながら2隻のボートが水平に並びかけて、かつ互いのボートとの距離が縮まりかけた時、相手方のボートはもう一段階加速して、あっという間に抜き去って行ってしまった。さらには微妙に水平ではなかったため、抜き去る瞬間にクジラの尾びれにザッパーンとやられるような白波がななめに襲ったが、こちらも加速していたおかげでボートの後方1/3だけがビッショリと濡れる結果に。そしてそこに座っていたのは礼二似のおっちゃんと船長さん。ご愁傷様です。加えてどこかに電話をかけながら煽っていた礼二だったので、携帯電話までビッチョビチョ。さっきまでの威勢はどこ吹く風、急にしょぼんとしてロクにガイドもせず、携帯電話を我が子のように心配するばかり。結局は調子に乗ると痛い目に会うわけですね。





夕陽
夕陽


 宿に着く頃には綺麗な夕陽が水面に映っていた。なんとも楽しいクルーズの時間はあっという間に過ぎてしまっていたようだ。結局終わってみれば、自分が第一発見した生き物はゼロ。
 う~む、惨敗だ。
 初日は揺れるボートの上で遠景から生き物を見つけ出すように目を慣らすので精一杯だった。まだここに滞在するので、なんとか帰るまでには自分の眼で見つけ出してやろうと夕陽に誓うのであった。

 とりあえずは晩メシだ。ボートだから動いていないのに、興奮しっぱなしだからおなかはペコペコだ。


 そして夜は夜で、お楽しみ。




Category: 鳥類  

ジュラシック・リバー・クルーズ

 ● 亜細亜の熱帯雨林、ボルネオの旅 ●
プロローグ. 暗黒大陸への渡航
1. 旅の終わりは、旅の始まり
2. エアアジアの激情
3. それぞれの乾杯で繋がる世界
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5. 森の人の恩返し
6. ジープが停まる理由
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11. ジュラシック・リバー・クルーズ
12. クルーズ拒まず、サルを追う
13. 真っ暗闇に漕ぎ出して






 ------------------------------------ 走る、走る、走る。どこまで密林を駆け抜けようとも、頭上に張り巡らされた枝を巧みに渡って追いかけてくる影からは逃げられない。 「 うわっ ?! 」 うっかり板根に足をとられて転んでしまった。急に静まり返る森の天井から、ひらりひらりと葉っぱが一枚落ちて来た。私の肩にそれが触れるか触れないかというタイミングで、 『 ずしんっ !! 』 と私の背後に大きな揺れを感じた。 ------------------------------------


 ハッと目を覚ませばそこは車の中。どうやらすっかり眠ってしまったみたいで、ちょうどダートコースを抜けて舗装路に入る最後の段差で 『 ずしんっ !! 』 と揺れたらしい。危うくモンスターモンキーに握り潰されるところだった。

 車はダナンバレーを抜け、ラハダトの街までやってきた。ジャングルを抜けると、ボルネオという土地は普通のアジアの街並みといった雰囲気である。泊まっていた宿のオフィスがラハダトにあり、ここで次の宿の迎えを待つ。
 ドライバーに別れを告げオフィスを訪ねると、受付の女性に案内されて、 「 ランチでも召しあがったら ? 」 とコーヒーまで出してくれた。ここからまた移動だし、少し朝食と昼食の間が短い気もしたが、せっかくなので作ってもらっていた弁当を食べることに。


弁当
弁当


 チキンとチーズのサンドイッチにパウンドケーキ、デザートの柑橘類。手作り感満載でなんだかほっこりする弁当だった。モソモソとサンドイッチを食べながらオフィスを見渡すと、私たちの他に先客が2人。そいつらは見るからに観光客ではなく、マレー語で受付の女性と親しげに話しているところを見ると、どうやら現地の人らしい。
 「 まさか、こいつらが次のドライバーじゃないだろうなぁ 」 と思いつつも、1人はガッシリ体型の兄ちゃん、もう一方はほぼスキンヘッドのおじさん、というちょっぴり強面な方々だったので、 「 まぁ違うだろうね 」 とルンチョロサンと話していた。

 コーヒーも飲み終わり、カップを下げてもらおうと受付の女性に 「 Thank you 」 と声をかけると、それが何かの合図だったかのように “ 待ってました ” と先程の二人が立ち上がり、我々に向かって 「 Let's go 」 と声をかけてくるではありませんか。 「 こいつらかよ !! 」 思わず心の中でツッコんでしまった。それなら最初に挨拶くらいしてくれよ~、めちゃくちゃのんびりランチタイムを満喫しちまったじゃないか。
 ビクビクしながら乗車したが、もちろん何てことはない。見た目に反して良い方々でしたよ。自己紹介すると、ガッチリしている方はイアン、ほぼスキンヘッドの方がピーターという名前だとわかった。ピーターが運転で助手席にイアン、そして私たち2人が後部座席に入り込み、次の宿へと向かう。


 そこから2時間ほど車に揺られていたが、とにかく車窓の風景に変わり映えがない。少し眠って目を覚ませど、毎回アブラヤシのプランテーションがすぐ目前まで迫っているのだ。おそらく自然保護区になっていない箇所のその多くが、アブラヤシのプランテーションに置き換わっていると考えても良いくらい随所にみられた。
 それほどまでに産業として大きなものであり、また我が国を含む多くの輸入国が、パーム油を利用しているのだと実感させられる。ある程度広い原生林が必要な生き物にとっては、ここでは自然保護区で生きる他ないのかもしれない。そうすると生き物探しのフィールドは必然的に区域内ということになり、なかなか好き勝手できないんだろうなぁと、少しやりにくさを感じるのであった。
ただ運転は強面の割に滑らかだったため、あっという間に次の宿へと到着した。




宿
宿


 宿に着いたら強面2人とはお別れ。彼らはドライバー業務がメインのようだ。
 部屋に案内されると、前日までの宿より安いとこなのに豪華テレビ付き。 ( まぁ現地語テレビなので、何を言っているかさっぱりだが ) そんな良い宿と想定していなかったので、とても快適に過ごせる部屋でした。
 まぁ部屋なんてのは寝られれば良いわけで、とにかく新しいフィールドへ GO。




キナバタンガン河
キナバタンガン河


 やって来たのはキナバタンガン河の畔。これまでいた密林環境のジャングルとは異なり、こちらは大河環境のジャングルになるので、そこに棲まう生き物の構成も当然異なる。両爬屋としてはカメやオオトカゲ、そしてワニが狙い目。
 その他、この大河を巧みに利用している生き物たちがたくさんいるこの場所では、ボートに乗ってそれらの生き物を探しにいく “ リバークルーズ ” ができるのだ。宿は川沿いに建っており、宿主催でクルーズを行なっているので観光客も多く、ここでも欧米人がよく目につく。お手軽なアクティビティなため、この流域にはいくつか観光宿が点在し、各宿からボートを出してクルーズを行なっているというわけだ。
 ナイトサファリに続き、これまた初体験の乗り物フィールディング。ジャングルクルーズなんてやったことあるのは夢の国くらいなもんで、よく水面から出てくるカバに心を躍らせたものだ。今度はそれが現実の世界でできるだなんて、それこそ夢のようだ。

 ということでさっそくボートに乗船し、がぶのみミルクコーヒー色の大河を遡る。




キタカササギサイチョウ
キタカササギサイチョウ Anthracoceros albirostris


 最初に現れたのはキタカササギサイチョウのオス。密林とは違い見通しのきく河辺では、彼らのような大型鳥類が比較的見つけやすい。加えてこの時は、 「 ケンケンケンケンケンケンケン 」 と大きな鳴き声をあげていたのですぐに発見できた。

 サイチョウ類は私が見たかった鳥であり、彼らの英名 【 hornbill 】 はすでに覚えていたので、見つけた時は 「 おっ !? ホーンビルッ ! ホーンビルッ ! 」 と反射的に叫んでいた。本種は出国前の記事にチラリと写真で登場した、唐蘭船渡鳥獣之図にも図版で載っていて、まさかその鳥が目の前で空に向かって鳴いているとは。
 特徴はなんといっても嘴の上に付いている角 ( カスク ) で、和名も 『 犀 ( のような角を持つ ) 鳥 』 でサイチョウであるように、とにかくその頭部がカッコ良すぎてたまらない。種によってそのカスクの形態は様々で、性的二型を示す場合も少なくない。
 本種もそれに該当し、メスのカスクはそこまで大きく発達せず、少し盛り上がる程度である。


 古い文献だとボルネオの個体群はカササギサイチョウAn. coronatus とされているが、現在はカササギサイチョウとキタカササギサイチョウに分割され、ボルネオを含む東南アジアの多くにはキタカササギサイチョウが分布している。
カササギサイチョウの方はインドとスリランカに分布し、カスクの形態も色彩も異なっていて、安い言い方をすればキタカササギの進化系みたい。カスクはより鋭く前方に突出し、色も黒く染まっている。

 キタカササギサイチョウの大きさは日本のトビMilvus migrans くらいだが、頭部が大きい分その迫力はものすごく、恐竜感が尋常じゃない。きっと爬虫類とか恐竜に惹かれる人が好きな鳥。翼竜っていうより恐竜だな、私の印象では。


ズグロサイチョウ
ズグロサイチョウ Aceros corrugatus


 次に現れた恐竜はズグロサイチョウ。こちらは先程のキタカササギサイチョウのような立派な角ではないが、派手な赤いコブ状の角がある。こいつらに近縁なサイチョウ類は、カスク、嘴、喉、眼の周りなどが様々な色に彩られ、かなり派手な見た目をしている。
 現在のRhyticeros 属も以前は同じくAceros 属に含まれていたように、ドギツイ色彩のサイチョウが多い。

 このズグロサイチョウが属するナナミゾサイチョウ属Aceros の学名は “ 角の無い ” という意味であり、事実模式種であるナナミゾサイチョウAc. nipalensis にはカスクがみられないことからその属名がつけられたらしいのだが、とにかくこのサイチョウという生き物はその目立つカスクから、 “ 角 ” を意味する 【 - ceros 】 という属名が多い。
 ちなみに前述のカササギサイチョウ属は “ 炭のような黒い角 ” という意味。


 ズグロサイチョウはかなり遠くの木にとまっていたのだが、その目立つ見た目は離れたボートの上からでもよく見える。ただ、ボートで近づく前に早々に飛ばれてしまったため、トリミングした荒い画像しかないのが残念。
 それでもこんな恐竜を見られたのだ、最高じゃないか。



 続々と現れる恐竜たちに心臓の鼓動がバクンバクン鳴り響く。そんな興奮状態の中、ダナンバレーの見晴台で聞いたあの鳴き声がすぐ近くで聞こえ、そしてそちらに目を向けるとあの赤い角のあいつがバサバサと豪快な羽音をたてて飛んでいる姿が飛び込んできた。



ツノサイチョウ
ツノサイチョウ Buceros rhinoceros


 ライノセラス !! ついに憧れのサイチョウのお出ましだ。私が最も見たかったサイチョウ、 “ ライノセラス ” ことツノサイチョウ。漆黒の翼に反り返る深紅のカスク、その姿は象徴的で畏敬の念すら抱かせるほど。
 そいつの飛翔を真横から捉えられただけでも感動ものだが、運良く河を越えて森に入るわけではなく、河辺の木々にとまったようなので飛んでいった方向へとボートを走らせる。



ツノサイチョウ タニワタリ
ツノサイチョウとタニワタリ Asplenium sp.


 乗船している人たちとの会話は基本的に英語になるのだが、私とルンチョロサンの間で交わす言語は日本語で構わない。それなのに興奮のあまり 「 どこにとまった ? 」 とルンチョロサンに聞いておきながら、見つけた瞬間、これまでの欧米人たちとの会話のクセでつい 「 I see , I see 」 と口をついて出てきてしまう。

 それくらい動転していたのだ。
 それくらい興奮していたのだ。
 もう誰に何語でこの感動を伝えたら良いのやら。

 見つけたその枝先を見ると前述の2種よりも一回りも巨大な、トビをも越す大きさのツノサイチョウが、これまた巨大なタニワタリの真横に佇んでいる。まるでジュラシックパークの世界に迷い込んでしまったのではないだろうか。でかい怪鳥に、でかい着生シダ。おおよそ現代とは思えないほどの光景が目の前に広がっている。
 そして2,3 度大きな 「 グワッグワッ 」 という咆哮を轟かせると彼方の森へと帰ってしまった。

 しかしどうやらつがいで行動していたようで、鳴き声の相手であるメスのツノサイチョウがすぐ近くまでボートが寄れる距離に潜んでいた。



ツノサイチョウ
ツノサイチョウ


 これは近い。まじまじと至近距離で見ると、こんなにもデカイ生き物なのかと実感させられる。メスは虹彩が白く、絵で描くと点状の目になる愛くるしい顔をしている。一方でオスの虹彩は暗い赤色で、結構冷酷な顔つきをしていて怖い。

 彼らの繁殖方法はユニークで、メスが産卵・育雛のために大木の洞に入ると、餌をもらい受けるわずかな隙間を残して、その出入り口を泥などで塞いでしまう。オスはただ1羽で必死に食糧を調達し、そのわずかな隙間からメスへ、そして雛へと餌を運ぶ。メスはたった1羽の雛を長期間に渡って巣篭もりして育て、雛がある程度大きくなるとメスは泥壁を壊し外に出る。その雛は巣立ちまでの間、再び泥壁を作り、羽ばたくその日まで巣篭もりをして両親からの餌をもらうという一風変わった繁殖方法をとる。
 なんと世話焼きな鳥なのだろう。まるでロストワールドに出てくるティラノサウルスTyrannosaurus を彷彿させるじゃないか。

 しばらく写真を撮らせてもらったが、すぐにオスを追って行ってしまった。飛び立ち方も面白く、いきなりバサバサと羽ばたいていくのではなく、一度ぴょんと枝から飛び降りてその勢いに乗って羽ばたいていく。その一連の動作には余裕があり、悠然とした風格が垣間見える。



 興奮続きのリバークルーズ。もう私にとってはサイチョウ類は恐竜である。なんてジュラシックな鳥なんだ、あいつら。
 サイチョウの中でもダントツにカッコ良いのはアフリカに棲むギンガオサイチョウBycanistes brevis という重量級の種。その姿はどう見ても恐竜の風格を持っており、私が一目惚れしたサイチョウである。
 初めてその存在を知ったのは同じPENTAX 党である福井智一さんのブログを閲覧していた時で、 「 こんな鳥が世界にはいるのか 」 と度肝を抜かされたのが記憶に新しい。
 重厚な見た目のカスクに、頬に混じる白い羽が銀顔を演出し、さらに毛羽立っているので荒々しい横顔をしている。わかる人だけに伝われば良いが、 【 パンツァードラグーン アゼル 】 というセガサターンのゲームで、主人公のドラゴンを “ 防御型 ” に変形させたような重厚な見た目が最高にカッコ良いのである。
 本種が属するナキサイチョウ属Bycanistes にはそんな見た目のサイチョウが多く、トランペッターの愛称で親しまれているナキサイチョウBy. bucinator は少し小柄だが、名前の通りトランペットのような大きな声で鳴く。学名は属名も種小名も “ ラッパ吹き ” である。

 ギンガオサイチョウの種小名は “ 短い ” という意味でよくわからないのだが、実はこれ亜種小名が元である。初めは “ 冠羽のある ” という意味で、By. cristatus という学名がつけられていた。その後、アフリカの南北で亜種が分けられるということで、冠羽の短い南部の亜種にはBy. cristatus brevis という亜種名があてられたが、後にBy. cristatus はシノニムとされてしまったので、亜種小名に使われていたbrevis が種小名として扱われているようだ。 ( まだまだ調べが足りないが、cristatus は何のシノニムにされたのだろうか ・・・ )

 もうギンガオサイチョウを含むナキサイチョウ属Bycanistes 見たさにアフリカ行きたい。ギンガオは鳥の中でというよりも全ての生き物の中で、5本の指に入るかもしれないくらい出会いたい生き物だ。


 サイチョウという分類群も私の中でかなり急上昇している。神秘的な白髪を持ったシロクロサイチョウBerenicornis comatus に早朝の密林で対峙したいし、小さなムジサイチョウAnorrhinus galeritus たちに囲まれてみたい。サイチョウについて調べているだけでも、楽しくってしょうがないし、珍しく鳥類の勉強をするのも良いかもしれない。

 ある程度情報を集めて、サイチョウという生き物についての知見が自分に蓄積されていくと、去年のBIRDER 誌に載っていた 【 キタカササギサイチョウ Anthracoceros albirostris 】 というキャンプションがついた写真の鳥が、 “ オオサイチョウBu. bicornis の間違え ” であることくらいは両爬屋の私でもわかるようになった。まぁ同定ミスなのか編集ミスなのかわからないが、あれほどまでにカッコ良いオオサイチョウが間違えられるとは不憫でならない。
 とにかく今は猛烈にサイチョウがアツい。両爬よりもサイチョウで頭がいっぱいになってしまうほど ・・・



   キタカササギサイチョウ
キタカササギサイチョウ



 そしてボートは河を遡り、ジャングルの奥へと進んでいく。次第に左右にあった両岸がすぐ横まで迫ってくるほどの狭い水路へと。





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 というわけで2017 年もスタートです。皆様、明けましておめでとうございます。今年もまだまだボルネオ記事が続きますが、どうぞよろしくお願い致します。

 そして今年の干支は酉年ですね。読み進めている内にお気づきだったと思いますが、新年一発目のこの記事は鳥でございます。ボルネオではサルに鳥にと、素晴らしい生き物たちとの出会いの連続でした。年末が近づいた時に閃いたのですが、ブログのネタ的にも 【 サル 】 記事と 【 サイチョウ 】 記事がちょうど連続するようだったので、干支にちなんで年末と年始のタイミングでこれらの記事を書かせていただきました。
 我ながらこれ以上ない絶妙な掲載だったなと褒めてやりたい ( 笑 )

 さぁ、これから2017 年、羽ばたきの年にしていきましょう。この勢いで今年本当にギンガオサイチョウ狙いでアフリカ行っちゃおうかしら。







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