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月明かりにヤモリ

Moonlight Gecko

Category: 未分類  

月明かりにヤモリ 10周年



10周年写真


 日が経つのも早いもので、当ブログも10周年を無事迎えることとなりました。自分でもここまで続くのは驚きで、初めは両生類・爬虫類が好きで始めたブログだったのが、今ではいろんな生き物が気になって仕方がないほど散漫的な嗜好性を持って、各地のフィールドに出掛けるようになっていった。


 るくなる前から高標高地の山を登ったり、夜な夜な雨降る林道をカッパを着て歩いたりもした。蒸し暑さで脱水症状になりながらもベースキャンプを目指して足がクタクタになる日もあれば、朝起きたらブルブル体が震え出すような車中泊も経験した。


 なり無茶な旅をしてきたおかげでトラブルも付き物だった。車をボロボロにしてしまったり、山で道迷いをして遭難しかけたり、台風が直撃して宿から出られなかったり。それでも仲間内で馬鹿やってるのが本当に楽しくって、旅に出ているそれだけで気持ちは満たされていた。


 んごが赤く熟すように、ブログを始めた20代の青年から、今では30代のおじさんへと移ろいでいる。10年前はまだ学生だったわけだが、今では就職し、あの頃とは異なるサラリーマン生活という不自由さの中を生きなければならない身となってしまった。

 っちもさっちもいかない状況で、仕事ばかりの日常に嫌気が差してしまう時だってしばしば。そんな時は隙間を縫って休みを取得して遠征に出掛けたり、仕事終わりにふらりと近くの山に出かけては夜の生き物と遊ぶ。そんな社会人になってからのフィールディング。


 ッターと心から楽しむ童心も未だ持ち合わせていて、今でも素敵な生き物に巡り合えばドキドキは止まらず、湯気が立ち上るほど興奮してしまう。私が社会人であろうが大学生であろうが、生き物はいつでも私を虫取り少年に戻してくれる貴重な存在だ。


 ラトリアムの終焉はすでに訪れていて、学生時代みたいな比較的自由で、ゆとりある旅ができるような環境では無くなってしまったのは事実だけれど、それでもまだまだ楽しめる方法はいくらでもあるし、昔に比べて知識も蓄えられているので、より多面的な見方もできるだろう。


 スクを恐れずアグレッシブルに、生き物たちが棲まうフィールドに赴いて、これからも私らしく、様々な生き物に目を向けて楽しめればと思う。自然のつながり ( システム ) は知れば知るほど奥が深いので、とても良い趣味と巡り会えたんだなぁと、ブログを始めた当初の大学生の私に言ってやりたい。





10周年写真





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Category: 木本類  

アリストロキアの深淵を覗き込む




 前回の記事で、ウマノスズクサAristolochia debilis とジャコウアゲハAtrophaneura alcinous の面白い関係性を知ったわけだが、調べてみるとまだまだ興味深い。

 ジャコウアゲハをさらに深掘りしてみると、どうやら面白い生活史を送っているようで、年 3 回発生 ( 春型 ・ 夏型 ・ 秋型 ) がスタンダードらしい。つまり冬になる前に発生した個体は、蛹で休眠に入って冬を越し、翌春に羽化するらしい。
 確かに思い返してみれば寒々しい真冬に、コンクリートの壁面にジャコウアゲハの蛹があったのを思い出したが、アレはつまり春型の蛹だったのか。幼虫は幼虫でなかなかインパクトのある見た目だが、蛹も負けず劣らずの奇妙な見た目で、女性が後ろ手に縛られているように見えることから、怪談の皿屋敷では “ お菊虫 ” として登場するほど。冬で虫を見る機会が少なかっただけに、その奇怪なフォルムは特に印象に残っている。



 また、前回記事のように、草刈りをはじめとした人間による環境撹乱が、必ずしもある生物種にとって悪影響を引き起こすとは限らないようだ。
ウマノスズクサの場合でいえば補償作用で伸びる新芽は柔らかく、ジャコウアゲハの幼虫が食べるのに適しているともいうし、周りの下草も刈られるので成長の早いウマノスズクサはすぐに優占種となって次の世代のジャコウアゲハの幼虫の腹を満たしてくれる。つまりジャコウアゲハにとっては人間による撹乱がプラスに働く場合がある。
 この “ 人間 ” による環境撹乱を、 “ シカ ” に置き換えた場合でも、同じように面白いことが起こる。



 山地に産するジャコウアゲハは、食草である山地性のオオバウマノスズクサの葉が厚手で硬いためか、通常年 1 回発生のようだが、シカの食害が多い地域においては、オオバウマノスズクサが何度かシカに食べられることで、補償作用によって伸びる新芽 ・ 新葉が柔らかくなり、幼虫の可食部が増えるためその地域のジャコウアゲハは年 2 回発生ができるようだ。
 シカの食害というのは様々な問題を孕んでいて、現在も苦労しながらもご尽力されている方がいるかとは思うが、 【 ジャコウアゲハ視点 】 という偏った見方をするならば、シカの食害も悪い事ばかりではなくその恩恵に与っているヤツらもいるということだ。 ( もちろん程度にもよるが。 )

 物事の善し悪しなんてのは、どの方向から見るかによって全然違う価値観が生まれていて、もしも建設的なゴールを目指すならば、それぞれの角度から物事を真摯に見つめ、妥協できる中間点がどこにあるかを探っていく必要があるだろう。

 そのためにも、
 色々と知識を深めなければならないし、
 様々な意見に耳を傾けなくてはならない。



 前置きがだいぶ回りくどく長くなったが、先に出てきた山地性のオオバウマノスズクサについて今回は書いていこうかと。



オオバウマノスズクサ
オオバウマノスズクサ


 ウマノスズクサが平地や河川敷等で見られるのに対して、こちらは山地性の種で、実は時期的に先に見ていたのはこちらだったのだが、話の展開からウマノスズクサの次の記事にしてしまった。
 前回のウマノスズクサはウマノスズクサ亜属Aristolochia に属するのだが、本種はオオバウマノスズクサ亜属Siphisia に含まれ、系統的には少し異なるようだ。

 葉は和名の通り大型で心形。大型のつる性木本類で、低木などに絡まって比較的高い位置から垂れ下がるようにして花を咲かせる。



オオバウマノスズクサ
オオバウマノスズクサ


 花はウマノスズクサよりも狂気を感じるデザインで、入り口へと誘い込む萼片の模様は、それはそれは血管のように毒々しく浮かび上がる。充血した目玉のようにも見え、こういう奇妙な花に私が惹かれないわけもなく、まんまと彼らの虜となってしまったわけだが、その勢いのまま軽い気持ちで海外の近縁種について調べてみたら、さらにとんでもないアリストロキアたちが各地で枝葉を広げていることがわかった。


 以下に自分の備忘録として気になる種を掲載しておく。
 学名の後に私が感じた印象を 【 】 書きしているので、気になるのがあれば学名検索してみることを勧める。 ( ただしかなり異形な花ばかりなので、中毒的な魅力から抜け出せなくなってしまう可能性もあります。自己責任で覗いてみてくだされ。後戻りはできんぞ。 )


Aristolochia gigantea  【 ヘビースモーカーの肺 】
Aristolochia salvadorensis  【 ダースベイダー 】
Aristolochia ringens  【 サイチョウのくちばし 】
Aristolochia eriantha  【 クリオネ 】
Aristolochia lindneri  【 ホウボウ 】
Aristolochia tricaudata  【 サカタザメの干物 】
Aristolochia lutea  【 サラセニア 】
Aristolochia guichardii  【 毛深いヤマビル 】
Aristolochia iberica  【 小便器 】
Aristolochia microstoma  【 ボクシンググローブ 】
Aristolochia pallida  【 マムシグサ 】
Aristolochia chilensis  【 女性器 】
Aristolochia tomentosa  【 ピカチュウ 】
Aristolochia chiquitensis  【 歯間ブラシ 】
Aristolochia labiata  【 コウモリ 】
Aristolochia macroura  【 ウラシマソウ 】


 これはやりたい放題のめちゃくちゃなデザインだ。どいつもこいつも異形の花ばかりで、魔物の巣窟とでも呼びたくなるようなグループだということがよくわかった。ランとかウツボカズラとかマムシグサとかカンアオイとかラフレシアとか、私が好きな妖しい植物の集合体・複合体のような、それらを1つの壷に放り込んで蠱毒的なエッセンスを抽出したような、とにかくすごい好みの分類群である。分類が進んでいないのか、全て同属でありながらこの異形な多様性は、ラン並みというかランを超えているレベルだ。

 国産アリストロキアの面白さに惹かれて、その入り口たる穴の縁にちょろっと軽い気持ちで立っただけなのに、中を覗き込んでみればそのアリストロキアという巣窟の奥深さと複雑さに平衡感覚さえ奪われそうで、一歩足を踏み外してその穴へと落ちてしまえばしばらく出てくることはできないだろう。
 出られるにしても、どっぷりとその魅力にハマった状態になってから内側の毛が萎れ、新たな花粉をつけてまた新たな巣窟へと誘われるのだろう。


 魔窟とでも呼びたくなるような、外国産アリストロキアの深淵をまざまざと見せつけられた気がした。アリストロキアを覗く時、アリストロキアもまたこちらを覗いているのだ。



オオバウマノスズクサ
オオバウマノスズクサ


 話は日本のオオバウマノスズクサに戻るが、葉っぱ一枚一枚が大きい上に、もっさりと低木を覆ってしまうほど繁茂しているこの全体像が迫力満点でカッコイイんだよね。
 つる性植物はなんか止まっていても動きがあってすごく動物的なんだよなぁ。




オオバウマノスズクサ
オオバウマノスズクサ


 本種も前回のウマノスズクサ同様にハエ類が重要な送粉者となっているようで、この写真の左の花の筒部にも小さなハエ類が付いていた。この時は内部へ入っていかなかったので残念だったが、また来年観察を続けて侵入する様子をみてみたい。






オオバウマノスズクサ
オオバウマノスズクサ


 このように枝にぐるぐると絡まりながら這い上がり、大きな傘でたっぷりの太陽光を浴びているその厚手の葉っぱは、ちょうど絡まった内部を暗くしてしまうので、なかなか太陽光が届きづらい環境になってしまう。このつるにやられてしまう低木たちは不憫でならないが、その影の部分で着々とたくさんの花をつけているこのオオバウマノスズクサのしたたかさはたまらない。



 現代を生き抜いている植物たちは、調べれば調べるほどにしたたかな戦略家ばかりだ。大きな移動ができない分、根だったり、茎だったり、葉だったり、花だったり、種だったり、様々な器官を発達させて巧みに生きているんだなぁと感じる。というか、そうでもしなければこの弱肉強食の世の中を渡り歩けないんだろう。
 知れば知るほど、植物は面白くってなかなかに抜け出せない、楽しすぎる。






Category: 蟲類  

アリストロキア消失の謎




 毎日の自転車通勤の道中で、ある時期になると特徴的な幼虫であるジャコウアゲハAtrophaneura alcinous を見かけるなぁと認識はしていたが、それ以上の関心もないままに横目で通り過ぎるだけだった。



ジャコウアゲハ
ジャコウアゲハの幼虫


 数年が経ち、植物に興味を抱くようになって、気がつけばカンアオイの仲間の虜となった。そうしているうちに、同じウマノスズクサ科に属するウマノスズクサ類も見てみたいと思うようになるまで、そう時間はかからなかった。しかしフィールドでは一向に見つけらないまま 『 どんな植物なんだろうなぁ 』 と空想するばかりだったが、ある時ふと、通勤途中に見かけていたジャコウアゲハの幼虫を思い出した。

 『 あ、そうだ。こいつの食草はウマノスズクサAristolochia debilis ではないか。ということは、こいつらをよく見かけた草むらに行けば、ウマノスズクサが生えているんじゃないか 』

 という “ 虫屋が食草を頼りに虫を見つけ出す ” その反対をやろうと思い付いた。


 しかし、さっそくその草むらに向かってみたものの、それを思い付いた晩夏ではすでに花期は過ぎており、目が慣れていないのか、あのミッキーマウスみたいな葉は見分けられなかったので、花を見るまでは識別は難しいと判断して、次の春を待った。







ジャコウアゲハ
ジャコウアゲハ


 翌春、狙い通りその草むらには、ひらひらと優雅に飛び交うジャコウアゲハの成虫がたくさん見られた。さすがは毒蝶、喰われる事を知らないが故の余裕ある舞。
 何を隠そう、私が狙っているウマノスズクサを幼虫時代に食べることで体内にアリストロキア酸を蓄積させ、成虫になってもその毒が残っているため鳥類に襲われない仕組みを持っているので、毒蝶特有のふんわりゆっくりとした夢見心地な飛び方をする。


ジャコウアゲハ
ウマノスズクサとジャコウアゲハの幼虫


 花はまだつけてはいないが、形状からしておそらくコレであろうという葉っぱも見つけておいた。幼虫もついているのでおそらく間違いないはず。

 よしよし、あとは花期である晩春 ~ 初夏を待つのみだ、とウキウキした気分のままその日は出勤したものの、頭の中はジャコウアゲハとウマノスズクサでいっぱいになっていたため、ロクに仕事が手につかなかったのは言うまでもない。




 そして、自転車通勤では汗ダクになって毎日が嫌になり始める、待ちに待った初夏がやってきた。仕事のためには滅多にしない早起きをしたその日の朝、浮き足立ってペダルがうまく漕げないくらい、背中にはじんわりと汗を滲ませながら懸命に車輪を回転させていく。

 しかし、例の草むらに意気揚々と辿り着いた時、それまで興奮でびっしょりとかいていた汗は、瞬く間にひんやりした冷や汗へと変貌し、ゆっくりじっとりと、私の背中を “ つーーー ” と流れていく。




草刈り


 そこは人通りも車通りも多い場所であるため、下草雑草が好き放題に伸びる初夏の時分、市からの依頼を受けて毎年草刈りが行われているのであった。

 なるほど、そういうことか。だから前の年はそれっぽい葉っぱが見つからなかったのか、と妙に納得させられた。それに私が自転車通勤にも関わらず、なぜこれまでジャコウアゲハの幼虫がよく目に入っていたのかというと、ある時期になるとたくさんの幼虫がアスファルトの道に出てきて、横断する途中に轢かれたりしていたからだった。
 つまりちょうどその時と草刈りのタイミングが合致していて、食草が刈られて行き場を無くした幼虫たちが、彷徨ってアスファルトの道まで出てきていたということらしい。


 見られなかった理由が判明してスッキリしたその反面、景観的にはサッパリと野球部の頭みたいになった跡地を眺め、草刈り後特有の青臭い香りがふわりと鼻腔を刺激してモヤモヤさせられる。
 きっと苦虫を噛み潰したような顔をしていたことだろう。

 アスファルトには潰されて体液がどろりと流れ出た幼虫の死体が横たわり、まるでそれとまったく同じものが私の口の中にも転がっているような、そんな悔しさを感じた。


ジャコウアゲハ
ジャコウアゲハ 死体








 それが去年のちょうど今頃の話である。 『 今度こそはなんとかウマノスズクサの花を 』 という想いのもと、今年はじっくりと密着して観察することにした。観察頻度を上げて、草が刈り取られる前に花の観察をしようと。



ジャコウアゲハ
ジャコウアゲハの卵


 ウマノスズクサに卵が産み付けられているのもばっちり観察できた。非常に小さいが、食草を見分ける能力があれば簡単に見つけることができる。



ジャコウアゲハ
ジャコウアゲハ


 幼虫たちはもりもりと毒であるアリストロキア酸を頬張る頬張る。GWを過ぎたあたりでは、かなりプリプリした個体も増えてきて、その食欲は止まることを知らないよう。




 そうして再び、初夏を迎える。今年こそは、草刈りの前に観察をしなくては ・ ・ ・




草刈り


 と言っている間にも草刈りは行進していたようで、ちょうど早めの観察をしに行ったその日に、すでに回転刃がフルスロットルで下草をなぎ倒してゆく光景が目に飛び込んできた。

 かろうじてまだ刈られていないエリアがあるので、そちらの様子を窺いに行ったのだが、なんだか様子がおかしい。 “ あんなにあったウマノスズクサが見当たらない ” のだ。それも、まだ他の雑草どもが生い茂っている様子を見るに、草刈りの魔の手が及んでいないのは明白なのだが、それなのにどうしてウマノスズクサの葉っぱだけが忽然と姿を消しているのか ・ ・ ・


 草むらをよく見渡してみると、枯れていたり萎れている弱々しい草が所々に散見していて、それをじっくり観察してみると、それこそが正に私が探していたウマノスズクサそのものだったのだ。

・ ・ ・ ・ ・ どうして ?!

 去年は草刈りにやられて無くなったんじゃないのかよ。たまたま時期が重なっているというだけで、去年ウマノスズクサが見られなかったのは、どうやら草刈りのせいとは一概には言えない気がしてきた。
 見るとわずかに残った元気なウマノスズクサに、黒と赤と白が混ざり合ったあの幼虫たちが集結しているのが見える。




ジャコウアゲハ
ジャコウアゲハ


 これは ・ ・ ・ ・
 行政の草刈りを悪魔の所業みたいに思っていた私だが、本当の悪魔は、実はこの “ 黒と赤と白のコイツ ” だったのかもしれん。どうやらジャコウアゲハは終齢幼虫になると、ライバルである他の幼虫たちが成長するのを邪魔するために、茎を根元のほうで噛み切ってウマノスズクサを枯らせてしまうこともあるようだ。
 なんてイヤなヤツなんだジャコウアゲハ、君たちのそのねじ曲がった性格、最低でサイコーじゃねぇか。

 ただ私もウマノスズクサを目当てにしている一人なんだよ、茎を噛み切られてしまったら花をつけないじゃないか。君たちのいうライバルの中に、この私も含まれているとでもいうのか ・ ・ ・


 もちろん時間が経てば草刈りでやられてしまうかもしれないが、これまで葉は見られていたのに花が見られなかったのは、それだけの要因ではなかったようだ。また、ウマノスズクサは草刈りに強い草で、丸坊主にされたとしても土中に地下茎が残ってさえいれば補償作用によって他の植物よりも早く復活して葉を広げるらしい。
 補償作用でまた生えるといっても、ジャコウアゲハにとっては食い扶持が増えるから嬉しいだろうが、花を見たい私にとっては、常に貧栄養状態にさらされるためなかなか花をつけないんじゃないかという悪い予感がしていた。
 だがなんとか、隅のほうに生えていた比較的大きな株の先端に、1 つだけ花をつけているのを見つけられた。



ウマノスズクサ
ウマノスズクサ


 おぉ、何年越しかでようやく見られたよ。近場とはいえ通い詰めた甲斐があったし、何度か絶望していたのでこうして無事発見にまで至ることができて純粋に嬉しい。
 学名はなかなかにパンチが効いていて、 [ 出産の痛みを和らげる薬草に使われた ] とか [ 花の形状を胎児に、花の基部の膨らみを子宮に見立てた ] ところから、 【 aristos ( 最良 ) 】 + 【 locheia ( 出産 ) 】 という意味でAristolochia という属名は命名されているそうな。
 たまにこの花をサックスに例えている人を見かけるが、そういった人は実に健全な感性をお持ちの方であって、この花を野山で見かけて 「 お、赤ん坊がぶら下がっているじゃねーか 」 とか 「 こいつは子宮みてーだなぁ 」 なんて思う人はなんだかサイコパスな感じ。なので薬草説で、アリストロキア ( 最良の出産 ) という命名理由だったらいいなぁ。


 珍奇 ・ 狡猾 ・ 卑猥 ・ 狂気 ・ 陰険 ・ 蠱惑 。  いったいどんな言葉でこの類いの植物たちを表現したら良いんだろうか。食虫植物みたいな不気味な見た目のうえに、受粉のシステムもなかなかに面白い。



ウマノスズクサ
ウマノスズクサ


 真正面から花の入り口をのぞけば、びっちりと細かい毛が内向きに生え揃っているのが見えるが、これはくさい臭いに騙されて中まで入っていったコバエたちが、この毛に阻まれて脱出できずに筒部の奥にある丸い柱頭のある空間 ( 子宮と揶揄される部分 ) に幽閉される仕組みになっている。ウマノスズクサは “ 雌性先熟 ” といって先に雌しべが発達するので、別の花で花粉をつけたハエはこのタイミングでまず、閉じ込められたまま脱出できずに動き回ることで雌しべに花粉をつけて受粉をさせる。受粉が終わると今度は雄しべが発達してきて、幽閉しているハエたちに自分の花粉をつけるのだが、それと時を同じくして、びっちりと生えていた内向きの毛が萎縮し始めるので、筒部の脱出通路が開き始め、開口部から花粉をつけたハエが脱出できるという。 「 役目を終えたら花粉をつけてとっとと出て行きやがれ 」 とでも言われているようだ。
 そしてその花粉まみれのハエが、次のウマノスズクサに誘われ閉じ込められて ・ ・ ・ ・ ・  、 という恐ろしい無限ループへと引き込んでいく。これが彼女なりの “ 最良の出産 ” のやり方なのだ。

 ジャコウアゲハの幼虫もなかなかに性格の悪い狡猾なヤツだが、そいつらの食草であるこのウマノスズクサもかなり狡猾な受粉システムを持っていて、それでいてこの見た目はたまらない。
 というかこの生殖システムでいて、あれを子宮に例えて “ 最良の出産 ” って属名にするセンスって、結構ブッ飛んでいるなぁ。


最良の出産
最良の出産  


  “ 最良の出産 ” ってホラー小説のタイトルみたいな狂気を感じるわ。思わず装丁風の写真にしちゃった。なんか出産繋がりだけど 【 殺人出産 村田沙耶香 】 みたいな不気味さがある。あの短編面白かったなぁ。価値観揺さぶられちゃうし、いろいろ考えさせられるのが好き。
 あぁ、脱線脱線。




 このジャコウアゲハを取り巻く自然のシステム ( 人間の撹乱含め ) は本当に良くできていて、調べれば調べるほどに面白い ( 卵にこそこそ近づく寄生蜂とか、ジャコウアゲハに擬態するオナガアゲハPapilio macilentus とかもいる ) ので、 “ ジャコウアゲハ ミステリー ” を今後も勉強していきながら読み解いていきたい。










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